上海情報−中国本を読む


 ここでは、中国について書かれ、論じている書物を紹介していきます。

本の感想は、あざらしの絵で5段階で表します。詳しくはこちら



『上海ベイビー』 衛慧


文春文庫
 過激な性描写のため本国では発禁処分となった、という話題先行型の本書、はっきり言って何が面白いんだかさっぱり分からない。上海の地名やらレストランやらブランドやらが出て来たり、何で金持ちなのにサンタナ乗ってんだよ的な突っ込みは可能だが、主人公が全く意味不明。上海在住者ですら読む価値は絶無。 (12/25)


『「中国」の練習』 中村達雄


生活人新書
 中国人に関する短いエピソード的な話をまとめている。ただ、これを読んでもあまり練習にはならないかも。どうにも印象に残らない本。 (12/25)


『上海狂想曲』 高崎隆治


文春新書
 80歳を超えた「戦時史研究家」の書いた本というだけで本来は敬遠するようなものだが書名に釣られて読んでやっぱり後悔。面白かったのは上海よりもむしろ、柳城湖事件の際に、長春(後の新京)の日本人会の会長の小沢開作(小澤征爾の父)が関東軍に詰め寄る場面なんかだが、いずれにしても著者の自己満足に過ぎない本。 (12/25)


『上海新風 路地裏から見た経済成長』 谷口智彦


中央公論新社
 著者は元日経ビジネスの記者で、今はなぜか外務省の副報道官をしているという。外務省の人間が書いた本ということで紹介されたのだが、元記者ということで、なるほど文章が上手い訳だと合点(別に外務省員の文章が下手だという言うつもりもありませんが)。特に中国語が話せるわけでなく、上海に長く居たわけでもないのに、これほど面白い本を書かれては、中国に長期駐在している自分は何なんだという気になってしまう。それほど本書の記述は含蓄があり、興味深い分析が多い。特に、中国の戸籍は入国査証のようなものだ、という説明は極めて納得がいく素晴らしい例えだと思う。
 補足:豊田佐吉邸が現在の米国総領事館というのは誤りで、実際はその隣という説が有力です。 (12/25)


『阿片王 −満州の夜と霧−』  佐野眞一


新潮社
 戦時中、上海で阿片を売りさばいていた里見甫(はじめ)とその周辺に群がっていた人々を追い続けたノンフィクション。何しろ戦前の満洲や上海が主な舞台となるだけに、証人がかなり物故していて著者の取材も困難を極めている。取材中に亡くなった人も何人かいる。そのため結局のところ謎が未解明に終わっている部分が多くあるのも致し方ないのだが、それ以上に、里見に群がる梅村親子等の周辺人物にものめりこみまくっているため、肝心の里見に関する記述は全体の半分ぐらいになっている感がある。それが残念。更に言えば、個人的な話ばかりを丹念に取材しているが(なぜ満洲に来たのか、なぜ養子縁組したのか、等)、日本の阿片政策はどうだったのか、みたいなところをもっと突っ込んで欲しかった気がする。
 さはさりながら、相も変わらず物凄い取材力。それには感動する。
 ところで、そもそも中国人に阿片を広めたのは大英帝国。しかも阿片を捨てられたことで清朝に戦争を吹っ掛け、勝ってしまったが故に上海は開港させられ、阿片取引の中心地となってしまう。それで、日本が中国に阿片を蔓延させたなどと言われてもねぇ。 (10/08)


『孫文(上下)』  陳舜臣


中公文庫
 辛亥革命までの孫文の苦難の道程を描いているのだが…、仲間が武装蜂起している頃には外国で遊説と寄付金集めに終始し、そりゃあまあ確かにそれも重要だろうけれども、話としては全く盛り上がらないんだなこれが。しかし、歴史的事実がそうなのだから、この本を批判してもしょうがない気もするが、それにしても上下2冊は冗長な感がある。そうは言っても、辛亥革命と日本との関連が比較的多く出てきており、犬養毅や児玉源太郎と孫文との交流なんかは新鮮で面白い部分もあるにはある。 (10/04)


『「日中友好」は日本を滅ぼす!』  石 平


講談社+α新書
 中国人の日中問題研究家による警告の書。要すれば、日本の歴史を見ると、卑弥呼の時代から、中国に近づくとロクなことがないから中国と関わるな、ということになる。現在でも、「政冷経熱」と言われる如く、政治はともかく、経済の面では中国が日本の最大の貿易相手国になるなど、「中国熱」は高まっているが、この著者によれば「経温政涼」ぐらいでいいらしい。今の中国経済に潜む様々なリスクが警告されている。
 それはそうなのだろうが、一方で、隣の国である中国とは「嫌いだから無視!」という訳にはいかず、それを踏まえれば、「あまり関わるな」だけでなく「どうやって関わればいいのか」という点についての積極的な提言があまりないのが消化不良か。 (9/25)


『中国人と気分よくつきあう方法』 花澤聖子


講談社+α新書
 「気分よくつきあう方法」が色々と紹介されているが、その方法を見出すに至るまでに著者が経験せざるを得なかった中国人との不愉快極まりない付き合いに関する逸話が満載であり、暗澹たる気分になること請け合いである。中国人と付き合うのはなかなか大変なのだ。
 尚、「外交官夫人」であることを売りにしているように見えるが、特に外交官夫人だから、という場面は少ないような気がした(釣魚台に行くところぐらいか?)。 (1/11)


『中国語はおもしろい』 新井一二三


講談社現代新書
 中国語に対する思いの丈がぶちまけられており、著者のエネルギーがばしばしと伝わってくる快著。中国語が話せるとどんないいことが有るか、ということが目白押し。ただ、勢いに任せて書いた感があり、まとまりには欠ける。また、翻って日本は式の記述がないわけではないが、気になる程ではない。
 私は勢いに関心したけど、醸し出す雰囲気が嫌いな人は嫌いかも。 (1/11)


『話すための中国語』 相原 茂


PHP新書
 女子大生2人の北京旅行のドキュメント形式で、中国語の簡単なフレーズを紹介。内容は結構お気楽。しかし、登場する女子大生、第2外国語で中国語選択の1年生の夏休みにしては、中国語が上手すぎないか? (1/11)


『謎解き中国語文法』 相原 茂


講談社現代新書
 助動詞の使い分けや形容詞の意味による分類等の考察がされている。どちらかと言うと中級者向き。中国語だけでなく、日本語についても改めて考えさせられる。例えば、日本語には「貧しい」の反対の意味の形容詞がない、等。言語に敏感になることが言葉の上達の近道だなと改めて感じる。 (1/11)


『漢詩−美の在りか−』 松浦友久


岩波新書
 漢詩を主にその主題別に紹介しており、漢詩を手軽に鑑賞するのになかなか良い。
 漢詩の反戦の詩では、出征兵士の見送りの詩には子供は絶対に登場しないという決まりのようなものがある。なぜなら、子供がいれば親父は死んでも一家は存続ということになるが、子供がまだいないような若い兵士が死んでしまうと、一家が断絶してしまう。そしてそのことの方が、幼い子供を置いて戦地へ赴くことの悲しみ(日本の和歌でよく詠い込まれる)よりも大きいものだと考える、中国の家を重んじる考え方が現れている、ってな話とかが紹介されています。
 その他、音韻のリズム構造の話とかでも、日本の詩歌との比較がちょくちょく出てきます。こんなところが、まあこの本の特徴でしょうか。 (10/31)


『香港領事 佐々淳行』 佐々淳行


文春文庫
 佐々氏が在香港日本国総領事館に出向した3年間の回顧録。文化大革命、香港暴動、テト攻勢等に際しての危機管理の体験が詳細なデータと共に記されている。特に、たまたま休暇で訪れた南ヴェトナム大使館でテト攻勢に遭遇してしまう場面は緊迫もの。それ以外にも、領事としての仕事や香港の生活・風俗なんかも織り込まれており、なかなか興味深い。
 それにしても活躍したのは佐々氏だけではないのだろうが、要はメモしてたもん勝ちって気がする。
(7/11)


『赤い月(上下)』 なかにし礼


新潮文庫
 直木賞作家でもある作詞家なかにし礼の自伝的作品。『兄弟』では、兄を題材に凄まじい話を暴露していたが、今度は母親を題材に又しても凄まじい話を暴露している。更には朝ドラにもなった『てるてる坊主の照子さん』では、妻の実家の話を書いている。これだけ身内に題材があれば、小説家にもなろうというものだ。
 閑話休題。舞台は満洲。満洲国は牡丹江で関東軍の力を陰に陽に受けて酒蔵を経営する一家の母親・森田波子が主人公。敗戦を迎えて必死に生き延びていく場面なんかは面白いのだが、波子が男性遍歴をふらふらと重ねていく場面なんかは、はっきり言って心理描写が足りないせいかよく分からない。別に生きる為でもなく、本当に気の迷いで浮気しているだけなのだから、さして同情も出来ない。ラストシーンも、唐突な感があり、あまり頂けないねえ。ま、そうは言っても、日本人にとって満洲国とは一体何だったのか、というような大きなテーマに関しては非常に考えさせられる、スケールの大きな作品ってことなんだ、間違いない(長井秀和風に)。
 因みに、主人公の森田波子を、映画では常盤貴子が、ドラマでは高島礼子が演じていたが、どちらかと言えば、高島礼子の方がイメージに近いように思う。(5/22)


『中国全省を読む地図』 莫 邦富


新潮文庫
 中国の全ての省・直轄市・自治区について、歴史、経済、文化、名産品等が簡潔に紹介されており手軽に楽しめる。でも各省とも同じ程度のページ数が割り振られているので、ちょっと物足りない感はある。マイナーな省については本書の情報だけでも新鮮で有り難いが、やっぱり有名な省はもう少し掘り下げてほしかったなというところ。そういう意味で、割り切って各省で落差を付けた方がより実用的になっただろう。写真も添えられているが、旅行ガイドとしてはあと一歩。
 尚、しれっと最後に台湾まで入っている。(11/19)


<評価絵の見方>

最高。絶対に読むべき。 なかなか面白い。お奨め。 まあまあ。時間が有れば読んでみるのもいい。 うーむ…。読むな、とまでは言いません。 寝てた方がまし。ZZZ

上海情報