The last fort
暗い闇の中、レスカはひとつため息をつく。
少し乱れた服が、彼女の疲労を表していた。今日はもう、何もやる気がしない。明りをつけることさえも、ひどく億劫だ。
本当だったら、今は楽しく、飲んでいるはずだったのに。どこでどう歯車が狂ったか、わからない。
……嘘だ。
わからないわけではない。
ただ、考えたくないだけだ。
「……はあ」
もう一度、ため息をついた。
考えたくなくても、目を閉じれば、あの光景が浮かんでくる。
今日一緒に飲むはずだった相手が、待ち合わせ場所で、可愛い女の子と楽しく話している、そんな場面。
声をかけられていた子は、可愛くて。
(アタシだって、美人だし)
思わず、保護欲がかきたてられるかんじの。
(一緒に戦える方が大事よ)
少しのことでは、怒らないような。
(アイツが馬鹿なことしなけりゃ、アタシだって怒らないわよ!)
優しそうで。
(アタシだって………優しさくらい)
砂糖菓子みたいな女の子だった。
(………無理ね)
思わず比較してしまった自分が情けなくなって、自嘲する。
どんなに頑張っても、カワイイオンナノコにはなれない。
それは自分が1番知っている。
「さーてと、寝よっと」
言葉にして、自分の行動を確かめる。そうしないと、動けない気がした。
重い身体を、ベットにゆっくりと移動させる。
倒れこむと、ボフン、とクッションが身体を受け止めた。
「………はあ」
今日最後にしようと、ため息をもう一度つく。
しかし目を閉じると、またあの光景。
にやけた顔、さりげない気遣い、自分にはかけられない言葉。
そのことにひどく苛立つ。
アイツなんか、もう考えない。もう想ってもやらない。
少なくても今日は、これ以上辛い想いするのは嫌だ。
お酒を飲む気力すらでてこない。何も考えずに眠りにつこうとして、何度目かの挑戦でその望みはようやく叶った。
カチャリ。
物音がして、レスカは夜半に目を開ける。
「………ん」
城内だから、というわけではないが、何故かレスカはその気配に敏感になれなかった。ぼぅっとする頭を覚醒させるのも面倒で、そのまままた瞳を閉じようとする。
その時、ベッドのクッションが沈み、レスカは閉じかけた瞳をぼんやりと開けた。
枕もとに誰かが座ったようだ。
それが誰かは見なくても、考えなくても、わかる。
こんな夜中に、この部屋に、勝手に入ってくるなんて1人しかいない。
だからといって起きようとも思わず、もう一度眠りにつこうとしたその時。
頭をそっと撫でられて、ようやく意識がはっきりした。
パシっと頭を撫でる手を振り払う。
「やめて」
「起きてたのか?」
低い声は、やはり考えていた人物で。
レスカの機嫌は、最低ラインまで落ちる。
「……寝てるの。起こさないでよ」
相手はそんなことはお構いなしに話しかける。
「お前、今日の約束忘れてたろ」
「…………忘れてないわよ。行かなかっただけ」
本当は行って帰ってきたのだけど、それを言うのはプライドが許さない。
「嘘つきだなー。お前って」
「嘘じゃないわよっ!!」
がばり、と起きたその瞬間、そのまま唇を奪われた。
「んっ!!」
殴ろうとした手は、すでに捕まれていて。
「乱暴なんだよ、おめぇは」
にやりと笑われたのが癪にさわる。力を入れてもほどけなかった手をあきらめ、自由な足で相手を蹴ると、ようやく両手が自由になった。
「いってぇな」
「自業自得よ」
冷たく言っても声が微かに震えて様にならない。ここで言い放たないと効果がないのに、相手につけいる隙を与えてしまう。
「何怒ってんだよ」
案の定、出ていくどころか、近くに寄ってくる。ついでに、さりげなく髪に触られた。心地良い。……なんて、思ってられないのに。
「怒ってないわよ。……出ていって」
髪を触っていた手が首筋に降りてくる。そのまま引き寄せられるのを、抵抗しようとした時、耳元で囁かれた言葉。
「で、妬いてんのね。レスカさんってば」
どうしてわかんのよ!なんて言葉は言わなくてもバレていたらしい。
「………んんっ」
深い口付けにすべてを忘れかけそうになって、あわてて自分を取り戻そうとする。けれど、さらに交わされる口付け。
悔しくて、悔しくて、悔しくて。
涙がにじむような感情に押されて、怒鳴うか、殴ろうか、蹴ろうか、それとも……。
抱きしめて、離さないでおこうか。
とりあえず、目を閉じて。温もりを感じてみた。
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