■ディートリッヒ伝説-DIETRICH SAGA |
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PART.1 ツッコミ
ディートリッヒの仲間たちの中で、何かと問題を起こす部下が、この2人。ディートリッヒの仲間、といえば、最初に名前が挙げられるほど、出現率が高く活躍するエピソードも多いが、雄雄しく戦ったり、手柄を上げたりするエピソードよりは、ケンカしている場面の印象のほうが強いのは、何故なのか(笑)
出会いからして、まずかった。
ディートリッヒの家臣で辺境伯、ホルンボゲの領地を盗賊が荒らしていて困る、というので、ヒルデブラントとハイメが派遣されるのだが、ちょうどそこへ通りかかったのがヴィテゲ君。
野営中にそれぞれの名をなのり(ヒルデブラントは、ここでは身分を隠すため偽名を名乗るが)友好を結ぶのだが、その次の日、盗賊との戦いでは、なんとハイメが手を抜いた。
幅の広い河に阻まれて、ヒルデブラントとホルンボゲが、盗賊の追跡を出来なかったのだ。ヴィテゲの馬スケミングと、ハイメの馬リスペは、スレイプニルの血を引く名馬。彼ら2人だけが流れを飛び越え、逃げた盗賊たちを追いかけることが出来た。しかしハイメは、追いついていたのに、自分は戦わず、ヴィテゲが盗賊たちを倒すのを、ただ見ていたのである。
仲間が敵と戦っているのを傍観する=仲間を見捨てる=不名誉。
ヴィテゲは強いし、危ない戦いでもなかったんだから、手を貸してくれなくても大したことは無かっただろうと思う。
だが、仲間が戦闘に参加しないで見てるっていうのは、ちょっとムっとくるもの。ハイメも盗賊稼業は得意(笑)な人なので、自分の同類みたいな人たちを攻撃するのは嫌だったのかもしれないが…。
そしてこの時の出来事が、めぐり巡って、はるかのちに喧嘩の火種に。
「ハイメ、この剣をお前にやろう」
新たに最強の剣・エッケザックスを手に入れたディートリッヒは、かつて自分が使っていた剣、ナーゲルリングをハイメに下賜するシーンでのこと。
ハイメがもともと持っていた(家から持ってきた)ブルトガングという剣は、ディートリッヒの兜、ヒルデグリムを打ったときに折れてしまいますから、その代わりです。ま、名だたる勇士たるもの、名だたる武器のひとつも持ってなきゃカッコつきません。
おおっ、名剣を与えて、忠誠度upか? …とも思いきや…。
ヴィテゲ「可愛そうに、ナーゲルリング。そんな、ろくに戦いもしない奴の手に渡るとはな…。(ぼそっ)」
脇からのツッコミ。ハイメはちょっとムッとします。
ハイメ「どういう意味だよ。」
ヴィテゲ「お前は仲間が戦っていても、平気で傍観するような奴だという意味だ。以前、盗賊を狩りに行ったとき、お前はただ見てるだけだったな。」
ハイメ「…いつの話だよ、ソレ(ちょっとムッとしている)」
ディートリッヒ「盗賊を狩りに? 何のことだ、ヒルデブラント」
ヒルデブラント「ええ。それが、…」
と、ヒルデブラント、事情を説明。それを聞いて、ディートリッヒは怒り出しました。
ディートリッヒ「ハイメ! お前、また手抜きをしたのか。ゲリラ戦じゃないんだから、騎士らしい戦い方をしろと、あれほど言っただろう!」
ハイメ「なんだよ、うっさいな! こいつ一人でも大丈夫なのに、何でわざわざ疲れるマネしなきゃなんねーんだよ!」
ディートリッヒ「うっさいとは何だ、主君に向かって!」
ヒルデブラント「まーまーまーまー…。」
ヴィテゲのちょっとしたツッコミから、ディートリッヒも巻き込んで大騒ぎ。
ハイメ君はついに、キレてしまいました。
ハイメ「そんなに言うんだったら、こんな宮廷<とこ>、出てってやる!!」
ディートリッヒ「あっ、こら! 勝手にどこへ…」
ヴィテゲ「どうせ、そのうち帰ってくるだろ。」
ヒルデブラント「まったく…。」
と、いうわけで、ダッシュでいなくなってしまったハイメ君。馬に乗って、イタリアの真ん中あたりから、何故か北の果て・デンマークまで言ってしまったのでした。
そのまま海渡らなくてよかったねぇ、と言いたいところ。
ディートリッヒ「…あ゛っ?! あいつ、ナーゲルリングも持っていきやがった!」
ヒルデブラント「若、『行きやがった』とは何ですか、王家の者ともあろうお方が。…ったく、ハイメのせいで、言葉遣いも汚くなる…。(ぶつぶつ)」
まぁーそんなわけで、はるばる北まで行って酷い目にあって帰ってくるまで、しばらく宮廷を空けてたわけなんですが。
ヴィテゲは、ハイメをあおって、何がしたかったのだろう。(謎)
PART.2 思いやり
この一件を、根に持ったとか、もたなかったとか。ずーーーっと後のほうになって、ディートリッヒが、アッティラとオザントリックスの戦いに助っ人として参加する場面(シドレクス・サガ)。
ハイメ君、ここでも仲間を見殺し。ヴィテゲが敵から思いがけない攻撃を食らって落馬し、捕らえられたのを見てたのに助けず、落としていった武器だけ回収。
見〜て〜る〜だ〜け。
…まぁね、ヴィテゲが逃げられない相手なら、ハイメじゃ勝てないと思いますけどね。
しかも、そのあと助け出されて戻ってきたヴィテゲが「武器返せ。」と、言ってるのに、返さない。
ハイメ「戦場でひろったモンは拾った奴のモンだろ?(ニヤリ)」
ヴィテゲ「……。」
まあ、それが、当時の戦場のルールなんですが。死人のものでも、まだ生きている人のでも、戦場で拾ったモンは、勝手に持ってっていいんですよ。戦いの後とか、農作地を荒らされた農民たちが、モトを回収しようとして死体あさりしてたくらいですからね。
しかし、仲間のものと分かってて取ったんですから、ハイメ君、確信犯ですな。
ヴィテゲ「この野郎…」
ハイメ「おっ? やるか? やるか?(嬉しそう) 武器もない時のお前なんかヘイチャラだぜ〜。へっ、かかってきな」
ヒルデブラント「やめんか、2人とも!」
素手で殴り合ったら、たぶん互角だな、この2人。もしくは、体力勝負ではハイメ君のほうが上かもしれない。
と、そこへ主君登場。
ディートリッヒ「何の騒ぎだ。」
ヒルデブラント「ああ、若。聞いてください、この2人が…。かくかくしかじか」
ディートリッヒ「成る程。」
またかー、とか思いつつ溜息をついたディートリッヒ。
デートリッヒ「ハイメ、もう気は済んだだろう? いい加減、返してやれ。」
ハイメ「何でー。」
ディートリッヒ「何で、じゃない。それはヴィテゲのだろ? どんなものかは、お前も分かっているはずだ。」
ミームングは、ヴィテゲの父・名工ヴィーラントが息子のために取っておいた、最高傑作なのでした。
ハイメ「チェ。分かったよ、ホラ。」
ぽいと返して去っていくハイメ君。ヴィテゲとケンカが出来なくて、ちょっと寂しそう。
ヴィテゲ「…何なんだ、あいつは…。」
ヒルデブラント「まぁ、分かってやれ。あいつなりにお前が無事で戻ってきて嬉しいということだ。お前の大事な剣が、敵の手に渡らんよう急いで回収したのも、帰ってきたとき直ぐに渡せるように、という、あいつなりの思いやりだ。」
ヴィテゲ「…だったら、早くそう言えよ。(あとで一発殴るつもりだった)」
ディートリッヒ(ま、いえないから、ハイメらしいんだよなぁ…。)
とか、師匠がフォローしたということは一切書かれていなかったりする。
それじゃ行動が意味不明じゃーん。ハイメ君が単なる面白い人になってますよ「シドレクス・サガ」!
でも、これ以降、ヴィテゲがハイメを恨んだり、敵意を抱いたりしてはいないところからして、お互いの気持ちは通じたんでしょうか…。
PART.3 一致団結
色んなストーリーをつなぎ合わせたため、矛盾が生じていシドレクス・サガ。その中でも、読み手を悩ませるのが、ヴィテゲとハイメが、ローマ王エルムリッヒの家臣になっているシーン。
どうやら、エルムリッヒがディートリッヒ追放を考えだす以前に、2人はこのローマの宮廷に参内していたらしいんですが、何故?
「アルプハルトの死」では、ハイメがディートリッヒに「あなたに言われてエルムリッヒの家臣になったんですが」と言ってるので、ディートリッヒが寄越したのかもしれませんが、自分とこの主要な手勢を、人に譲ったりするものか…?
ともあれ、ディートリッヒが嫌になったから、より強大な王に仕えたわけでは、ないのです。
なんだかんだとケンカしつつ、共通の友人・ディートリッヒに対する思いは一緒なハイメとヴィテゲ。普段は照れ隠しなんだか何なんだか、ろくに会話もかわさずヒタスラ殴りあっている(笑)彼らですが、友人の危機に、ここでいきなり一致団結。
「かつての主君、ディートリッヒとは戦えません!」
エルムリッヒにとっても主要戦力の2人が戦闘拒否。「シドレクス・サガ」では、さらに、ハイメが大臣ジフカを殴っている間に、ヴィテゲが制止を振り切って、ディートリッヒのもとへ危機を伝えに走ります。
ハイメ「オレにかまわず、早く行けェ! お前の馬なら、誰より早く伝えられる!」
ヴィテゲ「…すまない…!」
…とか、叫んでるといい感じです。サガって、そこまで細かくは情景描写されていないもんなんですが。
ハイメは反逆罪で投獄。しかし、戻ってきたヴィテゲは、処刑されようとしていたハイメを逃がしてやります。
ここでヴィテゲがディートリッヒのもとに戻らなかったのは、いちどエルムリッヒに忠誠を誓った身だから、というよりは、もしかしてハイメを見殺しにしたくなかったでしょう。
ハイメが放火しつつ逃亡したのち、何故かその場に居残るヴィテゲ。周りを兵士に囲まれていても、彼なら脱走できたはずなのですが、敢えてそうしません。その理由は何故だろう…
と、いうわけで以下のようなシーンを考えて見ました。
エルムリッヒ「貴様! よくもおめおめと…」
ギヒコ「牢が開いております、王。奴め、ハイメを逃がしおりましたぞ。」
ヴィテゲ「……。」
エルムリッヒ「ううむ、うぬら、どこまでわしを愚弄するのか。」
おもむろに口を開くヴィテゲ。
ヴィテゲ「提案がある」
エルムリッヒ「何?」
ヴィテゲ「ディートリッヒは、あんたの望んだとうり、この国を出るだろう。俺は、あんたの元に残る。その代わり、ディートリッヒを追うな。これが条件だ。」
ギヒコ「何と! 貴様、取引をしようというのか。この不利な状況で?!」
ヴィテゲ「嫌ならここで戦うまでだ。俺も死ぬだろうが、貴様たち2人のうち、どちらかも道連れになるだろう。」
名剣ミームングに手をかけ、目を光らせるヴィテゲ。この勇士の強さは、取り囲む誰もが知っていた。よしんば、百人の兵を相手にしたところで、引けはとらぬだろう、ということを。
エルムレッヒ「…分かった。ディートリッヒの命まではとらぬことにしよう。そちらも剣を引け」
ギヒコ「(ぼそぼそ)良いのですか? このような男を飼っていたら、そのうち我らの首も危うくなるやもしれませぬぞ」
エルムリッヒ「構わぬ。この男とて騎士のはしくれ、約束を違えるような真似は、せん…。」
こうして、ヴィテゲはエルムリッヒのもとに留まり、ハイメはエルムリッヒの領内でゲリラ活動をする反政府勢力(笑)に。
選んだ道は違っても、近くにいたのには違いない。