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三木秀夫法律事務所
このページは最近話題になったニュースを題材にして、そこに関係する各種法令もしくは
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【お知らせ】
2009年12月から、このページは休止とさせていただきました。
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ご関心のある方は、そちらをご覧ください。

ニュース六法目次
田中真紀子前外相長女の文春仮処分(2004年03年16日) 出版禁止仮処
○田中真紀子前外相の長女の私生活に関する記事をめぐって、前外相の長女側が「公人の親族であってもプライバシー権がある」として「週刊文春」を発行する文芸春秋に対して出版禁止仮処分を申し立て、東京地裁(鬼沢友直裁判官)は、2004年3月16日、翌日発売の同誌(25日号)について「記事を切除または抹消しなければ、販売や無償配布、第三者に引き渡してはならない」と出版禁止の仮処分命令を出した。週刊文春側は翌17日、命令を不服として同地裁に仮処分異議を申し立てた。

○その後、この仮処分異議に対して、同地裁(大橋寛明裁判長)は、3月19日文春側の異議申し立てを退け、出版禁止を妥当とする決定をした。文春側は東京高裁に抗告。

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仮処分とは、民事保全の一種で、将来の強制執行を保全するための係争物に関する仮処分(民事保全法23条1項)と、争いがある権利関係について生じうる著しい損害または急迫の危険を避けるために裁判手続が終了するまでの間、仮の状態を定める仮の地位を定める仮処分(民事保全法23条2項)がある。今回はこの仮の地位を定める仮処分に当たる。いずれの仮処分の場合も、被保全権利(保全すべき権利又は権利関係)と保全の必要性の疎明が求められる(民事保全法13条2項)。後者の仮の地位を定める仮処分については、相手方(債務者)に与える影響を考慮して、原則として口頭弁論または債務者の立ち会う「審尋(しんじん)」(民事保全法23条4項)が必要。
また、保全異議が通らない場合は、送達後2週間内に、高等裁判所に保全抗告をすることができる(民事保全法41条)。

○関連条文は次のとおり。

民事保全法
(申立て及び疎明)
第13条  保全命令の申立ては、その趣旨並びに保全すべき権利又は権利関係及び保全の必要性を明らかにして、これをしなければならない。
2  保全すべき権利又は権利関係及び保全の必要性は、疎明しなければならない。
(仮処分命令の必要性等)
第23条  係争物に関する仮処分命令は、その現状の変更により、債権者が権利を実行することができなくなるおそれがあるとき、又は権利を実行するのに著しい困難を生ずるおそれがあるときに発することができる。
2  仮の地位を定める仮処分命令は、争いがある権利関係について債権者に生ずる著しい損害又は急迫の危険を避けるためこれを必要とするときに発することができる。
3  (略)
4  第2項の仮処分命令は、口頭弁論又は債務者が立ち会うことができる審尋の期日を経なければ、これを発することができない。ただし、その期日を経ることにより仮処分命令の申立ての目的を達することができない事情があるときは、この限りでない。
(仮処分の方法)
第24条  裁判所は、仮処分命令の申立ての目的を達するため、債務者に対し一定の行為を命じ、若しくは禁止し、若しくは給付を命じ、又は保管人に目的物を保管させる処分その他の必要な処分をすることができる。
(保全異議の申立て)
第26条  保全命令に対しては、債務者は、その命令を発した裁判所に保全異議を申し立てることができる。
(保全執行の停止の裁判等)
第27条  保全異議の申立てがあった場合において、保全命令の取消しの原因となることが明らかな事情及び保全執行により償うことができない損害を生ずるおそれがあることにつき疎明があったときに限り、裁判所は、申立てにより、保全異議の申立てについての決定において第三項の規定による裁判をするまでの間、担保を立てさせて、又は担保を立てることを条件として保全執行の停止又は既にした執行処分の取消しを命ずることができる。
(保全抗告)
第41条  保全異議又は保全取消しの申立てについての裁判(第33条(前条第1項において準用する場合を含む。)の規定による裁判を含む。)に対しては、その送達を受けた日から2週間の不変期間内に、保全抗告をすることができる。ただし、抗告裁判所が発した保全命令に対する保全異議の申立てについての裁判に対しては、この限りでない。

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○出版物の事前差し止めは、憲法21条の表現の自由への侵害や、同条で禁止する検閲にもつながりかねない問題のため、厳しい要件での縛りをかけない限り事前の差し止めは安易には認められるべきではないが、今回のケースがその例外的な要件に当たると言えるかが争点といえよう。今回の東京地裁の仮処分は、田中議員の長女が純粋な私人であり、この記事がプライバシーへの侵害性が極めて高い内容と判断したためと考えられる。

○私が今回の記事を一読した限りでは、その記事内容が田中議員の長女のプライバシーを侵害していることは間違いないと思われる。ただ、今回の問題点は、仮処分の形で事前差し止めを認めるのが妥当であったかどうかである。つまり、今回の雑誌において、その販売や無償配布、第三者に引き渡し(販売、頒布等)に対する仮処分による事前差止めが許される内容であったかどうかであろう。

○憲法21条 
集会、結社及び言論、出版その他一切の表現の自由は、これを保障する。
2 検閲は、これをしてはならない。通信の秘密は、これを侵してはならない。

○いまのところ、月刊誌の販売や出版の差し止めをめぐっては、最高裁大法廷が、北海道知事選の立候補予定者I(元旭川市長・当時衆議院議員)が、月刊雑誌『北方ジャーナル』昭和54年4月号に掲載の予定であったIに関する中傷記事を掲載しようとした月刊誌「北方ジャーナル」の発行の事前差し止めを求めた「北方ジャーナル訴訟」で、「表現内容が真実でなく、被害者が著しく回復困難な損害をこうむる恐れがある時、例外的に認められる」との判断を示している。(北方ジャーナル差止め国家賠償事件最高裁大法廷判決)(最高裁判所大法廷昭和61年6月11日判決)

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○北方ジャーナル差止め国家賠償事件最高裁大法廷判決の要旨
1 雑誌その他の出版物の印刷、製本、販売、頒布等の仮処分による事前差止めは、憲法21条2項前段にいう検閲に当たらない。
2 名誉侵害の被害者は、人格権としての名誉権に基づき、加害者に対して、現に行われている侵害行為を排除し、又は将来生ずべき侵害を予防するため、侵害行為の差止めを求めることができる。
3 人格権としての名誉権に基づく出版物の印刷、製本、販売、頒布等の事前差止めは、右出版物が公務員又は公職選挙の候補者に対する評価、批判等に関するものである場合には、原則として許されず、その表現内容が真実でないか又は専ら公益を図る目的のものでないことが明白であって、かつ、被害者が重大にして著しく回復困難な損害を破る虞があるときに限り、例外的に許される。
4 公共の利害に関する事項についての表現行為の事前差止めを仮処分によって命ずる場合には、原則として口頭弁論又は債務者の審尋を経ることを要するが、債権者の提出した資料によって、表現内容が真実でないか又は専ら公益を図る目的のものでないことが明白であり、かつ、債権者が重大にして著しく回復困難な損害を被る虞があると認められるときは、口頭弁論又は債務者の審尋を経なくても憲法21条の趣旨に反するものとはいえない。
(最高裁判所民事判例集40巻4号872頁、最高裁判所裁判集民事148号205頁、裁判所時報933号1頁、判例タイムズ605号42頁、判例時報1194号3頁)

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○この最高裁判決を前提にして、今回の文春事件を考えるに、
@仮処分による事前差止めは、憲法21条2項前段にいう検閲に当たらないことから、仮処分そのものの違憲は問題にならない。
Aこの雑誌が、「公務員又は公職選挙の候補者に対する評価、批判等に関するものである場合」に当たる場合は原則として許されないが、田中真紀子議員の娘に関する私的事項もこれに当たると言えるのか、大いに疑問がある。
Bなお、今回の記事が「公職選挙の候補者に対する評価、批判等に関するものである場合」に当たる場合であったと仮定しても、「表現内容が真実でないか又は専ら公益を図る目的のものでないことが明白であって、かつ、被害者が重大にして著しく回復困難な損害を破る虞がある」
の要件のうち、少なくても後者の回復困難な損害発生があると言うべきものであろう。
Cそういったことからして、今回の仮処分決定と保全異議への却下決定はいずれも妥当なものと考える。

○ちまたでは、出版・マスコミ関係者を中心に、表現の自由を声高に言って、プライバシー権より常に優先するかのごとき論調があるが、賛同しがたい。要はバランスである。
当然に民主主義の前提要件たる表現の自由は最大限尊重されるべきであるが、公務員又は公職選挙の候補者に対する評価、批判等に関しない完全な個人の秘密まで勝手に公開されるのは、いくら表現の自由を叫んでも許されるべきものではない。例えば、あらゆる国会議員の親族全ての者の住所・氏名・電話番号・携帯番号・前科・婚姻歴・離婚歴、果ては子どもの名前や通学先など、その他あらゆる個人情報を、「公益」を名目に雑誌に載せようとした場合でも、差し止めできないというのはおかしい。仮定の話としてであるが、今回の田中議員の長女の記事が、離婚ではなく、例えば何らかの身体的治療歴を話題にしていたら、その事前差し止めにここまでの反対があったであろうか。また、ある国会議員の娘が性犯罪の被害者になった旨の暴露が記事になろうとしていたらどうか。表現の自由は常にプライバシー権より優先するという者は、この場合でも、表現の自由を旗印に一切の事前差し止めができないというのであろうか。
問題は、事前差し止めがどのような場合に許されるのかのルールを明確にし、その判断を行政ではなく、司法という行政とは独立した機関で判断するのがあるべき姿であろう。それによって、初めて少数者の権利が守られる。

○最高裁の北方ジャーナル事件判決以来、地裁レベルでは数件の仮処分命令が出ている。

○まず、出版物の事前差し止めでは、1986年(昭和61年)9月10日の東京地方裁判所決定(時事日報配布差止仮処分事件)がある。これは、清掃会社を脅して現金を受け取ったという記事を東京都内の地域新聞である「時事日報」に掲載された東京都葛飾区の区議が、地域新聞の発行責任者を相手取り新聞発行の差し止めを求めた仮処分を申請し、東京地裁に認められたもの。

○また、1992年11月には三重県の鈴鹿市長Aが、怪文書に基づいて記事を載せないよう、日刊紙「伊勢新聞」記事の事前差し止めの仮処分を申請し、津地裁に認められた伊勢新聞差止仮処分事件がある。
これは、日刊紙伊勢新聞を発行する伊勢新聞社が、Aが鈴鹿市の市長に当選して以来、その人格や市政運営等を厳しく批判ないし非難する連載記事等を掲載していたが、その背景のもと、Aの女性関係や業者の癒着、Aによる市職員の情実任用、公費の乱用、選挙公約違反などについて記載した作成者不明の怪文書が、伊勢新聞社及びAの関係者らに配布された。このため、Aが、従前の同新聞社の報道姿勢などから、同社が本件怪文書を使用してAの名誉を毀損する記事を掲載する可能性があると判断し、津地方裁判所に、記事掲載禁止を求める仮処分を申立てた。同裁判所は、右申立てについて、本件怪文書の一部に基づく記事の掲載を禁ずる仮処分決定をしたもの。
ちなみに、この件は、その後、これらの事実が報道機関によって報道されたことなどによって、報道の自由及び名誉権が侵害されたとして、伊勢新聞社が、Aに対し、謝罪広告の掲載及び損害賠償を請求した。しかし、この件でも、津地方裁判所は、平成10年5月14日、Aと新聞社の代表者との間に存在した感情的なあつれきや、同新聞に掲載されたAの人格や市政運営等を厳しく批判している連載記事の内容など、別件仮処分申立事件に至る経緯について詳細に認定した上で、市長職にあったAが、新聞社を相手方として求めた名誉毀損を理由とする記事の掲載禁止の仮処分の申立て及び本訴の提起などがいずれも不法行為に当たらないと判断し、新聞社は敗訴した。(伊勢新聞謝罪広告等請求事件:津地方裁判所平成10年5月14日判決:判例タイムズ1006号218頁)

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○東京地裁平成16年3月19日仮処分異議に対する決定内容要旨
出典asahi.comより引用(http://www.asahi.com/national/update/0320/001.html)

【本件における差し止めの可否】 
ア 本件においては債権者(長女側)らは公務員ないし公職選挙の候補者ではなく、過去においてその立場にあったものでもなく、これに準ずる立場にある者というべき理由もないから、債権者らの私事に関する事柄が「公共の利害に関する事項」に当たるとはいえない。 債務者(文春側)は、債権者が2代にわたる著名な政治家の家庭の娘であることをもって、債権者らは常に政治家となる可能性を秘めているという。しかしながら著名な政治家の家系に生まれた者であっても政治とは無縁の一生を終わる者も少なくないのであり、そのような者の私事が公共の利害に関する事項でないことは明らかである。 たとえ多数の人々の関心事であるということができても、そのような具体的根拠のない抽象的一般的な理由をもって、「公共の利害に関する事項」であるということは、法的にはできない。 このことは、たとえ将来において債務者の予測するように債権者らが政治家の道を選択することがあるとしても、現在における債権者らの立場を上記のようにみるべきことに影響するものではない。そして、他に、本件記事の内容が私人の私的事項に関することであっても特別に公共の利害に関する事項に当たるというべき根拠は見いだしがたい。

イ 前記のとおり、債権者らが私人にすぎないことからすると、本件記事を「専ら公益を図る目的のもの」とみることはできない。この点の判断は、債務者の主観のみをもって行うのではなく、本件記事を客観的に評価して行うべきである。 そして、本件記事を熟読しても、私人の私事に関する事項であっても特別に専ら公益を図る目的で書かれたものであると認めることはできない。

ウ 債権者らが被る損害が、プライバシーは公表されることにより回復不能になる性質を有するので、著しく回復困難な性質のものであることは、既に述べたとおりである。そこで、本件においてはその損害が重大であるかどうかが問題となる。
 a 他人に知られたくないということに関しては個人差が大きく、出版物の販売等の事前差し止めが表現の自由の制約を伴うことにかんがみれば、単に当事者が他人に知られたくないと感じているというだけでは足りず、問題となる私的事項が、一般人を基準にして、客観的に他人に知られたくないと感じることがもっともであるような保護に値する情報である必要がある。 そして、出版物の頒布等の事前差し止めを認めるためには、その私的事項の暴露によるプライバシーの侵害が重大であって、表現行為の価値が劣後することが明らかでなければならない。
 b この点、純然たる私事に属することであって、一般に他人に知られたくないと感じることがもっともであり、保護に値する情報であるというべきである。 私生活に関する事実をいつ、どのような形で知らせるのかも含めて本人の決定すべき事柄である上、既に一部の人に知られている情報であっても、他の人に広く知られたくない情報であれば、なおプライバシーとして保護に値する。 本件記事自体が一般には知られていない秘事の暴露であることを自認している。
 c もっとも、本件記事は私生活に触れるところはあるものの、事実と経過を報じる内容にとどまり、具体的に踏み込んだものではない。そして、事実等の中には、これを公表されるとそのことから直ちに重大な損害を受けることも多いと思われるが、私生活の事実やその経過の公表が、常に重大な損害を生じ、これを公表する表現行為の価値より優越することが明らかであるとまでいうのは、困難である。 しかし、本件記事は、公務員でも公職選挙の候補者でもなく、過去にこれらの立場であったこともなければ、政治家の親族であることを前提とした活動もしておらず、純然たる私人として生活してきた債権者らの私的事項について、毎週数十万部が発行されている著名な全国誌を媒体として暴露するものである。しかも、ことさらに債権者らの私生活自体を主題とし、読者の好奇心をあおる態様で掲載されている。これらのことからすれば、全くの私人の立場に立って考えれば、上記のような態様により私的事項を広く公衆に暴露されることにより、債権者らが重大な精神的衝撃を受けるおそれがある。

以上によれば、本件記事は、(1)「公共の利害に関する事項」に係るものとはいえず、かつ、(2)「専ら公益を図る目的のものでないこと」が明白であり、かつ、(3)債権者らが「重大にして著しく回復困難な損害を被るおそれがある」から、いずれの観点からしても、事前差し止めの要件は充足されている。 侵害行為によって被る債権者の不利益と差し止めによって債務者が被る不利益性(経済的不利益は、重視すべきでない)とを比較衡量すれば、「表現行為の価値が被害者のプライバシーに劣後することが明らかである」ということができる。

【保全の必要性】
原決定の法律上の効力としては、取次業者や小売店などの占有下にある本件雑誌が一般購読者に販売されることを直接に阻止しているわけではないというべきである。 このように本件雑誌の大部分が原決定の送達前に販売差し止めの対象範囲から流出し、債権者らの損害が拡大することとなった事情は、債権者らの申し立てが遅きに失したために生じたものであるということはできないが、債務者側において意図的に仮処分の手続きを遅延させたことが明らかであるわけでもなく、前記のとおりの結論はやむを得ないものというほかない。

【結論】
以上によれば、本件仮処分命令の申し立ては、被保全権利と保全の必要性の疎明に欠けるところはない。仮処分により差し止められたのは、本件記事が含まれた雑誌の販売であり、本件記事以外の部分は、本件記事を削除するならば、販売を何ら妨げられていない。そのためには、債務者において相当の費用をかけて削除ないし本件記事を含まない雑誌の印刷を行う必要があるが、それは経済的損失に過ぎず、債務者のその他の記事の表現の自由自体を制限するものではない。多くの発行部数を有する雑誌では、その経済的損失も軽視し得ないが、プライバシーの侵害行為が伴っていた場合にこれを被ることは、多くの部数を販売することにより経済的利益を得ていることの半面として甘受すべき結果と言わざるを得ない。

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○仮処分申請事件[時事日報配布差止仮処分決定]
東京地方裁判所昭和61年9月10日決定(判例タイムズ630号210頁)

主   文
一、債務者は昭和六一年八月一五日付時事日報二九四号を販売したり、無償配布したり、又は第三者に引き渡してはならない。
二、債務者の所持する右新聞の占有を解いて東京地方裁判所執行官にその保管を命ずる。ただし、右執行官は債務者の申出があるときには、右新聞第一面「葛飾区議会社会党幹事長S区議、会社脅し密室で一〇万円受理」及び同面記者メモ欄「自分に都合の悪い記事のせられたと、S区議が名誉き損で訴えていた公判で『指名停止』と脅かされたと証言が飛び出した。その裏で、現金十万円を受け取る。金がらみで会社人事に不当介入したと批難されても弁明出来まい。」の記事並びに同第三面「虚勢くずれるS区議『指名停止』と業者脅す地裁公判で事実続々の標題、その本文」を抹消させたうえ、その保管を解いて債務者に引き渡し、その販売等を許すことができる。

(注:区議の氏名部分をSと置き換えた)

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○伊勢新聞謝罪広告等請求事件
津地方裁判所平成10年5月14日判決(判例タイムズ1006号218頁)
(判旨)
確かに、現実に記事が存在しているか否かは、危険性の有無の判断の一資料になりうることは否定し難いが、あくまでも一資料に過ぎないものであって、現実にそのような記事が存在しなくても、当事者間の関係、当事者の言動、当事者の有する資料などその他諸般の事情から、名誉を毀損する記事を掲載する客観的な危険性があるものと認められれば、事前差止めも許されるものと解される(特に、本件のように、新聞・〔日刊紙〕報道による名誉毀損が問題となる場合、現実に記事となっていることを要するものとすると、仮処分の決定を待っている間に、記事を掲載されてしまうことになる。)。 
                                            弁護士 三木秀夫

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