フィンランド叙事詩 カレワラ-KALEVALA

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第5章
Viides runo


 婚約者アイノの死を知ったワイナミョイネンは、かなり落ち込んでいました。若い娘にうつつ抜かすのもアレですが、本気で落ち込むのもナニです。
 ちなみに、この話では、全章で溺れ死んだアイノが海神アハトの娘(人魚)になった、ということで展開しております。ベッラモはアハトの妻で、水の女主。人魚たちを束ねる女王様のようなものです。これらは、よく知られる北欧神話とは違う、カレワラ世界(フィンランド系神話)独特の神のようですね。

 さて、死んだアイノをどうしても諦めきれないワイナミョイネン、ギリシア神話のオルフェウスよろしく、アイノを死者の国(と、いうより人魚の国?)から連れ戻すべく、眠りの神ウンタモに、「アハトの家はどこじゃ」と、訊ねます。夢の中で全てを知るウンタモは、彼に海神のすみかを教え、ジジイはハッスルして船を漕ぎ出すのでした―――。

 で、どうしたかって、ジジイはいきなり釣りをはじめちゃったんですよ。
 なんでだろうね。磯釣り趣味だったのか、それとも海神釣って脅すつもりだったのか、腹が減ったからなのか…。そこらへんナゾですが。
 釣れたのは、観たことも無い不思議な魚。
 「…なんじゃろうのう、この、すべっこいのは。」
ワイナミョイネンは訝しみますが、「とりあえず食っとこう」とばかり、おもむろにナイフを取り出し、魚をさばこうとしました。ところが!
 「やだ、何するの?!」
魚は突然とびはね、水の中に戻ってしまいました。
 「私は、あなたの豪華なお弁当になるために来たんじゃないわ!」
そう。
 なんと、その奇妙な魚こそ人魚、姿を変えたアイノだったのです!

 …大賢者なのに、人魚見たことなかったんかい、ジジイ。
 っつーか、上半身が人間だったら分かるやろーが普通。それ食おうとするなんて、よっぽどハラ減っとったんか? あんた…。

 ぽかんとするワイナミョイネンを尻目に、アイノはとっとと水の中に消えてしまいました。

 ジジイは嘆き、悲しみ、次々と魚を釣っては確かめるのですが、どれも彼の思うものではありません。当たり前です。そーそーカンタンに人魚が釣れるワケないし(私は昔、TRPGでリザードマン釣ったことがありますが♪)第一、アイノだって二度と釣られようとはしないでしょう。釣られたら即、ジジイの奥さん。

 何はともあれ、この勝負は乙女アイノに軍配が上がり、彼女は結婚の約束から逃れて海神のもとで何も心配せず暮らせるようになったのでした。

 哀れな爺さんは、このあとも延々と嘆きつづけ、まるで思春期の若者のように、自分の存在意義とか世界のこととかイロイロ考えています。ほんと若者くさいです。賢者とは思えないです。いやぁ…若いなあ?
 そして悩みになやんだ末、ついに彼は(年甲斐もなく)、死んだ母親に相談に行くことを決意しました。

 …え? ワイナミョイネンの母親って、海の乙女じゃなかったっけ?
 うーん、そのハズなんですが。海の乙女でも、死んだら墓に埋められるんでしょうか。それとも、この場合の母とは「育ての母=人間」?
 ナゾですなあ。

 母は言いました。
 「あんな田舎娘がどうだっていうのよ。ポホヤへお行きなさい。ポホヤには、もっと美人でもっと気立てのいいコがたくさんいるわよ。」
その一言で、ジジイは立ち直りました!(早えぇよ、アンタ)
 「そうか! わしに相応しいのは、もっと都会的でごぉ〜ぢゃすな娘じゃ! よっし、いっちょ行くかあ!」

 こうしてワイナミョイネンの最初の「ポホヤ紀行・レッツ嫁取り大作戦」は、幕を開けるのであった…。


{この章での名文句☆}

「おお、あなたは哀れな老人ね、
ベッラモの水の乙女の、
アハトの秘蔵の子の扱い方を知らないなんて!」



人魚になってワイナミョイネンのもとを訪れたアイノが言い残す言葉。
ダイレクトに訳すと「あなたって、女の扱い方も知らないのね!」
自ら海神の娘を自負する美人さんは、彼氏と別れるとき、このセリフをご使用ください。



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