Rilke "Der tod der Geliebten"
恋人の死
Er wußte nur vom Tod was alle wissen:
daß er uns nimmt und in das Stumme stößt.
Als aber sie, nicht von ihm fortgerissen,
nein, leis aus seinen Augen ausgelöst,
彼は死について、だれもが知ることしか知らなかった。
死がわれわれを奪い去り、沈黙のなかへ突きやるとしか。
しかし彼女が、彼からさらわれはせず、
そう、ひそやかに彼の眼から解き放され、
hinüberglitt zu unbekannten Schatten,
und als er fühlte, daß sie drüben nun
wie einen Mond ihr Mädchenlächeln hatten
und
ihre Weise wohlzutun:
道の影たちへすべり去ったとき、
そしてむこうにいる人たちが今、
月のようにそのおとめのほほ笑みを浮かべ、
やさしいふるまいを見せるのを感じたとき、
da wurden ihm die Toten so bekannt,
als wäre er durch sie mit einem jeden
ganz nah verwandt; er lies die andern reden
死者たちはとても親しいものとなった、
彼女の手引きで死者のひとりひとりと
ごく近しい縁が出来たかのように。彼は他人に言いたいように言わせ
und glaubte nicht und nannte jenes Land
das gutgelegene, das immersüße -
Und tastete es ab für ihre Fuße.
耳をかたむけず、あの国を
とてもよくできた、常春の国と名づけた―――。
そして恋人の足の踏む国を思いはかった。
和訳/「リルケ詩集」 生野幸吉(白鳳社)
Rainer Maria Rilke, zwischen dem 22.8. und dem 5.9.1907, Paris
■この詩の鑑賞■
リルケは時々、こういった、かつての宮廷詩人(ミンジンガー)たちのような詩を作っている。短いし、テーマが分かりやすいので、ウェブ上でもけっこう人気があったりする。
恋人の死、とはいいながら、そこにあるのは完全なる絶望ではなく、明るい未来展望が含まれている。
残された男は、死んだ恋人のことを思いながら、それでも生きていこうとしている気がする。
さきの”嘆き”もそうだった。空に浮かぶ星はすべて死んでいるのではなく、たった一つの白い星だけは今も生きて光を放っている。空は、完全な闇ではない。
閉ざされた悲しみの中に、か細くとも明日へ続く道を見つけることが出来ていたからこそ、リルケは、ヘルダーリンのように狂気の中に死なずに済んだのかもしれない。
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