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=作品説明=
いきなりですが、石ノ森章太郎先生のマンガです。
「サイボーグ009」とは、昭和39年という、とっても古い時代に最初の作品が書かれた長編シリーズの漫画作品。
2002年にはリバイバル・アニメも放映され、親子二代でハマった、という話も聞くほど。まさに世代を越えて受け継がれる人気漫画なわけですが、ご存知でない方のために、まずは、前提となる粗筋など少々。
基本前提は、悪の科学結社と戦う正義の改造人間たちの物語。
ゼロゼロワンからゼロゼロナインまで、9人の仲間たちは、もとは人間なのですが、誘拐され、サイボーグの試作品として体を改造されてしまいます。しかし彼らは心までは死なず、善の意識に目覚めたギルモア博士という優秀な科学者とともに脱走を計画し、世界に戦争を引き起こそうとする悪の組織と戦います。
仮面ライダーみたいなノリです。
主人公は日本人の少年・島村ジョー。
このマンガは本来、世界に戦争をひきおこそうと企む死の商人、兵器開発の秘密結社「黒い幽霊団(ブラックゴースト)」によって攫われ、改造され人間兵器(サイボーグ)にされてしまった、ジョーと8人の仲間たちが、秘密結社と戦う話なんですが、ラス・ボスである「ブラックゴースト」が倒れてしまった後は、やること無いので必要ない敵も倒しに行きます。
古代遺跡や不思議がダイスキな石ノ森先生のこと、マヤ行ったり、中東の砂漠行ったり、恐竜が出てきたり、宇宙人が出てきたり。
それが、この「北欧神話編」なのです。(笑)
■9人の仲間たちについて■
本名 | 出身 | 能力その他 | |
001 | イワン・ウィスキー | ロシア | 超能力を持つ赤ん坊。 普段は赤ん坊らしく寝てたりテレパシーで話しかけてきたり。 |
002 | ジェット・リンク | アメリカ | 足にジェット噴射がついてるからジェットなのか(笑) 普段はレーサーとしてビュンビュン飛ばしている。 |
003 | フランソワーズ・アルヌール | フランス | チームの紅一点。普段はバレリーナ。 視覚・聴覚が常人の何十倍。主人公とはラヴな仲。 |
004 | アルベルト・ハインリヒ | ドイツ | 体中に武器を仕込まれた人間兵器。 ジェットと組むと空中からの攻撃も可。 原作ではベルリンの壁越えて逃亡しようとして失敗している…。 |
005 | ジェロニモ | アメリカ | インディアン出身。怪力を持つ体格のいい大きな人。 |
006 | 張々湖 | 中国 | 中華料理屋の店主。 お約束のように、語尾に「〜アルヨ」をつける。火炎放射器を体内に内蔵。 |
007 | グレート・ブリテン | イギリス | シェイクスピア大好きな俳優。何かとキザなセリフをはきたがる。 おへそを押すと自在に変身出来てしまう能力を活かして現在は百面相の喜劇俳優に。 |
008 | ピュンマ | 南アフリカ | 原作では、祖国の独立運動をしている。 自在に水中活動を行える水陸両用サイボーグ。 |
009 | 島村ジョー | 日本 | 最後に作られただけあって、他の仲間たちの能力のよいところを受け継いでいる。 両親と死に別れて天涯孤独な身の上。そんなこんなで人気のキャラ。 |
■あらすじ■
「エッダ 北欧神話編」では、赤ん坊な001を除いた8人が、「巨人が出る」というウワサのある極寒のアイスランドへ出向くところから始まります。(誰に頼まれたわけでもないのに事件のありそうな場所へ出かけているあたり、鬼太郎よりもマメな人たちである。)
アイスランドはちょうど冬。極寒の中、サイボーグでもさすがに辛いらしいのですが、アイスランドって気温的にそんなに寒いわけじゃないです。(北極じゃあるまいし…)
サイボーグなのに何で寒いねん、というツッコミは却下。
さて、彼らが進んでいると、放射能を含む不自然な霧が漂い始め、ふらふらと歩く女の姿がありました。放射能の中を歩いたら普通、倒れるどころじゃない気がしますがそこらへんもツッコミはナシで^^;
女は「ガリアが追ってくる」と怯えているのですが、ガリア戦記のあのガリアではありません。このガリアというのは、かなり巨大な犬です。顔が石ノ森テイスト。もしてして、「ガルム」のことなのか?
サイボーグの皆さんは犬と戦い、追っ払ってしまいます。犬が逃げていくその向こうには、ユグドラシルを思わせる巨大な木が聳え立っていました。
その木のふもとにあるのが、女(名前はフライア)が来たという、「やどり木の村」でした。村の入り口では、「目なしのヘドウール(ヘズのことか?)」と名乗る老人が楽器を奏でながら歌を歌っています。一行の案内をしよう、と先に立ったのは、ヘドウールの息子、「鷹目のハイムダル」。…ヘイムダルは千里眼なので、ギョロ目です(笑)
のっけから飛ばしまくりです。石ノ森先生。
北欧神話的な登場人物は、さらに続きます。
倒れたフライアを医者に見せたい、というと、ハイムダルは、「そういうのはヘール婆さんが薬を作ってくれるからいいよ」と答えます。ヘール婆さん…。冥府の女王・ヘルのことでしょうか。
さらに、うさんくさい宿の主人の名前は、「ロキー」。うさんくささ爆裂の、ぽっちゃりした男です。この男の妻が、族長テック。(バルドルが死んだ時に一人だけ泣かなかった女巨人の名前、セックから来ていると思われる。)
宿には「口なしのヴィーダル」と呼ばれる、ぼんやりした、下働きの男がいます。
あの寡黙なヴィーザルが、黙りこくった、頭の悪そうなお手伝いさんになってロキに使われているのです。何てすごい宿でしょうか。私も泊めてくれ。(みぐるみはがされそう…キャー)
ロキーは一行に、「大木に近づいてはいけない、近づけば大木を守る3人の戦士たちに報復を受ける」と、注意します。大木というのは、もちろんユグドラシルのこと。なにやらいわくありげな雰囲気に、主人公たち一行は疑問を抱き始めます。
ちなみに北欧神話では、ユグドラシルのメンテをしているのは3人の女神ノルニルなのですが、このマンガでは、ノルニルたちがとっても怖い戦士と化しています。(それは後ほど出てきます…。)
途中で助けた女、フライアは、うわごとで、恋人「フリッガ」の名前を呼びます。フリッガってフリッグのことです。オーディンの奥さん。つまり女。フレイって書きたかったのかな?
さらに、フライアの弟と名乗る青年・バルドールが訪ねてきて、「この村は実は○○…」と、ヒントになるセリフを言い残していきます。もちろんこの人はオーディンの息子・バルドル。雰囲気的には良さげなんですが、フライアの兄弟がフレイじゃなくてバルドルかい。<ツッコミ
バルドールは、フライアの看護をしていたフランソワーズ(003)に言います。フライアの恋人フリッガは、族長のいいつけにそむいて処刑され、村を飛び出した姉のフライアも、おきて破りとしていずれは殺されてしまいます。オーディンの支配には何者も逆らうことは出来ないのだから、そっとしておいて欲しい、と。
言うだけ言っといて、バルドールは去ってしまいました。
一方、変身はお手の物のグレート・ブリテンはカラスに変身して、ハイムダルの監視から抜け出し、村の向こうに聳え立つ大木を調べに出ていました。
カラスの大群、金のトサカのニワトリ、焔のたてがみを持つ馬に巨大な犬、大木のまわりを取り囲む水に住む大きなヘビ、シュランゲ(ヨルムンガンドのことだろうな、多分)に大男ミェルニール(ミョルニル。トールの武器だろ?)、鉄仮面のトール(何故かトールがロボットライクな怪力男。)…北欧テイストだが素晴らしいアレンジの加えられた登場人物がテンコ盛り。
もちろん、シリーズのいつものパターン通り、これらの怪物は、のちにサイボーグたちと戦うことになりますよ。バトルは必須のマンガですから。
もっとヒキを見せてくれればいいところ、悪役はアッサリ手の内を見せるのがこのマンガのいいところ。主人公たちの毒殺に失敗した族長・テックは早々とキレだし、これらの怪物をさしむけ全面抗争に出ました。
火炎放射の能力を持つ006は焔のたてがみの馬(スレイプニルが元ネタ?)、怪力の005は大男ミェルニール(雷神トールの持つ武器の名前)、水中でも行動できる008は大海蛇(ヨルムンガンドですね)、全身凶器の004は武器のエキスパート・トール(!)、と、いうふうに、いい感じに対戦カードが組まれてまさに「ラグナロク」状態。
そんな中、チームの紅一点・戦いには参加しない003フランソワーズだけは戦場から離れ、再度フライアの弟・バルドールに会い、話を聞いていました。この村のことについて。あともう少しで真実が明らかに…
…と、そのとき何処からともなく光線銃(未来兵器だ)が!
バルドールは眉間に一発くらって即死、フランソワーズは人質として大木トネリコに縛り付けられてしまいます。(お約束の展開。)
人質をとってコトを有利に進めようとする、族長テック。だがそのとき、トールと戦ったあと行方不明になっていた004が雄雄しく生還。トールの持っていた武器が、この時代には存在しないはずのものであることを見ていた彼は、この村の正体を暴き、これがきっかけで村に隠されていた超兵器の数々が次々に登場し、サイボーグたちに襲い掛かります。
そう、神話をなぞったように見せかけた古ぼけた村は、実は、超文明の秘密を隠すためにわざと古い時代のものに見せかけていた、先進科学村だったのです!(これもお約束)
族長テックは、宿の主人ロキーの変装でした。そして、そのロキーの正体とは…。
なんと、25世紀から来たマッドサイエンティストだったのです! ちゅどーん。
さらにさらに! トネリコの根元には、最終兵器として巨大な人間・イミールが眠らされています。原初の巨人ユーミルが生きているだと! これは凄い!
さらにトネリコの中にはマッドサイエンテイストのマシーンが隠されていて、3人の戦士たち、ウルド・スクルド・ヴェルザンディががっちりガード。いや…確かにノルニルはユグドラシル守るモンだけどさぁ…、守り方が違うような…。
しかも、この3人は、ジョーと同じ加速装置をつけてマッハで動ける、25世紀テクノロジーのスーパー人型ロボットでした。(そのくせ20世紀産の009ひとりに負けるんですがね。)
とらわれのフランちゃんの前で必死で戦うジョー。そのときフランソワーズはすべてを理解しました。
かつて地上には、超古代文明が存在した。しかし人類は文明の道を踏み誤り、その結果、巨人イミールや巨大な狼ガリアのような突然変異体の怪物が誕生した。(過去)
その怪物たちの村が、何らかの原因で、転移した。(現代)
転移した村へと、25世紀(未来)の北欧マニアなマッドサイエンティストがやってきて、自ら神になろうとした。
こうして、過去・現在・未来のまじりあう、「やどり木の村」が、誕生したのだ。
…怒涛の展開です。
しかし、こんなもので驚いていては、石ノ森ワールドには浸れません。戦いによって、マッドサイエンティストの操るマシンは、巨大なトネリコとともに爆発・炎上。それはあたかも神々の時代の終焉の如くに、村も木も崩壊し、フライアも息絶え、すべてが終わります。
トネリコの残骸とともに、感慨深きエンディングへ。
そう、悲しみは…すべての矛盾を打ち消すさ。多分。
+++
と、まあ、こんな物語です。
009シリーズとしても北欧パロディとしても楽しめる話なんですが、全編とおして、なぜか北欧神話ではないものも交じってますね。さらに、ラストページの言葉は、実は「エッダ」ではないっていうのも、引っ掛けっぽくてミソです。
そういう細かいところに心の中でツッコミを入れながら読むのも、また、楽しいかもしれません。
他にも、冒頭でのジェットの走りっプリとか、フライアの亡骸を抱いて涙するジェロニモの男の涙に、余計な意味を読み取ろうとするとか、邪な楽しみ方もあるのですが(笑)。
■原典との関係■
「エッダ 北欧編」とか、ついているからには原典エッダと何か関係があるに違いない!
…と、いうわけで、作品中に登場する引用部分について、検証してみました。
なお、この部分の検証内容は、奈束さんスレ立て、STILLさん&きよさん(+影の人)調査協力のもと、「質問・議論掲示板」にて投稿された情報をもとに編集しています。
引用1)「旅人が一人あなたの家の前で待っている。まだ誰も知らないことを聞かせてもらいたい。起きておくれヴァラ 起きておくれ…」
奈束さんご自身による情報です。
引用元は、19世紀の名作オペラ、リヒャルト・ワーグナー作
「ニーベルングの指輪」”ジークフリート”第3幕 第1場。
オーディンのセリフ「(前半略)わたしが歌うのは、あなたを目覚めさせる歌。瞑想の眠りから呼び覚まそう。
全知の人よ! 原初の知恵者よ!
エルダ! エルダ! 永遠の女性よ!
起きよ! 目覚めよ! おおヴァーラよ! 目覚めよ!」(新書館の訳より)
ちなみに、この「ヴァーラ」はエッダには登場しない、ワーグナーオリジナルの女神様です。
エルダはErdaと書くんですが、これは「エッダ」では大地母神ヨルズのことをさします。(綴り変え)
ヨルズは大地自身ですので、オペラの大地から半身を起こすエルダの姿というのは、北欧神話原典から来たイメージなのでしょう。ギリシア神話のガイアに通じるものもありますが…。
引用2)「夜が始まるのだ…北の方で氷のように冷たい巨人が立ち上がり、とげのあるむちでたたいて、人々を平和な眠りからさます…」
きよさんの投稿です。
『オージンのワタリガラスの呪文』か『フォルスピャルの歌』(正確な邦題は不明)という詩の13節に、以下のような記述があるそうです。
東方のエーリヴァーガルからより、
霜のごとき冷たい巨人の野のとげが参り、
それを以ってダーインは、毎夜
栄えあるミズガルズ[中つ国]すべからくの人間を殴りつける。
もしかすると和訳は無いかもしれない、とのことで、一応、原語サイトのリンクなどはっときますが、自分読めないんで、根性のある方はドゾ(笑)
言語学者ブッゲによるもので、詩エッダの外伝的作品となるそうなんですが、もしも、この詩からの引用だとしたら、和訳の存在しない作品をどうやって持ってきたのでしょうね。
引用3)「山と巌がきっと輝く太陽の神に焼かれるで しょう」
影の人からの投稿+自分情報です。
北欧神話には、太陽の神は登場しません。
太陽ということでソールという登場人物(女性)がいますが、この人は女神にかぞえられているものの、神としての能力があるわけではなく、何かを焦がすほどの力も持っていません。むしろ、狼に追われていつも天を急いでいる、神界弱者です(笑
と、いうわけで、これは「エッダ」からの引用ではないでしょうし、北欧神話でもないかもしれません。
引用4)「どんな地上のものもそれはただ―たとえである」
STILLさんの投稿です。
ゲーテ作、「ファウスト」のラストシーン。
主人公ファウストが天に昇って聖母マリアの前で讃えられている部分です。
”一切の無常なるものは
ただ映像たるに過ぎず。
かつて及ばざりし所のもの、
ここには既に行われたり。
名状すべからざる所のもの、
ここには既に遂げられたり。
永遠に女性なるもの、
我らを引きて往かしむ。”(森鴎外全集2 ちくま文庫 より)
新潮文庫のものなどは、もうちょい簡単で分かりやすい訳になっているかと。
手元に何故か森鴎外訳のしか無かったので、こんな口調です・・・。
以上、4箇所の引用元を簡単に流してみました。何故かエッダからの引用が全然無いじゃん〜、ってなところですが、エッダよりさらにママニアックな資料からの出典ですので、さすが博識な石ノ森、と言うべきか…。
ファンの皆様からの追加情報もお待ちしています。