これだけは観て欲しいというおすすめの一本


ホームに戻る 映画の部屋の扉へ


『四日間の奇蹟』 佐々部清監督 2005.6.6-NEW-

 ベストセラー小説の映画化ということらしいけど、原作は読まず、ネットや雑誌のあらすじもあえて見ずに、この作品を観に行った。約一年ぶりの映画館(去年の5月は確か『死に花』だったと思う)。

 吉岡くんと佐々部清監督なら間違いないはず、と期待は大きかった。
 けど、すごくよかった、と言い切るには少し弱かった。日本映画好きで、吉岡秀隆と佐々部監督のファンだから絶賛したい気持ちはあるけど、そこまでは言えない。『半落ち』が100だとすると、これは甘めの80ということろか。

 前半から中盤にかけてのテンポがやや遅かったわりに説明不足な点が気になったのと、やや緊張感が足りない気がした。
 それでも終盤からラストにかけてはなかなか。泣かせる演出を抑えつつ、物語をきっちり完結させることに成功している。それは『半落ち』同様、必ずしもハッピーエンディングというわけではないけれど。

 テーマは今回も佐々部監督らしく、人の心と絆が中心となっている。ある意味では、それを描きたいがための作品選びと言った方がいいかもしれない。『陽はまた昇る』も、『チルソクの夏』もそうだった。
 作品に監督の顔がちらついてないというもの前作までと変わらず好感が持てる。主役はあくまでも俳優なんだという、職人監督としての潔さというか心意気が気持ちいい。

 内容に関しては公式サイトなどに譲るとして、結局のところオススメなのかどうなのかといえば、限定的にオススメと言うにとどまる。
 基本的に日本映画好きで、吉岡好きならきっと楽しめると思う。原作が好きだからということで行くと、ちょっとどうなんだろう。話題になってるから、という程度で過剰な期待をしていくと物足りなく感じるかもしれない。

 私は最後まで泣かずに済んだ。こらえようと思えばこらえられるくらいだったから(けど、最後の「別れの曲」はちょっとズルイなぁ)。
 もっとも印象に残ったのは、ロケ地となった山口県角島の深くて透明な青いあおい海の色だったりする。それは小説を読んでも出てこないから、映画で見てください。



『キャッチ・ミー・イフ・ユー・キャン』 スティーブン・スピルバーグ監督 2.22

 愉快で痛快。観終わったあとの爽快さは『ショーシャンクの空に』以来だ。
 スピルバーグに素直に拍手を送りたい。
 お見事。

 有名な詐欺師を題材にした作品で(この人物のことは何かのテレビ番組で観て前から知っていた)、それをデュカプリオが演じきった。久々に本領発揮したんじゃないか。
 きれいさと巧さをこれくらいのバランスで演じてくれるのが個人的には一番安心感もあって好きなんだけど、本人はそれを望んでいるのかどうか(それにしても『ギャング・オブ・ニューヨーク』は汚すぎた)。
 追いかけるFBI捜査官役のトム・ハンクスも、最初は華を添えるだけの出演かと思ったらとんでもなくて、あの役は今のトム・ハンクスしかできなかっただろう。
 ルパン三世と銭形のとっつぁんみたいで、愉快で暖かかった。
 父親役のクリストファー・ウォーケンも、とてもよかった。

 スピルバーグ自身の生い立ちや経歴がこの作品のあちこちに反映してるのだけど、それが押しつけがましくなく、過剰になってないのも、この作品が成功した要因だろう。
 久々に肩の力が抜けた作品だったんじゃないだろうか。

 すごく映画的で、いい作品だ。
 ハリウッドも時々こういう作品を出してくるから捨てたもんじゃないなと思う。
 観ている間中、とてもいい気分だった。



『春の日は過ぎゆく』 ホ・ジノ監督 1.20
 

 なんでもない韓国製のラブ・ストーリー。
 観た人の3分の2は詰まらないと思うか何でもない作品と思うのではないだろうか。
 でも3分の1の人間の心を強く捉えるに違いない。
 そして観終わった後、しばし考え込んでしまうことだろう。
「恋愛ってやっぱり難しい。なんで男と女ってこうなっちゃうんだろうな」などと。

 映画としての出来はそれほどよくもない。
 ストーリーは淡々としすぎてるし、ドラマらしいドラマもなく、起伏もなければ、気の利いたセリフもない。
 私も前半から中盤を過ぎるあたりまで退屈な作品だなと感じながら観ていた。
 しかし、この映画にはある種の力がある。
 観た人間が映画が終わってもなお、映画について、自分の恋愛について考えさせるという力が。
 観ている間だけは楽しいけど終わった瞬間に忘れてしまう映画とはそこが決定的に違っている。
 決して万人向きではないけど、試してみる価値はある。
 波長が合えば運がいい。きっと何を感じられるだろう。
 誰かがどこかで書いていたけど、この映画のキーワードは「身につまされる」という言葉がぴったりだろう。
 器用に恋愛ができない人間は実際「身につまされる」はず。

 監督は『八月のクリスマス』のホ・ジノで、これが二作目となる。
 この二作品で個人的に殿堂入りが決定した。



『猟奇的な彼女』 クァク・ジェヨン監督 11.28

 これは近年最高のラブコメだと言い切ってしまおう。私史上最高のラブコメでもある。
 楽しかった。そして切なかった。とにかく良かった。
 個人的評価を人に押しつける気はないけど、少なくとも私にとっては2003年に出会った映画の中で最高に素敵な作品であったことは間違いない。
 人によって評価がどんなに分かれても自分が好きな人にだけは否定されたくない作品というのがあるけど、これはそんな一本だ。
 この作品の価値観はそのまま恋愛観だと思うから(これを観て何も感じない人と私は決して恋愛には至らないだろう)。

 出だしはややひいた。なんだこの女と思った。でも最初にクスッと笑えてからはもう笑いが止まらなくなって、笑って笑って笑って、でも同時に切なさが加速していき、想いがあふれそうになるとまた笑いが気持ちを心の奥に引き戻す。
 そうやって切ない想いが胸の中でいっぱいになって最後の最後でこらえきれずに一気にあふれる。

 猟奇的な彼女(韓国の言葉ではおかしなとか突拍子もないという意味らしい)と頼りない大学生の男の不器用な恋愛模様。言ってしまえばそれだけの話だ。でも、それだけではない。
 魅力的な登場人物と言葉のやりとり、恋愛の過去と未来、そして最後のセリフ。
 いろいろな要素が未整理のまま放り込まれていて、それが奇跡のようなバランスで成立している。
 こういう幸せな作品がたまにある。

 今年はここまで個人的にひどい不作の一年だったけど、これ一作で一年分満足させてもらった。
 弱くなった心を充電してくれるこんな作品に出会えるからまた生きていこうと思える。もっとたくさんの映画を観るために。
 きっと長く私の心に残り続けるだろうとてもとても素敵な作品だ。




『二重スパイ』 キム・ヒョンジョン監督 6.9


 約1年ぶりに映画館で観た作品となったこの『二重スパイ』。
 とにもかくにもハン・ソッキュが見たかった。作品の出来不出来なんて関係ない。ハン・ソッキュが見られればそれでいい。
 実際、それだけの作品なのだ、この作品。
『シュリ』や『JSA』クラスの傑作を期待して観ると確実にコケる。演出もストーリーも緊張感もテーマ性ももう一つ足りない。悪い作品じゃないし、けっこう面白くて退屈もしないのだけど、これといったポイントや強さがないのがつらいところ。
 特にラストが気に入らない。あそこをもう少し上手く決めればこの作品全体の印象ももっと変わっただろうに。もったいない。

 しかし、それでもこの作品を私がオススメするのは一も二もなくハン・ソッキュ作品だからに他ならない。
『八月のクリスマス』、『シュリ』、『接続』、『カル』、『グリーン・フィッシュ』。
 どの作品でもハン・ソッキュその人でありながら、どの作品のどの役にもまったく違和感なく馴染んでいる。これはすごいことだ。デ・ニーロのようにその役になりきるというのとはまた別の役者としての天性の才能を感じる。
「韓国国内のすべての脚本はハン・ソッキュを通る」という言葉が韓国映画界にあるそうだが、大げさではなく実際そうであっても不思議はない。
 おそらく、この先も私の中でハン・ソッキュを超える役者は出てこないだろう。
 顔が下条アトムとか島田紳助とかに似てるからといって侮ってはいけない。

 というわけで、個人的にはハン・ソッキュを見られただけで大満足のこの作品。
 でも、ハン・ソッキュ好きじゃない人にとってはあんまり面白くないだろうなぁ。
 なので、ハン・ソッキュを好きになってから観てください。



『PINGPONG -ピンポン-』 曽利文彦監督 5.31

 それほど期待せずに一応観ておくかと軽い気持ちでDVDをレンタルして観てみたら、これが思った以上に面白くて拾いものだった。
 うん、悪くない。
 コテコテのおふざけコメディかと思ったらそうでもなく、コメディというよりむしろドラマ寄り。
 受ける印象としては『shall we ダンス?』に近い感じの良質なコメディ・ドラマだった。
 これは誰にでも安心してオススメできる。

 主演の窪塚洋介は、CMや日頃の言動では反感を抱くこともあるのだが、こと映画の中ではいつも好印象だ。『GO』の時もそうだったけど。
 やっぱり魅力的でいい役者と言うべきなのだろう。
 ARATAは、『ワンダフルライフ』の時とかなり印象が違ったけど、今回も良かった。物静かな存在感が。
 脇役たちもそれぞれ楽しませてくれる。

 簡単に言ってしまえば卓球を題材にしたスポ根ものなのだけど、日本映画では数少ない上質な作品なので偏見を捨てて観てみてください。
 ま、そのうちテレビの地上波でやった時にでも。



『友へ 〜チング』 クァク・キョンテク監督 4.28

「友達同士、謝ることはない」
 このセリフだけで充分じゃないか、と思った。
 作品としての完成度の低さや欠点なんてどうでもいい。
 韓国の映画史上空前の大ヒットになったとか、内容がどうとか、どの作品に似てるとか、そんなことは小さなことだ。
 原題のタイトル「チング」(漢字で書くと「親旧」で、長く親しい友達という意味)が表すように、これは友達についての映画だ。単純にそれだけのことだと言い切ってしまってもいい。その他の出来事やそれぞれの人生も道具立てでしかない。
 この核心に触れることができたなら、その人はきっとこの作品を観て幸せな気持ちになれるだろう。
 そして、「チング」という言葉がずっと記憶に残るだろう。

 韓国作品としては、『シュリ』や『JSA』に完成度という点では及ばない。
 ただ、映画として持っている力強さは2作を超えている部分もある(全体ではないけど)。
 俳優の演技も素晴らしく力強い。特にユ・オソン。観終わって何日か経っても彼の目つきが強く印象に残る。

 良くも悪くも男っぽい作品だけど、力のある作品であることは間違いないので、不評を買うことを半分覚悟しつつもオススメしたい(駄目な人はたぶん駄目だろう)。
 個人的にはもう一度じっくり観たいと思っている(珍しく)。今度はDVDで観よう。



『サイモン・バーチ』 マーク・スティーブン・ジョンソン監督 4.26

『サイモン・バーチ』は私たちの人生に似ている。
 私がこの作品をいいと思ったのはつまりこの一事に尽きるのだろう。
 すべての映画は人生を描いてるから当たり前じゃないかと思うかもしれないけど、そうではない。
 本当の意味で私たちの人生に似ている作品はそれほど多くない。

 描かれている世界は必ずしもパーフェクトなものではない。原作のジョン・アーヴィングの作品が常にそうであるように(原作は未読)。
 とても大事なものが決定的に欠けていたり、悲しい出来事が意味もなく起こったり、つらいことばっかりだったりする。
 けど、それでもそこに生きる人たちは前向きに生き、人と人とのつながりは温かくて優しい。
 私たちの人生と同じように。

 障害を持って生まれてきた少年の友情物語を中心に、周りの大人たちや子供の生活が描かれているのだけど、物語のテーマはそこにはない。おそらく。
 古き良きアメリカをなつかしんでるわけでもないだろう。
 どうして生まれてきたかとか、神様にとって自分は何なのかとか、そういうことを追求してる作品でもないと私は思う。
 アーヴィングやジョンソン監督が言いたかったのは、「それでも人生は続いていくんだ」ということだったんじゃないだろうか。
 私たちは生まれ、人とつながり、ある者は死に、ある者は生き残り、生き続ける。
 一緒に生きた人々の記憶を抱えて。

 私たちはこの世界や人生を愛すことができる。たとえどんなに不完全な世界だったとしても。
 この作品を観て、あらためてそう思った。

 誰にとってもいい作品であるとは言えないだろうけど、多くの人にとってそれぞれ感じるものがある作品じゃないだろうか。



『わすれな草』 イップ・カムハン監督 11.19

 1999年に作られたこの香港映画を手放しで誉める人はそれほど多くないだろう。
 この作品が大好きだなどというと甘いと言われてしまうかもしれない。
 それでも私はこの作品を絶賛してしまう。最高。大好き。ワンダフル。

 太っちょでカツラをかぶったテレサ・テン好きの自称殺し屋のおっさんと、若いチンピラの心の交流を描いただけのありふれたストーリー。それだけでありそれだけでない。
 主人公のエリック・ツァンの人物設定の成功や、チンピラ役のニコラス・ツェーの嫌みのない魅力や、タバコやテレサ・テンという小道具の使い方の上手さはもちろん、彼等を取り巻く人々や雑然としたドラマや、それらすべてが一体となって私の心に染みた。
 時にコミカルで時にシリアスで、リリカルな描写に人生を感じ、人と人のつながりの大切さを知る。

 そして物語は終盤からラストへ。そこで一つの秘密が明かされ、それまでの出来事の謎が解ける。
 そのまま悲劇的なラストと思わせて、最後にどんでん返しを決めて、エピローグへ。
 このあたりの快感は、『チ・ン・ピ・ラ』や『トゥルー・ロマンンス』を思い出させる。
 ラストも完全に私好みの終わり方で、観終わった後、一人部屋で立ち上がって拍手したのだった。あまりの嬉しさに。

 もしあなたが私と同じくらい甘い人間で、同じくらい甘い映画が好きで、香港映画好きだとしたなら、たぶんこの作品を私と同じくらい楽しめるだろう。そうじゃない人にとっては、たくさんある映画の中の何でもない一作品という印象で終わってしまうかもしれない。
 私としては久々に映画を観て幸せな気分になれた。それがとても嬉しい。
 また一本、忘れがたい香港映画と出会うことができた。こういう作品に当たるから何本観ても映画はやめられない。



『千と千尋の神隠し』 宮崎駿監督 7.27
 
 この作品を単純に感動というキーワードでくくろうとすると本質を見失う。それほど分かりやすい作品ではない。
 確かに感動的な内容だし、とても面白いことは間違いない。でも、それだけではない。
 といっても教訓として何かを学ぶべきだとかそういうことでもない。
 一言で言うなら、これは作り手と観る者との幸福な関係性が成立している非常に稀な作品、という言い方ができるだろう。
 作り手は伝えたい想いがあり、描きたい物語があり、観る者は思い出させて欲しい大切なことがあり、感動があった。誰も傷つけてないし、不幸にもしない。それでいてきちんと大事なことを伝えることに成功している。それはなかなかできる芸当ではない。

 でもこれは恐ろしい作品でもある。
 この作品を観てどう感じるかによってその人間の本質が分かってしまうから。
 観る者の心を映す鏡のような作品だ。偽ることも、取り繕うことも許さない。
 これをいい作品だと思ったならその人はいい人だろう。詰まらない作品だと思ったならその人は生きることを詰まらなく思っているのだろう。
 生きることに喜びを感じている人はきっとこの作品は喜びに満ちたものに感じられるに違いない。
 宮崎駿という人はやはり、天使と悪魔の両方をよく知っている人だ。

 この世界や、人間や、生きることってそんなに悪くないな、そう思わせてくれた一本だった。


『冷静と情熱のあいだ』 中江功監督 11.19
 
 これは、もしかしたら、ものすごくいい作品かもしれない。
 ただ、映画館で観る作品というのは、ビデオで観るよりずっと深く入り込んで観てるから、やや客観的な判断を欠く分、確信はない。
 でも、少なくとも私にとってはいろんなことを感じさせてくれて、考えさせてくれて、思い出させてくれた、とってもありがたくも素敵な作品だったことは間違いない。とにかく染みた。

 2時間5分という、日本映画にしては長い上映時間だったのだけど、一度も時計を見ることはなかった。
 全編に様々な要素が程良く詰まっていて、しんみりしたり、思い出したり、考えたり、共感したり、涙をこらえたりで、まったく退屈してる暇などなかった。
 最後のエンドロールまでもちろん観た。エンヤも聴いた。

 良かった点は色々ある。でも一番良かったのは終盤からラストにかけての展開と締めくくり方だ。それが見事だった。
 ありきたりのラブストーリーのように、出会って別れて再会してめでたしめでたしで終わらなかったのが何よりも良かった。
 原作、脚本、演出、どれも成功している珍しい例と言えるだろう。

 たぶん、この作品はさほど話題にもならないままあっけなく上映を終えることなるだろう。日本映画の宿命として。
 でも、できることなら一人でも多くの人に観てもらいたいと私は思う。観ようかどうしようか迷っている人の背中を順番に押して回りたいくらいだ。

 それと、ハリウッドの映画人にもぜひこの作品を観てもらい。
 よく観て、ドラマとはこういうことをいうのだと思い知って欲しい。
 たとえば、『ユー・ガット・メール』なんかに比べたら、冷静に見積もっても300倍くらい『冷静と情熱のあいだ』の方がドラマとして優れているのだから。
 日本映画は決して世界の映画に負けてない。良い作品がたくさんある。これもその中の一本だ。

 
今年のマイベスト・スリーは、『サトラレ』、『ekiden』とこれで決まり。



『初恋のきた道』 チャン・イーモウ監督 11.19
 
 まず第一に非常に良い作品である、ということだ。それは間違いない
 次に、さすがチャン・ーモウ、と言わねばなるまい。今回もうならされた。圧倒的な才能に。
 そしてもう一つ、この作品を観て一番印象に残ったのは、女優の誕生を確かに目撃した、と感じたことだった。
 チャン・ツィイー。
 女優になるために生まれ、女優として生きていくことを宿命づけられた人生というものを思った時、少し泣きそうになった。
 それはとても幸せで、とてもつらい一生になるだろうから。
 コン・リーと別れたチャン・イーモウと出会ってしまったことで、すべては変わり、すべては決まってしまった。
 間違いなく、彼女は中国を代表する世界的な女優になるだろう。たとえ本人が望んでいなくても。

 この作品を観て、どれほどの人が素直に感動するのかは私には分からない。駄目な人はきっと駄目だろう。
 でも、多くの人が何かを感じることは間違いないと思う。この作品には確かな力がある。
 中国映画が好きな人もそうじゃない人も、この手のジャンルが苦手だと思ってる人も、まずは観て欲しい。映画が好きで、映画に何かを求めている人ならば、何か大事なものが得られるはずだ。

 
ウッチャンナンチャンのナンチャンはこの作品を観て、「『タイタニック』の200倍感動する」と言っていた。
 まあそれは大げさだけど、50倍くらいはこっちの方が良い作品だろうと私も思う。いろんな意味で。



『オーロラの彼方に』 グレゴリ−・ホブリット監督 10.12
 
 ひとことで言うと「ええ話やなぁ」としみじみしてしまう作品。
 けど、お涙ちょうだいの感動作というのとはちょっと違って、出来のいいSFファンタジー小説みたいな作品だ。先の展開が読めなくて、おいおいこの先どうなってしまうんだぁ、とワクワク、ハラハラしてしまう感覚がたまらない。

 最初は大したことないなと思って適当に観ていた。だが、途中からぐぐぐーっと盛り上がり始め、中盤を過ぎたあたりからは「おおおー、こいつは面白い〜」と思いながら夢中で最後まで観てしまったのだった。そしてしんみりした感動。

 まあ細かい部分をつつけばボロも出るし、辻褄も合ってないし、物語としては甘いんだろうけど、そういうことを気にせずに映画を単純に楽しむ姿勢の人ならきっと気に入ると思う。観終わった後、「ああ、良かったなぁ」といい気分になれる作品ってなかなかないから、私としてはぜひオススメしたい
 なんとなくいろんなことに行き詰まっている時などに観ると、自分も頑張らなきゃなと思って動き出すきっかけになるかもしれない。



『グリーンフィッシュ』 イ・チャンドン監督 10.7

 良い映画を観終わった後は、2時間という時間の何十倍、何百倍もの時間を通過したような感覚に陥るものだ。長い時間、長い距離を旅したかのような充実感を感じ、同時に少し自分が年を取ったような気さえする。
 私にとっての良い作品の条件は、観る前と観終わった後で自分が違う人間になっていることと、時間の経過を感じさせる作品であること、というのがある。
 この作品は、その両方を感じさせてくれる作品だった。

 今日本でチンピラ映画を撮って、これ以上の作品が作れるだろうか? 最高の俳優とスタッフを集結させたとして。
 たぶん私は無理だと思う。
 いつの間に韓国映画は日本映画を追い越してしまったんだろう。
 韓国映画の進歩が早かったのか、それとも日本映画のスピード遅すぎたのか。
 出来の良い韓国映画を観るといつも思う。映画の可能性はまだまだあるし、成熟もまだずっと先なんだ、と。

 映画に限らず、日本はこの先、韓国人の才能と実力を知り、韓国という国を尊敬することを学んでいくことになるだろう。
 なによりも韓国にはハン・ソッキュがいる。映画ファンなら彼の作品を観るべし。全部傑作。

 この作品、秋にはぴったりのしんみりした良い作品なんで、ぜひ。



『ekiden<駅伝>』 浜本正機監督 7.26
 
 この作品を誉める人はあまり多くないと思う。絶賛する人はほとんどいないだろう。でもこの作品、私の2001年第2位に決定した(1位は『サトラレ』)。
 ストーリーは約束通りだし、ひねりを効かそうとして失敗してるし、人物の描き方も甘い。演出だって上手いとは言えないし、ラストもちょっといただけない。でも私はこの作品が大好きだ。個人的にすごく良かった。
 友達には評判の悪い個性的な女の子を好きになってしまったのに似ているかもしれない。

 人間が走るという目的だけに走る姿には何かがある。美しさや感動につながる何かが。
 この作品にはそれがあった。確かに私はそれを感じた。
 主役の2人、伊藤高史と中村俊介の走りは本物だった。あのスピード感は見事。この点だけでもこの作品を私は買いたい。
 全編を通してなんとなく幸せを感じさせて、でも同時に泣けてくる。結局最後まで泣かなかったけど、途中からずっと泣きそうだった。何故だか。
 私にとってこれはとてもいい作品だった。観られて嬉しい。
 日本映画好きで、走るのが好きで、駅伝やマラソンをテレビで観るのが好きで、私と同じくらい素直な人ならきっと感動するはず。そういう一部の人にこの作品は強くおすすめします。



『みんなのいえ』 三谷幸喜監督 6.18


 メンズデーにせっせと通ってスタンプが6個たまったので、タダで『みんなのいえ』を観てきた。
 昨日、情熱大陸で三谷幸喜監督の特集をして、今日はメンズデーだからけっこう人は入るんじゃないか、という私の予想は外れた。
 観客は私を入れて10人。4人家族一組、カップル二組、青年一人、そして私。
 所詮春日井コロナワールドはこんなものだ。
 
 今回の私のテーマは、気持ちよく笑うことだった。しかし、結果は……。
 ベタベタのコメディのつもりでいたら実はホームドラマだった。もちろん笑いはあるのだけど、むしろ人間ドラマが主で笑いの量は想像してた半分もなかった。
 けど、面白かった。
 おいおい、どっちなんだ、と思うだろう。けど答えは簡単。コメディとしてはやや不満だけどドラマとしては上出来、そういうことだ。
 なにしろ、映画を観ている間、一度も時計を見なかったのだ。そんなこと初めてだった。それだけ夢中になって観てたということだろう。最初から最後まで中だるみもなく、とても短く感じられたのだった。
 
 とはいうものの、不満もないわけではない。
 結論から言えば、『ラヂオの時間』は超えてないと思う。トータルの面白さで。
 作品の質が違うとはいえ、『ラヂオの時間』があれだけ面白かったのだから次はもっと面白いものを、と期待してしまうのはある意味当然だ。けど、及んでいなかった。
 監督としては色々進歩、成長した部分も多いのだろうけど、作品として還元されなければ意味はない。
 簡単に言えば、やっぱり笑いが足りないのだ。『ラヂオの時間』はほとんど笑いっぱなしだったような印象があるけど、『みんなのいえ』はそうじゃなかった。観ている間ずっと顔はニヤけてたと思うけど、爆笑というのはほとんどなかった。そこがやはり物足りなく感じた一番の理由だろう。最後なんかはしんみりしてすごく良かったのだけど。
 
 それからキャスト。
 三谷幸喜監督はあのキャストを頭に置いて脚本を書いたと言ってるし、今回のキャストに自信があると言い切っていたけど、観る側からするとちょっと弱いと思った。
 田中邦衛と唐沢寿明は当然良かった。ある意味これは田中邦衛のための作品でもある。
 けれど、肝心の主役二人、ココリコの田中直樹と八木亜希子はいかにも素人だった。いや、演技は下手じゃない。ただ、個性や存在感が決定的に足りないのだ。ドラマならあれでも良かったのかもしれないけど、映画というのはテレビとは違って、もっと圧倒的な存在感が必要なのだ。それがないもんだから、田中邦衛と唐沢寿明の対立にそれ以上の緊張感を与えられないまま、周りでオロオロ動き回っただけで終わってしまったのだった。
 映画素人を一人、脇でアクセントに使うくらいなら味も出たんだろうけど、主役級で二人使うのは無理があったんじゃないだろうか。二人とも個人的にはとても好きな私でもそう感じたのだから好きじゃない人はもっとそう思ったんじゃないだろうか。
 
 まあしかしながら、いい作品であることは間違いないわけで、日本映画を好きな人にも嫌いな人にも安心しておすすめできる。ぜひ機会があったら観てください。ただし、何が何でも映画館で観なきゃいけない、とまでは言えないかなぁ。



『サトラレ』 本広克行監督 4.9


 この作品を観られたことを私はとても嬉しく思う。そしてこれを作ってくれた本広克行監督に対する感謝の気持ちでいっぱいだ。この作品は2001年日本映画マイベストに決定した。でも、あまりにも個人的に感じるものがありすぎて、完全に客観的な判断を失っているから、人に薦める気になれない。たまにそういうことがある。自分の胸だけにそっとしまっておいて、それについて人と語りたくないような作品が。
 この作品に対する気持ちをひとことで言うとーー「ありがとう」。




『海の上のピアニスト』 ジュゼッペ・トルナトーレ監督 1.25

 静かに心に染みる作品。好きな人だけにそっと教えたくなるような。都会の片隅に埋もれてしまうちょっといい話のような。
 ジュゼッペ・トルナトーレ監督とはあまり相性が良くなかった私だが、この作品は素直にいいと思えた。『ニュースネマ・パラダイス』ほど押しつけがましくなく、『イル・ポスティーノ』みたいに退屈じゃなく。
 ラストの主人公の選択についてあれこれ言う人がいるようだが、彼等は忘れているようだ、主人公が天才だということを。
 天才だけは自分の生き方と死に方を選べるのだ。その選択に間違いはない。
 少し気分が沈んだ夜などにひとりでひっそり観るといいかもしれない。優しく静かに慰めてくれるから。
 ただし、合わない人は徹底的に合わないらしいので注意が必要。


『バトルロワイヤル』 深作欣二監督 12.19

 まず言えることは、これは観るべき作品だということだ。2000年を代表する日本映画になることは間違いない。映画として価値が高いから。
 内容は、ひとクラスの中学生が生き残るためにクラスメイトと殺し合いをするというものだから、単純に面白かったという言葉で片づけてしまってはいけないだろうけど、不思議と爽やかな印象を残すし、何よりも作品としての出来が素晴らしい。とても力強かった。さすが深作欣二監督。まだまだ力は衰えてない。
 なにしろ、映画が終わって、エンドクレジットが流れている間、30人以上いた観客が誰一人立ち上がらなかったのだ。それだけでもこの作品が良かったという充分な証明になるだろう。
 スクリーンに幕がかかり、場内が明るくなって、ようやくザワザワし始め、ちょっとした興奮状態が劇場内を包んだ。
「なんか、すごかったな」という制服を着た高校生の言葉が耳に残った。
 私の前に座った若いカップルなど、映画の間中ひとことも言葉を交わさなかった。
 色々と破綻してる部分もあるのだが、そんなことは些事だ。作品として力があればそれで充分。私はこの作品、大いに買う。楽しませてくれたから。
 学生は生徒の視点で楽しめ、大人は大人の視点で楽しめる、というのもこの作品が優れている部分だろう。
 ということで、これはどんな形でもいいから観るべし。
 ただし、血に弱い人は用心した方がいいだろう。『八つ墓村』を超えてるから。

『月光の囁き』 塩田明彦 監督 11.15

 日本映画は決して駄目じゃない。日本映画を悪く言う人間はきっとこういう作品を観てないからそういうことを言うんだ(日本映画が駄目だと言うのは日本映画をせめて500本以上観てからにして欲しい)。日本にも良い作品はいくらでもある。私はたくさん知っている。そしてこの作品もその仲間入りをした。
 素晴らしくユニークで力強い作品。観る人間を選ぶけど、日本映画と波長が合う人間なら感じるところは多いはずだ。かなりマイナーな作品だから見逃している人も多いに違いないけど、こんな良い作品を知らないまま通過してしまうのはあまりにももったいない。ぜひ観て欲しい。なるべく私もいろんな人に紹介しようと思う。
 ただし、一家団欒で観るには非情につらい作品なので注意が必要。友達同士もちょっときついかもしれない。できれば深夜に一人で観ることをおすすめする。
 内容を一言で言うなら、「高校生の変態純愛映画」といったところか。
 この塩田明彦という監督、これが劇場デビュー作らしいが、これから注目しなければ。

『スペースカウボーイ』 クリント・イーストウッド監督 11月7日

 いかにもB級映画のタイトルだが、うっかり油断してはいけない。中身は超一級の娯楽作品なのだから。
 さすが映画というものを知り尽くしたイーストウッド監督ならではの作品で、最高に楽しい一本だ。文句なしにおすすめ。
 静かに離陸して、途中ワクワク、ハラハラ、ドキドキさせて、最後はピタリと着地を決める。そのあたりの呼吸は見事としか言いようがない。
 全体的な味付けの薄さがやや残念ではあるけど、それ以外はちょっとケチのつけようがない作品だろう。
 観終わった後、思わず拍手したくなったくらいだ(もちろんしなかったけど)。
「男の子」には是非観て欲しい一本(男の子の心を理解する女の人にも)。

『マトリックス』 ラリー&アンディ・ウォシャウスキー監督 9月18日

 私はこの作品を、「映画の正当な進化を示した作品」と見る。
 絶賛もしないけど、駄目だとも思わない。ある意味では、非情にまっとうな作品と言ってもいい。これも一つの道だ。好むと好まざるとに関わらず、この先、映画はこういう方向に向かうのだろう。
 だが、もちろんすべてがこうなることは決してない。人間が演じるドラマも残るだろうし、特殊効果満載作品の反動として古いタイプの作品も作られるだろう。
 とはいえ、将来の映画の在り方は、この作品によって示され、このタイプの作品が主流になっていくことはたぶん間違いない。
 何故なら、映画というのはいつの時代でもその時代の最先端の技術を最大限駆使して作られてきたものだからだ。かつてはそれが衣装であり、セットであり、フィルムやカメラなどの技術だった。それが今はSFXやコンピューターになった。ただそれだけのことだ。SFXを否定することは、映画の根本を否定することにもつながる。
 映画というのは、つまるところ、イメージの具現化である。人間の想像力が生み出すものであり、それ以上のものではない。イメージをスクリーンに映すために、考え得るあらゆる技術を使うことはしごく当たり前のことであり、できることは全部やらなければならない。SFX、コンピューター、何の問題があるのか? 全編コンピューターグラフィックスでもかまわないではないか。それが監督の求めるイメージであり、観客が欲求するものならば。
『マトリックス』は、私にとって、ごくごくまっとうで、ごく普通に面白い作品であった。それ以上でもそれ以下でもない。

『八月のクリスマス』 ホ・ジノ監督 6月2日

 静かなる傑作。
 こういう作品を佳作とか秀作とかいう言葉で簡単に片づけたくないからあえて傑作という言葉を使う。
 映画はまだまだ死んでなどいないし、行き詰まってもいない、ということをこの作品は教えてくれる。作品に合った優れた俳優を使い、良い演出をすれば傑作映画が作れる、という見本のような作品だ。
 古びた写真館を経営する男と駐車違反の取り締まりをする若い婦人警官との淡い恋と別れの物語。たったそれだけの内容で、途中大きな事件も起こらないし、ひねりも何もないただのラブストーリーにすぎない。ただ、ひとつあるとすれば、それは主人公の男が不治の病にかかっていてもうすぐ死ぬということくらいだ。だが、これさえも描かれる日常の中で特別大きな出来事ではない。
 こんなにもありふれた内容にもかかわらず、この作品は観る者の心に深い感銘を与え、ずっと心に居座り続ける。何故か?
 その答えは実際に観て確かめて欲しい。
 こういう作品に出会えるから映画を観ることをやめられないし、長生きするのも悪くないと思える。

『トカレフ』 阪本順治監督 4月16日

 隠れた傑作、だと思う。知っている人は知ってると思うけど。
 親子3人の平穏な暮らしは息子が誘拐されたことで一気に崩壊する。息子を殺された夫(大和武士)は、奥さん(西山由海)とも別れ、偶然手に入れた銃(トカレフ)で犯人(佐藤浩市)を追いつめていく。
 一度は返り討ちにあいそうになりながらもあやうく命を取り留めた大和は再び佐藤に迫る。そこで見たものは?
 自分は嫉妬深いかもしれないと思っている男の人にとってこれはちょっとたまらない作品だ。良くも悪くも。そして最後にこうつぶやかずにはいられないだろう。
 まったく女ってやつは……、と。
 さて、この作品女の人の立場から観るとどういう感想になるのだろう? きっと私とは全然違う思いを抱くのだろうな。

『黒衣の花嫁』 フランソワ・トリュフォ監督 4月3日

 私ははっきり言ってトリュフォ監督が好きじゃない。ジャンヌ・モローも嫌いじゃないけど好きでもない。そんな2人が組んだ作品が面白いはずもないのだが、これだけは例外的に面白かった。作品としての出来が良いということだろう。認める。
 ということはこの作品、2人が嫌いじゃない人にとってみればかなり面白いんじゃないだろうか。ちょっと古いフランス映画だが観る価値あり。
 ジャンヌ・モローにはこんなエピソードがある。 厳しい両親に育てられ、19歳で親が決めた相手と無理矢理結婚させられそうになった彼女は、結婚式前夜婚約指輪を故郷ローヌ川に投げ込み、パリ行きの夜行列車に飛び乗り、そのまま女優になった……。
 映画よりもドラマティックな生き方だ。しびれる。だてに私と同じ誕生日じゃない。
 こんなエピソードを知って彼女の作品を観るとまた違った思いを抱くかもしれない。

『シン・レッド・ライン』 テレンス・マリック監督 3月19日

『天国の日々』のあと、隠遁生活を送っていたテレンス・マリック監督が20年ぶりに撮った新作がこの作品。見事な復活劇。やはりマリックはすごかった。
『天国の日々』も美しくて力強い作品だったが、それを越えた。文句なしの傑作。
 戦争映画でありながらあくまでも主役は人間であり、戦争は小道具でしかない。戦争という極限の中で人間はいかに生き、死んでいくか、ということを感傷に流されず、きっちりと描ききっている。 善悪や教訓や価値観を押しつけず、ただ「単純に描く」ことによって観る者それぞれに考えさせ感じさせるあたり、さすがマリック監督、とうなるばかりだ。
 マリックが映画を作るという話を聞きつけて、ショーン・ペン、ジョン・トラボルタ、ジョージ・クルーニー、ニック・ノルティ、ジョン・キューザック、エリアス・コーティアスたちがこぞって出演を志願しその復帰を歓迎した、という話も泣かせる。
 同じ年の『プライベートライアン』(スピルバーグ監督)もすごい作品だと思ったが、作品としての価値は『シン・レッド・ライン』の方が上と見た。
 マリック作品の一番の特徴は「風」なんじゃないだろうか。『天国の日々』でも『シン・レッド・ライン』でも画面の中ではいつでも風が吹いていて登場人物たちは風に吹かれている。なんだかその風を感じるだけで自然と泣けてきてしまう。
 また心に刻むべき一本に出会えて嬉しい。

『大阪物語』 市川準監督 3月15日

 抜群。
 市川監督とは本当に合う。心のトーンや感傷の度合いが。こんなに合うのは市川監督とペニー・マーシャル監督の二人だけだ。
 だから作品の評価は正当なものではなく、過大評価になっているかもしれない。でも好きなものはしょうがない。私は市川監督の作品が観られて幸福だ。自分のための監督だと思える。
 この作品は誰に薦めたら良いのだろうか。よく分からない。ちょっと客観的な判断が出来ないから。
 まあ『東京兄妹』や『たどんとちくわ』を良いと思ったら人なら間違いないだろう。逆に言えばあれらが駄目だった人はこれもきっと駄目だ。
 でも優しくて感傷的なものを求めているなら是非。きっと観終わったあと優しい気持になれるだろう。
 終盤、ミヤコ蝶々が人生について大阪について語るシーンがあるが、あそこはぐっときた。心に染みた。良い年の取り方をしている。ある程度年齢を重ねたらあれくらいのことは言いたいものだ。
 ラストの締めくくり方も文句なし。それと、エンディングで尾崎豊の「風にうたえば」を持ってきたことも私のこの作品に対する評価を上げることになった。エンドロールが終わってもしばらく動けなかったなんて『フォレスト・ガンプ』以来かもしれない。
 映画に対して枯れかけていた私の心に久々に潤いを与えてくれる作品だった。
 ただし、過度に期待してこの作品を観ると肩すかしを食うと思われるので気をつけた方が良いです。

『がんばっていきまっしょい』 磯村一路監督 3月12日

 面白かった。いや、面白かったというより、とても良かった。
 1970年代の松山を舞台にしたことで物語や登場人物に説得力を持たせることに成功している。青春映画でありながら過剰な部分がほとんどなく、素直にノスタルジーに浸れる作品。自分の高校生活や部活動のことなどを思い出して、うん、あの頃の自分はあれで間違ってなかったんだと思えてなんとなく安心した。
 よく似た雰囲気を持った『いちご同盟』には及ばなかったものの、充分楽しめたし、人にも薦めたい作品だ。観ると元気になれる。
 主演のなっちゃん(田中麗奈)はとっても凛々しかった。今までそれほどでもないと思っていたけど、この作品の中の彼女は良かった。クラスメイトだったらきっと好きになっただろう。

『まあだだよ』 黒澤明監督 2月5日

 これが黒澤明監督の最高傑作だ、と言ったらあの世の黒澤監督は怒るだろうか? けど、私が一番好きな黒澤作品がこれなのだ。『七人の侍』も『生きる』も『用心棒』も『赤ひげ』も『天国と地獄』も確かに良かったし、どれも文句なしの傑作だ。だが、それでも私にとってのベストは『まあだだよ』なのだ。
 これは、私が好きな作家内田百間(字が違うけど)とその仲間たちを描いた爆笑ユーモア映画である。が、もちろん黒澤監督のことだからそれだけにとどまらずドラマとしての出来も見事。
 所ジョージの起用も当たったがやはり内田百間役の松村邦男が最高。味があって笑わせた。
 ぜひ観てくださいとお願いしたい一本。

『メリーに首ったっけ』 ピーター・ファレリー/ボビー・ファレリー監督 1月27日

 たいして期待せずに観始めたのだが、途中からこれは抜群に面白い作品だということに気づき、それからは大いに楽しみながら観た。
 とにかく最高に笑える。久々に気持ちよく笑えた。くどすぎないのがいい。
こういう作品は安心して誰にでもお薦めできる。笑えるといってもただのコメディではなく、出来の良いドラマなのでコメディ嫌いの人も是非。
 それにしても最近マット・ディロンは良い俳優になった。こういうコミカルな役もとても上手い。
 キャメロン・ディアスはそれまであんまり気にして見たことがなかったのだが、この作品の中ではとても可愛らしかった。

『ダメージ』 ルイ・マル監督 1.13

 ルイ・マル監督作品はそれまで何本も観てきて、なかなか好きな監督の一人だった。『死刑台のエレベーター』『恋人たち』『鬼火』『プリティ・ベビー』『ルシアンの青春』など、とても良かった。だが、私の中ではそれほど決定的な監督というわけでなかった。
『ダメージ』を観るまでは。
 これは強烈だった。内容は息子の婚約者をその父親が横取りして、愛と憎が乱れにみだれる、というはっきり言って相当下品なものだ。しかし、才能のある監督にかかれば下品は見事に素晴らしい作品へとひっくり返る。優れた医師が毒を薬に変えるように。
 とにかくこれは画面から滲み出てくる緊張感や力強さがただ事でない。
 これが才能というものかと深く納得し、私のルイ・マルへの評価は決定的なものになった。
『ダメージ』は見事な「アメリカ映画」だった。
 もっと良い作品をたくさん観たいと思った。けど、その後ルイ・マルは『42丁目のワーニャ』というドキュメンタリーを一本撮り、次の作品を撮っている途中で死んだ。
 またひとつの才能がこの世から消えた。

『バック・トゥー・ザー・フューチャー・シリーズ』 ロバート・ゼメキス監督 1.2

 「あなたのベスト作品は何ですか?」と訊かれれば『フォレスト・ガンプ』と答えるだろう。でも、「あなたが一番好きな作品は何ですか?」と訊かれたら『バック・トゥー・ザー・フューチャー』と答えたい。
 とにかく私はこの作品が大好きだ。『2』『3』はもうひとつという評判もあるが、私は全部同じくらい好き。私が映画に求めるものすべてがこの作品の中に詰まっているから。楽しさ、驚き、感動、笑い、興奮、そして観終わった後の幸福感。文句なしの作品だ。
 映画好きでこの作品を観ていない人は少ないと思うけど、もし観てなければぜひぜひ観て欲しい。
 どんな映画があっていいけれど、映画というのは本来こうでなくちゃ、と私は思う。映画は観る者を幸福にしないとね。

『いちご同盟』 鹿島勤監督 12.25

 この作品を観ていたら自分が中学生だった時の気分が鮮やかに蘇った。
 あの頃の無力感やいらだちや人を好きになる気持ちがどんな風だったのかをはっきりと思い出した。ずっと忘れていた気分を。懐かしくて切なくて、でも嬉しかった。束の間中学生に戻れた気がした。
 ストーリーをひとことで言うと、普通の男の子と野球部の男の子、そして病気の女の子の3人の成長物語。
 ラストは少し悲しいけど、観終わった後は爽やかな気分になれるはず。
 意外な掘り出し物。観る価値あり。

『ブギーナイツ』 ポール・トーマス・アンダーソン監督 12.21

 70年代から80年代を舞台にポルノ映画作りに関わる人々のドラマを描いた作品。
悪くない。前半は特に良かった。
 落ちこぼれの高校生(すごいです)とパッとしないポルノ映画監督との幸運な出会いが2人を成功へと導き、やがて頂点へ。しかしその後はお決まりの転落コース。けれど、最後は再生へ。
 題材はポルノ映画だが下品じゃないのが良い。家族ダンランで観られるほど上品ではないけれど。
 バート・レイノルズの控えめな演技もなかなか。
 ただ、少し長すぎて後半ダレてしまったのが惜しまれる。
 ああ、それにしてもラストシーンのアレが目に焼き付いて離れない。

『ラヴソング』 ピーター・チャン監督 12.20

 ここ数年香港映画のレベルがぐっと上がった(もう純粋な香港はないのだろうけど)。特にドラマ。
 これもとても出来が良い作品。香港アカデミー賞九部門獲得は伊達じゃない。
大陸から香港にやってきた2人の男女の恋と別れを描いた切ない作品。だが感傷に流されることなく、お涙頂戴にもなっていない。観ていて心地よかった。
 この監督の『君さえいれば・金枝玉葉』も良かったが、これは更にその上をいく。私は久々に感動した。ストーリーに、というよりも作品そのものに。
 物語のラストでオープニングのシーンに戻っていくのだが、そこにこの監督の確かなセンスと才能を感じた。
 切ない系の作品が好きな人ならまず間違いないでしょう。私を信じて観てください。

『ナイト・ムーブス』 アーサー・ペン監督 12.18

 沢山の探偵小説を読み、沢山の探偵映画を観たが、私が観た中で探偵小説特有の雰囲気を映画に移しかえることに成功した唯一の作品。
 トーン、空気、気だるさ、汚さ、ストイックさ、哀しみ、生き様、それらの描写が見事。
 さすがアーサー・ペン。
 探偵映画の傑作。お薦めします。

『ベルリン・天使の詩』 ヴィム・ヴェンダース監督 12.14

 出だしから半分くらいまではおそろしく退屈だ。寝不足の時観たらたちまち眠りに引きずりこまれてしまうだろう。
 しかーし、中盤モノクロからカラーに切り替わるあたりから俄然面白くなる。うおお〜、面白いじゃねえかこれ、と言葉使いがおかしくなってしまうほど。
 前半の退屈は後半への伏線か? とにかく前半を我慢すれば観終わったあと、独特の喜びが得られる(はず)。
 主演はブルーノ・ガンツだが、もう一人の主役ピーター・フォークがすごく良い。『コロンボ』だけの俳優ではないことを見事に証明している。
 それにしてもリメイクの『シティ・オブ・エンジェル』は……。

『シティー・ヒート』 リチャード・ベンジャミン監督 12.13

 エキストラ専門の2人の若い俳優は、ある日ワーナーブラザーズの重役室に呼び出され、こう言い渡された。「お前たち2人は将来まったく見込みがないからクビだ」と。
 その2人とは、若き日のクリント・イーストウッドとバート・レイノルズである。
 時は流れ、押しも押されもしないスターになった2人が顔を合わせ作ったのがこの作品、『シティー・ヒート』だ。
 さすが親友、息がぴったりあって実に楽しそうに演じている。
 鬼刑事と私立探偵の2人が、いがみあいながらも(そのやりとりが最高に笑わせる)ギャングをやっつけていくというストーリーも愉快痛快。
 いやー、面白い。私は大好き。

『ラブ・ポーションNo.9』 デイル・ローナー監督 12.7

 日本では劇場未公開なので、知らない人も多いかもしれない。レンタル屋でもあまり見かけないし。でも、これがいいんだな。すごく面白くて笑える。
 ラブポーションNo.9というのは惚れ薬のこと。それをひょんなことから手に入れた主人公の冴えない青年とその女友達(サンドラ・ブロック)が繰り広げるドタバタ・コメディ。と書くと安っぽいのだが、これが悪くないのだ。ワクワクするような楽しさに満ちた作品。もしレンタル屋で見掛けたら借りて観ることをお薦めします。ホント、面白いから。

『ガープの世界』 ジョージ・ロイ・ヒル監督 12.3

 まず可笑しくて笑える。次に哀しいんだけど感動的。そして最後は悲しい。だけど、観終わった後不思議と爽やかな印象を残す。
 私は観ている間中引きずり回されっぱなしだった。一本の作品の中であれほど多くの喜怒哀楽を味わった作品は他にないかもしれない。
 ぜひぜひ観て欲しい。これを書いていたらまた観たくなってきた。
ロビン・ウィリアムスの抑えた演技も素晴らしい。

『赤い航路』 ロマン・ポランスキー監督 11.27


 監督の才能というのはこういうことをいうのだ。それをこの作品は私にはっきりと教えてくれた。
まず何よりも観る者をひきつけて放さない緊迫感が画面からあふれている。この緊迫感というものは、おそらく学ぼうと思っても学べるものではない。才能と呼ぶより他に呼びようがないものなのだろう。
 シナリオも抜群。男と女の力関係が前半と後半で鮮やかに逆転する様は観ていてぞくぞくしてしまう。
 一応恋愛映画だが、そういう枠には収まらない。
 すごく力のある作品だ。
 ただし、ことわっておかなければならないだろう。この作品はエッチなシーン満載だということを。
 家族や友達と一緒に観るのは非常にキケンなので、やめておいた方が無難だと私は思う。いや、止めはしませんが。

『東京兄妹』 市川準 監督 11.24


 タイトル通り東京に暮らす兄(緒形直人)と妹(栗田麗)の物語。
 両親を亡くし、東京の下町でまるで夫婦のように静かに暮らす二人の生活に少しずつ変化が起こり、やがて崩壊する。
 この間の出来事が淡々を描かれるのだが、その静けさがとても深くて心に染みるのだ。
 監督の市川準は今日本では最高の監督の一人だと私は思っている。
 とても切なくて静かな感動に満たされる作品。悲しいのだけど優しい。

『フォレスト・ガンプ』 ロバート・ゼメキス監督 11.18


 今のところ私のベスト作品。
 最高に楽しくて、笑えて、泣けた。でもそれだけではない。
私は映画から人生を学ぼうなどという気はまるでないのだけれど、この作品には多くのことを教えられた。
 それは激動の時代もなんのその我が道を突っ走ったガンプからではなく、時代に翻弄された続けたジェニー(ロビン・ライト)から。
 時代と個人の人生の関係性というものについて色々考えさせられ、大切なことは何なのかを私に思い出させてくれた。
 しかし、まだ観ていない人のために言うが、この作品は決して小難しいものなどではない。むしろアメリカ人が大喜びしたくらいだがら単純で分かりやすくて面白い作品である。
 私が一番好きだったシーンは、ガンプがこう言ったシーン。
「I'm tired……」
 観た人は分かると思う。観てない人は観てください。

『トラック野郎シリーズ』 鈴木則文 11.14


 このシリーズは大好き。昔からよく観ていたが、最近ますます好きになった。沢山の外国映画を観た後この作品に帰ってくるとほっとする。
 単純に面白くて、大笑い出来て、ほんの少しだけしんみりする。
 日本映画もこの頃は平和だった。
 しかし、映画の基本というのは、観終わった後、ああ楽しかったと思って、幸せな気分になることだろう。最近の映画でそういう作品に出会える確率は相当低い。そういう意味ではこのシリーズは最高だ。観て嫌な思いをする部分はまったくない。
 ハリウッド映画に疲れた時にはぜひこのシリーズを観ることをお薦めする。
 ホントですってば。

『最高の恋人』 アンソニー・ミンゲラ監督 11.13

 私にとってこの作品を越えるロマンティックコメディは、ない。
 ありふれたストーリーに、さほど魅力的とも思えない主演のコンビ(マット・ディロンとアナベラ・シオラ)。にもかかわらず何故この作品がこんなにも心を動かすんだろうと考えてみると、やはりそれはミンゲラ監督の演出によるところが大きいと思わざるをえない。
 後半、地下鉄でのある印象的なワンシーンがある。それをここでは説明しないが、そのシーンに私はとても強いショックを受けた。感動ではなく、ただの驚きでもない、もっと本質的な何か。真実というものを一瞬垣間見たような衝撃だった。
 他の人があのシーンを見て何を感じたのか私には分からない。だが、そのシーンは本当に偶然撮影されたシーンであったという。
 この作品を恋人と観られる人は幸せである。
 恋人がいない人はきっと恋人が欲しくなるだろう。

『恋人たちの食卓』 アン・リー監督 11.12

 最高に楽しい一本。
 これを観逃している人はすごく損をしている。
 いや、まだ観てない人がうらやましい。
 これから観て楽しめるのだから。
 ストーリーは三姉妹とその父親との関係やそれぞれの人生模様を描いたもので、取り立ててオリジナルなものではない。
 だが、演出が素晴らしい。
 時には大笑いし、時にはしんみりしたり、優しい気持ちになったり。
 そして、ラスト近くのドンデン返し。
 私は観ていて文字通りひっくり返ってしまった。
 これ以上書くと詰まらなくなる。
 ぜひ観て欲しい。
 次々に出てくる中華料理も見事。

『悲情城市』 ホウ・シャオシェン監督 11.11

 見所は沢山ある。すべてが良いとも言える。だが、私が一番印象に残っているのは、耳が聞こえず口がきけない夫とその妻の筆談による会話だ。
 とてもとても静かで優しい。
 すごく悲しいのだけど、すごく幸せな感じでもある。
内容の大部分は忘れてしまったのだが、あの夫婦の会話シーンだけはよく覚えている。
 台湾映画の実力を私にはっきりと印象付けた作品でもある。
 傑作。

 

『ギルバート・グレイプ』 ラッセ・ハルストレム監督 11.6

 救いのない閉ざされた日常が最後の瞬間開け放たれた時、未来に対する希望が溢れ出す。
 めったに泣かない私を泣かせた数少ない作品の中の一本。
 ジョニー・デップとレオナルド・ディカプリオがまだスレておらず、最高の演技を見せる。
 マイベストスリーの中の一本。
 お薦めしたい。

 映画の部屋の扉へ ホームに戻る