宜野座村の豊年祭2002  弐

第三日目 (旧暦八月十五日)

 今夜はいよいよ、字宜野座の豊年祭、字松田区の敬老会本番の日です。体内時計の関係で今朝も普段と同じくらいの時間に目が覚めましたが〜、夜に備えて昼寝もしておくゼッ!とかなり気合いを入れてます。のんびり昼寝ができるように、まずは朝から海へ行ってみよう!ということで、ラッシュガードを着て、日焼け止めをバッチリして、昨日金武で買って置いた魚肉ソーセージを開封。海にゴミを置いていかないように、先にビニールは取っておきます。ツメで開封するのも大変ですし・・・。朝食代わりにアミノ酸たっぷりヴァームゼリーを一本チュルチュルと飲んで、準備完璧!シュノーケルの道具を掴んで、漢那ビーチへ出発!当然、三匹犬をなでなでしていきます。今朝は昨日のスコール空と違い、よく晴れていて、これぞ沖縄の空!という感じです。
 漢那ビーチに到着すると、やはり誰もいない。昨日よりも早い時間に来たせいか、波もまだあまり引いていない。たぶん、引き潮の時間なんだろうと思われるが、荷物は砂浜の後ろの方へ置いて、シュノーケルをつけて海へ入る。ありゃりゃー。だいぶ砂があがっているし、波も高い。昨日は小さな熱帯魚がウロウロしていた辺りも、今日は深くてよく見えない。こりゃ、今日はお魚天国は諦めるしかないなー。では!折角アミノ酸も大量摂取した後だし、適度に泳いでおこう!いつかのおじぃみたいにあまり深くないところを右に左に歩いて、水中ウォーキング!ここで運動しておけば、爆睡できる!とばかりに歩く!泳ぐ!まー急に運動しても無駄なお肉が落ちるわけはないのですが〜(涙)。
 シュノーケルをつけて平泳ぎで進んでみようと思い、漢那漁港の防波堤に向かって泳ぎ始めてみた。シュノーケルをつけているので、息継で顔をあげる必要もないので、暫く海底を見ながら進む。やはり砂が上がっていて、何も見えない。そろそろテトラポットの辺りカナ?と思い顔をあげて、驚愕!そこには、ただ、青い海が拡がっていた・・・!!


  「え?え?」と振り返ると砂浜は後方にあった。どうやら砂浜に平行して泳いでいるつもりが、沖に向かって進んでしまっていたらしい。それほど浜から離れてはいない筈だけれど、こんな時は実際よりもずいぶんと距離が感じられる。
 「焦っちゃいけない。」と自分を落ち着かせながら、浜へ向かって泳ぎ始める。しかし思ったより進まない。これは・・・!もしかしたら私は離岸流という波に乗ってしまったのかもしれない?こんな時は?二ヶ月ほど前離島のペンションでご一緒したS先生達との会話を落ち着いて思い出す。
  ー沖に向かう流れに乗ってしまった時は、正面に泳いではいけない。落ち着いて、流れから離れるように斜めに切って泳いでいくんだよ。ー
 そうだ!落ち着いて!浜に対して斜めに向かって進んでいく。
 
 次に顔をあげたとき、砂浜にだいぶ近づいていた。ヨシ!ところが今度は沿岸流というのか浜に対して平行の流れにいるらしく、後少しのところでまだ足がつかない。顔をあげたまま泳ぐのでシュノケールに海水が入ってきてしまう。私はシュノーケルクリアが出来ないのだ。海水が入ってきてツライよ!もうシュノーケルを使うのはやめて、後少しのところは必死で泳ぐことにした。そう、必死だった。

 その時、辺野古沖の藻場で餌をつまんでいたジュゴンが、アホマナティーの危機に気づいて沖から現われて、浜まで押し戻してくれた・・・。

 なーんて、夢のような話はない!無様な犬掻き状態でようやく浜にたどり着く。足が砂に届いた瞬間の嬉しさ!生きて戻れてよかった〜(涙)!!
置いていた荷物のところまで戻ると、さんぴん茶でしょっからくなった口をゆすぐ。日傘を広げて砂に座り込むとさっきまで自分がいた辺りを見つめる。それほど浜から離れてはいないけれど、あの振り返って見た時に感じた遠さを思い出すと、恐くなってくる。
「・・・マブイが代わりに連れて行かれたんだ・・・」
 昨年同期仲間と沖縄入りする日程を決める時に、ヤンバル在住のおばぁを持つKちゃんが「旧盆の時期に海で泳いだら連れて行かれるよって、おばぁに止められるよ〜。観光客の人は関係なく泳いでいるけどね」と言ったことを思い出した。その言葉をすんごく気にしたわけではないけれど、おばぁの言葉は大事かな?と旧盆の時期はずらしてみた。今日の旧暦がおばぁに反対される日かは不明だけれど、もしかしたら私はさっき海の中で吃驚した瞬間、マブイを落としてしまったのかもしれない。そしてそのマブイが代わりに波に連れていかれて、私はいまここで太陽の光を浴びていられるのかもしれない。
  しばらく浜辺でぼ〜っとした後、荷物を纏めて泊まり先に戻ることにした。マブイを落としてしまったら、どうすればいいんだろうか・・・?フルウチガナシ様にお願いすれば、流されたマブイが戻ってくるのだろうか?ユタにマブイ込めをしてもらえばいいのか?しかしユタを生業としている人は存じ上げない。ああ、この時マブイが早く戻ってくるように、代わりの小石を握りしめておけばよかった。
 漢那タラソの横を通ると、噴水なのか水の跳ねる音がしていた。もう一人で海では泳げない。早くオープンしておくれ・・・(切実)。坂道をようやく上りきって泊まり先にたどり着くと、海水と砂を落とす。コインクーラーに豪勢に100円を入れて室温を下げると、豊年祭に備えて昼寝に入った。

 まだこんな風に一人で沖縄を徘徊するようになる前、「たったひとりの海の美しさと危険性」を紹介しているHPがあった。(残念ながらブックマーク等をしておかなかったのでアドレス等は不明。ご存知の方、是非掲示板かメールで教えて下さい。)「自分しかいない海はプライベートビーチだけれど、何か起きた時は誰にも助けてもらえない」というようなことが紹介してあったと思う。
 正に!私はこの状態になってしまったのだ。朝は散歩している人や泳いでいるおじぃがいたけれど、日差しも高くなった時間に歩いている人はいない。浜からほんの少ししか離れていないけれど、あの海の中では泣いても叫んでも誰にも助けてもらえない。もしも自力で戻れなかったら?運良く体脂肪の厚みのおかげで浮いていられたとしても、訓練中の軍ヘリに工作員と勘違いされて捕獲されるまで漂い続けるか。いつか海のスヌイの様に波に溶けて・・・、溶けるわけはないから漁船に拾われて、筵に包まれて帰ってくることになったのかもしれない。そんなことになったら、豊年祭や敬老会どころじゃないヨ!駐在さんとか区長さんとか、たくさんの人たちにご迷惑をお掛けすることになるではないか〜!?マスコミで「だから一人旅は危険」と紹介されたりとか〜!?そ、そんなのイヤー!!
 離島のペンションに泊まった時も一人旅だったのだが、その宿のお夕飯は大きな食卓で皆で頂いた後、宿のお父さんやお客さんたちとゆんたくする雰囲気の宿だった。その時は海に詳しい方が多くて離岸流の話題になったのだが、ホント偶然だけどその場にご一緒させて頂いてよかったと思う。「いつか○○島でまた会いましょう!」という言葉を頂いてお別れしたが、「いつかまたいちゃりば・・・」

 と、この話を書くまでに約一年近くの時間がかかってしまった。実は私の中でこの出来事はけっこうトラウマになりまして〜、顔をあげた瞬間海が拡がっていたこと、振り返って見た浜がずいぶん遠くに見えたこと、そんなことを思い出すだけで心はあの海の底に沈んでいく気分・・・。しばらくこの出来事のことは誰にも話せないでいたのです。最近になってようやく話せるようになってきたのですが、「気をつけてね」と仰って下さった方々には半年経過してもお話できなかったです。しかも字宜野座のにぃにぃ達に「地元の人は海で泳がないですよ。僕ももう泳げないし、溺れちゃいますよ。」と言われて「そうなんですか〜?」と平然と相槌打ちつつ、心の中では「にぃにぃや地元の人は正しいよ!アッシがデージフラーな愚か者なのよ〜!!」と後悔していたんですわ〜!!
 ま、その後海に入れなくなったり、水恐怖症になったりしたわけではないのですが、気をつけましょうね!特に自分!!ということでようやく更新〜(涙)