■ディートリッヒ伝説-DIETRICH SAGA |
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フーグディートリッヒの物語は、次に続くウォルフディートリッヒ伝説の前フリのようなものなのだが、特徴的で、面白い話である。
コンスタンチノープルを治めていたアンジウス帝が崩御したとき、跡継ぎフーグディートリッヒはまだ幼子であった。
アンジウス帝は忠実な臣下ベルヒテルに、息子の将来を託し後見人をつとめさせる。ベルヒテルは忠誠をつくし、やがてフーグディートリッヒは立派な若者となる。
さても妻をめとらせようとするのだが、良い姫君が見つからない。
最も相応しいと思われるのはテッサロニカの領主ワルグントの姫、ヒルデブルク(ヒルドブルク?)だったが、姫の父は、娘を嫁に出したくないあまり、姫を塔の上に閉じ込め、召使い以外は立ち入り出来ないようにしてしまったのだ。
何とかして、この美しい姫を妻にしたいフーグディートリッヒ。
考えた末、髪を伸ばし、女性の癖や身振りを身に付けて、立派な婦人に変装した。
いいのかベルヒテル。王子が立派なレディに育ってしまったぞ(笑) …とかいうツッコミは流されて。
フーグディートリッヒは「乙女」として、ワルグントの領地に入り込む。
(女装する英雄の話は日本にもあるし北欧神話にもある。)
カンペキに女らしくなったフーグディートリッヒは、ワルテグントの前で、自分は邪まな家臣に家を追われて行くあてのない高貴な血筋の者と自己紹介し、美しい刺繍を差し出した。
それを見た妃は、ぜひ娘にも裁縫を教えて欲しいとフーグディートリッヒを召抱える。
こうして彼は、まんまと姫に近づくことに成功した。
近づいてしまえばこっちのもの。長らく閉じ込められていた姫君は、女に身をやつして現れた裁縫の師が実は若い男、しかも熱烈に愛を語られて、ひそかに愛を誓い合ってしまう。
家庭教師と生徒の禁断の…? 密室の若い二人が? いや、そんな。
そうこうしているうちに月日は過ぎて、フーグディートリッヒは、姫との仲を正式に許してもらうため、いちど国に戻り、あらためて求婚しに戻ってくると姫に誓う。
姫は信じて待っていた。
しかしフーグディートリッヒはなかなか帰ってこない。それもそのはず、フーグディートリッヒは、国に帰るや戦さに出なければならなくなり、すぐに戻ってくることが出来なかったのだ。
姫のおなかはだんだん大きくなり(※手ぇ出しとったんかい…。)、やがて、人知れず愛らしい男の赤ん坊が産み落とされた。唯一、フーグディートリッヒとの仲を知る姫の乳母は、この子を懸命に隠そうとする。
ところが、ある日、とつぜん姫の母君が塔にやってきた。
急なこととて、大慌ての乳母は、とっさに子供を抱いて塔の下の若草の中に子供を隠す。
なんとか早く姫君の母に帰って欲しいと思うのだが、来客とは、そういうときに限って長居するもの。
そうこうしているうちに夜になってしまった。
ようやく母君が帰ったということで、大慌てで子供を迎えに来た乳母だったが、なんと草の中のどこにも子供が見当たらないではないか。
姫が悲しむことを恐れた乳母は、子供は自分の親戚に預けたから、と嘘をついた。
ちょうどその頃、ようやくフーグディートリッヒが正式な求婚のために姫の国に戻ってきていた。
前に女装してるときに会ってるはずなんだが、まったく気付いていないワルグンド王。相手の力量をはかるためという意味もあり、二人は山狩りに出かけることになった。
そして、姫のいる塔の付近にむかって馬をすすめていた時。彼らは、茂みの中から、ちいさな音がすることに気がついた。
よく見ると、色の白い、かわいらしい赤子が、オオカミの子とじゃれあっているではないか。
そこへオオカミの親が現れた。今にも赤ん坊を引き裂きそうな…危ない!
その瞬間、フーグディートリッヒに付き添っていたベルヒテルが槍を投げた。ワルグントはすかさず飛び出して、赤ん坊を抱き上げる。子供は何もしらず、ただしげしげと王の顔を見つめるばかり。
ほだされた王は、自分はこういう孫が欲しい、などと口走り、この赤ん坊は自分の娘に育てさせよう、などと言う…。
大方の予想どおり、その子は本当に王の孫なんだが。
塔につき、子供を見せられた姫ははらはらと涙をこぼし、その子は実は自分の子であること、しかも今、求婚に来ているフーグディートリッヒとの間に生まれた子であることを告白する。
「私、その人と結婚しちゃいました、おとうさん。」(どーん)
衝撃の事実をつきつけられても、ここで乱れないのが王たるものの器なのか。
ワルグント王は笑顔で娘と異国の王との仲をゆるし、正式な結婚を許可した。
子供は、オオカミの牙を逃れたということでウォルフディートリッヒと名づけられる。
嫁ぐ姫には、サベネという名の騎士が付き添った。若いカップルは平和に暮らし、その後、5、6年の歳月が過ぎていった。
***
だが平和の時は永く続かぬもの。戦が起こり、フーグディートリッヒは再び国を留守にすることになった。
出かけるとき、フーグディートリッヒはサベネに留守の間のことを頼んだ。しかし邪まなるサベネは、主君がいなくなるや否や、貴族たちにウォルフディートリッヒは実は帝の子ではないと醜聞を言いふらしはじめた。
この子は人知れず生まれたもの、帝自身でさえも、自分の子である確証は無いのである。
いつしか帝は疑いを抱き、妻を遠ざけるようになった。悲しみの中、ヒルデブルクはさらに二人の子を産みおとす。兄をボーゲン、弟をワックスムートという。(双子なのか、ふつうに兄弟なのかは和訳では確認できず。)
そうしている間にも、サベネのまきちらす風聞は日増しにひどくなる。
耐えかねたヒルデグントは、ついに夫に真実を話し、フーグディートリッヒはようやく、自分が惑わされていたことに気がついた。
サベネは追放された。
だが、その直後、フーグディートリッヒは重い病に罹ってしまう。
死を間近に感じた帝は、妻と息子たちのことを忠実なる家臣ベルヒテルに頼み、コンスタンチノープルを継ぐのは長男のウォルフディートリッヒ、南の領地を治めるのがボーゲンとワックスムートだと言い残すと、そのまま息をひきとってしまった。
さて、帝が死ぬと、サベネはいつのまにか都に舞い戻り、実権を握るための裏工作をはじめた。
貴族たちを操って、幼い二人の王子、ボーゲンとワックスムートの後見人に納まったサベネは、早速、王妃ヒルデブルクを追い出してしまう。ヒルデブルクは都を逃れ、メランにある、息子ウォルフディートリッヒの館へと向かうのだった…。
⇒ウォルフディートリッヒの話へ続く。