古英詩 ベーオウルフ-BEOWULF

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固有名詞のカナ表記について


 「ベーオウルフ」を読んでいると、資料ごとにも固有名詞のカナ表記がずいぶん違っているかと思う。
 その理由、というか、何でカナ表記がこんなに違うんだ、という理由をここで解説してみる。
 まぁ、私自身、原語なんか読めない人なんで、参考にする程度と思いねェ。(笑)


●「h」の発音を表記するか、しないかの違い●

 人物名の表を見ると分かるように、「ロースガール」と「フロースガール」、「ローズルフ」と「フローズルフ」のように、頭に「フ」が付くか、付かないかといった違いが多く見受けられるかと思う。
 これは、綴りに入っている、無気音の「フ」をカナとして表記するか、しないかという違いである。

 roðgare …「h」をカナにすると「ロースガール」、カナにしなければ「ロースガール」。

 現代英語を喋る人が発音すると、ほとんど聞こえない音になるため、表記しないことも多いが、古代北欧の人はおそらく聞こえる程度に発音していただろう、ということで、表記されることもある。
 つまりは訳者自身のセンスで、訳した人が「聞こえる」と思えばフをつけるし、「聞こえない音だからいーや」と思えば落とす。

 ちなみに古代北欧語でhのついていた単語でも、「現代の」ノルウェー語では、hがつづりから消えている場合があるらしい。


●綴り違い●

 そもそも原語の綴りがビミョウに違う場合がある。
 何度も書き直されたり、付け足されたり、あるいは写し間違えたりで、一文字違うだけでも名前が変わるという次第。
 たとえば「ヒゲラーク」と「ヒュゲラーク」の場合だと

 gelac ⇒ gelac(2372行だけ)

 …と、一文字だけ綴りが変わっているのだ。「ベーオウルフ」と「ビーオウルフ」の場合も同じく。写本は一種類だが、その中に出てくる綴りは一種類とは限らない。


●語尾のrを発音するか●

 ベーオウルフではあんまり出てこないが、古代北欧語だと、単語のおしりに「男性単数主格語尾のr」なるものがくっつくことが多い。
 たとえばサガによくある名前でエイリーク(ル)とか。

 昔は、最後のrは発音しないものとしてカナ表記はしてなかったらしいが、実際のところ、古代北欧では発音してたんじゃないか? という説が主力になりつつあり、現在では「ル」を表記している本も出てきているらしい。
 写本は残っていても発音までは残っていないわけで、当時の人がどんなふうに読んでいたかは推測するしかないというわけ。
 現代では、音として聞こえるようには発音しないみたいだ。

 他にも、発音して聞こえるんだが、聞こえないんだかハッキリしない音は沢山あるようで、そこらへんがカナ表記のゆれを生んでいるようだ。
 原語の発音を耳にする機会もないシロウトには、とれがいちばん、発音に近いのかなんて考えられないので、適当に。
 よっぽどかけ離れていない限りはOKとしよう。

 分かればええやん。(訳した後は)日本語やし。と、いうカンジで。


 以上、古代北欧語カナ文字変換に関するワンポイントでした。



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