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三木秀夫法律事務所
このページは最近話題になったニュースを題材にして、そこに関係する各種法令もしくは
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ニュース六法目次
佐藤前議員の公設秘書問題(2004年03月07日)       公設秘書/国会
○衆議院議員を辞職した佐藤観樹元自治相の元公設秘書をめぐる「名義借り」疑惑で、愛知県警は、佐藤前議員が一連の名義借り行為を主導し、国から支給された秘書給与をだまし取った疑いが強まったとして、2004年3月7日に佐藤前議員を詐欺容疑で逮捕した。

また、佐藤前議員の妻の佐藤美代子元公設第1秘書(52)と、名義を貸していた元公設第2秘書の女性(51)の夫で、同県尾西市の前市議会議長浅田清喜(せいき)被告(あっせん収賄罪などで起訴)も逮捕した。

佐藤前議員はこれに先立ち、愛知県庁で記者会見し容疑を否定。「監督不行き届き」と謝罪した。

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○逮捕容疑は、報道による限り、佐藤前議員は2000年6月、浅田被告に対して同被告の妻の名義を貸してもらうことを依頼、実際には勤務実態がないのに、同月から昨年4月まで公設第2秘書として登録し、この間に給与として支払われた約1600万円をだまし取った疑い。
妻の浅田被告の容疑は、報道による限り、自らが名義借りに協力して公設秘書としての名義を貸した詐欺幇助罪のほか、年間150万円ずつ、計450万円を佐藤前議員側に寄付したように装った虚偽の政治資金収支報告書の作成にも関与した容疑も持たれている。

○今後は、秘書としての勤務実態があったのかどうかや、佐藤前議員がその実態を知っていたかどうかが、犯罪成否のポイントとなろう。

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○過去の国会議員による秘書給与詐取事件では、1999年1月の自民党の中島洋次郎衆議院議員〈故人〉に始まる。同議員は、受託収賄や秘書給与詐欺等の罪で起訴され、東京高裁にて懲役2年、追徴金1000万円の実刑判決を言い渡され、最高裁に上告中に自殺。その後、2000年に山本譲司元民主党衆院議員が、政策秘書の給与をだまし取ったとして、懲役1年6カ月の実刑が確定している。その後、2003年には坂井隆憲前自民党衆院議員、辻元清美元社民党政審会長らが起訴され、辻元元議員は有罪判決(執行猶予)が確定、坂井前議員は公判中。そのほか、自民党の田中真紀子衆議院議員は、議員を辞めたあと不起訴処分となった。

○公設秘書とは、国会議員に国費によって付せられる秘書(特別職の公務員)。これには政策担当秘書、公設第1秘書、公設第2秘書の3人がある。国会法123条1項が公設第1秘書、公設第2秘書を、同条2項が政策担当秘書を規定している。採用や人事管理は議員に任されている。これ以外に、議員が自費で雇う私設秘書がいる。

○公設秘書制度は、古く1947年に導入されたもの。1952年に特別国家公務員という身分になったが、当初は、給与相当分は手当として議員に支払われていた。その後、1957年の改正で、給与が秘書に直接支給されるようになった。1963年に公設秘書は2人に増員され、1994年から政策担当秘書1人が新設された。

○公設秘書のうち、政策秘書は、国会議員の政策立案能力を高めることを目的に、従来からの公設第1、第2秘書に加えて、1994年1月に導入された制度。政策スタッフとして「議員立法」に参加し、法律をつくりだすほか、国会の委員会での質問を作成したり、資料を収集したりして、議員をサポートするのが仕事。その給与は、最低でも年収約780万円で、ほかの公設第1、第2秘書よりも高い。今回の佐藤前議員の場合は、公設第1,2秘書の問題であり、山本譲司元議員や辻元清美元議員の場合は、政策秘書給与が問題となった。

○今回の通常国会で、衆議院議長の諮問機関として設けられた議会制度協議会が「国会議員の秘書に関する調査会」を設置し、公設秘書制度を抜本的に見直すこととなった。見直しの焦点は、総額一括支払制度(いわゆるプール制)の導入の可否。

プール制とは、一定の金額内で秘書の人数や給与額を議員が決められるようにすること。
米国の秘書制度がその方式で、下院の場合は、議員1人が22人の秘書を雇うことができる。議員1人当たりの平均支給額は約1億円。上院はもっと高額で、選出州の人口によって異なり、最高で約2億円以上、最低でも約1億3000万円。雇用人数も、議員1人当たり平均で40人以上。
ただし、米国の場合は、高額な半面、議員の配偶者や子供・兄弟を秘書として採用することが禁止され、また秘書から議員への政治献金の禁止など、厳しい歯止めがある。 

○このプール制の議論は、議員は積極的だが秘書側が反対している。仮にプール制を導入しても、議員の配偶者や子供・兄弟を、能力や実態を軽視したまま秘書として採用しうる現実を放置したままでは、米国のような立法能力の向上にはつながらないのではないか。

○今回の佐藤元議員の秘書給与詐取疑惑を受け、衆院議員秘書でつくる衆議院秘書協議会は、2004年3月5日に、衆院議会制度協議会に抜本改革を求める提言を提出した。不正の温床とされる現行の給与の仕組みについて、その提言は「秘書給与詐取・流用事件の再発を防ぐためにも、労働基準法にならい、秘書本人に直接全額を支払うという規定を明文化する立法的措置が必要」と指摘。国から秘書本人への直接支給方式に変更する法改正を求めている。
これによると、現在は、秘書からの委任状をもとに国会事務局がいったん代理受領し、それぞれの議員側が申請した方法に基づいて秘書に分配しているが、その過程で詐取や流用が行われるケースが多いという。

○ちなみに、政策秘書になる道として、国会議員政策担当秘書資格試験がある。これは毎年1回実施される国家試験であるが、国家公務員I種と同等レベルの超難関。
なお、政策秘書の選考採用審査の認定を受けられるのは、国会議員の政策担当秘書資格試験等実施規程によって、政策担当秘書資格試験の合格者も含めて、次の通り、多くの道が定められている。
@国家公務員採用T種試験若しくは外務公務員採用T種試この判例は政策秘書給与の問題験又は審査認定委員会が定める試験に合格していること。
A博士の学位を授与されていること。
B国若しくは地方公共団体の公務員又は会社、労働組合その他の団体の職員としての在職期間が通算して十年以上であり、かつ、専門分野における業績が顕著であると客観的に認められる著書等があること。
C次のいずれかに該当し、かつ、第24条に規定する政策担当秘書研修を受講し、その修了証書の交付を受けていること。
イ 国会法第132条第1項に規定する議員秘書として在職した期間が10年以上であること。
ロ 議員秘書として在職した期間が5年以上10年未満であり、かつ、当該期間と政党職員の職務に従事した期間とを合算した期間が10年以上であること。

○しかし、実際に採用されるのは公設秘書出身者が多く、衆議院では453人の政策秘書のうち、資格試験合格者は40〜50人に過ぎないと言われている。あとは、上記のCロの資格に基づくベテラン秘書がそのまま昇格しているのが多いようである。

○なお、山本譲司元議員の確定判決の要旨を末尾に記載した。秘書給与に対する裁判所の考え方がよく分かる。ちなみに、この判例は政策秘書の問題であり、今回の佐藤議員の事案とは異なる。

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○国会法
(秘書)
第132条 各議員に、その職務の遂行を補佐する秘書二人を付する。
2  前項に定めるもののほか、主として議員の政策立案及び立法活動を補佐する秘書一人を付することができる。

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○国会議員の政策担当秘書資格試験等実施規程
(平成五年四月二十八日両院議長協議決定)       

(趣旨)
第1条 この規程は、政策担当秘書資格試験に関する事項その他国会法(昭和22年法律第79号)第132条第2項に規定する秘書(以下「政策担当秘書」という。)の採用に関し必要な事項を定めるものとする。

(選考採用審査認定を受けることができる者の要件)
第19条 次の各号の一に該当する者は、選考採用審査認定を受けることができる。ただし、第7条各号の一に該当する者は、この限りでない。
一 司法試験、公認会計士試験、国家公務員採用T種試験若しくは外務公務員採用T種試験又は審査認定委員会が定める試験に合格していること。
二 博士の学位を授与されていること。
三 国若しくは地方公共団体の公務員又は会社、労働組合その他の団体の職員としての在職期間が通算して十年以上であり、かつ、専門分野における業績が顕著であると客観的に認められる著書等があること。
四 次のいずれかに該当し、かつ、第24条に規定する政策担当秘書研修を受講し、その修了証書の交付を受けていること。
イ 国会法第132条第1項に規定する秘書(以下「議員秘書」という。)として在職した期間が十年以上であること。
ロ 議員秘書として在職した期間が五年以上十年未満であり、かつ、当該期間と政党職員(国会議員が所属している政党の職員をいう。)の職務その他議員秘書の職務に類似するものとして審査認定委員会が認める職務に従事した期間とを合算した期間が十年以上であること。

(認定等)
第23条 審査認定委員会は、能力、経験、資格等について一定の社会的評価を得ている者を政策担当秘書として採用するに相応しいものと認めた場合には、その旨の認定を行う。(2項以下略)

(登録)
第28条 資格試験委員会は、第13条第1項の合格者を国会議員政策担当秘書資格試験合格者登録簿に登録する。
2 審査認定委員会は、第23条第1項の認定をした者を国会議員政策担当秘書審査認定者登録簿に登録する。
(政策担当秘書の採用)
第30条 国会議員は、政策担当秘書を採用する場合には、第28条第1項の資格試験合格者登録簿又は同条第2項の審査認定者登録簿に登録された者のうちから採用しなければならない。

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○詐欺、政治資金規正法違反被告事件
東京地方裁判所判決/平成12年(刑わ)第3020号
【判決日付】平成13年2月28日
【出典】判例時報1743号153頁

       主   文
被告人を懲役一年六月に処する。
       理   由
 (犯罪事実)
被告人は、衆議院議員をしていたものであり、東京都立川市柴崎町《番地略》甲野ビル二階(平成一〇年二月ころ以前は同市柴崎町《番地略》乙山ビル四階、それ以降平成一一年二月ころまでは右甲野ビル五階)に事務所を置く政治団体であるA後援会及び右甲野ビル二階一平成一一年二月ころまでは右甲野ビル五階)に事務所を置く政治団体である丙川会の代表者を務めていたものであるが、自己の公設第一秘書をしていたBらと共謀の上
第一 C子が国会議員政策担当秘書審査認定者登録簿に登載されていることを奇貨として、同女を自己の政策担当秘書に採用した旨欺いて、その給与支給名下に衆議院から金員を交付させようと企て、平成八年一一月一四日ころ、東京都千代田区永田町《番地略》衆議院事務局において、同事務局庶務部議員課課長補佐Dらに対し、真実は、いわゆる名義を借りるものであり、政策担当秘書に採用する意思も同秘書に採用した事実もないのに、これあるように装い、右C子を被告人の政策担当秘書に採用した旨内容虚偽の衆議院議長あて議員秘書採用同意申請書、議員秘書採用届、履歴書等を提出し、右Dらをして、右C子が被告人の政策担当秘書に採用されたものと誤信させ、よって、別表一記載のとおり、同月二九日から平成一一年九月一〇日までの間、前後四八回にわたり、衆議院から給与支給名下に合計二五四九万三四一九円を株式会社丁原銀行衆議院支店に開設された被告人管理に係るA事務所代表B名義普通預金口座に振込送金させ、もって、右Dらを欺いて財物を交付させ
第二 (以下政治資金規正法違反の事実:略)

(証拠)《略》
(法令の適用)
一 罰条
  判示第一の所為につき 包括して刑法六〇条、二四六条一項
  判示第二の一ないし六の各行為につきいずれも同法六〇条、政治資金規正法二五条一項三号、一二条一項(以下略)

(量刑事情)
 一 本件は、現職の衆議院議員であった被告人が、公設第一秘書らと共謀の上、いわゆる名義貸しの方法により、政策担当秘書として採用する意思も採用した事実もないのに政策担当秘書審査認定者登録簿に登載されている者を採用したかの如く装い、約二年九か月の間に四八回にわたって、衆議院から政策担当秘書の給与支給名下に合計二五〇〇万円余りを詐取した詐欺の事案及び右詐欺事犯を糊塗するために、東京都選挙管理委員会に提出していた被告人が代表者を勤める二政治団体の数年分にわたる各収支報告書を事後的に訂正するなどして名義上の政策担当秘書が寄附をした旨の虚偽の記入をした政治資金規正法違反の事案である。

二1 詐欺の事案について
本件詐欺事犯は、前述のとおり長期間かつ多数回にわたり二五〇〇万円余りの多額の金員を詐取したものであるから、被害結果は重大であり、それ自体悪質な犯行といわなければならない。しかも、被告人は、国権の最高機関かつ唯一の立法機関の構成員として高度の倫理性及び廉潔性を求められる立場にあったことに鑑みると、国民に対する背信性は高い。その上、本件犯行は、政策担当秘書制度を悪用したものであるが、かかる犯行は国会議員であったからこそ可能な犯行であったものであり、その意味においても悪質であるばかりでなく、次のような政策担当秘書制度創設の趣旨及び経緯に徴すると、その悪質性は際立ったものということができる。

すなわち、政策担当秘書は、政治改革の理念の下、議員の政策立案及び立法調査機能を高め、秘書制度の質的向上と議員の政策活動の充実強化を図り、ひいては政治に対する国民の信頼を回復するとの趣旨で平成五年に創設されたものであり、その給与は国費より支出されるが、一般の公設秘書とは異なり、当該職務に必要な知識や能力を有すると判断されて、登録された有資格者の中から採用され、給与については、公設秘書より優遇されている。そして、政策担当秘書制度が導入される際には、衆議院議員運営委員会内の秘書問題協議会において改めて名義貸しはいけないということが確認され、これを受けて同委員会でその濫用を防止するために、採用は厳正に行なう旨の申合わせが決議されているところである。その一方で、政策担当秘書の給与の支払いについては、当該議員が所属する議院の議長の同意が条件とされるところ、国会議員の良識に対する信頼から、政策担当秘書採用の同意にあたっては、形式的な書面審査しか行われず、政策担当秘書が実際にその職務を遂行しているか否かなどにつき厳格な調査が行われてはいない。被告人は、政策担当秘書制度の導入からわずか三年足らずのうちに、このような国会議員に対する信頼に乗じて、自己の公設第一秘書らと共謀の上、政策担当秘書を採用した旨の内容虚偽の書類等を衆議院事務局に提出するなどして担当職員らを巧みに欺き、多額の国費を詐取したのであるから、その犯行は、国民の代表者であり立法機関の構成員である議院自らの手で政策担当秘書制度の趣旨を踏み躙ったものであり、議員の活動能力を高めることにより政治改革が前進するとの国民の期待を裏切り、政治不信の原因ともなるべき悪質なものであって、厳しく非難されなければならない。

本件の発端は、当時の私設秘書から名義貸しの話が持ち込まれたことにあり、また具体的手続の履践も共犯者を中心として行われているものの、被告人は自ら採用の面接を行なった上、事務所に出勤しなくてもよい旨を公設秘書を介して名義人に伝えさせるなどしており、本件の実行を最終的に決断し、共犯者に指示を下したのは被告人自身であり、本件において被告人は終始最高責任者として主導的に犯行を敢行したものである。また、被告人は、本件の犯行動機につき事務所経費捻出のためであったと供述し、現に詐取した金員は事務所の人件費等に当てられている。しかしながら、国会議員には、年間約一二〇〇万円という政策担当秘書に支給される給与より高額の文書通信費が支給されているところ、被告人はこれを自己の個人用の口座に手つかずのまま預金していたのであり、結果的には本件により詐取した金員を事務所経費に充当したことにより右個人口座の預金を蓄えることができたということができるのであり、結局は本件動機は被告人の個人財産の保全を図るためということに帰するのであって、そこには酌量の余地はない。

被告人は、さしたる躊躇もなく本件犯行に及び、その供述によれば、犯行の当初は刑事事件として摘発を受けるほど悪質なものとは思っていなかったというのであるが、その倫理観及び規範意識の鈍磨こそ国会議員にあるまじきものであって、非難を免れない。さらに、被告人は、平成一〇年一二月に現職の衆議院議員が本件と同様に政策担当秘書を採用していないのに名義を借りて給与の支払いを受けた事案につき詐欺罪に当たるとして起訴されたことを知り、事の重大性、違法性を確定的に認識したにもかかわらず、本件犯行を継続したばかりか、逆に名義上の政策担当秘書に形だけの出勤を求め犯罪隠蔽を図ろうとするなどしているのであるから、被告人の本件に対する強固な犯意が窺われ、その犯情も悪質である。(以下略)
                                            弁護士 三木秀夫

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