ドレスの色は


「ところで、アリス、君は何色がいいんだ?」
「は?」
 何のこと? とアリスは訝る視線をエースへ向けた。彼の話に脈絡が無いのは、まあ、いつものこと。
一体いきなり何の質問だろうか、と首を傾げれば。
「だから。ドレスの色だよ。俺が赤のタキシードを着るなら、君のドレスは何色がいいんだろうと思ってさ。花嫁といえば、定番は白ってことになるんだろうけど……」
 ふと、脳裏でイメージする。
 赤いタキシード姿の隣に並ぶ、純白のドレス姿の自分。紅白で並ぶだなんて、おめでたい色合いだけど、なんだかどちらかというと喜劇でも見ているかのような印象があり、どこか滑稽で……。
(って、そうじゃなくて!)
 エースのプロポーズらしきものを、アリスはまだ正式に受けた覚えは無い。彼が結婚を意識した発言を
妙に繰り返しているのは知っているし、その相手にアリスを想定していることも知っている。あまつさえ、ユリウスに神父役を頼むところまで、この目でしっかり見て聞いてさえいる。
 しかし、アリスはハッキリとプロポーズされた覚えはないし、当然、それに答えた覚えも無い。
 だというのに、こうしてドレスの話を持ちかけられて……まるで、徐々に、徐々に、外堀から埋められて包囲されていくかのよう。
「普通は白でも、色を揃えるなら赤だよな。それとも、他になにか着てみたい色でもあったりする? 前にも言ったけど、俺は君の期待に応えられるように全力を尽くすぜ?」
 赤……。
 白よりは、赤の方が色合いが揃って良いような……。
(いや、だからそうじゃなくて)
 ついつい脳裏でイメージしてしまう自分が、我ながら憎らしい。
 こんなドレスが着たいだなんて、強くイメージする希望があるわけじゃない。だから、じっくり聞かれてしまっても、その、困る。
 それに何より。結婚……だなんて。
「……どうかした?」
 黙りこむアリスの顔から何か感じ取ったのか、エースはアリスを覗き込んでくる。探るように、見透かすように。アリスはきゅっと硬く閉じた唇から少しだけ声を紡ぐ。
「……別に。なんでも」
 ない、わけじゃない。
 でもアリスには、それ以上何も。
「ふーん」
 言えずにいるアリスを覗き込んで、エースは笑う。どこか楽しげに見えるのは、アリスの気のせいだろうか?
「うじうじしている君は大好きだ。でも、1人であんまり抱え込まないでくれよな。健やかなるときも病めるときも、喜びのときも悲しみのときも、全て2人で分かち合うために結婚しようとしているんだからさ」
 君の抱えている荷物を半分持ってあげるよ、と、かつてエースは言っていた。物理的なものではなく、心が抱えているものを、一緒に。
 でも……その原因がエース本人だというのに、率直に言えるのかといえば。
 思わずこぼれた小さなため息に、エースの指先がそっとアリスの喉元に伸びる。撫ぜるようにしながら上へとゆっくり辿ったそれに、顎を持ち上げられて、視線をそむける事は許されない。
「アリス」
「……言いたくない」
 子供みたいに頬が膨れているのが分かる。それでも、口にしたくは無かった。できなかった。つまらないこだわり、なのだろう。そんな恥ずかしい感情を知られたくなかったし、自ら説明するだなんて。
(ほんとは気付いて欲しいのかしら)
 ぐるぐると感情が渦巻いて、自分でもよくわからない。
「……教えてよ。そんな風に言われたら、余計に気になるじゃないか」
 エースの囁きは吐息に溶けて。ゆっくりとアリスへ沁みこんでいく。
 意地でも隠したいと思ってしまっている、それを暴くかのように。入り込んだ領域を押し広げて、逃げる場所を失わせ――秘密なんて、許さない。

 途切れ途切れの断片から意を察したらしいエースは、呼吸を乱して不満気に黙り込んだアリスへ、どこか満足そうな顔で笑いかける。
「言わなくちゃ、わからない?」
「……わからない」
 ふいっと顔を背けたアリスに伸ばされる指先。薄く笑って、言葉も無く引き寄せるそれに、アリスは抗おうとはしなかった。
「――結婚しよう、アリス」
 してくれるよな? とまでは言わなかったけれど、その返事を確信するかのようなエースが憎らしくて。アリスは頬を膨らませて黙り込んだまま、ただ、ぎゅっと回した腕へ力を込めた。



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2012/01/09  「おもちゃ箱のアリス」のエース(原作)ルートをプレイしたら、まさかの展開で「ならドレスの話を書きたい!」と思って書いたものです。あと、いちゃらぶが書きたくて!