ネーミングの自由に関する考察。
ここは静岡県、浜名湖を近隣に臨む地方都市。
ジョン・フーンの道場兼住居はここにあった。
「勝ったぞぉぉぉ!!!」
この家の主の叫び声で、チョイのしばしの平穏は破られた。
――ああ、またジョンのダンナが妙な事を思いついたでヤンス…。
心の中の呟きを悟られぬよう、チョイは一応ジョンに声をかけてみた。
「…ダンナ、勝ったって何がでヤンスか?」
「おおチョイ君!私はついに悟ったのだよ!物事とは常にポジティブに考えねばならない!物事は悪い面だけにあらず!そうは思わないかね?!」
「はあ…そうでヤンスかあ…?」
――ああ、そういえばジョンのダンナ、昨日本屋でなんとかいう本を読んでたでヤンスねえ…そんな事を考えながら、チョイは生返事を返す。
「で…何がポジティブなんでヤンスかあ?」
その言葉を待っていたかのように、ジョンは笑みを漏らす。まるで難解な数式を解いた学生のように。
「これを見たまえ!!」
そう言ってジョンは、手元のノートをチョイに見せた。
そこには丁寧に、時間をかけてゆっくりと書かれたと思しき「全」の字と、明らかに適当に書きなぐったと思われる「金」の字があった。
「…これがどうしたんでヤンスか?」
笑いが抑えられない、と言った表情で、ジョンはチョイの質問に答えた。
「今まで私は…そう、我が姓を厭っていた。理由はただ一つ。
漢字表記すると、あの「金」君の姓より、我が姓「全」は総画数において2画も少ないのだ!
分かるかい君にこの屈辱が?2画だぞ2画!2画で成立する漢字がいくら存在すると思っているのだ?
日本語の常用漢字だけでも30個以上なのだ!即ち私は、キム君如きに30個以上も負けた…と思っていた。今までは…ね。」
そこまで一気に言うと、ジョンはにやりと笑い、そして言葉を一旦切った。チョイはなす術も無く、それに付き合うしか道は無かった。
「しかし!しかしだ!!」
ジョンはそこで再び話を止めると、先程のノートに何かを書き始めた。
チョイがそれを覗き込むと、そこには日本語のカナ表記で「キム」「ジョン」と書かれていた。
「これを見たまえ!チョイ君!!」
言われるままにしておくのが一番である、という事をチョイはよく理解していた。
「はあ…で、これが?」
「分からんのかねチョイ君?!日本語カナ表記で我等の姓を書くと、こうなるのだ。
この表記方法だと、我が姓「ジョン」は総画10画となり、「キム」君よりも1,2,3…5画も上回るのだよ!!
即ち私は、キム君に倍も勝ったということだ!!!」
そう言い終わるとジョンは、鼻歌を歌いながらアテナのCDの整理に取り掛かった。
チョイができることはただ一つ。その場に立ち尽くす事だけだった。
数日後、韓国にて修行を続けるキムとチャンの元にチョイからの手紙が届いたというのは、まあ別の話という事で。
―おはり―
E−MONは’99の頃、この方はちと苦手だった(使いにくかったし)のですが
設定を読んだりしてるうちに「この人ひょっとして結構馬鹿?」と感じるようになり、ちょっと好感度Upしました。
…純粋なジョンさんファンの方、申し訳ありません。