私が私を好きでいる理由(わけ)
短歌をつくるという雅な趣味はないけれど、歌人の俵万智さんのファンである。先日、歌文集「花束のように抱かれてみたく」を読んで、おこがましくも(私も、こんなものを書いてみたい!)と思ってしまった。歌を詠まれる方から見れば、ただ文字が並んでいるだけのものではあるが・・・
合奏の音に混じりし我の音 力足りなさつくづく感じ
中学校の国語の宿題で、私が生まれて初めてつくった歌である。体育は大の苦手、音楽は得意だった私は、部活動で吹奏楽を選ぶことに何の躊躇もなかった。パートも、迷わずフルートを第1希望にした。何でだろう?
残念ながら、私とフルートの出会いは、とってもありきたり。小学校時代、音楽部で鍵盤ハーモニカを吹いていた私の目の前で、ひとつ年上のかっこいい先輩(女の子)が、フルートを吹いていた。たぶん、その姿に憧れたせいだろうと思う。
チビだったので、顧問の先生も(大きい楽器は無理だ。)と思われたのだろう。難なく希望が通り、私のフルートライフが始まった。
さて、当時の顧問の先生は、新卒で赴任され、数年で片田舎の無名の中学校の吹奏楽部を県下でも屈指のレベルにしてしまったという偉大な方である。ましてやスポ根マンガ全盛の時代、部活は厳しいものと決まっていた。吹奏学部だって、「血の汗流せ、涙を拭くな」の世界である。でも、打ち込めるものに出会えた私は幸せだったな、と思う。
しみじみと銀(しろがね)の笛しみわたる
今度は、高校の現国の宿題で作った俳句(?)である。五・七・五の頭が全て「シ」の音になるという技巧的な句なのだが、才能ないので完全な失敗作である。
私は銀が好きで、フルートを選んだ理由のひとつは色である。長らくADを愛用していたが、最近グレードアップして9Kを購入した。9Kは、金色というよりピンク色をしているが、軽くて反応がよくて、とても気に入っている。
ところで先日、娘の通う保育園で、フルートのミニ・コンサートがあった。こういってはなんだが、田舎の保育園にプロの方が気軽に来てくださるとも思えない。音大の学生さんかボランティアの方だろうと思い、何気なく娘にきいてみた。
私:今日、笛を吹いてくれたのは、お姉さんだった?おばさんだった?
娘:ううん。おじさんだった。
私:おじさんが、ママと同じ笛を吹いてくれたの?
娘:ママと同じ笛じゃなかった。黄色い笛と黒い笛を吹いてくれたの。
いろいろきいてみて、男性のフルート奏者が金製のフルートとピッコロを吹いてくれたらしいという結論に達した。後でわかったことだが、外国で修行中のプロの方だそうである。しかし!私だって、ボーナスをはたいて買った9K(黄色くないけど)と某外国メーカーのピッコロを使っているのである。やはりプロの音は別物だ、と娘は言いたいのであろうか。
他に特技もなかったため、大学でも吹奏楽団に入った。好きな人もできた。その人も、笛吹きである。**年も前の片思いの話で彼が気を悪くするとも思えないが、迷惑がかかってもいけないので、詳しい話は省略する。省略すると次の歌の意味はまったく分からなくなるのだが、仕方がない。ま、彼に捧げる歌だからいいでしょう。
一文字の違いはいつか広がれど 君は今でも笛吹きですか
私は、全盛期の絶好調のランパル氏の演奏を生で聴けなかった不幸な人間である。20年程前の演奏会では、氏はひどい鼻かぜをひいておられた。客席からみていても、それはそれは辛そうで、演奏はもちろんすばらしかったものの、(ベストの演奏ではなかったなあ。)とちょっとがっかりした覚えがある。
7年程前の演奏会では、失礼ながら(さすがに、もうお年だなあ。)というのが第一印象である。しかし、70歳!現役!しかもこの演奏!という事実に気がついたとき、目からウロコが落ちた思いがした。当時、忙しさに追われ、フルートも趣味としてなんとなく続けてはいたものの、以前のように(うまくなりたい。)という情熱はなかった。でも、70歳になった時にあんな演奏ができるのなら、なんでもすると思った。
その日から、私の人生観はちょっぷり変わった。練習用の防音室を作り、新しい楽器を買い、ボーナスがものすごい勢いで消えていった。ランパル氏は、やはり「フルートの帝王」の名にふさわしい方である。ただ、どうしても心残りなのは、「恥ずかしいからやめろ。」と主人に言われて、氏に花束を渡せなかったこと。次の機会には、主人になんと言われようとも花束を持って駆けつけよう!と固く決心していたのに、それも叶わぬ夢となってしまった。いつか、墓前に花を捧げたい。
在りし日の君の姿を偲びつつ 今日は一日モーツァルトを聴く
フルートを吹くこと、吹き続けることは、今の私にとってはとても大切なことである。笛を吹いていると、私の中のいろいろなことが浄化されて、少しだけマシな人間になれる気がする。
今日もまた笛を吹きつつ確かめる 私が私を好きでいる理由(わけ)
・ムラマツのエッセイに応募して、賞金5万円をゲットしたら新システム・パッドにかえよう、と壮大な計画を立てたんだけど・・・ボツみたいです。
・HPの名前は、最後の歌からとりました。自分では気に入ってるんですけど、最近どこからこの言葉を考え付いたのか、やっと気がつきました。
・中村紘子さんのご主人・庄司薫氏の「僕が**を話せる理由」、ご存知ですか?