離任式

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 小学校の先生になって驚いた事の一つに離任式がある。退任する人もいるので、離退任式とも言う。
学校を移動した先生方がわざわざ前任校に戻って挨拶をするのですね。たいてい始業式、入学式のあった翌日だ。離任者は現勤務校のクラスの自習体制を作ってから8時半前に校長室に来て雑談している。自習体制を作ってからといっても、実際には昨日の始業式でクラス発表があって、初めて出会った子供たちだ。しかもその直後に入学式が始まるのだから、実質何のクラス運営もしていないのだ。自習といったって同僚に丸投げして出てくるわけですね。一応出張扱いなわけだ。もちろん出張手当も出る。
 8時半に職員室で全校職員を前に挨拶が始まる。その間、子供たちは全員体育館に集合。ひたすら待つわけです。一人か二人の先生が安全要員としてステージ上でにらみをきかしているわけです。
 で、職員室。ひとりひとりが挨拶していくわけだが、当時は13年とか15年とか同じ学校で勤務していた教員が多く、感激のあまり泣き出す者もいる。聞いている同僚も涙。写真撮影とか花束贈呈とかあって大いに盛り上がるわけです。気がついたら優に30分は超えている。体育館のこどもたちは待ち疲れている。
 こんな大人同士の挨拶は別の場所と時間でやればいいのだ。実際親睦会の歓送迎会なるものでその後、某宴会所で某日某夜大いに盛り上がるわけなのだから、勤務時間内にやる必要はない。
 校長先生を先頭にやっと体育館に先生方が登場する。児童たちは拍手で迎える。その後、延々と挨拶がステージ上で続く。挨拶といったって1年から6年まで担任するわけじゃないからね。知っている子はごく一部ですよ。前年6年生の担任だった者は、知っている子がいない場合もある。こどもにとっては退屈を通り越して苦痛だと思いますよ。近頃では、その辺を勘案して同僚同士事前に相談し、5,6人でいっせいにパフォーマンスをして終わりにする善良な教員もいます。でも、退任者、元校長ともなるとそういう扱いもできず、延々と挨拶が続くわけです。その後、児童たちの拍手の中体育館を退場します。昔はその後、校庭を鼓笛隊の先導の下、パレードのように正門まで行進していましたね。もっと昔はPTAの三役がマイカーで送り届けたなんて話もありました。
 いずれにしろ、子供たちを巻き込んで、自習までさせて、勤務時間内にやる必要なんてないですね。仲間内でやればいい事を公務にしている。教育活動という美名の下、慣例、前例という事で押し通しているわけですよ。
 なお、臨時採用の教員は呼ばれる事はない。現勤務校でちゃんと働いています。最近ではそれでは同じ先生として不公平というのでしょうねえ、終了式の後、ステージ上で挨拶させている学校も出てきました。臨時採用の先生は一度首を切られて再任用という形になるので、それでもいいという理屈らしいですよ。教員の場合は、人事異動は4月1日まで公表してはならないという原則の下、3月中にお別れの挨拶は禁止されているのです。
だったら、そのまま無しで済ませばいいと思うのです。大体進級するにあたって、担任は変わる可能性があるのだから、その時点で子どもにお別れの挨拶をしておけば、それで教育上の指導は済むのですよ。4月に現勤務校のクラスを自習させてまで、前任校の子供たちに挨拶に来る必要は無いって。
 自分はこのたび、移動になりそうだ。3回目の移動となる。前回まではこの離任式に参加してきたわけだが、今回は熟慮の上不参加を決意した。校長に通告する。移動先の校長から出張命令が出ても拒否する。まあ、職場に残って仕事をするわけだから、処分という事態にはならないだろうが、万一処分されたら裁判で争うつもりだ。学級に残って指導するのと、自習にしてまで前任校の児童の挨拶に行くのとどちらが勤務として妥当なのかを争うつもりだ。今までこういう裁判が無いわけだから、おもしろい事になるだろうね。楽しみだ。どっちみち後5年で首になるわけだから、とことん闘ってみたいね。