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三木秀夫法律事務所
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近鉄球団の命名権事件(2004年01月31日)          ネーミングライ
○プロ野球の近鉄が2004年1月31日に、球団の命名権を売却すると発表した。
しかし、他球団の強い反発を受け、2月5日に白紙撤回した。

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○最近、命名権という権利が脚光を浴びており、命名権ビジネスという言葉もでてきた。
この命名権とは、スポーツ施設などの名称に企業名などの名称を付けることのできる権利。施設管理者にとっては、命名権販売により収入が得られ、命名権を購入する企業としては、スポーツ番組やニュースなどでその名称が多くの人々の注目を得る機会が生じ、大きな宣伝効果が見込まれるため、取引が成立する。 アメリカでは「ネーミングライツ」といい、これまで数多くの実例がある。例えば、 セーフコ・フィールド(セーフコは保険会社の名称で、シアトルマリナーズの本拠地に)、トヨタセンター(トヨタ自動車の米国法人がNBA・ヒューストンロケッツの本拠地に) 、AOLアリーナ( 通信会社AOLが、ドイツサッカーブンデスリーガ・ハンブルガーSVの本拠地に)付けているのが有名。 

近年、日本においても、赤字公共施設の管理運営費の埋め合わせ手段のひとつとして注目を集めている。2003年には、「東京スタジアム」が5年間で12億円という契約で「味の素スタジアム」に変更、プロ野球オリックスの「グリーンスタジアム神戸」も「ヤフーBBスタジアム」に変わった例が有名。命名権自体は、取引上の価値から生まれてきたもので、日本の法令には特別の根拠規定はない。

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○今回の近鉄の命名権は、これまでの施設命名権とは異なり、球団自体の命名を対象にした点で少し異なっていた。

近鉄は、これを経営の安定化策として打ち出したが、根来泰周コミッショナーから「野球協約上、問題がある」と撤回を求められ、各球団の反発も相次いだため、発表から6日目で撤回した。コミッショナーは、さらに「問題なのは、野球協約がこういうことを想定していない、実現するためには野球協約を改正しなければならない。」とも述べている。

○野球協約とは、正式名を「日本プロフェッショナル野球協約」という。編纂・発行は、社団法人日本野球機構。総則・コミッショナー・実行委員会・オーナー会議・コミッショナー事務局・参加資格・地域権・選手契約・保留選手・復帰手続き・選手数の制限・参稼報酬の限界・選手契約の譲渡・選抜会議・新人選手の採用・審判員と記録員・試合・有害行為・利害関係の禁止・提訴・フリーエージェント・統一契約様式などからなり、これ以外に日米間選手契約協定や代理人規約などもある。以前は関係者のみへの配布であったが、現在は日本プロ野球選手会公式ホームページで公開。

今回の問題は、この野球協約17条1項(3)で、球団呼称については実行委員会の審議事項とされ、しかも同2項により、オーナー会議の承認を要件とされている。その上で、同協約22条の2は、オーナー会議の議決は、定足数4分の3とする会議における3分の2以上の同意を必要としている。

○野球協約
第17条(審議事項) 
実行委員会において審議すべき事項は右の通りとする。
 (1)コミッショナー選任。
 (2)コミッショナー代行機関の設置。
 (3)地域権の設定または変更、および球団呼称、専用球場の変更。
 (4)この組織の参加資格の取得、変更、停止または喪失に関する事項。ただし、コミッショナーまたは連盟会長が行う参加資格に関する制裁処分はこの限りではない。
 (5)野球協約、これに付随する諸規程および選手統一様式契約書条項の追加、変更ならびに廃止に関する事項。
 (6)野球その他の体育団体または社会事業にたいするこの組織の協力に関する事項。
 (7)日本選手権シリーズ試合、オールスター試合または慈善のため行われる試合に関する事項。
 (8)両連盟の年度連盟選手権試合に関する事項。
 (9)日本国内で行われる外国ティームとの試合に関する事項。
 (10)日本国内で行われる外国のプロ野球ティーム同士の試合に関する事項。
 (11)両連盟の年度連盟選手権試合に用いられる諸規則に関する事項。
 (12)その他、コミッショナーが必要と認めた事項。
2 第1号、第2号、第3号および第4号に記載されている事項、ならびに第5号および第12号のうち重要な事項については、オーナー会議の承認を得なければならない

第21条(オーナー会議) 
オーナーは、オーナー会議を組織し、この協約第17条の定めるところによりオーナー会議の承認を必要とする事項を審議決定する。
2 コミッショナー、コミッショナー顧問および連盟会長は、オーナー会議に出席して意見を述べることができる。

第22条の2(定足数および議決) 
オーナー会議は、オーナー総数の4分の3をもって定足数とする。ただし臨時代理人による出席数がオーナー総数の4分の1を超えてはならない。
2 オーナー会議の議決は、出席全員の4分の3以上の同意を必要とする。

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○今回の近鉄の行動は、このオーナー会議での同意を得ないまま話がスタートした点が非難の対象になったものと解される。しかし、近鉄を擁護する側に立つならば、命名権売買契約においては「オーナー会議の同意など野球協約上の条件成立」を停止条件にして進めているならば、特段の問題はないのではないかと思うが。「おれは聞いていない」という、日本的風習の前で、新しいビジネスが潰れたような気がしないでもない。 今後、もし近鉄がプロ野球球団を維持できなくなり、球界再編が始まり出した場合は、これが遠因だといわれるのではなかろうか。
                                            弁護士 三木秀夫

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