2017/04/21 Talkies / 演習結果の4次元フィードバック
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ドリル結果を、速さと正確さと分量の3次元で即時フィードバックするサービスを、Talkies に搭載した。下の画像をクリックすると、動画で実感できる。
見出しに4次元とあるのは、速さと正確さと分量の3次元に、解答順を加えたアニメで4次元となっているからである。つまり、速さと正確さと分量と時系列の4次元である。
実際の授業では、終了した受講者の結果からリアルタイムでアニメ表示される。上の動画は、それを早回しで再現したものである。
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一つの円が、ひとりの受講者の結果を示す。
円をマウスでポイントすると、その受講者の結果が表示される。
1行目の #1-24 は、このグループ番号(#1)と、この受講者の回答順である。ここでは 24 なので、24番目であったことがわかる。
2行目の 214 words, 43 wpm, 57% は、それぞれ順に、演習した単語数、処理の速さ、正答率を表している。
円の大きさが、演習で処理された単語数を示し、大きいほどたくさんの単語による演習を実施したことになる。
円の位置は、処理の速さと正確さを示していて、その度合いは横軸と縦軸から読み取る。
横軸が処理の速さを示し、右に行くほど速い。処理の速さは読み速度で計測している。読み速度は1分間あたりの単語数(words per second: wpm)で計算する。
縦軸が正確さを示し、上に行くほど正確である。正確さは問題の正答率あるいは得点率で計算している。正答率とは、たとえば10問中8問に正答すれば80%の正答率となる。得点率とは、たとえば10点満点の課題で7点を取得すれば70%の得点率となる。
右上にある大きい円ほど、たくさんの単語を速く正確に処理したことを示す。同じくらいの大きさの円で、左に行くほど、同じ分量を同じ正確さで処理するのに時間がかかった(あるいは時間をかけた)ことがわかる。
同じくらいの大きさの円で、下に行くほど、同じ分量を同じ速さで処理したが、正確さが低下したことがわかる。
図中には、円とは別に、2つの矩形が描かれている。
小さな正方形は平均値を示す。
正方形をマウスでポイントすると、このグループの平均が表示される。
大きな矩形は分布の特性を示す。長方形が細長いほど、速さと正確さの相関が高いことを示し、正方形に近いほど相関が低いことを示している。
細長い正方形の長辺の傾きが近似直線の傾きを表す。傾きの方向に円が分布する傾向を示している。
大きな矩形をマウスでポイントすると、このグループの標準偏差などの統計量が2行目に表示される。左から順に、速さの標準偏差、正確さの標準偏差、近似直線の傾き、速さと正確さの相関係数である。
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分布図の下にある replay ボタンをクリックすると、アニメーションが始まる。これは、実際の演習で回答された順番を早回しで再現したものである。
あるクラスで演習を何度か行い、結果のアニメーションを観察すると、いくつかの特徴が見えてくるはずである。それが、そのクラスの語学力の特性であると考えられる。最低でも3〜4回実施することでわかる特性から、指導方針のヒントを提供するのが、4次元フィードバックの目的である。
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上の動画の中から、いくつかのシーンを取り出して、事例分析を行う。
最初に2人分が右上に現れた。やや速めで、正答率は100%に近い。
3人目もほぼ同じあたりに現れた。同じくらいの実力を持つのであろう。
分かりやすくするために、ここまでの最初の3人の円を黄色く彩色しておく。
続く5人は、最初の3人の左下後方に位置した。やや遅く不正確になっている。その結果、中心を示す正方形が右上の緑のゾーンからそのひとつ外の白いゾーンに移動している。
また、標準偏差を示す矩形が横長になり、やや右上がりになった。これは、速く処理する人・処理できる人ほど正確である傾向を示している。あるいは逆に正確に理解ができるので速く処理した・処理できたとも読み取れる。
よく見ないと気づきにくいが、あとからの5人の円は、先の3人よりやや大きく見える。これは分量が多くなっていることを表している。ただし、分量が多くなっているので、回答に時間がかかったとも読める。
分かりやすくするために、ここまでの続く5人の円を青色で彩色しておく。
次の6人が入るとまた雰囲気が変化していることに気づく。追加されたどの円のサイズも、それまでのものより一回り以上大きく見える。特に右上の4つは実際にかなり大きい。つまり、速くて正確に多くの単語を処理した受験者たちが回答し終えたのである。
ここまでを見ると、ヨーイドンで演習を始めた後、回答し終えた結果が順番にアニメーション上に配置されていくが、その順番を決める要因には (1) 演習した単語数、(2) 処理の速さの2つであることが分かる。処理すべき単語数が少なく、処理速度が速いほど、速く演習を終え、次に処理分量が少ない順、あるいは処理速度が速い順にゴールすることが分かった。当然とも言える。
ヒトの経験知を、数字で補強するのもデータ解析の役割である。
ただ、ここまでの円の配置は上方に偏っていることに注意しておこう。
最後の出来上がった散布図を見ると、左下から斜め右上に向かって、やや小さめな円がぱらぱらと浮上して行き、天井にぶつかったあたりで、大きさを増しながら右に流れているように見受けられる。平均の正方形は、白い帯から青い帯にかかるくらいまで後退している。
最後に追加されたグループの半分ほどは、それまでに終わっていたグループとほぼ同じあたり、つまり上方やや右よりに現れていて、大きさは大きめに見えるが、追加された残りの半分ほどは、画面の左寄りに偏っていて、大きさは小さめであるように見える。
上方に追加されたグループと左方に追加されたグループは性質を異にすると考えるのが自然であろう。左方のグループは量が少なめで処理が遅く、正確さに欠ける傾向がある。
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サンプ図から クラス指導のヒントを得る方法を考える。
このサンプ図は、あるクラスの演習結果である。これを、あるヒトの成長を示していると仮定して読み取ってみよう。成長と言う言葉で一般に思い浮かぶ変化は以下の3つである。
このイメージを、4次元アニメに書き込んだ物が次の図である。
左下の小さめの円から始まり、右上に向かって次第に大きくなり、最後は速く正確な結果を残せる大きな円になっていくイメージである。
ヒトの成長の一般的なイメージと合致する。
ところが、このクラスのサンプ図からは多少異なる様相がうかがえる。
まず、左下から上に向かって上昇し、それから右方に転じている。つまり、まずは正確に処理するすべを獲得し、一定の正確さを習得した後で、量と速さを増しているように見受けられる。
こうした成長動向も経験知として受け入れやすいものである。
まずしっかりした形(骨格)を体得し、次に質(肉付け)を増強するのである。
4次元フィードバック図の背景図柄には、読解効率(reading efficiency)の理論が埋め込まれている。読解効率の理論とは読みの速さと正確さは相反する(trade off)と言う考え方である。
- 読みを速くすると、正確さが失われ
- 正確さを求めると、読みが遅くなる
ヒトは、ある時点ごとに固有の読解効率を持っていて、素材や目的に応じて、速さと正確さを制御していると考えるのである。
資格試験であれば、高得点(正確さ)を狙いたいのでじっくり(時には数回)読み込むし、週刊誌の時事ネタであれば、面白そうなところだけ素早く拾い読みして終わりにしてしまってもかまわない。
読解効率は次の数式で表現される。
左辺を、ある時期の生徒の学力(読解効率)を一定と考えると、速さと正確さが双曲線で表現されることを示している。この双曲線を模したのが、サンプ図で右上を中心に描かれた円弧である。例えば白い帯上に円がいくつかあり、これらは速さも正確さも異なるが、読解効率(学力)という点では、ほぼ同じと考えられるのである。
つまり、その生徒の学力は急には変化しないが、この円弧状であれば(意識的に、あるいは無意識に)変化させることが可能となる。
読解効率理論による学習指導を図式化すると次のようになる。
現状が点Aだとする
- 点Aから点Bは、理解度を高めるための学習(語彙・語法・読解方略)
- 点Bから点Cは、意識的に速度を上げる訓練(チャンク・眼球運動)
- 点Cから点Dは、再び、理解度を高めるための学習
- 以下 これの繰り返し
円が右上に到達した場合は、どのように考えればよいのだろうか。
まず、前提に戻る。この4次元散布図はグループ内の相対的位置関係を視覚化したものである。円が画面のひと隅に偏ることはない。一般には右上と左下にはまず円が来ると推測される。
次に、円をポイントして絶対値として速さや正確さを確認する必要がある。速さや正確さの上限や目標値が分かればよいが、一概には決めがたい。それは演習の種類や量によって大きく変動するからである。
演習の中で目標値が比較的はっきりしているのは、チャンク速読の場合である。この数値は各種の研究がなされているからだ。
- 目標値
- 150wpm(大学生)
- 180wpm(英語を必要とする社会人)
- 上限
- 260wpm(これを超えると、単語を飛ばし読みしている)
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2017.05.21 田淵龍二
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