フィンランド叙事詩 カレワラ-KALEVALA

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第10章
Kymmenes runo


 はてさて、ようやく故郷カレワラへ戻って着ました、ワイナミョイネン。あれだけ死にそうな目に遭ったくせに、ケロリと忘れて大層ご機嫌です。
 「わっははは、わしは帰って来たぞい! あのラップ人(ヨウカハイネンのこと)の若僧め、ざまーミロじゃわい! このわしに、一生戻れんよう呪いをかけおってからに! サノバビッチ! ファ○○ユー!」
 …と、無茶苦茶言いまくってますが、そのヨウカハイネンに本当に殺されかけてたことを忘れてますねジジイ。

 しかし、これで終わりじゃあありません。何はともあれ、まずはポホヨラの魔女との約束を果たさねばなりません。自分を帰してくれるかわり、魔法の道具サンポを造ることの出来る者、イルマリネンを、ポホヨラへ出向かせるという約束なんですから。
 訊ねていくと、イルマリネンは丁度、仕事場で仕事をしているところでした。
 ジジイの入って来たのを見ると、彼は言います。「よお、ワイナミョイネンのジイさんじゃないかい。どうした、久しぶりだな。どこ行ってたんだい」 この気安さからして、二人は長い付き合いのようです。
 「それがのう、ここんとこ、ポホヨラでスキーやっとったんじゃよ。あそこは呪術師の縄張りでのう。楽しかったぞい、ひょほほ」
 「ほほ、そりゃアンタらしいや。どうだい、旅の話でもしていかないかい」
スキーリゾートですか。嘘付け、アンタぜんぜんスキーやってないじゃん、というツッコミはさておき。

 ジジイはおもむろに、こんなことを言い出します。
 「いやポホヨラの女は美人じゃったー。村にの、結婚してない飛びっきりのギャルがおって、ダンナ募集中なんじゃコレが。魔女ロウヒの娘でな、うむ、わしがもーちょい若かったら嫁にするところなんじゃが、まーなんだ、アレだの、その、今回は、お前さんに譲ってやろうかと思うての。」
 「……。」
さすが長い付き合い、イルマリネンはピンと来たようです。
 「まさか、あんた…、自分の身の安全と引き換えに、俺をダシにしたんじゃあ…。」
 「いやいや! そんな、滅相もない。お前さんはの、ちょこっと行ってサンポを造って来りゃあええんじゃ。そうすりゃあ、あの美人とイチャイチャできるぞい。」
 「イヤだっつの!!」

 …そりゃーそーだ。自分の知らないとこで、勝手にそんな約束かわされてもねぇ。

 「のお、あそこも、そんなに悪いところではないぞい? どうじゃ、行ってみんか」
ジジイは退きません。
 「行かん! 俺はここが気に入ってんだっ」
イルマリネンも聞き入れません。しかしここはジジイのほうが上手だった。こんなこともあろうかと、イルマリネンちの庭に、魔法で不思議なモミの木を生やしておいたのです。
 「…うーむ…。(おもむろに庭を見る)む?! あ、あれは何じゃ!」
それって、「あっ! UFOだ!」って言って空を指差すのと大してかわんないよ、ジイさん。

 「うおお、何やら庭に輝く木が生えておるぞい!すごいぞ、葉っぱが全部、黄金じゃあ!!」
 「ふん、そのテは食うものか」
イルマリネンは仕事に忙しいようです。
 「いや本当なんじゃって。嘘だと思うなら外に出て見てみろ」
そういわれて、渋々、ジジイと一緒に外に出た鍛冶の神。確かに、自分ちの庭に、ものすごいきらびやかな木が立っています。
 ぽかん、として見上げるイルマリネン。
 「の、ほれ、一番上に何かが光っておる。あれはきっと、月と北斗七星に違いない。お前さん、行って確かめて来たらどうじゃ。」
 「う…うむ。」
嗚呼! なんて素直なんだイルマリネン! 君はきっと、いい人だ。

 けれど、モミの木自身は、良心があったのか、ジジイの策略を告発しました。
 「ダメだよ、イルマリネン! あの月は偽りの月だ。君は騙されているんだよ!」
 「チ…モミ風情が余計なことを」
ジジイ、舌打ちしていきなり魔法発動! 嵐のごとき呪歌で、木に登ろうとしていたイルマリネンを枝ごとふっ飛ばします!
 嘘だろ?!

 …ジジイ。あんた鬼だ。鬼だよ…。

 気が付くと、イルマリネンは、魔女ロウヒの家の前に立っていました。空から降ってきた彼に、家の女主人も驚いています。
 「何者だい一体?! まさか、イルマリネンかい。」
 「…まあ、そうだけど。」
これを聞くや否や、魔女は娘を呼びつけ、「とびっきり色っぽい格好でこの男をクギ付けにするんだよ! いいかい、逃がさないようにね!」(意訳)と言っておき、イルマリネンを丁重に工房へと案内します。

 イルマリネンのほうも、ここまで来たら仕方が無いと、サンポづくりに取り掛かることにしました。しかし、さっすが熟練技巧、どうやら自宅にある道具が無いと仕事が出来ないらしく、まず自分用の道具づくりから始まります。「ええい駄目だ駄目だ、こんな炉じゃあロクなものが造れん! なんて場所なんだ、ここは」はたまた、出来上がったものを打ちこわし、「ええい、何て駄作だこれは! ゼンゼンなってない!」
 こんな調子で、何日も何ヶ月も工房に篭もりつづけました。

 まるで、気むずかしい陶芸家のよう(笑)

 ちなみに、リョンロット氏が収集した元の物語でのイルマリネンは、「昼間は仕事一徹、夜は乙女と××」という、とっても艶かしい生活を送っていたのですが、どうやらそれはリョンロット氏のお気に召さなかったらしく、編纂されたカレワラでのイルマリネンは「仕事一徹の朴念仁、結婚してない女に手は出さない」という、ジジイとは正反対の一途な男に変化しています。
 そこがナイスだ、イルマリネンv

 ―――で、話を戻します。
 こうして苦労してようやくサンポを造りだした彼ですが、「まだ結婚の時期には早い」ということで、なんと、あの美人な娘さんを連れずに帰ってしまうんですねえ。そこらへん、ジジイと違って奥ゆかしいです。
 婚約だけして故郷に戻ったイルマリネンを、悪びれもなく出迎えたのは、やっぱりワイナミョイネン。
 「おう、どーじゃったよ。巧くやったかね? ん? 美人じゃったろう。ふぉふぉふぉ」
 「……。」
もはや怒る気もナッシング。

 一体どーして、この2人が友達になったのかが謎ですなあ。もしかして、腐れ縁?
 なお、ジジイとイルマリネンの素敵友情(?)物語は、このカレワラ世界で最も高いギャグ率を誇る、笑いどころでもあります。
 って、笑ってるのはオレだけかもしれないが…。
 しかし、ジジイ、本当にあんたはすげぇよ。不滅の賢者って、友達売っていいんですか…。


{この章での名文句☆}

とくになし。

この章は全体がかーなり面白いです。「マジですか?!」状態。そこまでやるか、ワイナミョイネン…。


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