フィンランド叙事詩 カレワラ-KALEVALA

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ジジョ島のおこり

 フィンランドではなく、エストニアの神話。でもエストニアは内海をはさんでフィンランドのお向かいですし、「カレワラ」にもエストニア起源と思われるエピソードがあるので、分類としてはフィンランド神話に入るようです。
 めずらしく、実在する地名に関する起源の神話。


 むかし、あるところに、裕福な百姓がおりました。
 百姓の妻が、マルティという名前の息子を残して死んでしまったので百姓は、妻の形見の、まだ新しい長靴を持って、新しい妻をさがしに出かけました。国中をめぐっていると、あるとき、森の前でひとりの老女に出会います。
 「何をさがしているんだね。」
老女が尋ねます。百姓は答えていいました。
 「妻になる女を捜しているんだよ。」
すると老女はいいました。
 「わたしにしなさいよ。」
 「この長靴が足に合ったらね。」
そこで老女はその長靴を履いてみますが、足がちょっと大きすぎました。
 …長靴で花嫁を探すなんて、長靴シンデレラですね(笑) ここらへんが沼の国フィンランドらしいといいますか。

 さて老女は自分の足が大きすぎたので、石でかかとを削り取り、次の日もう一度、百姓に会いに行きます。今度は長靴がぴったり足に合ったので、百姓は、この女と結婚して家に連れて帰りました。
 ところが、女はたいそうぐうたらで、家事もせず、食べることと飲むことばかりしていましたので、家の財産はどんどんなくなくって、家畜はみんな食べつくされてしまいました。
  そうして、すっかり食べる肉がなくなると、女は呟いていいました。
 「明日は、マルティと白い雄牛を殺さなくてはならないね。」
これを聞いていた白い雄牛はびっくりしてマルティに言いました。
 「あの女は魔女だよ、私たちは明日殺されてしまう。マルティ、一緒に逃げましょう。」
そこでマルティは牛に乗って、一緒に家を出ることにしました。

 しばらく行ったところで、牛はマルティに砂を拾うように言い、またしばらく行くと、今度は水を持っていくように言いました。さらにしばらく行くと白い雄牛はいいます、「ふりかえってごらん、何か見えやしないかい。」
 そこで振り返ったマルティは、怒った魔女がものすごい勢いで追いかけてきていることに気がつきました。
 …このあたりの経緯は、「カレワラ」の、ポホヨラからの脱出シーンに似ています。ワイナミョイネンに言われてふりかえったレンミンカイネンは、最初、追いかけてくる魔女ロウヒが島や雲に見えるといいました。ここでは、追いかけてくる魔女が「干草の山」に見えたと書いてあります。

 牛は言います。「マルティ、さっき拾った砂をまきなさい」
 すると砂は砂山になり、魔女は、シャベルで砂をどかさなくてはならなくなりました。

 すこしだけ時間を稼いで、もうしばらく行くと、また魔女が追いかけてきます。
 「マルティ、さっき拾った水をまきなさい。」
 すると水は川になり、魔女は、川の水を飲み干さなくてはならなくなりました。その間に牛と少年はどんどん逃げて、ついに逃げ切ることが出来ました。魔女は水を飲みすぎて、ついに破裂してしまったそうです。


 「ここまでくるともう大丈夫」
 恐ろしい継母の魔女を出し抜いたマルティは、安全なところまでやって来ると、別々の道をゆくことになりました。

 別れぎわに、白い雄牛は少年に片方の角をくれました。「ここからは、わたしはわたしの行きたい道をゆく。おまえもおまえの好きなところへ行きなさい。」
 そこで少年は、王様のところに羊飼いとして仕えることにして、牛のくれた角をバグパイプにして毎日草原で吹いていました。その音楽は、うっとりするような音色だったといいます。

 ところが、王女がいつもいたずらをしに来ます。少年は困って、バグパイプに「王女に子供をくれてやれ」と言いました。
 すると王女はみごもり、子供が生まれました。この子は男の子で、ジジョと名づけられましたが、誰もこの子の父親が誰であるのかを知りませんでした。
 男の子が4つになったとき、王様は城中の人を呼び集め、男の子にりんごを持たせると、「これを、お前にお父さんに渡してあげなさい」と言いました。男の子はまっすぐにマルティのところにやってきて、りんごを差し出します。
 王様は怒ってマルティをとらえ、王女と、ジジョと3人を樽に詰め、海に投げ込んでしまいました。

 …オイオイ。自分の娘が羊飼いの子供を生んだからって、そこまでしますか王様。

 この危機も、マルティはバグパイプに島を作らせて切り抜け、島に宮殿をたてて暮らすようになりました。島からは、王女の国への橋もかかっていました。
 しかし王様は、自分の領地の中で3人がまだ生きていることが気に入らず、兵隊を指しむけて、彼らを殺してしまおうとします。そこでマルティはバグパイプに言いました。「橋をきって、兵隊たちをおぼれさせておくれ。」
 そのとうりになり、マルティたちを殺そうとやってきた兵隊たちは、みんな海に落ちて溺れてしまいました。

 それからマルティと家族はずっと幸せに暮らし、島で一族は繁栄したそうです。
 この島はジジョ島と呼ばれて、今もエストニアにあるそうな。おしまい。


 …なんか、あらゆる意味で神話的で、あちこちに神話的な暗喩が含まれていそうな物語です。
 神話っぽい神話だなぁ…と、思いました。




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