「桃色の紅茶を飲もうかね」
おばあちゃんがそう言えば、ぼくの家ではお茶会がはじまる。
本当の名前は「ピーチアプリコット」というらしい。けれど、ぼくは「桃色の紅茶」の方が好きだ。なんだか、あったかい気持ちになるから。
お茶会にでるのは桃色の紅茶だけじゃない。
あるときはケーキだったり、あるときはクッキーだったり。ほとんどの場合は甘い甘いおかしがでる。
いつもの3時のおやつにはでないごちそうだ。
けれど、ぼくが1番好きなのはジンジャークッキー。
桃色の紅茶と一緒に食べると、ほかほかしてとてもイイ。ちょっと寒くなる今の季節には最高だ。最初ママにそう言ったら「ナマイキ言ってるわ」と相手にしてくれなかったけど。
だからこの事実を知っているのは、ぼくとおばあちゃんだけだ。
おばあちゃんはやさしい。
それは、すごくすごく知っている。
すごくすごくわかっている。
だけど、この前ぼくはすごくすごくひどいことをしてしまったのだ。
その日、ぼくは友だちとケンカしてしまった。給食のデザートがきっかけだったんだけど、それは帰り道までずっとつづいていた。
だから、家に帰ってもぼくはずっとふきげんで。
おばあちゃんが、
「桃色の紅茶を飲もうかね」
と言ってくれたのに、
「そんなものいらない!」
なんて言っちゃったんだ。
そんなのは本当はウソだ。ぼくは桃色の紅茶も大好きだったのに。
それから、「桃色の紅茶」の時間はなくなってしまった。
学校の近くのいちょうの木が黄色になっても、「桃色の紅茶」の時間はできなかった。
あやまらなくちゃ、って思ってもなかなかできない。
だけど、おばあちゃんともう一度「桃色の紅茶」をしたくて。
ぼくは考えに考えて、ジンジャークッキーを作ることにした。できたらおばあちゃんに、
「桃色の紅茶をしよう!」
というつもりで。
学校の図書室でこっそりジンジャークッキーのつくりかたの本を見た。いつもの人形のかたちのやつだ。ひとつひとつノートに材料をかいていく。
ためたおこづかいは、今日全部もってきて、帰りにスーパーによって材料を買った。
ママには内緒で台所でクッキーをつくる。
バターとさとうをボールに入れて、いっしょうけんめいかきまぜて。たまごを入れて、こむぎこを入れる。あとはベーキングパウダーとしょうがを入れて、もう一度かきまぜて。
かたちはぼくのオリジナル。あとはオーブンにいれて焼くだけだったのに。
ほんの少し……いやかなりこげちゃったんだ。
すごく、すごくがまんをしたけど。
お皿にこげたジンジャークッキーを置いて、おばあちゃんの部屋に行ったとたん、ぼくは泣いてしまった。
ひどいことを言ったことがかなしかったのか。
クッキーがうまく焼けなかったことがくやしかったのか。
ぼくにはぜんぜんわからなかったけど、おばあちゃんは全部わかってくれて。
「桃色の紅茶をしようかね」
とあったかい笑顔でいってくれた。
ぼくは何も言えなかったから、ぶんぶんと首をたてにふって。
それから、ぼくとおばあちゃんは2人だけのお茶会をした。
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