2015/08/06 LET全国でワーキングメモリの研究発表

2015/08/06 LET全国でワーキングメモリの研究発表

ミント音声教育研究所の田淵は、湯舟先生（東洋大学）と共同で研究発表をおこなった。

CALL教室での授業の様子にモニター画面を被せている

表題

ワーキングメモリで処理される音声言語単位の普遍性に関する一考察 ― 英語と日本語の音響解析比較から
　
A study of universality for language processing units in working memory: comparing the acoustic properties of English and Japanese speech

話者

田淵龍二（ミント音声教育研究所）
湯舟英一（東洋大学）

分野

ワーキングメモリ，呼気段落(breath group) ，日本語，チャンク提示, 音読

文書

要項論文 ⇒pdf
プレゼン原稿 ⇒pdf

要約

発表者らはこれまで、授業内で十分な音声教育がなされているとは言えない現状を改革するためのひとつの手法として、リーディング授業への文字と音声のチャンク同期提示による音読訓練とその学習効果を報告してきた。
　
しかし、一度に提示するチャンクはどのくらいの分量（単語数や継続時間長）が適切なのかが教材作成上の課題であった。そこで、発表者らは、英語映画音声映像コーパス（11作品、配役総数515人、総時間数21時間）を解析したところ、ひと息の連続音声（呼気段落 breath group：BG）の継続時間は対数正規分布に従う法則があり、平均が1.9秒で、全体の49%が1～2秒の区間に存在することが判明した。
　
さて、この2秒と言う時間幅は、認知科学や認知心理学におけるワーキングメモリにおける聴覚短期記憶の制約時間と重なることから、英語ネイティブスピーカーは相手にも理解されやすいように、1～2秒の区間に納める発声を無意識の内に心がけている可能性があるのではないかと発表者らは考えた。
　
この仮説を確かめるためにひと息の発声における単語数と発話速度の関係を分析したところ、BG長を1～2秒区間に収めようとする一種の「発話速度を調整する機能」が認められた。すなわち単語数が少ないときはゆっくり、逆に多いときは速く発声し、全体として一息の発生を2秒に近づけようとする力が働いているようであった。こうした所見から「ワーキングメモリの聴覚性短期記憶の処理単位はBGではないか」と言う仮説（BG仮説）を支持する一つの証拠データを提示することができた。
　
そこで今回、この仮説の基盤であるBG長の対数正規分布特性と発話速度調整機能が英語以外の言語でも観察されるかどうか確かめるために、留学生向け日本語音声教材（朗読、1時間分）を解析したところ、同様の分布特性と話速調整機能が確認され、上記の「BG仮説」を支持する結果となった。すなわち、このBG長は英語のみならず、日本語においても観察されたことで、仮説の言語普遍性に関する一つの実証的データを追加することができた。
　
これらの結果の外国語教育実践への示唆は、2秒以内のチャンク長の文字と音声の同期提示を基礎にした繰り返し音読訓練を通して、チャンク内で発生する様々な音声変化に順応したリスニング力の習得と、単語より大きな処理単位の音韻符号化能力を獲得することで、学習者の読解速度向上にも効果が期待できると考えられる。