ホームに戻る


 〜私の心に残る歌についての覚え書き〜



尾崎豊トリビュートアルバム『BLUE』 <new>

cocco『ダンスホール』

 coccoと尾崎豊では合わないんじゃないかと思っていたら、想像以上にフィットしていたのでちょっと驚いた。
 うん、悪くない。
 cocco特有のけだるい感じとオリジナルより明るくてポップな曲調のバランスがいい。
<ジャストフィット大賞>

 Mr.Children『僕が僕であるために』

<自家薬籠中大賞>

 それほど大きなアレンジをしてるわけではないのに完全にミスチルの世界になっている。
 もし尾崎豊のこの曲を知らない若い人間が、ミスチルの新しいアルバムに入ってるこの曲を聴いたら、桜井くんらしいいい曲だな、と思うかもしれない。
 ミスチルが歌うなら、曲の選択もこれ以外にないと言えそうだ。
 さすが桜井くん、お見事。

 橘いずみ『路上のルール』

 その昔、「女尾崎豊」と呼ばれた橘いずみ。
 懐かしい……。
 仕上がりは可もなく不可もなくといったところか。
 決して悪くはないのだけど、オリジナルをなぞっただけのようなものなので、安心感はあるけど面白みはない。
<無難大賞>

 175R『十七歳の地図』

 あまりの速いテンポに最初は違和感があったのだけど何度か聴いてるうちにけっこう馴染んだ。
 尾崎豊が生き急いでいた感じの再現に成功している。
 これはこれでなかなかいいかもしれない。
 でも逆に、私としてはスローテンポの『十七歳の地図』を聴いてみたい。
<尾崎の生き急ぎぶり再現大賞>

 宇多田ヒカル『I LOVE YOU』

<歌唱力大賞>

 あらためて宇多田ヒカルの歌唱力を思い知った。
 1/f(えふぶんのいち)出まくり。
 オリジナルも尾崎の代表曲だけど、この宇多田版「I LOVE YOU」もこの先歌い続けていけば日本のPOP音楽を代表する曲になり得るできばえだ。
 意地の悪い言い方をすれば、宇多田ヒカルにもっといい歌詞を書く才能があればと、ここでも思ってしまった。

 岡村靖幸『太陽の破片』

 岡村靖幸ファンのためにはいいのだろうけど、個人的にはかなり違和感があった。
 オリジナルに変な風に手を入れられてしまったみたいで。
<これは違うんじゃないか大賞>

 大森洋平『LOVE WAY』

 良くも悪くもオリジナルに忠実。
<ものまね大賞>
 と言うと言い過ぎかもしれないけど、本当にファンならこれが正しい姿勢なのか?

 山口晶『街路樹』

<フォーク調尾崎豊大賞>

 いい意味で古くさい。
 こういう解釈、こういうアレンジも有りだろう。
 せっかくのトリビュートアルバムなんだから、これくらい自己流に変えてしまってもいい。
 仕上がりも悪くない。

 竹内めぐみ『OH MY LITTLE GIRL』

 竹内めぐみという人がどんな人なのかは知らないけど、この曲を選ぶのは彼女ではなかったような気がする。
 オリジナルが持っていた切なさと優しさの両方が薄味になってしまっている。
<薄味大賞>

 斉藤和義『闇の告白』

 このアルバムの一番の収穫と言えるかもしれない。
 オリジナルを大胆にアレンジしながらある意味ではオリジナルを超えている。
 テンポを抑えてボーカルを前面に出したことで歌詞がより強く伝わってくる。
 オリジナルは特に感じるところのない曲だったのに、これを聴いていい曲だったんだと知った。
<最優秀アレンジ大賞>

 槇原敬之『forget-me-not』

 これはズバリ
<カラオケ大賞>だ。
 マッキーがカラオケで「forget-me-not」を歌ってくれた感じそのもの。
 この曲を選んだのも分かるし、違和感もないんだけど、ミスチルの「僕が僕であるために」ほど自分の懐まで引き込めていない。
 個人的にはもっとマッキー・オリジナル版「forget-me-not」を聴いてみたかった。

 Crouching Boys『15の夜』

 これははっきり言って思いっきり期待はずれだった。
<期待はずれ大賞>
 どんな声でもどんな歌い方でもいいから「歌って」欲しかった。
 それを聴きたかった。
 まさか英語の語りとは……。
 誰のアイディアか知らないけど、もう少しなんとかならなかったのか。
 それともアメリカ育ちで日本語がしゃべれないのか?
 ただし、息子が参加したことの意味は確かにあった。
 彼の存在と参加がなければこのアルバムの企画さえ生まれなかったかもしれないのだから。
 しかしもう14歳か。

--------

 尾崎豊のトリビュートアルバムを作って、このメンバーが揃ったことの意義は大きい。
 ただ、単純にアルバムとしての出来を見た場合、成功度は75点くらいだろうか。
 よく似た趣旨で少し前に出されたスピッツの『一期一会』の出来が良かっただけに、どうしても比較してしまう。
 同時リリースの『GREEN』の感想も書いてみたいけど、それはまた別の機会にということで。
 
 個人的に言えば好きな曲ベスト3の『時』、『ロザーナ』、『街の風景』が全部入ってなかったのはとても残念だ。
 たとえばこれらの曲をスピッツ、スガシカオ、キリンジあたりに歌ってもらえていれば大満足だったのだろうけど。
 他にも「存在」、「傷つけた人々へ」、「愛の消えた街」、「誰かのクラクション」、「COOKIE」、「優しい日射し」など、好きな曲がかなりこぼれ落ちてしまっているのも、手放しで喜べない原因になっているのだろう。

 とはいうものの、しばらく車の中ではずっとこれを聴くことになるだろう。
 繰り返し聴いている中でまた収穫も見つかるかもしれない。
 それに期待しよう。



小比類巻かほる 「I'm Here」

 私の中の夜明けのテーマ曲は15年以上前からこの曲で変わっていない。
 小比類巻かほるの「I'm Here」。
 今も昔も、決して小比類巻かほるのファンではなく、アルバムもこれ以外一度も聴いたことがない私の中に、何故この曲だけが残り続けるのか、それは私にもよく分からない。
 ただ、居座り続けている。
 おそらくこの先もずっと。

 小比類巻かほるの3枚目のアルバムである『I'm Here』が発売されたのは1987年だから、当時私は19歳で大学2年生だった。
 近所のレンタルレコード店で、渡辺美里のアルバムを借りるついでに何気なく借りたんだったと思う。
 90分だったか、120分だったかのカセットテープのA面に渡辺美里をダビングして、B面に『I'm Here』を入れたはずだ。
 最初は渡辺美里の方ばかり聴いていた。
 それがいつからか逆転して小比類巻かほるの方をよく聴くようになった。最後の曲「I'm Here」がゆっくり胸にしみ込んできて。

夜明けが近い メインストリートを歩き出す ゆっくりと
 コートのボタンはすべて外し 肩の力を抜いて
 タイヤ鳴らして 走りすぎるバイクの音 なつかしい
 時の流れは照れくさいよね 胸が切なくなった

 
 15年以上経った今でもときどき、窓の外が白んでくる夜明け近くになると、この曲が頭の中を流れてくる。
 大学生の時、夜明け前に車を走らせながら胸に吸い込んだ空気の記憶とともに。

東に向かう 車のスモールライトが 今消えた
 いつかは今日も あの日になって
 笑える時が来るよ……


 もう一曲、アルバム『I'm Here』の中の「オーロラの瞳」も心に残る。
 こちらは夜明けではなく深夜のテーマ曲として。

小さい頃に見つけた 大きな草原のゴンドラ
 時が止まると信じて ひとりでも平気で遊んだ
 道しるべなしに 歩き出す人の海を
 いつか知らない波の高ささえも 心の位置を見つめて超えたいの




■尾崎豊 「時」、「ロザーナ」

 私にとって尾崎豊のベスト曲は、「卒業」でもなければ「I LOVE YOU」でもない。「OH MY LITTLE GIRL」でもなく、中期のアルバム『街路樹』の中の「時」という曲だ。
 おそらく、尾崎豊のコアなファンでもベストにこの曲をあげる人はほとんどいないだろ。
 尾崎豊自身もこの曲が自分の作品の中でベストだと思ったことはないだろう。
 それでもこの曲を私が彼の全作品の中でベストとするのは、たぶん、この幸せな場所にほんの短い間でも彼が到達できたことが自分のことのように嬉しかったからなのだと思う。
 10代で人生を駆け抜けてしまっていたら、決してここへは到達できなかった。

何を話せばいい? 僕はあの頃より 少し大人に憧れてるだけさ
 通り過ぎる人混みの中 君は僕に気づくだろうか?
 流れ行く先が見つかるように……


 尾崎豊はいつも悩んでいたし腹を立ててもいた。けど、決して生きることを否定してはいなかった。
 尾崎豊が新しい曲を作れない以上、この先もずっとこの曲が私のベストであり続けるだろう。

 もう一曲、好きな作品として、最後から2枚目のアルバム『誕生』の中の「ロザーナ」を選びたい。
 これもリクエスト特集などではめったにかからない曲だ。

ロザーナ 二人は特別変わってたわけじゃないから いつか同じ過ちから解き放たれよう ロザーナ 新しい暮らし見つけることできたなら 互いは互いのままでいれるだろうか? ロザーナ

 尾崎豊が真に天才なのは、10代で「卒業」や「I LOVE YOU」を書いたからではなく、20代半ばで「ロザーナ」や「太陽の破片」まで辿り着けたからだなのだと私は思っている。



■小松未歩 アルバム『謎?』他

 小松未歩はついにマイナー・メジャーで終わるのか?
 そして、ファーストアルバム『謎?』を超えることができないのか?
 小松未歩というアーティストは非常に捉えにくいところがある。
 女性アーティストとしては珍しくスケールの大きな歌詞を書くかと思えば、詩人としては絶対に踏んではいけない言葉の地雷を無邪気に踏んでしまったりする。
 天才的なのか、単にユニークなだけなのか、判断が難しい。
 でも、女性アーティストとしてただ一人、私が尊敬という感情を持つことができる存在であることは間違いない。

 ファーストアルバム『謎』の「傷あとをたどれば」から「君がいない夏」までの8曲は、素晴らしく才気あふれる曲をこれでもかと投げかけてきて私を圧倒した。
 世界観、言葉の選び方、記憶や過去の調理の仕方、すべて最高級だ。
 しかし、その後のセカンドアルバム『未来』から突如低迷する。すべてが薄味になってしまった。
 それは3枚目、4枚目と、もがいている感じが続き、もうここまでかと思った5枚目『〜souce〜』でやや盛り返し、6枚目『花野』で別の場所に着地した。とても穏やかに。
 彼女が何を思って曲を作り、どこへ向かおうとしているのかはもちろん私には分からないのだけど、それでも『花野』を聴く限り、何か自分の中心みたいなものが見えたように感じられる。この先の方向性みたいなものも。

 もし、アルバム一枚を残して全部捨てなければいけないとしたら何を最後まで持っているかと想像してみる。
 尾崎豊の『街路樹』と悩んで、やっぱり小松未歩の『謎?』を選ぶだろう。



ホームに戻る