ニュース六法(倉庫)
2009年11月までの保管庫
ニュースから見る法律
三木秀夫法律事務所
このページは最近話題になったニュースを題材にして、そこに関係する各種法令もしくは
判例などを解説したものです。事実関係は,報道された範囲を前提にしており、関係者の
いずれをも擁護したり非難する目的で記述したものではありません。もし、訂正その他の
ご意見感想をお持ちの方は、メールにてご一報くだされば幸いです。
なお、内容についての法的責任は負いかねます。引用は自由にして頂いても構いません
が必ず。当サイトの表示をお願いいたします。引用表示なき無断転載はお断りいたします。

【お知らせ】
2009年12月から、このページは休止とさせていただきました。
同名での記事を、当事務所メールマガジンにて毎月発刊しています。
ご関心のある方は、そちらをご覧ください。

ニュース六法目次
浅田農産の鳥インフルエンザ事件(2004年02月27日)  家畜伝染病予防
○京都府は2004年2月27日、同府丹波町安井の採卵養鶏場「浅田農産船井農場」で2月20日以降、計約2万8千羽の鶏が死に、鳥インフルエンザのウイルス感染を調べる簡易検査で5羽から陽性反応が出たと発表した。山口、大分に続いて国内で3例目。

京都府によると、26日、保健所などに「丹波町の養鶏場で鶏が毎日死んでいる」と匿名電話があり、船井農場に確認したところ「2月20日ごろから毎日約1千羽、合計約1万羽が死んだ」と説明を受けた。その後の聞き取りで、27日までに死んだ鶏は約2万8千羽に上ったことが判明した。

その後、この農場の鶏は兵庫県や愛知県の食鳥処理場を介し、大阪市内の飲食店に出荷、新潟県にペットフード原料として流れていたほか、鶏卵も約100万個が兵庫、京都などに広く出回っていたことが次第に判明し、全国的な広がりに発展していった。

○農水省は2月1日に、対策本部の会合を開き、通報遅れが被害拡大を招いたことを重視、再発防止のため家畜伝染病予防法の見直しも含め対応策を検討することを決めた。鶏・卵の移動(出荷)制限による周辺農家への損失補償を制度化する方向で検討、高病原性鳥インフルエンザ防疫マニュアル(平成15年9月17日付け15消安第1736号農林水産省消費・安全局衛生管理課長通知)も改訂して診断基準を見直す。

@@@@@@@@@@

○家畜伝染病予防法は、伝染病やその疑いのある家畜を診断した獣医師や所有者に通報義務を課している。しかし、浅田農産は「腸炎だと思った」と主張しており、この通報義務違反となるかは微妙である。農水省幹部は「『インフルエンザでなく腸炎と思った』と言われれば家畜伝染病予防法の適用は難しい」と慎重な姿勢を一旦見せた。

同法は、家畜が法律に定めた病気に感染したり、似た症状が出ていることに気付いたりした場合、獣医師や所有者が都道府県に届け出ることを義務づけている。高病原性鳥インフルエンザは同伝染病に指定されている。所有者が違反した場合は、1年以下の懲役か50万円以下の罰金が科せられる。 

この届け出義務は、基本的に獣医師の診断を前提にしているため、立件はやや微妙な点がある。浅田農産が伝染病の発生を認識できたかどうかなどがポイントとなるのではないか。仮に、感染を認識しつつ、これを秘して取引先に販売したとしたら、詐欺罪の成立など、刑法犯の成立の可能性もある。

○また、同法では、鶏や卵の出荷制限によって影響を受ける周辺農家への補償制度が整備されていない。これが届け出の遅れにつながっている可能性もある。農家がこういったことを心配して届出を遅らせる可能性がないではない。このため法改正も検討されるべきであろう。

○今回の流れを見ると、同農場での鳥インフルエンザ発生から、京都府の殺処分命令にいたるまで、10日間のブランクがある。原因はこれからの解明になろうが、かなりのお粗末ぶりではあろう。高病原性鳥インフルエンザ防疫マニュアルの手続きをみれば、迅速性という意味ではかなり不備があるように思われる。タイ・インドネシアでの隠蔽騒ぎを、日本でも笑っておられない。

○家畜伝染病予防法
(目的)
第1条 この法律は、家畜の伝染性疾病(寄生虫病を含む。以下同じ。)の発生を予防し、及びまん延を防止することにより、畜産の振興を図ることを目的とする。(定義)第2条 この法律において「家畜伝染病」とは、次の表の上欄に掲げる伝染性疾病であつてそれぞれ相当下欄に掲げる家畜及び当該伝染性疾病ごとに政令で定めるその他の家畜についてのものをいう。
 
  伝染性疾病の種類      家畜の種類
1.牛疫              牛、めん羊、山羊、豚
2.牛肺疫             牛
・・・・・・・・・・・(中略)・・・・・・・・・・・・
20.アフリカ豚コレラ         豚
21.豚水胞病             豚
22.家きんコレラ           鶏、あひる、うずら
23.高病原性鳥インフルエンザ  鶏、あひる、うずら
24.ニューカッスル病        鶏、あひる、うずら
・・・・・・・・・・・(中略)・・・・・・・・・・・・
2 この法律において「患畜」とは、家畜伝染病(腐疽病を除く。)にかかつている家畜をいい、「疑似患畜」とは、患畜である疑いがある家畜及び牛疫、牛肺疫、口蹄疫、狂犬病、鼻疽又はアフリカ豚コレラの病原体に触れたため、又は触れた疑いがあるため、患畜となるおそれがある家畜をいう。


(患畜等の届出義務)
第13条 家畜が患畜又は疑似患畜となつたことを発見したときは、当該家畜を診断し、又はその死体を検案した獣医師(獣医師による診断又は検案を受けていない家畜又はその死体についてはその所有者)は、農林水産省令で定める手続に従い、遅滞なく、当該家畜又はその死体の所在地を管轄する都道府県知事にその旨を届け出なければならない。ただし、鉄道、軌道、自動車、船舶又は航空機により運送業者が運送中の家畜については、当該家畜の所有者がなすべき届出は、その者が遅滞なくその届出をすることができる場合を除き、運送業者がしなければならない。

(罰則)
第64条 次の各号のいずれかに該当する者は、1年以下の懲役又は50万円以下の罰金に処する。
1.第11条、第12条、第14条第1項、第16条第2項、第21条第1項若しくは第3項、第50条又は第56条第2項(第14条第1項及び第56条第2項については、第62条第1項において準用する場合を含む。)の規定に違反した者
2.第13条第1項(第62条第1項において準用する場合を含む。)の規定に違反した所有者
(以下略)

@@@@@@@@@@

○高病原性鳥インフルエンザ防疫マニュアル(抄)
(平成15年9月17日付け15消安第1736号農林水産省消費・安全局衛生管理課長通知)

T 目的 
このマニュアルは国内における高病原性鳥インフルエンザ(以下本病という。)の発生時における防疫措置を適切に実施するため、国、都道府県、関係機関等における対応措置を定める。 

W 異常家きん発見時の措置等 
1 異常家きんの通報 
  県畜産主務課は、獣医師及び家きんの飼養者等に対し、家きんの死亡率の上昇、産卵率の低下又は呼吸器症状等の臨床症状から本病が疑われる臨床症状を示す異常家きんを発見した場合には、直ちにその旨を家畜保健衛生所に報告するよう周知する。家畜保健衛生所は、獣医師及び家きんの飼養者等から報告を受けたとき、家畜防疫員による立入検査を行う。この際、本病である場合を想定し、病原体の散逸防止等の防疫措置に十分配慮する。 
  
2 家畜保健衛生所における病性鑑定 
 家畜防疫員は立入検査の結果、臨床症状等から本病が疑われる場合には、別紙1の3により臨床症状を示す家きん及び死亡家きんを対象に病性鑑定を実施する。ただし、検査実施前の3日間の家きん群の死亡率が10%以上(以下「一定以上の死亡率」という 。)であることが確認され、臨床症状等から本病の発生が疑われる農場においては、移動の自粛を要請した上で、直ちに臨床症状を呈する家きん及び死亡家きんを対象に病性鑑定を実施する。 
  
3 動衛研における病性鑑定 
(1) 材料の送付
 家畜保健衛生所における病性鑑定の結果、A型インフルエンザウイルスを疑うウイルスが分離された場合、家畜保健衛生所は、病性鑑定に用いた材料(気管スワブ、クロアカスワブ、血清並びに発育鶏卵から採材した尿膜腔液)を別紙2の記載事項に留意しつつ動衛研に送付する。この場合には、別記様式2を添付する。 

(2) 連絡 
ア 家畜保健衛生所は、県畜産主務課に対し、動衛研に材料を送付する旨を連絡するとともに別記様式2をFAX又は電子メールにて送付する。 

イ 県畜産主務課は、衛生管理課に対し動衛研に材料を送付する旨を連絡するとともに、別記様式2をFAX又は電子メールにて送付する。 

(3) 検査
 動衛研は、別紙1の4により病性鑑定を実施する。 

(4) 病性鑑定結果の報告
 動衛研は、病性鑑定結果を衛生管理課及び県畜産主務課に報告する。 
  
4 患畜、疑似患畜及び患畜となるおそれのある家畜の決定
本病の診断は、2及び3による病性鑑定の結果を踏まえ、原則として家畜防疫員が(1) 〜(3) により本病の患畜、疑似患畜又は患畜となるおそれのある家畜(家畜伝染病予防法(昭和26年法律第166号。以下「法」という。)第14条第3項の患畜となるおそれがある家畜をいう。以下「おそれ畜」という。)の決定を行い、本防疫マニュアルにより防疫措置を図る。 
  
X 本病の患畜等確認時の措置 
本病の伝播力の強さにかんがみれば、患畜等が確認された場合は、直ちに防疫措置を施すことが重要となる。防疫措置は、農場単位(発生農場等)での隔離、消毒等の措置、地域単位での移動制限等について、患畜等の所有者、都道府県、関係団体等の関係者が連携して、迅速かつ的確に実施する。また、本病を含むA型インフルエンザウイルスの人の健康に対する影響を考慮し、患畜等が確認された時点で、農林水産省は厚生労働省に対し、県畜産主務課は公衆衛生担当部局に対し、それぞれ速やかに連絡を行う。 
                                            弁護士 三木秀夫

ニュース六法目次