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三木秀夫法律事務所
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岡本依子選手(テコンドー)五輪問題(2004年04月05日) オリンピック憲章
○テコンドーのアテネ五輪派遣問題で、日本オリンピック委員会(JOC)は5日、東京都内で、幹部による会議を開き、女子67キロ以上級の出場枠を獲得している岡本依子(よりこ)選手(32)=ルネスかなざわ=を個人資格でエントリーすることを決めた。五輪憲章では国内に競技団体が存在しない場合、個人エントリーを認めており、JOCは分裂状態にある日本のテコンドー界には競技団体が存在しないと解釈した。理事会の承認を得た上で派遣を正式に決める。個人資格での参加には、国際競技連盟(IF)と国際オリンピック委員会(IOC)理事会の承認が必要だが、JOCによると、IOCの承認は得られる見込みという。(毎日新聞)

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○日本オリンピック委員会は、2004年4月1日、岡本依子氏が、アテネ五輪出場枠を獲得しながら国内競技団体の分裂で五輪派遣が危ぶまれている「テコンドー問題」について会見し、「派遣の方法があるかどうか、さらに考えたい」としていた。

○オリンピック派遣の条件
調べたところでは、選手は各競技の国内唯一の統括団体(NF)からの推薦を受けた上で、日本オリンピック委員会(JOC)が承認し、アテネ五輪組織委員会に競技者を参加登録(エントリー)して決まる。このため、まず各競技の統括団体がJOC加盟基準を満たさなければならない。準加盟以上でもよい。JOC加盟基準は、「国内唯一の統一団体」であるとされているようである。

○日本オリンピック委員会のホームページにある国際オリンピック憲章(規則49付属細則4)を読んでみた(日本語版1996年版)(2001年版はこちら)。
そこには、「国内に公認のNOC(国内オリンピック委員会)がある国で、特定の競技のための国内競技連盟が存在しない場合は、NOCは、競技者を個人の資格でオリンピック競技大会のその競技にエントリーすることができる。但し、それには、IOC理事会およびその競技を管理している国際競技連盟(IF)の承認を受けることが前提条件である。」としている。

つまり、両団体が解散すれば派遣の道は開けそうであった。しかし両団体は解散に応じそうになく、JOCも任意団体に解散を勧告する権限はない(憲法の集会結社の自由)ため、一時は派遣困難との意見もあった。

○その後、4月5日になって、竹田恒和JOC会長が、4月1日に出張先のカナダでIOCフェリ五輪統括部長と会い、「国内競技団体が存在しない場合は、国内オリンピック委員会が個人の資格で参加させることができる」との、前述の五輪憲章付属細則をよりどころとした派遣が可能との見解を得た。このため、従来の方針を転換した。この日、IOCにこの見解の確認を求める文書を送付したとも報じられている。

○いずれにせよ、この場合は、同じ五輪憲章付属細則Iにおいて、@IOC理事会の承認と、Aその競技を管理している国際競技連盟(IF)の承認、の二つの承認を得ることが必要となっている。

この五輪憲章付属細則の本来の趣旨は、「戦争や国内紛争にある国の選手を救済する規定」であると言われていることから、ハードルがもう無いとはいえない。JOCは、「分裂状態にある日本のテコンドー界には競技団体が存在しない」と解釈したとあるが、五輪憲章付属細則をかなり拡大解釈したものと言えよう。しかし、この規定は、単に戦争や国内紛争にある場合のみを明文で制限したものではなく、およそ五輪選手としてふさわしい選手を救う規定である。規則は人が定め、人が運用するものである。付属細則本来の精神に基づく限り、IOC理事会と、競技を管理している国際競技連盟(IF)は、今回のケースに是非ともこの付属細則を適用して欲しいと考える。

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○オリンピック憲章
日本オリンピック委員会HPより(1996年版)
2001年版
第V章
オリンピック競技大会
49 エントリー(参登加録)*
1-
IOCに公認されたNOCだけがオリンピック競技大会に競技者をエントリーすることができる。エントリーの最終的な受理権はIOC理事会にあるものとする。
(以下略)

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○規則49付属細則
(中略)
4-
国内に公認のNOCがある国で、特定の競技のための国内競技連盟が存在しない場合は、NOCは、競技者を個人の資格でオリンピック競技大会のその競技にエントリーすることができる。
但し、それには、IOC理事会およびその競技を管理している国際競技連盟(IF)の承認を受けることが前提条件である。
                                            弁護士 三木秀夫

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