2017/11/18 LET関東支部第139回大会
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2006年に慶応大学日吉キャンパスで行われた第115回大会で、神田先生(首都大学東京)と共同研究発表をして以来、毎回のようにLET関東支部大会で発表してきた。初回から振り返ると今年は、干支で言えば一回りした記念の年である。数えると発表回数は32回になる。全国大会とあわせると50回を超えている。多分これほど多い先生はいないだろう。
私にとって外国語教育メディア学会(LET)は、メディアによる実践的教育にそれほど密着した、他に例を見ない学会だった。教材開発と授業実践と、教授法開発と理論研究を同時に進めることができる環境を与えてくれ、数多くの先生方に支えていただいた。
干支で一回りした今回の支部大会では、2本の研究発表を行う予定であったのだが・・・とんでもない事件に遭遇することとなった。
会場となった7号館(川越キャンパスガイドより)
主催: 外国語教育メディア学会(LET)関東支部
期日: 2017 年 11 月 18 日(土曜日)
会場: 東洋大学 川越キャンパス 7 号館
〒350-0815 埼玉県川越市鯨井 2100
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もくじ |
- 英文概要理解問題の妥当性の検証
- TED Talks を選び出すウェブコーパス開発
- TED コーパスサイト停止騒動
- 会場が異様な空気に包まれた瞬間
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時: 10:35 〜 11:05
表題: 英文概要理解問題の妥当性の検証
発表者:
鈴木 政浩 (西武文理大学)
湯舟 英一 (東洋大学)
神田 明延 (首都大学東京)
山口 高領 (立教女学院短期大学)
田淵 龍二 (ミント音声教育研究所)
発表する鈴木先生
発表終了後に、活発な質疑が行われた。以下はいくつかの応答の要約である。
Q | 測定時の提示が、まず英文だけ見せ、ページが切り替わってはじめて問題文を見せるのは、試験のときに、まず問題を読んで、その後から本文を読み始めるなどのさまざまな試験時の読書行動とは異なる。また、戻り読みしたり、先読みもするので、英文を提示している時間だけを計ってしまうと、実際の読みの速さと異なってくる。このあたりをどのように考えているか? |
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A | 自然な読書行動でどれだけ情報を得られるかを重視しているので、先読みや戻り読みをさせないなどの統制はしていない。 |
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A | 読むことに焦点を当てたので、テキストと問題文は同時に提示しないことにした。次に、文の読み方は人それぞれで、その方法は問わない。英語の試験を受けるときの状態、つまり一定の決められた時間内に、英文からどれだけ正確に情報を得られるのかを測定することを目的とした。ゆっくり読んで理解を深めたいときもあれば、速く読んで次に進もうとする場合もある。速さと正確さの関係を測ることで、一定の理解を得るときの読みの速さを知りたかったということです。 |
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時: 11:10 〜 11:40
表題: (2016 年度関東支部研究支援プログラム成果報告)
リーダビリティ、語彙レベル、発話速度を手掛かりとして、
日本人学習者のレベルにあった TED Talks を選び出す
ウェブコーパス開発(最終報告)
発表者:
田淵 龍二 (ミント音声教育研究所)
山口 高領 (立教女学院短期大学)
突然発表禁止となり、白塗りされた発表要項冊子(p.16-17)と
プログラム(右上)、左上は冊子の表紙
余白の最上部には「関東支部研究大会事務局」署名の案内が書かれていた。それを以下に引用する。
━━━━━━━ 引用開始
本研究発表の内容の一部に,著作物利用の可否について確認を取る必要が生じましたため,確認が取れた場合は,大会当日に原稿を配布します。なお,支部研究大会以降に著作権問題がクリアされた場合は,来年度の支部研究大会あるいは,支部主催で臨時の発表の機会を設けるものといたします。以上,ご不便をお掛けいたしますが,ご理解の程宜しくお願い申し上げます。
関東支部研究大会事務局
━━━━━━━ 引用終了
発表要項冊子が白塗りのまま発行される例はごく稀に発生する。それは、予定した原稿を発表者が入稿しなかったことによるものだ。
今回のように、一度査読を通った研究発表が支部長(正確には正副3名)によりひっくり返され、禁止された例は初めてかもしれない。
LETはその名に「教育」と「メディア」が付いている通り、他人の著作物を教材として教育を行う人々の学術団体であることを考えると、異常な事態であり、重大な事件である。
一度は研究発表として採択されたものを、「TEDから著作権違反であると指摘されることを恐れて」いることを理由に正副委員長が独断で、発表禁止としたことは決して承服できるものではありません。
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外国語教育メディア学会(LET)関東支部運営委員会決定と称して「Talkies内のTEDに関連したサイトの公開を停止」しない限り、「研究発表の中止、研究プログラムの閉鎖、支援金の返還」をするとの通告がなされ、悩んだ挙句に、苦肉の策として、研究プログラムの継続を選択し、事務局長にTED コーパスサイトの停止を受諾し研究発表行うと連絡するとともに、予告を掲載した。
TED コーパスサイトの一時停止予告
(2017年11月13日より掲載)
サイト一時停止中止を告げる
(2017年11月17日深夜より掲載)
停止したときのために準備していたお知らせ
(2017年11月18日より掲載予定)
現在のサイト(2017年12月05日)
TEDコーパス・selected 360 は、ミント音声教育研究所が開発し、ミントアプリケーションズ(株)が運営するサイトに、Talkies の関連サイトとして公開されている。そのようなサイトに対して、「要求を聞かなければ、発表を禁止し、関係者を処分する」趣旨の通告してきたのは10月23日のことである。しかもそれはLET関東支部からの正式な連絡ではなく、人づてであった。常識では考えられないことであった。さらに不可解なことには、それ以降の連絡を一方的に遮断したのである。
ミント音声教育研究所は、TEDコーパス利用者の利益擁護のためにも、不当な要求の根拠を示すように再三求めたにもかかわらず無視し続けた末に、支部大会前日の11月17日になって一方的な発表中止通告を突然送りつけてきたのであった。この間1ヶ月ほどの間に、「TEDから著作権違反であると指摘されることを恐れて」いる以外の理由を一度として述べていない。当事者へのきちんとした聴取も行なっていない。
運営委員会は、小なりといえども、人事権や処分権を持つ公的機関である。そうした権限を行使するに当たっては、十分慎重に調査と論議を尽くさなければならない。
今回の事件は、LET関東支部運営委員会にとどまらず、著作物を扱う学術団体である外国語教育メディア学会(LET)全体の問題として正しく解決される必要がある。
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この日の大会の最後の企画は 「 テクノロジーと教育・学習・評価 」 をテーマとしたパネルディスカッションで、パネリストとして4人の講師が登壇された。その2番手の金丸先生(京都大学)が 「 授業内で活用できる自然言語処理技術 」 と題して話し始めて半ばにさしかかったときのことだった。スクリーンに次のページが表示された。
トップに 「 TED Corpus 」 と大書され、 「 TEDの講演スクリプトを解析,データベースに格納して,検索できるようにしたサイト 同志社大学の長谷部 陽一郎先生が作成 」 とあるのだった。
その瞬間、会場は いるはずのない幽霊を見てしまったような異様な静けさに包まれた。互いに目と目を合わせている先生方もいた。
発表禁止になったはずの TEDコーパス、要項冊子が白紙のまま印刷されたあの TEDコーパスが 目の前にあるのだった。
パネリスト金丸氏の講演の様子
パネルディスカッション終了後に、私(田淵)は金丸先生に挨拶して話をさせてもらった。私があの発表禁止になったTEDコーパスの製作者だと知ると 「 発表を楽しみにしていたのですが残念でした 」 とおっしゃっていた。話がAIとか言語処理の話になって 「 そう言うことなら いい学会がありますよ。毎年3月に大会がありますから参加されることをお勧めします 」 と紹介していただいたのが、言語処理学会(Natural Language Processing; NLP)だった。とてもいい情報を頂いて感謝している。さっそくこの学会に加入し、翌年(2018年)3月には TEDコーパスをはじめとした研究発表を3本させていただいた。
資料: ⇒言語処理学会第24回年次大会(NLP2018)
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2018.08.14 追加
2017.12.03 田淵龍二
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