韓国大統領の弾劾訴追案可決((2003年03月12日) 韓国憲法の弾劾制度 |
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○韓国国会は、2004年3月12日、盧武鉉(ノ・ムヒョン)大統領に対する弾劾訴追案を可決した。弾劾議決書が盧大統領に送付され次第、大統領の権限行使は停止し、高建(コゴン)首相が大統領職務を代行する。韓国大統領の弾劾案が可決されたのは史上初。憲法裁判所が180日以内に弾劾の可否を決定するが、韓国政界は最高指導者の不在という異例の事態に陥った。
○採決では、在籍議員271人のうち、195人が投票。訴追案を提案した野党ハンナラ党、新千年民主党を中心に193人が賛成、可決に必要な3分の2以上に達した。実質与党・開かれたウリ党は投票しなかった。大統領の弾劾理由は、(1)特定政党(ウリ党)への支持発言により法治主義を否定した(2)自身と側近の不正腐敗により国政運営の正当性を失った(3)国民経済と国政を破綻(はたん)させた、などとされる。
議決書は12日中にも憲法裁判所に送られる。憲法裁が審議し、裁判官9人中6人以上の賛成で可決すれば弾劾が正式に決まり、その決定から60日以内に後任大統領選が行われる。一方、憲法裁で否決されれば、弾劾は無効になる。
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○突然に飛び込んできたこのニュースは、驚きであった。韓国憲法にこのような弾劾規定があるということは、日本ではあまり知られていない。ここで、ニュースの内容に沿いながら、韓国の憲法、国会法、憲法裁判所法を読んでみた。ニュース報道では、何となく国会が弾劾を決めて、その可否を憲法裁判所が判断するというふうに、あたかも裁判所の判断が事後的なように述べているが、条文をよく読んでみると、国会が決めるのは「弾劾の訴追」、つまり刑事事件に例えれば「起訴」に当たり、弾劾の審判、すなわち本当に首にするかどうかは憲法裁判所が決めることになっている。
なお、韓国の法律の日本語訳については、
韓国WEB六法 http://www.geocities.co.jp/WallStreet/9133/target.html
から引用させていただいた。
○韓国国会による大統領に対する弾劾訴追案の手続きは大韓民国憲法65条1項にもとづく。
○可決に必要な3分の2以上に達したというのは、憲法65条2項但し書きによる。また、弾劾議決書が盧大統領に送付され次第に大統領の権限行使は停止するというのは、同条3項に記載されている。
○項建(コゴン)首相が大統領職務を代行するというのは憲法71条によるものと解される。
○憲法裁判所が弾劾の審判を行うのは、憲法111条1項2号にある。この場合の審理期間(180日以内)は憲法裁判所法38条に定められている。憲法111条と113条には、さらに憲法裁判所の裁判官の構成や審理方式などが定められている。
○大統領の権限等は憲法で憲法66条にあり、もし今回の弾劾が認められた場合は、同68条2項で60日以内の選挙と決められている。
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○韓国憲法
第65条① 大統領、国務総理、国務委員、行政各部の長、憲法裁判所裁判官、法官、中央選挙管理委員会委員、監査院長、監査委員その他法律が定めた公務員が、その職務執行に際して、憲法又は法律に違背したときは、国会は弾劾の訴追を議決することができる。
② 前項の弾劾訴追は、国会在籍議員の3分の1以上の発議がなければならず、その議決は、国会在籍議員の過半数の賛成がなければならない。ただし、大統領に対する弾劾訴追は、国会在籍議員の過半数の発議及び国会在籍議員の3分の2以上の賛成がなければならない。
③ 弾劾訴追の議決を受けたきは、弾劾審判があるときまで、その権限行使が停止される。
第71条 大統領が欠位になり、又は事故により職務を遂行することができないときは、国務総理、法律で定められた国務委員の順序で、その権限を代行する。
第111条① 憲法裁判所は、次の事項を管轄する。
1 法院の提請による法律の違憲性の審判
2 弾劾の審判
3 政党の解散の審判
4 国家機関相互間、国家機関と地方自治団体間又は地方自治団体相互間の権限
争議に関する審判
5 法律が定める憲法訴願に関する審判
② 憲法裁判所は、法官の資格を有する9人の裁判官で構成し、裁判官は、大統領が任命する。
③ 前項の裁判官のうち、3人は国会で選出する者を、3人は大法院長が指名する者を任命する。
④ 憲法裁判所の長は、国会の同意を得て、裁判官の中から大統領が任命する。
第113条① 憲法裁判所で、法律の違憲決定、弾劾の決定、政党解散の決定、又は憲法訴願に関する認容決定をするときは、裁判官6人以上の賛成がなければならない。
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○韓国の憲法裁判所法にも手続き等の詳細が定められている。
憲法裁判所法
第38条(審判期間)
憲法裁判所は、審判事件を接受した日から180日以内に終局決定の宣告をしなければならない。ただし、裁判官の欠缺により7人の出席が不可能なときは、その欠けた期間は、審判期間にこれを算入しない。
第53条(決定の内容)
①弾劾審判請求が理由があるときは、憲法裁判所は、被請求人に当該公職で罷免する決定を宣告する。
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○韓国国会法では、弾劾訴追を行う手続き規定が設けられている。
国会法
第130条(弾劾訴追の発議)①弾劾訴追の発議があったときは、議長は、直ちに本会議に報告し、本会議は、議決により法制司法委員会に回附して調査させることができる。
②本会議が第1項により法制司法委員会に回附するものと議決しなかったときは、本会議に報告された時から24時間以後72時間以内に弾劾訴追の可否を無記名投票により表決する。
③弾劾訴追の発議には、被訴追者の姓名・職位及び弾劾訴追の事由・証拠その他調査上参考となるに足りる資料を提示しなければならない。
第134条(訴追議決書の送達及び効果)①弾劾訴追の議決があったときは、議長は、遅滞なく訴追議決書の正本を法制司法委員長の訴追委員に、その謄本を憲法裁判所・被訴追者及びその所属機関の長に送達する。
②訴追議決書が送達されたときは、被訴追者の権限行使は、停止し、任命権者は、被訴追者の辞職願を受理し、又は解任することができない。 |
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