3.ダムの操作において水位と放流量の関係をどのようなかたちでとらえたらよいか。 3−1 洪水時操作の解析的考察の必要性 3−2 洪水時操作の定式化 3−3 Vの1次式による洪水時操作の定式化と解析 3−4 洪水時操作を水位(貯水量)のみによって実施する。 3−5 今後の展開 |
3-1 洪水時操作の解析的考察の必要性 洪水時操作は洪水調節のみならずその前後において様々な操作を組み合わせながら本題の洪水調節を実行していく必要があります。 従って、放流量が流入量に追いついていくような操作、流入量を一定限度減少させるような操作、水位を一定に保つ操作、水位を目的の水位に上昇させたり、下降させたりする操作など様々な機能が要求されています。 従って、洪水時操作は流入量と放流量の関係のほか、水位(貯水量)と放流量の関係にも留意しつつ実行されることとなります。 このような観点から流入量と放流量と貯水池水位(貯水量)は常にある関係のもとで把握されコントロールされておく必要があるということができます。 これらの課題に対処していくためには流入量、放流量、貯水量が工学的に関連づけられながら時系列的に表現されておくことが理想的であると言えます。 洪水時のダム操作についてはほとんどがマニュアル化(操作規則、操作細則など)されているとの一般的な認識にあると思いますが、これらはあくまで統制的な性格が強く、必ずしも操作の特性とか合理性を目指したものとは言い難い面があります。 「解析的」というと拒否反応を示す人もあろうかと思いますが、できるだけ平易な表現に留意してまとめてみましたから、一度トライして欲しいと思います。 3-2 洪水時操作の定式化 洪水時操作は流入量、放流方法、連続式をもとに放流量、貯水量を時間の関数として示すことと言えるでしょう。 いま、流入量、放流方法、連続式を(3−1)式、(3−2)式、(3−3)式の通りとします。 (3−2)式がいわゆる操作ルール(放流関数)と言うことになりますが、一定率方式であれば流量(または時間)、一定量放流であれば定数、自然調節であれば放流能力ですから水位の関数ということになります。
自然調節は放流能力ということになりますから水位の関数となりますが、これは、H−Vカ−ブにより、貯水量の関数に置き換えることもできます。連続の式が貯水量の関数となっていますから、放流関数は貯水量の関数とすることも可能です。 いま、図−3−1、または、(3−4)式、(3−5)式、(3−6)式に示すような3通りのV放流関数を考えてみます。 Qo=K1...........(3−4) Qo=K2V...........(3−5) Qo=K3V2..........(3−6) |
いま、(3−4)式、(3−5)式、(3−6)式を放流関数として、図−3−1に示すように貯水量が10000000m3の時にQo が2000m3/sとなるように定数K1、K2、K3を設定します。さらに、図−3−2に示すような直線的に変化する流入量を設定して放流量の時間変化を計算してみました。 その結果を図−3−2に流入量とともに併記してみました。 この図から明らかなように、貯水量の1/2次関数では流入量に対して一定率の放流がなされています。貯水量の1次関数では流入量に対して一定時間遅れの放流量に漸近しています。貯水量の2次関数では流入量に限りなく近づいていく放流となっています。 これらの結果から推察すると、貯水容量の1/2次、1次、2次関数の特性を放流関数としてうまく使い分けると流入量に頼ることなく貯水量(水位)のみによって洪水時操作が実行できるのではないかと考えられます。 |
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3−3 Vの1次式による洪水時操作の定式化と解析 貯水容量をもとに放流関数を設定する場合、解析的に考察すればどのような特性を有するかについさらに明らかになっていくものと考えられます。 そこで、流入量、放流関数を以下のように設定して(3−3)式の連続式とともに解析的な考察を展開してみることとします。 これらの微分方程式を解析的に展開すると以下のような結果が得られます。 |
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3−4 洪水時操作を水位(貯水量)のみによって実施する。 貯水池の水面変動の影響が流入量の計算において支障となっていることを説明しましたが、できれば、このような流入量情報に頼らず、水位から直接放流量を決定すれば以下のようなメリットが期待できます。 1.流入量を介することなく、決定する放流量が安定したものとなる。 2.放流量と貯水量をあらかじめ関連づけておけば放流量と貯水量(貯水位)が同時に管理することができるため、安定した操作が達成できる。 3.貯水量と放流量の関係が設定されているから、仮に、一時的な情報の攪乱によって誤操作が生じても、自動的に本来の正しい操作に復元することができる。 図−3−5−2は洪水時操作の始まりから終わりまで、すなわち、洪水前操作(青)、洪水調節操作(赤)、ただし書き操作(緑)の3つの操作を設定したものです。この3つの放流関数にもとづいてその時々の貯水量を把握してそれにもとづいて放流量を決定していけば、図−3−5−1のようなハイドログラフができあがります。 それぞれの段階の操作が設定されれば、それらを貯水量と放流量との関係で示したものが図−3−5−2です。 図−3−5−2を活用すれば、図上で精度の高い操作が実施できるのではないかと考えられます。図−3−5−1との併用によってさらに安定度の高い操作が実現できるものと考えられます。 また、洪水時操作においては下流の河道における水位上昇速度が操作の条件として入ってくる場合があります。これらの条件と貯水位の管理と放流量の管理を整合させながら実行していくためには操作の解析的な観点からの取り組みは不可欠の要件であると考えられます。(この件については章を改めて考察致します。) |
3−5 今後の展開 以上、洪水時操作を解析的立場から考察してみました。操作全体の一部を針の穴からのぞいたといった感じですが、水位(貯水量)によってかなりの操作が実行可能であることがわかりました。 ここで、気が付かれた方もおられるかもしれませんが、流入量計算も元々は貯水池水位(貯水量)から計算されるものです。つまり、貯水池の水位攪乱の影響を受けやすい流入量計算過程を省略して貯水位(貯水量)から直接に放流量を決定することにより安定した放流が実現できるということにもなります。 アメリカにおいては貯水池規模が大きく流入量の計算ができないケースが多くなります。従って、アメリカにおいては水位から放流量を決定している例は珍しくはありません。 以上、貯水位(貯水量)によって放流量を決定する方法を総称して「水位放流方式」と呼ぶことといたします。 |
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