25年ぶりの井の頭公園

表紙へ戻る

 若い頃、井の頭公園駅から歩いて10分ぐらいの所に住んでいた。もちろん貸家だが、閑静な住宅地の中にあって気に入っていた。この駅自体が、大きな木を駅舎が取り込んでいるという絵本のようなものだったので不思議な感じだった。吉祥寺から公園の中を歩いて帰る事が多く夢のようにきれいな思い出の地だ。
 そこへ彼女と25年ぶりに訪れる事になった。
自宅からバスに乗る。バスに乗る事自体が1年ぶりだ。いつも自家用車で動いているというのは贅沢のようで案外貧しい事なのかもしれない。本厚木からロマンスカーに乗る。サポートという名前もついていてまぎらわしい。日本語一つでいいと思うのだ。乗車券480円に特急券550円だ。出かける前に駅スパートというパソコンを買ったおまけのソフトでいろいろ経路を探索したのだが、結局これにする。1号車の101と102だ。禁煙席。子どもみたいにうれしくなってデジカメで写真や動画を撮る。運転席越しに線路が見えたのもうれしい。
 新宿から人波に飲まれる。普段子どもとしか接してないので、多くの大人に囲まれるのは人疲れがする。吉祥寺駅は昔のままのような気もした。この駅ビルの中に歌声喫茶があって何度かビールを飲みながら歌った記憶がある。
 駅を出て右折する。人の流れは直進なのだが、自分の記憶のままに行動してみた。公園の湖が見えてきた。こんなに桜のきれいな時期にここに住んでいた記憶はない。なんとも華やかな景色だ。桜と噴水と人々の歓声に包まれている。花見の時期なのだ。きのうの大雨と違って青空が広がっている。その中で桜のピンクがより鮮やかに舞っているのだ。彼女とそぞろ歩きを楽しむ。
 公園駅のたたずまいがどうも昔の記憶と違う。あの木がないのだ。やはり25年たっている。記憶をたどって住宅地の中を歩くが、昔住んでいた路地を見いだす事はできなかった。
 駅前のコンビニでビールとサンドイッチを買う。公園のベンチで彼女とささやかな宴会だ。子供たちがすべり台やブランコで遊んでいる。自分も懸垂から逆上がり、腕立て前、後転などやる。彼女から食べた後すぐ運動してだいじょうぶ?とたしなめられる。






 思えば25年前この地で教師になる決意をしたのだ。新卒で意気揚々と就職した都民生協は、なじめなかった。教員実習の時の熱意がなつかしかった。やはり教師をやりたいと思ったのだ。退職、浪人、フリーター、紆余曲折があってまたこの地に来た。今や女房、子ども持ち24年目のベテラン教師だ。あと何年できるかまったく自信は無いのだが、あの時の教師をやりたいと思った純粋さで子どもとぶつかっていきたい。そうでなければ、我が人生に意味がない。