神戸連続児童殺傷の加害者が仮退院(2004年03月10日)犯罪者予防更生法 |
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○1997年に起きた神戸市須磨区の連続児童殺傷事件で、関東地方更生保護委員会は2004年3月10日午前、関東医療少年院に収容されていた加害者男性(21、以下Aという)の仮退院を認める決定をした。これを受け、Aは直ちに仮退院し、同年6月の逮捕以来、約6年9か月ぶりに社会に戻った。今後、保護観察下で社会生活を送り、問題行動などがなければ今年12月末に正式退院を迎える。法務省はAが仮退院した事実を遺族に通知するとともに、決定に至った経緯などを報道発表した。
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○少年院の仮退院とは、在院者を仮に退院させ、仮退院期間中、「保護観察」に付する少年院法12条2項に基づく制度。矯正施設に収容された者を、条件に違反した場合は再び施設に収容する権原を留保して、施設から開放する「仮釈放」の一種。現行法での「仮釈放」には、少年院法12条2項に基づく「仮退院」のほか、「仮出獄(刑法28条)」、「仮出場(刑法30条)」の3種がある。
○少年院法
第12条 少年院の長は、在院者に対して矯正の目的を達したと認めるときは、地方更生保護委員会に対し、退院の申請をしなければならない。
2 少年院の長は、在院者が処遇の最高段階に向上し、仮に退院を許すのが相当であると認めるときは、地方更生保護委員会に対し、仮退院の申請をしなければならない。
○刑法
(仮出獄)
第28条 懲役又は禁錮に処せられた者に改悛の状があるときは、有期刑についてはその刑期の3分の1を、無期刑については10年を経過した後、行政官庁の処分によって仮に出獄を許すことができる。
(仮出場)
第30条 拘留に処せられた者は、情状により、いつでも、行政官庁の処分によって仮に出場を許すことができる。
2 罰金又は科料を完納することができないため留置された者も、前項と同様とする。
○仮釈放は、施設長からの上申に基づき、地方更生保護委員会が審理して決定する(犯罪者予防更生法12条1項、29条1項、31条2項)。これを認められた者は、犯罪者予防更生法33条1項2号の規定に基づいて、保護観察に付される。
○犯罪者予防更生法
(地方委員会の権限及び所掌事務)
第12条 地方更生保護委員会(以下「地方委員会」という。)は、左に掲げる権限を有し、その権限に関する事務をつかさどる。
一 刑法 (明治四十年法律第四十五号)第28条 及び第30条1項にいう行政官庁として、仮出獄及び仮出場を許し、並びに仮出獄の処分を取り消すこと。
二 長期と短期を定めて言い渡された刑につき、その刑の執行を受け終ったものとする処分を行うこと。
三 仮退院及び退院を許すこと。
四 その他この法律又は他の法律により地方委員会に属せしめられた権限
(仮釈放の審理の開始)
第29条 地方委員会は、受刑者又は労役場に留置中の者について監獄の長から、在院者について少年院の長から、仮出獄、仮出場又は仮退院の申請があつた場合には、仮出獄、仮出場又は仮退院を許す旨又は許さない旨の決定をするため、委員を指名して、審理を行わせなければならない。但し、その申請が方式に違反し、又は法律上の要件を欠くときは、審理を行わせないで、決定をもつて、これを却下することができる。
(仮釈放の処分)
第31条 地方委員会は、第29条第1項の審理の結果にもとずき、仮出獄、仮出場又は仮退院を不相当と認めるときは、決定をもつて、同項の申請を棄却しなければならない。
2 地方委員会は、第29条第1項又は第2項の審理の結果にもとずき、仮出獄、仮出場又は仮退院を相当と認めるときは、決定をもつて、これを許さなければならない。
3 地方委員会は、前項の規定により仮出獄又は仮退院を許すときは、同時に、法務省令の定める範囲内で、その者が仮出獄又は仮退院の期間中遵守すべき特別の事項を定めなければならない。
(保護観察の対象及び期間)
第33条 左に掲げる者は、この法律の定めるところにより、保護観察に付する。
一 少年法第24条第1項第1号の保護処分を受けた者
二 少年院からの仮退院を許されている者
三 仮出獄を許されている者
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○発表によれば、関東地方更生保護委員会は、Aの仮退院の可否を最終的に協議し、「約6年半にわたる矯正教育で、事件の要因となったAの性的サディズムなどは改善され、再犯の恐れもなくなった」と判断し、出院後の居住地などにもめどがついたことから、仮退院を認めたとのこと。
○報道によると、Aは1997年10月、神戸家裁の決定を受けて関東医療少年院に収容された。2001年11月には、「本格的な社会復帰に備え、集団での訓練が必要」として、いったん中等少年院に移された。少年院の収容期限は通常20歳までとされるが、Aについては、同家裁が2002年7月、「仮退院後の生活にまだ不安が残る」として、20歳になった後も保護観察期間を含めて2年半の収容継続を決定。同年11月に再び、関東医療少年院に戻っていた。Aはこの間の少年院で受けてきた矯正教育により、被害者の月命日に冥福を祈るなど、贖罪意識が芽生え、他人との会話もスムーズ行えるようになり、技能職の資格も取得したことから、少年院側が「社会生活は可能」として、昨年3月、関東地方更生保護委員会に仮退院を申請したとのこと。仮退院後は、保護観察所などの生活指導を受けながら自立を図り、今年12月末をめどに、本格的な社会復帰を目指す模様。
○本件は、社会的衝撃の極めて大きな事件であったことや、事件の異常性から、少年院側も特別のチームを組んで慎重に対処したものと思われる。関係者の努力には相当なものがあったと思う。社会復帰しうるに十分なほど矯正が進んだかどうかは、本当のところはこれからの彼の人生が示すことになるが、ぜひ、被害者の冥福を祈りながら、一社会人としてまじめな生活を歩んでいって欲しい。
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○少年院の制度
少年院法
第2条 少年院は、初等少年院、中等少年院、特別少年院及び医療少年院とする。
2 初等少年院は、心身に著しい故障のない、14歳以上おおむね16歳未満の者を収容する。
3 中等少年院は、心身に著しい故障のない、おおむね16歳以上20歳未満の者を収容する。
4 特別少年院は、心身に著しい故障はないが、犯罪的傾向の進んだ、おおむね16歳以上23歳未満の者を収容する。ただし、16歳未満の者であつても、少年院収容受刑者については、これを収容することができる。
5 医療少年院は、心身に著しい故障のある、14歳以上26歳未満の者を収容する。
6 少年院は、収容すべき者の男女の別に従って、これを設ける。但し、医療少年院については、男女を分隔する施設がある場合は、この限りでない。
第11条 在院者が20歳に達したときは、少年院の長は、これを退院させなければならない。但し、送致後1年を経過しない場合は、送致の時から1年間に限り、収容を継続することができる。
2 少年院の長は、前項の場合において、在院者の心身に著しい故障があり、又は犯罪的傾向がまだ矯正されていないため少年院から退院させるに不適当であると認めるときは、本人を送致した裁判所に対して、その収容を継続すべき旨の決定の申請をしなければならない。
3 前項の申請を受理した裁判所は、その審理にあたり、医学、心理学、教育学、社会学その他の専門的知識を有する者及び本人を収容中の少年院の職員の意見をきかなければならない。
4 裁判所は、本人が第2項の状況にあると認めるときは、期間を定めて、収容を継続すべき旨の決定をしなければならない。但し、この期間は23歳を超えてはならない。
5 裁判所は、少年院の長の申請に基いて、23歳に達する在院者の精神に著しい故障があり公共の福祉のため少年院から退院させるに不適当であると認めるときは、26歳を越えない期間を定めて医療少年院に収容を継続すべき旨の決定をしなければならない。
6 第2項から第4項までの規定は、前項の場合にこれを準用する。
7 少年院の長が裁判所に対し、在院者の収容を継続すべき旨の決定の申請をした場合には、第1項の規定にかかわらず、裁判所から決定の通知があるまで収容を継続することができる。
8 少年院の長は、在院者が裁判所の定めた期間に達したときは、これを退院させなければならない。 |
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