ディートリッヒ伝説-DIETRICH SAGA

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ディートリッヒ

Dietrich


 ドイツ語読みだとディエトリーヒ、英語読みだとディートリッヒまたはディートリヒ。「ニーベルンゲンの歌」では端役だったんですが、こっちは彼が主人公の物語なんで、活躍しまくりです。
 ところで、彼って超美形だったらしいんですよ。いやホント。

 「その手は粗暴であるということはなく、色白で、顔は細くて整っていた。鋭い黒褐色の眼は支配者の輝きを持ち、生まれながらに高貴な王者の威厳を宿していた。長い金の巻き毛は美しく(以下略)」

 幾ら何でも誉められすぎじゃないでしょうよ…これは…^^;
 さらに「鬚は一本もない」。
 お鬚が男のしるしとされるゲルマン系民族において、鬚が無いというのは不思議な描写です。もしかするとこの部分は、実在モデルであるテオドリクス大王の容貌を受け継いでいるのかも。

 「ニーベルンゲンの歌」では年齢が全く出てこなかったんですが、彼、国を追われたとき幾つだと思います?
 実は20歳にもなっていなかったんです。18か、9か。若い…。めちゃめちゃ若い。さすが、平均寿命35歳と言われた時代の王様です。ヒルデブラントと出会った時は、若干5歳(推定)。
 ヴィテゲと決闘した時も12歳。若いっていうか、幼い(笑)。12歳どうしの真剣勝負って…それ、子供のケンカじゃないですか。で、負けたほうが勝ったほうの子分でしょ。ああ、仲裁するヒルデブラント師匠も大変だったんだろうなぁ…子供の激しいケンカ…。
 ハイメは17歳だから、ディートリッヒより5歳上か。何にしろ、ディートリッヒの円卓の騎士たちは血気盛んな若者たち。師匠がいないと、すーぐつまんないことで仲間割れして大ゲンカ。みなさんとっても強いので、ケンカになったら流血沙汰ですよ。困ったもんだ。

 このように、立派なガキ大将な王子様だったディートリッヒですが、師匠の教育もあって(愛のムチ含む)、父の死後は更に立派な国王様になります。
 その証拠、彼の英断が、エルムリッヒの軍に迫られたときの判断。
 「死んでしまえばここで終わりだが、生きていれば必ず戻ってくることが出来る。」

 狡猾な家臣・ジフカに唆された叔父・エルムリッヒの奇襲に遭った時、彼は、戦わずして逃げることを選びます。「誇りある死よりも生きて道を探そう。私に同意するものは、ついて来るがいい」、と、圧倒的戦力で攻めて来る叔父の軍を回避して、リューディガーのもとへ身を寄せます。
 従兄弟にあたるエガルドたちが、かなわないと知りつつエルムリッヒの軍と戦い命を落としたことを思えば、彼の判断は、より冷静で未来を見越したものだと言えるかもしれません。

 誇りある死か、屈辱の生か…という究極の二者択一はゲルマン系の伝説に多く登場しますが、敢えて生を選ぶ者はごく僅かです。けれどディートリッヒは、自らの誇りを軽んじていたわけではありません。
 諦めないこと、何より部下を思うこと。自分が戦いを挑めば、部下たちもまた無駄に命を落とす。部下たちの命を救うためなら、自分の誇りなど大した価値はない。彼は、そう考えていたのでした。
 人々の幸せを思い、決して希望を捨てず運命と戦いつづけた王、ディートリッヒ。だからこそ彼の伝説は、長く語り継がれる物語となったのではないでしょうか。

 物語のクライマックス、黒い馬に乗り「風とともに去りゆく」…は、彼にふさわしいエンディングなのかもしれません。
 (※エンディングは何種類かあるんですが、↑これが一番有名ですね。その理由は、他のエンディングがかなり空しいから、と思われる…。)




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