フィンランド叙事詩 カレワラ-KALEVALA

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第30章
Kolmaskymmenes runo


 さて、サーリ島から戻って来たレンミンカイネン、3年間も女性のもとでウハウハ生活をしていたとはいえ、戦士魂は全く衰えておりません。女の色香ごときに骨抜きにされないのは、さすがです。インド神話の聖者たちとは違い、「色は奪えど溺れるな」の世界。
 彼がやられたまんま黙ってるはずもなく、早くもポホヨラへの復讐を企てはじめていました。

 レンミンカイネンの船「旦那様…私、最近ぜんぜん戦に出かけてないですよう。もう用無しですか?」
 レンミンカイネン「心配するな。じきに出番が来る。」

 などと、自分の船と会話してみたり。
 なんかモノが喋るシーンって意外と多いもんですね。ワイナミョイネンやレンミンカイネンといった魔法の使える人たちの道具って、やはり魔法がかかってるんでしょうかねえ? 普通に作ってませんものねえ。
 レンミンカイネンがサーリ島へ行くときに使った父の船も、サーリへの道筋を知っていたということは、意志があったということでは…。
 物に考える力を与えるなんてスゴい魔法を日常的に使っているとは、あなどりがたし。


男、船と語る。

 もちろん、戦に行くというレンミンカイネンを母は止めますが、例によって彼は聞きません。相変わらず、反抗的な息子です。
 「うーん、しかし、今回はさすがに1人ではキツいな。誰か誘おう。」
と、レンミンカイネンは思案します。
 「そうだ、ティエラはどうだろう。」
…えっ、あんた、男の友達って、いたんですか?!

 女の人とばっかり戯れているから、てっきり男には嫌われているタイプだと思っていたのに、なんと彼には親友がいらっしゃいました。親友…というより戦友?
 いや、むしろ幼馴染っぽい。

 槍使いティエラの家に赴いた彼は、戦に行かないかと彼を誘います。
 「ダメよ、それは。ティエラは結婚したばかりなのよ?!」
と、家人たちは大慌て。父も妹も弟も、兄は戦に行けないのだと言います。
 が、黙って炉辺に座ってティエラ本人は、おもむろに自分の槍を引き寄せると、その槍を軽くしごいて、レンミンカイネンの槍と打ち合わせました。

 かぁっこいい、ティエラ!!
 男は黙って戦に発つ。離れていても戦場で結んだ二人の友情は途切れない? 「お前が困っているときは、俺は助けると約束した」ってヤツですか!!(興奮) きゃ〜vv このノリ大好き!


 こうして、結婚したばかりの新妻を置いて、ティエラはレンミンカイネンとともに先行きの見えないポホヨラ遠征へと出発。
 しかし、それは既にポホヨラの魔女の知るところとなっていました。
 ロウヒは、レンミンカイネンたちの乗った船をポホヨラへ近づけさせまいと、霜の魔法を放ちます。船ごと氷漬けにしてしまおう、というのです。
 ロウヒの手下である邪悪な霜の精霊は、少年だったと言います。氷の女王というように、イメージ的には霜の精霊は女性なのですが…カレワラ世界では男の子なのですね。

 けれど、レンミンカイネンにこの魔法は通用しません。
 「何しやがんだ、てめぇ!」
送られて来た霜、プフリの子をガッチリ捕まえ、握りつぶしながら脅しつけます。
 「このオレを凍らせようたぁ、礼儀ってものを知らんようだな、ああん? お前を冥界に封じてやろうか。それとも、燃え盛る火の中へ突っ込んでやろうか?!」
 「わっ、わああ、ごめんなさいー!!」
霜の精霊、大ピンチ。いくら精霊ったって火にくべられてもがき苦しむのは、ちょっとヤだ。まぁ子供だし(姿だけはね)、泣き落としって手もあります。

 「ごめんなさい、もうしません。すいません。もうあなたを凍らせようなんてしませんから、逃がしてください。」
 「ふん…分かればいいんだよ。」
でも船は既に凍ってしまったあと。
 霜の力は、とりあえずレンミンカイネンとティエラには及びませんでしたが、もう移動手段がありません。周囲の海も凍ってしまっています。

 仕方なく、彼らは凍った海面を徒歩で陸地に向かいました。けれど、そこは、何処なのかもわからない不毛の土地。人の住んでいる気配さえしません。
 「ち…どこなんだ、ここは。一体どっちへ行けばポホヨラへたどり着く?」
ここでようやく、寡黙なティエラが口を開きます。
 「俺たちは道を知らない。…このまま行っても、ポホヨラにたどり着けず無駄死にするのがオチだろうな。」
賢明な判断です。
 このさき、ロウヒの妨害はさらに厳しくなるだろうし、民家もない、どこなのかも分からない荒野をさすらうのでは、こちらが圧倒的に不利です。

 舌打ちしたものの、確かにそれもそうだとレンミンカイネン、いったん引き返して出直そうと魔法で馬を作り出します。
 「戻るぞ、ティエラ! ポホヨラから遠ざかるなら、魔女の呪いも薄れる。帰ることくらいは出来るはずだ!」
 かくして、2人は一路、故郷へと馬を走らせることになります。

 これ以降、ティエラは出てくることがありませんから、(残念…)奥さんや家族と幸せに暮らしたことでしょうが、レンミンカイネンはそうもいきません。
 家と母以外の家族を失い、復讐の意志をいまだ燻らせつづけるレンミンカイネン。
 彼のポホヨラへの復讐は、クライマックスの「サンポ奪回」への伏線となっていく…。


{この章での名文句☆}

霜よ、私の小柄な少年よ、わたし自身が育てた良い子よ!
わたしが言いつけるところへ行け、
わたしが言いつけ促すところへ!


ロウヒがしもべの霜の精霊を差し向けるシーン。
魔女パワー全開☆ってカンジ。


ページ画像;マルック・ラークソ「舟の嘆きーエクセリ・ガレン=カッレラの作品(1906−7)による」(1999)
勝手に使ってるのでバレないことを祈ろう。

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