「ハル」


春の夜。桜散る夜。
キム・カッファンは一人、テリーを待っていた。

「終わりにしよう。何もかも」
その一言を切り出したのは何時だったか、どちらだったか。今の彼には思い出せない。
キムは今日、この夜…全てに答えを出すつもりで、ここを訪れた。
テリーは来るとも知れないというのに。

ざわ、と風が吹いた。同時に花びらの洪水が空に舞う。
キムの『届かない所』にも――ざわざわと風が吹いた。
そしてそれはキムの心の中で一つのものになった。『離れてゆく心地』へと。

「…サヨナラ」
消え入るような声でキムは言った。誰もいないのに。誰もいないから。
キムにとってそれは――テリーには言ってはいけない言葉だったから。

暫くキムはその場に立ち尽くしていた。何かに耐えるように拳を握りしめて。

「でも……私は…」
キムは膝をついた。崩れ落ちるように。
彼の中で何かが壊れたのかもしれない。

「体も気持ちも何もかも…大事なものなんて一つもない!!テリーさん、貴方の全てが…私の…
 『思い出になる』なんて……嫌だ――」
キムが無意識の内に地面に打ち据えていた拳からは、鮮血が滲んでいた。
彼の目から何時しか零れ落ちた涙と拳の血が、大地に染みを作った。

「キム、今のって…本当?」
噎せ返るような花びらの中、テリーが――そこにいた。

「テ…リー……?」
キムの口からはもう、それ以上の言葉は声にならなかった。
テリーは少しだけ困ったような顔をしたかと思うと、二人の間に降り積もっていた花びらの山に踏み入り、
そして――キムを抱き寄せた。
二人に言葉は要らなかった。

「ユメみたいだ…あんたとこうして……」
キムはテリーに身を任せたまま答えた。
「いえ……『ユメみたい』なのではなくてきっと」


「――ユメ、なんです。」

ここはどこでもない、蒼い空の下。花びらは音もなくゆっくりと降り積もっていった。

―了―


キョウさんに捧ぐ、季節限定テリキム(笑)です。っていうか…ポエム?です(^^;)いいのか誕生日がこれで。<テリー
ちなみにこの話、いっちょ前にテーマソングがあったりします。その曲とは滝本晃司「ハル」。タイトルも拝借しております。
キョウさん、この話はのしと洗剤をお付けして進呈いたします。あとFF8の3枚目もつけます。あと花京院の魂も。どうもありがとうございました!