1.ダムの操作をどのようなかたちでとらえるか。


 ダム操作とは何か? 「流入量の一部を貯水池のため込み流入量より少ない量を下流に放流すること。」と考えている人が大半であると思います。これも間違いではありません。
 しかしながら、洪水時のダム操作とは、図−0−1に示すように、洪水が始まりそれが終わるまでのすべての操作を考えなければなりません。基本的には以下のような操作から成り立っています。
 洪水調節操作がもっとも中心となる操作に変わりはありませんが、これらのすべての操作が同じ重みで実施されない限り洪水調節操作が期待通りに実行することができないことを念頭に置いておくべきです。



 @洪水前放流 A定水位操作 B洪水調節操作 Cただし書き操作 D後期放流操作(水位低下操作)があります。

@洪水前放流
 洪水がはじまり、洪水調節操作、または、定水位操作に移行するまでの操作です。洪水調節に遅れないように放流を開始して放流量を流入量に近づけておく必要があります。
 一方、流入量が洪水流量以下で、貯水位が洪水期制限水位にならない場合には無効放流が発生しないように貯水量を確保する必要があります。
 洪水の大きさを想定しながら「洪水に出遅れないように」また、逆の場合には「無効放流を生じないように」するための難しい判断が必要です。

A定水位操作
 放流量が流入量に追いつき、水位が洪水期制限水位になった場合、流入量が洪水調節開始流量になるまでの間は水位を一定に保つ必要があります。
 「放流量=流入量」の操作をすればよいと認識されている人が多いのですが、この操作が意外に難しいと言うのがダム操作の現場の一般的な認識です。「何故難しいか?」を解析的に考察します。
 また、流入量の状況によっては定水位操作を行うことなく洪水調節操作に移行するケースも出てきます。どの様なプロセスで洪水前放流から洪水調節操作へ移行するかを的確に把握しないと洪水調節操作に移行する前に混乱が生じる危険性があります。

B洪水調節操作
 洪水時操作のもっとも中心的な存在です。一定率一定量放流、一定量放流、自然調節方式、水位放流方式などがあります。洪水時操作の安定性、確実性、洪水調節効果などの諸点を勘案しながらダムの立地条件に見合った適切な操作方式を選定することとなります。
 洪水調節操作中には、ただし書き操作に移るべきか、このまま洪水調節を継続することができるかを常にチェックしながら慎重な対応を行っていくこととなります。

Cただし書き操作
 計画より大きな洪水が発生して計画通りの洪水調節を継続すれば貯水位がサーチャージ水位を超える可能性がある場合に放流量を計画より大きくして、水位の上昇を抑え、ダムからの越流を防止するための操作です。
 もちろん、ダムからの越流を回避してダムの越流破壊を防止するための操作ですから水位の上昇を抑えることが優先されるべきですが、下流河道に急激な水位上昇が起きないような総合的な立場からの配慮も必要です。
 このような観点から無理なく放流量が流入量に追いつくまでの放流量のコントロールが要求されることとなります。

D後期放流操作
 洪水調節が終了し、放流量が流入量に追いついた段階から下流河道に支障のない範囲で流入量に対して放流量を上積みしながら貯水池水位を低下させ、次の洪水に備える必要があります。このための操作を後期放流操作と呼びます。

 以上、洪水の始まりから終わりまでの洪水時操作のすべてをみてみました。洪水時操作を単純に「流入量の一部を貯留して放流量を低減する。」と言うとらえ方から、そのステージに対応した様々な態様の操作の組み合わせによって洪水調節操作が実行されるということがわかりました。
 また、それぞれのステージの操作はステージごとの目的に対応した操作を実行する必要があります。さらに、これらステージごとの操作相互の移行をどのような情報でどのような判断にもとづいて実行していくかと言うことが重要であります。たとえば、いつ放流開始をするかいつただし書き操作に移行するかと言った問題です。
 このような観点から、それぞれのステージの操作について流入量、放流量、貯水量の相互関係について水理学的に分析して、よりよい操作を指向する必要があります。さらには、それぞれのステージ間の移行をどのような情報に基づいて判断していくかを工学的な観点から考察していくことも重要な課題であります。
 このような2つの側面から洪水時操作全体を眺めていけば操作全体を科学的に解き明かしていくことが可能であると考えています。
 以上、洪水時操作全般について俯瞰してみました。それぞれのステージことの特性分析とステージごとの以降判断の方法を中心に考察を展開していきたいと思います。
 
  
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