2019/01/09 仔鹿物語 Yearling を 俳優コーパスに追加
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仔鹿物語 The Yearling を 俳優コーパスと日英対訳コーパス・コーポラに追加した。
俳優コーパス ⇒http://www.mintap.com/ns/z8/
俳優コーパスは名作映画を特選して俳優ごとのセリフを収録したコーパスで、仔鹿物語で 25 作目となる。
コーポラ CORPORA ⇒http://www.mintap.com/talkies/pac/corpora.html
コーポラは 映画(会話)とプレゼン(講演)の2系列が検索可能なコーパスだが、The Yearling の会話シーンも検索可能になった。
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もくじ |
- 仔鹿物語について
- あらすじ
- 基本情報
- 際立った特徴が3つ
- フロリダの広大な自然が楽しめるシーン
- えっ 白人成人が 普通に非文法的な表現!?
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製作は第二次世界大戦が終わった直後で、1947年の公開である。
原題の Yearling は、生まれて1年数ヶ月の動物の子供をさす単語だ。学校英語では聞きなれないが、日英対訳コーパス・コーポラで検索しても この映画の中で 10 回使われているだけと言うほど、レアな単語である。
競馬で言うところの2歳馬にあたると聞くと、ピンと来るかもしれない。未熟な人をけなして言う言葉の青二才とも通じるところがあるのかもしれない。
時代は、映画「風とともに去りぬ」で描かれている南北戦争の終わったころだが、戦争の血なまぐさい話は出てこない。
舞台は米国南部ジョージアのさらに南にあるフロリダ半島に広がる森である。ディズニーランドがある辺りで、美しい自然と動物が映画の見所ともなっている。
日本で喩えると、幕末から明治初頭にかけての北海道の開拓農家のホームドラマと言ったところだろうか。
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南北戦争ですさんだ都会を離れ、一人フロリダで開拓者となったペニー。原野を切り開き畑を広げ、近くの村の娘と一家を構えて貧しくもささやかな生活を送っていた。11歳になった一人息子が仔鹿を飼い始めたところからのっぴきならない騒動へと発展し、決断を迫られていく父親を グレゴリー・ペックが演じる。
森の中の一軒家の一人息子ジョニー。父親が射止めた雌鹿に仔鹿がいることがわかり、友だちのように育てるのだが・・・。自然の優しさと厳しさに囲まれて成長する姿が美しい景色に溶け込んでいく。
厳しい自然の中で幼子を亡くしてきたことから笑顔を忘れた母親オリー。一人息子を大事にするあまり、息子が育てる仔鹿をめぐってことごとく衝突を繰り返す。そしてついに取り返しのつかない事件へと発展してしまう。
ペニーのたった一人の友だち。人には見えないことを感じ取る風変わりな子供で、空を飛ぶことを夢見ている。ペニーからはお兄さんのように慕われていたのだが・・・
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題名: The Yearling
和名: 仔鹿物語 あるいは 子鹿物語
Film: METRO-GOLDWYN-MAYER
公開: 1957
色彩: カラー
音声: モノラル
時間: 128分
国: アメリカ
監督: クラレンス・ブラウン CLARENCE BROWN
主演: グレゴリー・ペック GREGORY PECK
受賞: 第19回アカデミー賞 撮影賞、室内装飾賞
著作権: 保護期間終了 パブリックドメイン
舞台: アメリカ フロリダ州 森林原野
時代: 19世紀後半 南北戦争当時
分類: ホームドラマ
言語: 英語
訛り: 南部白人、非文法 broken English
Seleaf: 25作目
分割: 13 章
字幕: 1,748 本
単語: 10,944 個
リーダビリティ平均: 中学2年
語彙レベル平均: 高校1年
発声時間平均: 1.8 秒
俳優コーパスのトップに Seleaf 収録25作品一覧がある
「仔鹿物語」は 一番右端に見える
その下の図は、収録映画の舞台を世界地図にプロットしたもの
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この映画は Seleaf 収録 25 作品目なのだが、際立った特徴を挙げると 次の3つだ。
- 主要登場人物の少なさ
- 自然の美しさが、きれいに映像化されている
- 非文法的な表現が 多用されている
主要な登場人物は、両親と一人息子の3人である。この3人で、全会話シーンの8割以上を占める。特に父親と息子の会話シーンが多いのが目立つ。これに、狩猟犬や、野生のクマ、シカ、アライグマなどがイキイキと描きこまれて物語を紡いでいくことになる。
Seleaf の俳優コーパスには 親子3人に加えて、息子の親友 Fodderwing を加えた。この友人の会話はそんなに多くはない。しかし、自由に空を飛び回わり動物たちと雲に乗るという一風変わった性格が、物語に独特の雰囲気を与えている。
俳優コーパス / The Yearling の部分
これまでの俳優コーパスでは 映画1本につき 6人から8人ほどを収録してきた。当時の映画の多くは90分ほどなのだが、この仔鹿物語は さらに40分増量されている。それを考えると、主要配役の少なさが際立っていることがわかる。
父親 PENNY 役に Gregory Peck が登場する。Seleaf では「ローマの休日」でおなじみの名優である。父親の会話の多さ(全体の4割)からは、この物語は 父親の物語だと言えよう。息子の成長を通した父親を描いているように見受けられた。
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百聞は一見に如かずという通りなので、次のシーンを取り上げてみた。
次の URL あるいは QR コードから鑑賞できる。
QR コードでアクセスするときは、画像を拡大して行うとよい。
以下のURLからでも アクセスできる。
フロリダ州と言えば ディズニーランドのフロリダ版(ディズニー・ワールド)があるところだが、建設(1960年代)以前は森林原野に囲まれた一面の沼地だったという。そのあたりの雰囲気もこの映画に見ることができる。
映画で気に入ったシーンを共有したり、使えそうな表現を見つけて授業で紹介したいときがあるものだが、今回紹介した URL は、そうしたニーズに応えるために開発中の仕組みである。この場面だというところで、ワンクリックでその場面へのリンクを送受信可能とする機能だ。これができればCALL教室でなくても、一般教室や野外でも、スマホやタブレットがあればe-ラーニングができるようになる。
この仕組みは最終調整中なので、年度が替わる前に公開できる計画だ。
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映画の会話を一つずつ聞き取りながら書き起こして、音声に忠実な字幕を作ってきて10年を超えるが、この映画ほど驚かされたことはなかった。たとえば「風と共に去りぬ」では黒人英語の非文法的な表現が多用されていて、驚いたというか、活字でしか知らなかったことを体験させてもらったのは何年も前のことだ。
それに引き換えこの映画の非文法さは、理論的にはよく知っていた範囲内のものだった。それは、言語獲得の初期には、規則と現実が同時進行することで、身につけたばかりの規則(例えば過去形にするには ed を付ける)を無条件に適用するという時期があると言うことだ。10歳前の子供の言語現象だと思っていた。だから、息子 Jody が「Ma, I see'd a thing today.」と言っても驚かなかった。
しかし、大の大人役の GREGORY as Penny が普通に「Now, you see'd how things go in the world of men.」と語ったのには驚いてしまった。実は母親役の Jane Wyman as Ora も「What did he say he'd see'd?」などとしゃべっているので、この家族みんなが共有している表現であることが分かった。その後調べてみたら、実は息子の Jody は「Do you reckon he saw any whales this time, Pa?」と、一度だけ「saw」を使っていたこともわかった。
「風と共に去りぬ」でも「see'd」は黒人の会話で出てきたのだが、こうしたことから、当時の南部開拓民もこのような訛りを持っていたことが推察できるのではないだろうか。
サンプルを2つ紹介する。リンクからシーンを視聴できる。
- 「風と共に去りぬ」より「I never see'd no man,」の場面
- 「仔鹿物語」より「Ma, I see'd a thing today.」の場面
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2019.01.08 田淵龍二 TABUCHI, Ryuji
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