海への思い


 子どもの頃いつも海が近くにあった。子どもたちだけで海に行った。大人は忙しくて子どもは暇だったからだ。夏になると、自分たちだけで歩いて行った。

 うんと小さい頃はパンツで泳いだ。大人も下着で泳いでいた。
海岸から見える所に大岩があって、大人たちはそこまで泳ぐと岩に乗り休んでいた。
そこまで泳げることが理想だった。その大岩から飛び込んで頭を海中の岩にぶつけて血だらけになっている大人を見た記憶がある。

 その大岩のさらに向こうに赤旗が立っていた。そこまでが遊泳場所なのだ。クロールでその赤旗まで一気に往復する近所の若者に憧れた。

 台風の近づく日に海に行った。帰りに近所のおじさん、おばさん連中が真剣な顔で迎えに来たのに出くわした。母もいた。

 高校の頃バレー部の友人がふと、子どもの頃妹が海で死んだ話をした。

 小学校の頃教師に引率されて海に行った。校長先生が大きな腹を浮かして背泳ぎしているのを記憶している。校長の向こうに安全のためだろう、ロープが張ってあった。学校に着くと中庭に集められ、3階の窓から消火栓のホースで勢いよく水をかけられた。みんな悲鳴とも歓声ともつかぬ声をあげた。あれがシャワーだったのだろう。

 だから海が好きだ。湘南の海は自分には似合わない。でも海が好きだ。