すれ違い





「シ、シスター。こ、こんにちわっ」
 教会の前を掃いていたミルカッセは、その声に顔を上げた。
「あら、ヒューイさん。こんにちは」
 立っていたのは顔見知りの聖騎士の卵である。緊張に顔がこわばっているが、ミルカッセは気づく様子がない。
 視線を地面に合わせ、ちりとりにごみを集めようとすると、また声がかかった。
「ミルカッセさん、ヒューイさん、こんにちわっ!」
 ミルカッセがまた顔を上げると、そこには先ほどのヒューイと、もう一人少女が立っていた。いつも、にこにことしているが、今日は一段とにこにこしている。
「あら、エリーさん。こんにちは。お出かけですか?」
「どうも、こんにちわ。エリーさん」
 2人が挨拶を返すと、エリーはまたぺこり、とお辞儀をする。
「えへへ。今日は日食だから、近くの森までちょっと行ってきます」
 日食、という言葉にミルカッセは思い出したような顔をした。
「…あ、そういえば、今日お誕生日でしたわね。おめでとうございます。…ちょっと待っててください」
 そう言うと、ミルカッセは教会の裏手に向かって走り出した。その姿を思わず目で追ってしまい、慌ててエリーの方を向く。
「あ、おめでとうございます! すいません、プレゼントはないですけど…」
 恐縮したように言うヒューイにエリーは笑って手をひらひらさせる。
「気にしないでください。おめでとう言ってもらっただけで嬉しいですから」
「そんなこと言わないでください。日ごろの感謝を込めて、また今度お持ちします」
「え、そうですか?そういうこと言うと、期待しちゃいますよっ」
「しててください。部隊長には負けるかもしれませんが、とびっきりのものを用意します」
 部隊長、という言葉にエリーは反応して赤くなる。いつまで経っても変わらない、そんな反応はヒューイにはかわいらしく見える。そして、そんな反応をさせる「部隊長」が少し羨ましい。
「ちなみに去年は、何もらったんですか?」
「えへへ。……秘密です」
 唇に人差し指をあててエリーはそう言った。その顔はとても魅力的で、ヒューイは部隊の中でまわってる評判を思い出す。
 『職人通りの工房に住んでいる錬金術士はかなりいけている』
 誰が言い出したか知らないが、その評判を聞いて工房を覗きに行った奴が7人いるのは間違いはない。幸いというか、まだ「部隊長」にばれていないので大事にはなっていないが、そのうち大変な騒ぎが起きるかもしれない。…いや、起きるだろう。
 そんな話をしていると、ミルカッセが教会の方から駆けて来る。
「…おまた…せ…いた…しました」
 ミルカッセはすっかり息が上がってしまって、言葉が切れ切れになる。そして、ラッピングした包みをエリーに渡した。
「…これ、プレゼントです。どうぞ受け取ってください」
 渡されたプレゼントにエリーは破顔する。
「ありがとう」
 包みをぎゅっと抱いてエリーはそう言った。それに、ミルカッセも微笑む。
「あけてもいいですか?」
「ええ、もちろん」
 もどかしくリボンを解くと、中からアルテナの紋章がでてくる。
「…こんな高価のもの!」
 エリーがそう言うと、ミルカッセは微笑んだ。
「エリーさんの採取が少しでも楽になるようにって、アルテナ様にお祈りしておきましたから。もらってください」
「…うん。ありがと」
 その言葉にエリーは頷き、そしてアルテナの紋章を身につける。「どう?」とエリーが見せ「お似合いです」とミルカッセが返事をする。
「あ、…やばいっ。それじゃ、二人とも仲良くね〜」
 そう言うと慌ててエリーは走り出す。そして姿が見えなくなりそうな直前で、人にぶつかって尻餅をつく。
 そんな様子に思わず2人は吹き出した。そして、自然に視線が絡み合う。
「…ヒューイさん、お仕事ですか?」
 ミルカッセが口を開いた。
「いえ、今日はもう非番ですけど…」
 ヒューイの返事にミルカッセは微笑む。
「じゃあ、お茶、しませんか?」
「はいっ!! 喜んで!!」


「なあ!!」
 バン、とドアをあけ、入ってきたのは誰であろう、ダグラスである。
「………?」
「…………部隊長?」
 ミルカッセとヒューイが呆けたような表情でダグラスを見やる。
「…なんだ。ヒューイもいたのか…。んなことはどーでもいいや。エリー見なかったか?シスター」
 ダグラスがそういうと、二人は顔を見合わせた。
「エリーさんだったら、さきほど急いでいかれましたよ?」
「……どうしたんですか?部隊長」
 ミルカッセとヒューイの問いに、ダグラスはしかめっ面をして答えた。
「あいつと待ち合わせしてたんだけどよ、いつまで経っても来やしねえから。…まったく」
 ダグラスが頭をかく。そうして、大きくため息をつくと、苦笑をした。
「とりあえず、ここまでは来たんだな?それじゃあ」
 というと、ダグラスはドアを閉めた。
「…嵐みたいですね」
「…嵐みたいでしたね」
 同じことをつぶやいた二人は、思わず視線を合わせて笑った。


「ねえっ!!ミルカッセさん!」
 バンと、ドアをあけ、入ってきたのは誰であろう、エリーである。
「………?」
「…………エリーさん?」
 ヒューイとミルカッセが不思議そうな顔でエリーを見やる。
「あれ?ヒューイさんとお茶してたんだ。邪魔してごめんね。……じゃなくて、ダグラス見なかった?」
 エリーがそう言うと、二人は顔を見合わせた。
「部隊長だったら、さきほどいらっしゃいましたが?」
「……どうしたんですか?エリーさん」
 ヒューイとミルカッセの問いに、エリーは慌てた表情で答える。
「ダグラスが待ち合わせ場所にいなくて……。探してるんだけど」
 エリーが困った顔をして、はぁっとため息をつくと苦笑した。
「とりあえず、ここに来たんだよね? それじゃあ」
 というと、エリーはドアを閉めた。
「……嵐みたいでしたね」
「……嵐みたいですね」
 また同じことをつぶやいた二人は、視線を合わせて笑った。


「なあ!」
 バン、とドアをあけ、入ってきたのは誰であろう、ダグラスである。
「…………エリーさんなら先ほどきましたけど?」
「…………なにやってるんですか?二人とも」
 ミルカッセとヒューイが不審そうな顔でダグラスを見やる。
「…なんだ。お前まだいたのか。いやさ、こっから待ち合わせのとこ、ってゆーか城門のとこだけどさ、いろいろ探して歩いたんだけど、見つからないんだ、これが」
 ダグラスが、思いっきりため息をつく。
「俺が来た後、ここにきたんだな?」
「ええ」
「はい」
 二人が頷くのを見て、ダグラスは扉を閉める。
「…なんでしょうか」
「なんなんだったんでしょうか」
 二人は目を合わせてると、首を傾げた。

「ねえっ!!!」
 バン、とドアをあけ、入ってきたのは誰であろう、エリーである。
「……………」
「……………」
 ヒューイとミルカッセは一旦扉の方に目をやるが、すぐにお互いに戻すとにっこりと笑う。
「…このお茶すごくおいしいですっ」
「…まあ、ありがとうございます」
「無視しないでよ〜!!」
 そう言うと、エリーは二人の方に歩いてきた。動きが緩慢で、疲れきっているのが一目でわかる。どうやら何往復も走り回ったらしい。
「あら、すぐに出て行かれないんですか?」
 ミルカッセが不思議そうに言うと、エリーは苦笑する。
「うん。もう全然だめ。…今日はダグラスと会えない日なのかなぁ」
 悲しそうな顔でそう呟くエリーに思わず、ヒューイは口を挟む。
「いえ。たぶん…二人とも早く会いたいって思いすぎてるからいけないんじゃないんですか?」
「そ、かなぁ」
「そうですよ」
「そっか」
 ミルカッセも同意する。少しだけ笑みが顔に浮かんだ様子に二人はほっとした。
「ここで待ってみたらいかがです?」
 ヒューイの提案に、エリーが慌てて手を振る。
「ううんっ。二人の邪魔しちゃわるいからっ」
「えっ………」
「そんな………」
 エリーの言葉にヒューイとミルカッセが顔を合わせ、真っ赤になりながら言葉失った。
「はいはい、ごちそうさまっ。んじゃ、私は行くね」
 にっこり笑って、エリーは180°回れ、右をする。
 そのとたん、ドアが開いた。
「なあ、たびたびすまねえ! エリー見なかったか…ってエリー!!」
「ダグラス!!」
 扉から入ってこようとしたのはダグラスで、エリーの姿を見て驚きの声をあげた。エリーもダグラスの姿を見て声を上げる。
「どこいってたんだよ、お前。どれだけ俺が探したと」
「私だって探したんだよっ。ダグラス、待ち合わせ場所にいないんだもん」
「いないって、俺1時間待っても来ねえから探しに出かけたんだぜ」
「ちゃんと時間どおりにいったよ!私は」
 目の前で繰り広げられる口論に、ヒューイとミルカッセははらはらとして成り行きを見守っている。
 ダグラスはさらに言い募ろうとして、何かに気づき、口を開いた。
「…………ちょっと待て。エリー、お前何時集合だと思ってるんだよ」
「ちゃんといつも通り9時集合だ………あ」
 エリーが気づいたことを察し、ダグラスが深いため息をつく。
「はぁ……。誰が言ったっけなぁ。…早く行って探したいものがあるからいつもより集合時間早くしたいってことをよ」
 エリーの頬を引っ張って、ううん?とダグラスは答えを促す。
「……あ…たひでふ……」
「で、俺が悪いのか?」
「…いひえ…あたひが……わるひでふ…」
「わかればよろしい」
 指を離して、ダグラスはあっけにとられてるヒューイとミルカッセの方を向いた。
「何度もすまなかったな。んじゃ、俺らは行くわ」
 いきなり話し掛けられ、2人は少し慌てる。
「…ああ、はい。何もお構いできませんで」
「お気をつけて」
 おう、と手を上げてその言葉に答えるとダグラスは街のほうへ消えていく。
「それじゃあね、お二人さん。……ダグラス、待ってよ〜」
 頬をさすっていたエリーもにっこり笑ってダグラスの後を追いかける。
 後に残された2人は、お互いの顔を見てにっこり笑った。
「……お茶、お代わりどうですか?」
「ええ、お願いします」
 ゆったりとした時間が流れていく。



「ねえっ!!」
 バン、とドアをあけ入ってきたのは誰であろう……プリチェである。背中にはなぜか人間用の採取かごを背負っていた。
「おねえさんか、おにいさん知らない!?」
「……………」
「……………どうしたんだい?プリチェ」
 ミルカッセとヒューイが驚いた顔をして聞く。
「どうしたも、こうしたも……おねえさん、採取に行くって言って採取かご忘れてくんだもん」
 これ、とプリチェはかごを指す。そういえば、さきほどのエリーの背中にはかごは存在しなかった気がした。
「エリーさんたちなら、さっき出ていかれましたよ」
 ミルカッセの言葉に、プリチェが盛大なため息をつく。
「あ、もう、駄目だ…。邪魔になっちゃうね。今から行っても」
「うん、たぶんね」
 ヒューイの苦笑いにプリチェも肩をすくめるジェスチャーをした。
「じゃあ、もう帰るね〜」
 プリチェは帰ろうして、採取かごを背負いなおす。それをミルカッセが止めた。
「お茶、一緒にしていきませんか?」
 プリチェは、その言葉ににやりと笑い返す。
「僕、馬に蹴られたくないからね〜。二人で仲良くしておいて」
 じゃあね、という声とともにプリチェの姿もドアから消える。
 後に残るのは、赤い顔をして何もできなくなっている2人だけだった。



END




-----------------あとがき-------------------
あとがきというか…。不思議です。リリーが発売されてる今ごろエリーさんお誕生日おめでとうSS。
まあ、いいや。
というか、今スランプです。
これに関してもいろんな人に迷惑をかけてしまったような。
だいたい霧陸がうまくいかないので息抜きで書きはじめたSSなのに何故こんなにも苦労しているのでしょうか。
間違ってます。

でわでわ、このへんで。
さあ、霧陸だぁ!!