静寂の声
『Happy birthday,Dear Kim!』
私の携帯の留守録に残されていた、一件のメッセージ。
送り主は分かっている。
私に「好きだ」と言ってくれた人。
友としてのそれではなく、「恋人」としてのそれを言った人。
――私がそれに答えられない事を知っていて。
「テリーさん…」
久しぶりにこの名を口にしてみる。何箇月…いや、何年ぶりの事だろうか。
懐かしく、それでいて…切ない響きだ。
初めて会ったときには、私に何の感慨も与える事の無い単語だったのに。
時の流れとは妙におかしなものだ、と苦笑する。
彼が私に望むのは、私の全て。
それはたった一つのものであり、それでいてあまりにも沢山ありすぎる物。
私の心。体。時間。言葉。夢。思い出。
その全てを欲しがっている。
――私がそれに答えられない事を知っていて。
私は既に捨てられないものを持ちすぎているから。
それは私では無く、「私になってしまった」もの。
愛すべき妻。子供達。私を慕ってくれている門下生。かつて拳を交えた人達。
皆のために私は強くなった。だからこそ――私はこれを捨てる事は出来ない。
でも、もし。
私が彼らと出会うことなく。
そしてテリーさんと出会っていれば。
私は彼に――全てを委ねていたのだろうか?私の全て、彼の望むもの全てを。
そして私は。
彼のことだけを考えて…生きる?
……止めよう。こういう事を考えるのは性に合わない。「if」は不毛だ。
この世界に存在するのは「現在」と「過去」、そして「現実」だけなのだから。
再び私は、携帯に耳を当てる。
もう彼の声は聞こえて来ないというのに。
彼は――どんな顔で、どんな想いで私に電話をかけたのだろう。
気が付かないうちに私は、携帯の電源を切っていた。
今は…せめて今だけは。
誰の声も聞きたくなかったから。
―Fin―
キムさんお誕生日記念SSです。の割にあんまり幸せじゃないのです…。
もっとこう、幸せなキムを追求できたらいいのに。
…いや、テリキム的幸せというのじゃなくて、キムさんの幸せというやつを。