かえりみち


「降ってきたわねー……」
 グレイと2人、街へ出かけていたアリスは、吹きつけてくる風と雪から自分を守るように自分の顔へ両手をかざした。
 出かける時は晴れていた空も、今ではすっかり雲に覆われ、辺りはすっかり吹雪模様。
「これはもっと強くなりそうだ。急ごう」
 うかうかしていては体が冷え切り、雪が降り積もって真っ白になってしまいかねない。アリスは普段よりも早足で塔を目指す。
 道に降った雪の層が少しずつ、少しずつ厚くなっていくのが、靴裏の感触で分かる。
 隙間から風が入り込んで体がすっかり冷たいが、寒さに震えていては遭難しかねない。
「きゃ……!」
「アリス? 大丈夫か!?」
 今までよりも、一層強い風が吹きつけて来て、大粒の雪がアリスの頬を叩く。思わずこぼれてしまった悲鳴に、グレイが血相を変えて顔を覗きこんでくる。
「だ、大丈夫。ちょっと驚いただけで……」
「……アリス」
 グレイはアリスの頬に手を伸ばすと、そのまま頬を拭った。離れた指先には、雪のかけら。冷え切った顔はもう、くっついた雪を溶かすことすらできないらしい。感覚が麻痺してしまっていて、グレイのぬくもりも感じるようで、感じられない有様だ。
「痩せ我慢は止さないか。こんなになって……大丈夫なはずが無いだろう」
 そんなことない、と否定を重ねようとしたアリスだったが、グレイの顔はあまりに真剣で、言葉に詰まってしまう。それを見たグレイは小さく溜息をつくと、自分のコートの前を開け、もう反対の腕で有無を言わさずアリスの体を引き寄せた。
「グレイ!? そんな事をしたら、あなたが……」
「俺のことなんて気にしてる場合か。……君が風邪でも引いたらどうするんだ」
 後半、グレイが微かに声を荒げていたのは怒っているからじゃない。心配しているからだと気付いてアリスは黙る。ただ、じっと黙ったまま、引き寄せられたコートの内側で、グレイの腰に腕を回した。
 ――あたたかい。
 きっと、グレイには、ひんやりと氷のように冷たい感触が伝わっているのだろうけれど。
 チラリと見上げたグレイは、そうとは思えないくらい暖かく優しげに笑んでいた。
「それでいい。――たまには、背が高いのも役に立つものだ」
 こうして、すっぽりと君を包んでしまえるのだからと笑って、グレイは首元に巻いていたマフラーを緩めた。そのままふんわりと、襟元にいたアリスの頭を覆うようにして巻き直す。
「ちょっと隙間風が入るかもしれないが、これなら雪が積もる事は無いはずだ。……さあ、帰ろう」
 さっきのように足早にとはいかないけれど。グレイは、引っ付いているアリスが決して転ばないよう、スピードを選んで、歩いてくれる。
 冷え切っていた頬に紅が差す。
「……グレイ、本当に寒くない?」
「大丈夫。……人のぬくもりというのは、思った以上に暖かいものだ」
「そう…………」
 マフラーに邪魔されて、グレイの顔は良く見えないけれど、きっと彼は笑っているだろう。
(そうね。とても――あたたかい)
 目を閉じていても、グレイがいるから問題なく歩くことができる。どうせグレイのコートに覆われて、前なんてほとんど見えないのだ。だから、アリスは瞳を伏せた。もっとグレイをしっかりと感じたまま、歩いていたいから。
 ……グレイの体温で、かじかんだ指先がほぐれる頃には、きっと塔に着くだろう。
 そうしたら、今日は私が彼の代わりに、ココアを用意してあげよう。
 きっと彼の体は、私をかばって、氷のように冷たくなってしまっているだろうから。

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24/11/08
 拍手お礼SS。2011年くらいに書いたもの(のはず)です。