トゥイードル=ディー&トゥイードル=ダム〜喧嘩〜


「えっ!? ケンカ!?」
「そうですよ〜。みんな、この噂でもちきりです〜」
 廊下の掃除をしていたアリスは、同僚の話に愕然とした。
(ディーとダムがケンカだなんて……!)
 そもそも二人とケンカをしていたのは自分だったはずだ。そのせいで、ちょっとギクシャクして気まずくて、ここ数時間帯は彼らから遠ざかっていた。
 その間に、まさかあの2人までケンカをしてしまっているだなんて。
(もしかして、私のせい……?)
 話によると、2人はすっかり冷戦状態で行動もすっかりバラバラ。完全に別行動を取っていて、廊下などですれ違っても声はおろか、視線すら交わそうとしない有様だという。
 あの2人がそんな状態になるだなんて思いもしなかったし、同僚から聞いても想像すらつかない。だが、2人がそんな事になってしまったのだとしたら……タイミング的に、そのきっかけは、もしかしたら自分、なのだろうか。
(ありそう……)
 詳しい事情を聞いて、もしそうなら2人を仲直りさせなくては。
 仕事をしながらも、アリスの頭はディーとダムのことでいっぱいになってしまう。

「……仲直りなんて必要ないよ」
 2人の姿を探して、とりあえず門へ向かったアリスはディーに遭遇した。
 そう、ディーだけが門の前に立っている。
(ひとりだけで門番をしているところなんて、初めて見たわ……)
 つまり、それだけの状況になっているということなのだろう。話しかけるアリスだったが、返事はそっけないものだった。
「で、でも……」
「それよりお姉さん、一緒に遊ぼうよ。たまには僕1人とだけ一緒に遊んでよ? ね?」
「い・や! 二人一緒じゃなきゃ遊ばない。……ケンカなんて、良くないわよ。早く仲直りしなさい」
「えーっ!?」
 そんなあ! と声を上げているディーを残し、今度はダムを探すアリス。
 ダムの方は自分の部屋にいた。ケンカの原因を探り、そこから仲直りさせるきっかけを探そうとするアリスだが……。
「……お姉さんには言いたくないよ」
 ふいっと目を逸らしながらのダムの言葉に、今度はアリスの方が衝撃を受けてしまう。
 ただ「言いたくない」のではなく「アリスだから言いたくない」。
 もしかしたら、ディーがそっけなかったのも、それが理由なのかもしれない。
(あんな些細なことでケンカしてしまったせい? それとも、私はそんなに頼りないのかしら)
 いつだって仲がいい双子の間には、アリスに入り込めない絆があるように思う。それは、ケンカした時でさえ、そうなのだろうか。
「……お姉さん? どうしたの?」
「どうって……何が?」
「だってお姉さん、泣きそうな顔をしてるよ」
 はらはらと心配した様子のダムが覗き込んでくる。余程酷い顔をしているのだろう。
 その挙句に、心配までされてしまうなんて……。
「……自分の不甲斐なさが悔しいのよ。あんた達のケンカを何とかしたいと思ったのに、全然役に立てそうに無いんだもの」
「お姉さん、それは……」
「――お姉さん!?」
 そこへディーが駆けてくる。何かしたのかと追求するようにダムを軽く睨むディーに、アリスはハッとして首を振る。
「違うの。何でもないわ。……2人とも、お願いだからケンカは止めて。そんな2人は見たくないわ。私で力になれる事があるなら、何だってするし……」
 理由を教えてくれないのも、力になれないのも悔しい。
 ……寂しい。
 でも何より、こんな状態の2人をこれ以上見ていたくないから。
 そう2人を見ながら訴えかけるアリスだったが……。
「本当?」
「嬉しいな、お姉さん」
 その途端に双子達はにっこり笑った。
 互いを見ながらにっこり笑って、にっこりにっこりアリスを見つめる。
「……は?」
(……ケンカしてたんじゃなかったのか?)
 ケンカの様子など片鱗も感じられない。ディーとダムはいつもと何も変わらない様子で、二人並んでいる……ように見える。
 どういうこと?
「やだなぁお姉さん。僕達がケンカなんてするわけないじゃないか」
 ねー、と顔を見合わせる双子達。
「じゃ、じゃあ、さっきまでのあれは……!?」
「お姉さん、この間僕達のことをすっごく怒ったでしょ?」
「お姉さん、僕達のことをすっごく怖がって近寄ってくれなくなっちゃったから……」
「またお姉さんが、いつもみたいに僕達のところへ遊びに来てくれるように、ちょっとお芝居しようってことになったんだ」
「でも、ちょっとやりすぎちゃったかな、兄弟」
 お芝居。
 アリスは一気に脱力した。
「でも、一応ケンカしたのは本当だけどね。どっちがお姉さんを怒らせたのかー、とか」
「こうなったら、どっちがお姉さんを自分の物にするか勝負だー、とか」
 ねー、と顔を見合わせた双子達は、一糸乱れぬ動きで、同時に、アリスを見て笑う。
「でもお姉さん。お姉さんが『何でもしてくれる』って言うなら、僕達いつでも仲直りしちゃうよ」
「そうそう。僕達が仲直りするには、お姉さんが必要だからね」
(……ん?)
 ニッと笑っている双子達だが、なんだかちょっとおかしい気がする。
 そもそも、多少の言い争い位はしたようだが、屋敷で噂になっているような深刻なケンカではなかったのよね……?
 じり、と一歩下がろうとするアリスだが、後ろにいたディーがアリスを逃しはしなかった。はいはい、と軽くアリスを押し込んで部屋の中へ入れてしまうと、ディー自身も部屋に入って鍵をかける。
 ――鍵。
 ……鍵?
「ねえお姉さん。僕達がちゃんと仲直りできるまで、一緒にいてくれるよね?」
「もし、この間みたいに逃げられちゃったりしたら……僕達、もう二度と仲直りなんてできなくなっちゃうかもしれないよ?」
 ねえ兄弟? そうだね兄弟。
 頷きあう双子達に両腕を取られ、アリスは部屋のもっと奥へと連れて行かれる。
「ちょっ……あんた達? もしかして最初から、そのつもりで……!?」
「えー? なんのことー?」
「嫌だなあ、お姉さん。僕達仲直りしたいだけだよ、仲直り。僕達今まで以上にもっともっと仲良くなれるって。ねえ兄弟」
「そうだね兄弟。お姉さんが一緒なら、すごくすごーく仲良くなれるよね」
「〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!!」
 ぜひともアリスを巻き込まず、2人だけで仲良くしていて欲しいところだが、ディーとダムがそれをよしとするはずもない。
「あっ、あんた達、ぜんっぜん懲りてない……!」
 怒るわよ、この間よりも何倍も怒るわよ、もう二度と口を利かないわよ……! などとまくしたてるが、2人はにっこり笑うだけ。
 そうは言っていても、アリスにそんなことなんて出来はしない。きっと2人も、もうそれを知っている。
 たとえケンカをしたとしても、嫌いになんてなれやしない。
 それを理解して逆手に取ってくる、ずるいずるい子供達。
 その子供達に自分が甘いことを、自覚せざるを得ないアリスだった。

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2011/10/27  この2人の切り札は、やはり良くも悪くも「子供」であることだと思うんですよね。
 そんな2人がアリスに対して、いざというとき切り札としてそれを利用するとしたら……? と考えたら、こんな風になりました。この2人がケンカするなんて、絶対に裏があると思うんですよね。