2016/11/26 教科書ウェブ活用研究がスタート
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教科書ウェブ活用研究
外国語教育メディア学会(LET)2016年度関東支部研究支援プログラム
音声つき紙版教科書のウェブ化と,CALLとスマートフォンでの利用
教科書がそのままCALL教材に、スマホでも予習復習
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もくじ |
- 境目のない教育環境
- 従来の電子教育環境の難点を解消
- TED Talks が手本
- 新しい電子教育環境の難点と解決の糸口
- 学会で中間報告の予定
- 資料:教科書ウェブ活用研究 企画書
- 資料:出版社への提案 / 協力依頼書
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テキストを読みつつ解説を加えて訳して行く授業は、今でも一般的のようだ。能動的授業(アクティブ・ラーニング)を実施するとなれば、これら理解と定着を目指す授業の効率化が求められる。
紙版の教科書で主要な説明や音読を行い、CDやmp3の付属音声を聴取するというこれまでの授業スタイルが大きく変わろうとしている。
紙と音声が別々であったこれまでの教科書が、そのまま一体化して、CALL教室やスマホで、境目なしに教育利用する・・・と言うプロジェクトが始まった。
プロジェクトの企画書は 末尾に掲載した。
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これまでのIT教育にはいくつかの難点があった。
- コンテンツの不一致
- PCを使った授業では、教科書とは違うコンテンツになることが多かった。これでは、同一教材の反復(予習・復習)による定着の促進が望めない。
- それだけでなく、異質なコンテンツの追加は、生徒の学習負荷を無用に増大させる。
- プラットフォームの不一致
- 一斉授業と個別学習では使うアプリが異なることが多かった。これは、個別学習で使うアプリ操作に順応する負荷を大きくしていた。
- 教育環境の制限
- 学校で使った電子教材が、家庭や通学などでは使えないことが多かった。
- 大きな負担
- 電子教材をインストールする手間と費用がかさむことが多かった。
- 同期しない音映像とテキスト
- 紙版のテキストと、CDやmp3の付属音声はバラバラで、音声を聞きながらテキストの文字を追う負担が大きかった。
- さらに意味を確認する作業への補助は映画やビデオの字幕程度しかなかった。
これらの難点を解消する仕組みが考案された。それが今回のLET関東研究支援プログラム「音声つき紙版教科書のウェブ化と,CALLとスマートフォンでの利用」である。
- コンテンツの一致
- 授業で使う教科書が、そのまま電子化されたので、一斉授業でも、個別学習でも、予習・復習でも、同一のコンテンツを使って学習を準備し、深めることができるようになった。
- この環境は先生が授業を円滑かつ統合的に運営できるようになると期待できる。
- プラットフォームの一致
- 一斉授業で先生が操作していることを、そのまま真似すればよいので、滑らかに自学習に移行できる。
- 学習チャンスの拡大
- 家庭や通学時に、予習復習が手軽に行えるチャンスが増えた。
- 小さな負担
- Google Chrome(フリー)のような汎用ブラウザで電子教材が動くので、導入利用の作業負担経済負担が大きく減った。
- 音映像とテキストの同期
- 紙版テキストと付属音声が同期して電子化されたので、音声を聞きながらテキストの文字を追う負担が減ったことで、音声や意味に集中できるようになった。
- さらに日本語訳も同期提示されるので、日本語によらない、英語そのものの習得に多くの時間を割くことが可能となった。
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ここで紹介している規格の仕組みは、今から十数年前に考案され、プレーヤーミントを搭載したm-Boxedとコールミントスタジオで作動していた。
しかし、インストールの手間と費用、windowsでしか使えないシステム制限などがあり、経済負担・作業負担の軽減、利用環境のウェブ化が課題であった。ところが、近年になり、ウェブの高速化・大容量化が一気に進むとともに、ウェブブラウザの新規格(HTML5)対応がほぼ完成域に達し、ネックであったマイクロソフトのIEも打ち切りとなってEDGEへの移行が始まったことで、インフラ環境が大きく好転した。
決定的なインパクトは、TED Talks のオープンサービスとしての成長である。優良なスピーチ映像を無料で公開し、世界中のボランティアが自国語の翻訳をつけている。
そうした仕組みを、昨年のLET研究発表(東淳一先生 2015夏 LET全国大会 大阪)で教えてもらったことで、その帰りの新幹線の車中で構想を固め、9月にトーキーズとして公開し、11月にはLET関東支部大会のワークショップでお披露目した。そして今年の春学期に5人の先生方の協力を得てリスニング・スピーキング・リーディング・音声指導・英語落語などの各種授業内容の実践授業をおこなって、それらを、チャンク提示法の理論的押さえとともにシンポジウム(2016夏 LET全国大会 東京)で紹介することができた。
紙版教科書のウェブ化で教室授業をIT化できるとの確信は、TED Talksの仕組みとオープン理念に学んだことが大きい。
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新しいプロジェクトには、新しい困難が発生する。
- 字幕作成の壁
- 紙版教科書のウェブ化を誰が行うのか?
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- 直接の当事者は、授業担当教員である。しかし、毎回英語音声を書き起こし、日本語訳をつけるのは、これまでの授業準備にはない負担である。
- また字幕の音声同期にはm-Boxedによる作業が必要となる。
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- 著作権の壁
- 紙版教科書のウェブ化に伴う著作権上の諸問題をどう処理するのか?
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- 著作権法の趣旨は、「著作権を保護することにより、文化の発展に寄与する」(総則 第1条 目的)である。
- しかし、著作権ビジネスが巨大になるとともに、政治の経済優先が続く世相では、「著作権を保護しすぎることにより、文化の発展が阻害される」おそれが大きくなり、利用者の萎縮が危惧されている。
- 特に教育のIT化が推奨されているにもかかわらず、IT化と著作権の議論が進んでいるようには見受けられない。
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- 運営母体と資金の壁
- 長期的な運営をどのように保証するのか?
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- TED Talksのビデオと字幕はオープンではあるが、その運営資金はTEDカンファランスの運営でまかなっている。
- それに比して、トーキーズの経済採算性は未確立である。
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- スマホ環境の壁
- まだまだ不均衡なブラウザとスマホ環境をどう解決するのか?
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- CALLは成長期を過ぎ安定期にあるので、トラブルは起こりにくいが、新規格ブラウザへの対応は、特に学校で遅れている。理由は新規格ブラウザ(HTML5)に対応できないマイクロソフトのIEがほとんどの学校の主力ブラウザになっていることである。IEはすでに開発を打ち切っているが、HTML5に対応したEDGEの学校導入にはさらに数年かかる。
- スマホは成長期で、媒体によって動作が異なる。すべての機種での動作保証は無理である。また音映像の利用にかかる費用負担増の問題もある。
- 2年間のプロジェクトで、これら諸課題を解決するのは至難である。
- しかし、解決の糸口をつかみ、それなりの展望も見えてきた。
- 字幕作成の壁
- 字幕が出来れば、それをウェブ対応ファイルに変換し、音映像とともにサーバーにアップし、アクセスキーをつけてトーキーズのライブラリに公開する流れは、比較的容易な仕組みに作ってある。
- 同じ教科書を採用したクラス授業担当教員同士で字幕の共有が可能になれば、TED Talks のように利便性が高まり、作業分担できる。
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- 著作権の壁
- 紙版教科書のウェブ化に伴う著作権上の諸問題をどう処理するのか?
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- 教科書のクラス採用で経済は動いているので、そこを土台として出版社の協力を得ることは可能であろう。すでに複数の出版社の同意を得ている。
- これを拡げて、教員がウェブ授業に入りやすい環境整備(たとえばウェブ化授業ガイドライン)を目指す。
- 字幕作りへの援助として、英文テキストとその和訳の提供を出版社に求める。これについては、すでに実施している出版社が多数存在する。
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- 運営母体と資金の壁
- 長期的な運営をどのように保証するのか?
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- 現状は、ミント音声教育研究所が主催し、トーキーズの運営をミントアプリケーションズ株式会社に委託している。
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- スマホ環境の壁
- まだまだ不均衡なブラウザとスマホ環境をどう解決するのか?
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- CALLのメンテナンス時に、Google Chromeのインストールを呼びかかる。
- スマホについては、アンドロイド系のGoogle Chromeと、それ以外ではパフィンブラウザで動作が確認され、解決しつつあるが、すべて完璧と言うわけではないので、教育の機会均等に留意しつつ、自学習するチャンネルを増やすと言う視点で対処することが望まれる。
- WiFiを学校や公共施設、公共交通に広げるとともに、接続料金の低額化を施策とするよう関係諸団体に働きかける。
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共同研究者の池山先生の熱意と奮闘で、企画開始決定が9月末日であったにもかかわらず、後期の初日である10月第1週から、授業実践が始まり、この記事執筆時まで8回分の授業準備と実践が、思った以上に円滑に進んだ。
12月の英語学会で、ここまでの中間報告を行う。
主催 | 外国語教育メディア学会(LET)関東支部 |
期日 | 2016 年 12 月 10 日(土曜日) |
会場 | 筑波大学 |
| グローバルコミュニケーション教育センター(CEGLOC) |
| 〒305-8571 茨城県つくば市天王台 1-1-1 |
教室 | CEGLOC 4 階 413 教室 |
時間 | 11:10 〜 11:40 |
本研究では、教科書の音声副教材を再生利用する教具として、収録されている音声の数秒間のフレーズだけを頭出しして反復再生する機能、音声にあわせて日英字幕を同時同期提示する機能を備えたウェブ教具Talkiesによる教授法を探求する。
具体的には、(1) ウェブ教材を教員がクラウドにアップし、CALL教室の教師卓からウェブ教具にアクセスして一斉授業する、(2) URLとID・PWを生徒に通知して個別学習させる、(3) 生徒がパソコンやスマホで自学習するなどである。
授業実践の準備や、音声副教材をウェブ化したことによる教授法の多様性獲得や教育効果、留意点などに焦点を当てた2年間にわたる研究のうち、今回は授業準備、授業運営、学習形態、自学習の4点に焦点を当てた中間報告である。授業準備は、紙版テキストのデジタル化、日本語訳の作成、音声と同期させた字幕ファイル作成、クラウドへのアップロード、専用アカウントの設置などである。授業運営は、授業時間内での一斉学習、個別学習、グループ学習、発表などである。
学習形態は、音映像と日英字幕の提示による鑑賞、解説、音読、リピーティング、シャドーイング、ディクテーション、クローズテスト、速読訓練などである。自学習は、授業時間外、主に通学時などの空き時間を使ったコンピュータやスマートフォンによる鑑賞やドリルである。これら4つの視点から、紙版テキストをウェブ化する労力とウェブ化による効果とバランスを見積もることで、次のステップへの反省と改善点を探る。
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名称:
- 教科書添付音声副教材をウェブ化したCALL教材による教授法研究
概要:
- 教科書の内容を収録した音声副教材はCDとして配布されることが多い。一般のCD音声プレーヤーにはトラック選択/再生/停止の基本機能が装備されている。しかしそれ以上の操作性は期待できない。たとえば、収録されている音声の数秒間のフレーズだけを頭だしして反復再生する機能や、音声にあわせて英語字幕や日本語字幕を提示する機能は望めない。他方、ウェブ上のプレーヤーでは、フレーズ再生や字幕提示機能を備えたものが見受けられるようになってきた。またCD音声をウェブ対応の音声ファイルに変換したり、字幕をつけたりする技術も進化している。
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- そこで本企画では、音声補助教材をウェブ化して字幕をつけた教材による教授法を研究する。具体的な場面としては、(1) ウェブ教材を教員が研究室などからクラウドにアップし、CALL教室の教師卓からURLにアクセスして一斉授業で提示する、(2) URLを生徒に通知して個別学習に移行する、(3) 生徒が自宅のPCや携帯端末で課外活動に供するなどである。
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- 授業実践での継続的利用を通して、音声副教材をウェブ化したことによる教授法の多様性獲得や教育効果、留意点に焦点を当てて研究する。
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- また、本研究構成員以外の授業実践協力を予算の範囲内で要請する。
アクセス:
- 教材を閲覧するには、担当教師が設置した専用のアクセスキーが必要である。
授業案例:
- モデル音読を聴きながら英文を読む(日本語字幕を見る) 段落単位→複数段落→全文
- モデル音読を聴きながらかぶせ音読 段落単位→複数段落
- 穴埋め音読 (自由速度、セルフチェック) 段落単位→複数段落
- モデル音読を聴きながら穴埋めかぶせ音読(パートナーによるチェック) 段落単位→複数段落
- モデル音読を聴きながらシャドーング フレーズ単位→文単位→段落単位→複数段落
- モデル音読を聴きながらリピーティング フレーズ単位→文単位
- 多肢選択穴埋め音読(読速度計測つき) 段落単位→複数段落
- 音声の再生速度を変えて聞く
- 多肢選択穴埋め問題の正答率と読速度の伸びをTalkiesの機能によって自動測定する。
- 穴埋めかぶせ音読における精度(リズム、イントネーションも含めて)の伸びについてチェックシートを用いてパートナーと確認し合う。
期間: 2年間(2016年9月〜2018年8月)
代表者: 田淵 龍二(ミント音声教育研究所)
構成員: 池山 和子(首都大学東京)
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教科書ウェブ活用研究への協力依頼
教科書添付音声副教材に字幕を付けて
CALLやスマホで学習する教授法研究
関係各位
ミント音声教育研究所 代表 田淵龍二
外国語教育メディア学会(LET) 会員(関東支部所属)
研究プログラムについて
- 外国語教育メディア学会(LET)関東支部では毎年数件の研究に研究補助金が給付されていますが、今回「教科書添付音声副教材をウェブ化したCALL教材による教授法研究」(代表 田淵龍二)が採択されました。これはCDやmp3で配布されることの多い音声に字幕をつけてウェブ化し、語学学習専用のウェブ・プレーヤー(Talkies)で授業実践を行い、効果的な教授法を研究する企画です。
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- Talkies: http://www.mintap.com/talkies/talkies.html
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- 本研究の略称: 教科書ウェブ活用研究
背景
- 視聴覚障害者向け放送普及等の取り組みの強化とあいまってテレビなどでの字幕利用が社会的に定着してきました。また、海外団体TEDは動画の無料配信サービスとともに、100以上の言語による翻訳字幕提供(Creative Commons license)も行い、世界規模での影響力を形成しています。
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- にも関わらず、教育界における字幕利用は低迷していて、熱心な一部の先生が自力で、あるいは出版社の協力を得て字幕(書き起こしや翻訳)をウェブで授業利用しているに過ぎません。また努力して作成した教材の利用や共有については、著作権上の配慮もあり、ある者は密かに、ある者はあきらめているのが現状と見受けられます。また年度ごとに教科書が替わる場合もあり先生の苦労は増すばかりです。
協力依頼
- こうした社会状況において、本企画を円滑に進めるために、当該研究に参加する先生方がクラス授業として購入利用する教科書の出版社にあっては、いちいち許諾確認をすることなく包括的に同意し、かつ日英テキストをすすんで提供することにより協力していただけることを望んでいます。
| 本研究の略称 |
| 教科書ウェブ活用研究 |
| 依頼内容 |
一、 | 担当教員に英文和文音映像を提供し、 |
一、 | CALL、スマホでの字幕利用における著作権処理などを支援すること |
国にあっても情報通信ネットワークの活用を学校現場に求めている折でもあり、先生と生徒がクラス授業で購入した教科書について、ICT技術とアカウントシステムに基づく音映像と字幕のウェブ利用が円滑に行われるよう希望しています。
紙媒体による出版文化の継承・発展に寄与することをも目的としつつ、コンピュータ社会における語学教育の一層の発展にむけて、出版社各位、とくにLET賛助会員の皆様の協力を求めます。
2016年11月
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2016.11.25 田淵龍二
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