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三木秀夫法律事務所
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ニュース六法目次
国民年金保険料未納兄弟(2004年04年28日)            国民年金
○小泉内閣の閣僚の公的年金保険料納付問題は28日、新たに谷垣財務相(59)、福田官房長官(67)、茂木沖縄・北方相(48)、竹中経済財政・金融相(53)に、国民年金保険料の未納期間があったことが判明した。

4閣僚が記者会見で明らかにした。これで小泉内閣閣僚の保険料未納者は7人となった。一方、民主党は同日、菅代表(57)が厚相当時に国民年金保険料を納めていなかったことを公表した。

谷垣氏は1988年12月から89年6月までの7か月間と90年2月から11月までの10か月間の2期間について、保険料を支払っていなかった。谷垣氏は「(政務次官)就任中は(国家公務員)共済に加入するので、国民年金保険料の支払いは不要であると勘違いした」と説明した。
福田氏は衆院議員に初当選した90年2月から92年9月までの2年8か月間と95年8月から12月までの5か月間の2期間、保険料を支払っていなかった。
茂木氏は99年10月から2000年6月までの9か月間が保険料未納だった。
竹中氏は2001年4月から2002年2月までの11か月間、保険料を支払っていなかった。
民主党は枝野政調会長が記者会見し「次の内閣」メンバー19人について公表した。国民年金保険料の未納は菅氏だけだった。 (2004/4/29読売新聞)

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○民主党の菅直人代表は4月24日に、講演で、23日に発覚した中川昭一経済産業相ら3閣僚について、「自分は払っていないのに、国民の年金保険料を引き上げようなんてふざけている。未納三兄弟だ」とこき下ろしていた。菅氏はさらに、福田康夫官房長官が小泉純一郎首相と自らの過去の支払い実績に関する情報開示を拒んでいることについても、「もしかしたら未納4兄弟、5兄弟かもしれない」と畳み掛けていた。ところが、新たに4閣僚の未納と並んで、菅代表自身も未納があったことが判明し、世上、「未納8兄弟」と揶揄(やゆ)されるに至っている。

○最初に未納が判明したのは、中川昭一経済産業相、麻生太郎総務相、石破茂防衛庁長官の3閣僚。4月23日午前の閣議後会見で、それぞれが国民年金の保険料を納めていなかったことを明らかにした。

中川氏「83年2月に(旧日本興業銀行を)退行し、12月に国会議員になって今まで国民年金を払うのを忘れていた。まったくのミス。おわび申し上げたい」
麻生氏「96年11月に経済企画庁長官に就任した時、厚生年金を国民年金に切り替えるところで怠ったため、2000年9月に60歳になるまでの約3年10カ月が未加入になっている。お騒がせして申し訳ない」
石破氏は、防衛庁長官に就任した2002年9月以降、口座から年金保険料が引き落とされていないことを認め、「今日中に1年5カ月分を払う。うっかりミスで、おわびしたい」と陳謝した。ただ、社会保険庁側が「資格喪失」扱いにしていたことも分かり、同庁の事務的なミスの可能性が出ている。

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○国民年金とは
社会保険の一つで、国民年金保険法に基づく政府管掌の年金制度である。
日本国内に住んでいる20歳以上60歳未満の方は全て国民年金に加入することになっていて、保険料を自分で納める。このような者を国民年金の第1号被保険者という。

会社などに勤め、厚生年金保険や共済組合に加入している者は、国民年金の保険料を直接納めることはない。これは厚生年金保険や共済組合が加入者に代わって国民年金に必要な費用を負担しているからである。このような者を国民年金の第2号被保険者という。

配偶者で厚生年金保険や共済組合に加入している者によって扶養されている者も国民年金の保険料を直接納めることはない。これも厚生年金保険や共済組合が加入者に代わって国民年金に必要な費用を負担しているからである。このような者を国民年金の第3号被保険者という。

もともとは、国民年金の創設時は、自営業者などを加入者として設計されていたが、昭和60年の改正(61年施行)によって、全国民を加入対象者にして、基礎年金を支給する方式に制度変更された。

今回、国会で年金制度改革が審議されているが、この閣僚の未加入問題に関心が集中してしまい、肝心の中身審議がおろそかになってしまったのは、誠に残念で仕方がない。互いのあら探しに奔走するだけで、結局は本来の目的であるべき「年金の信頼確保」が、逆に「信頼失墜」になってしまったのではなかろうか。

○結局は、今回の未納多兄弟事件は、年金制度の複雑性を浮き彫りにしたのが功績か。ただ、そもそもの根本的原因は、年金制度の複雑怪奇性であろう。国会議員だから完納していて当たり前というのは一見最もなようであるが、そればかり強調して、責任追及ばかりでは意味がないのではないか。せっかく問題点が浮き彫りになってきたチャンスなのだから、これを機会に、もっと制度の根幹の議論を深めていって欲しい。これからしばらくは未納議員探しが続くであろうが、それに目を奪われて、本質の議論を忘れるべきではないと思う。

今回のこの8兄弟の問題点を少し法的な整理をしてみた。しかし、考えるに複雑すぎてやや自信に欠けるものの、間違いなどがあったら、ぜひお知らせいただくことを前提にお読みいただきたい。

○社会保険に関する詳細は社会保険庁のホームページを参照のこと。

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○国会議員の年金の扱い(加入届出義務の懈怠事例)(中川・福田・茂木・竹中)

国会議員は「自営業者」扱いになり、原則として国民年金に加入することになる(国民年金法7条)。したがって、国会議員になる前から国民年金に加入していれば別であるが、それまで会社員などをしていて厚生年金に加入していた場合は、そこを脱退するため、市町村長に対して、新たに国民年金に加入届出をしなければならない(同法12条1項)。以前は、国家議員については、適用除外や任意加入の時期があったものの、国民基礎年金が創設された1986年(昭和61年)から以降はすべての国民が強制加入となったのに伴い、国会議員も保険料の支払い義務が生じたものである。

今回の閣僚の数人の未納原因は、この届出をしていなかったことにあるようであるが、国民年金の基本的理解の不足以外に何ものでもない。届出をしていなければ、納付の催促もないようである。
特に議員の場合は、議員年金が別にあるので、うっかり(?)かどうかはともかく、それとの混同があったケースもあろう。

なお、故意にこの届出をしていない場合は、罰則の適用があり、10万円以下の罰金(同法113条)に処せられるが、このような閣僚はいないと信じたい。

ちなみに、通常の会社員も、会社を退職し、再就職をしない場合は、同じように国民年金の加入届出が必要なので、人ごとではないので、注意されたい。

○国民年金法
(被保険者の資格)
第七条  次の各号のいずれかに該当する者は、国民年金の被保険者とする。
一  日本国内に住所を有する二十歳以上六十歳未満の者であつて次号及び第三号のいずれにも該当しないもの(被用者年金各法に基づく老齢又は退職を支給事由とする年金たる給付その他の老齢又は退職を支給事由とする給付であつて政令で定めるもの(以下「被用者年金各法に基づく老齢給付等」という。)を受けることができる者を除く。以下「第一号被保険者」という。)
二  被用者年金各法の被保険者、組合員又は加入者(以下「第二号被保険者」という。)
三  第二号被保険者の配偶者であつて主として第二号被保険者の収入により生計を維持するもの(第二号被保険者である者を除く。以下「被扶養配偶者」という。)のうち二十歳以上六十歳未満のもの(以下「第三号被保険者」という。)

(届出)
第十二条  被保険者(第三号被保険者を除く。次項において同じ。)は、厚生労働省令の定めるところにより、その資格の取得及び喪失並びに種別の変更に関する事項並びに氏名及び住所の変更に関する事項を市町村長に届け出なければならない。
2  被保険者の属する世帯の世帯主(以下単に「世帯主」という。)は、被保険者に代つて、前項の届出をすることができる。

(罰則)
第百十三条  第十二条第一項又は第五項の規定に違反して届出をしなかつた被保険者は、十万円以下の罰金に処する。ただし、同条第二項の規定によつて世帯主から届出がなされたときは、この限りでない。

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○麻生太郎総務相の場合(会社役員との兼職禁止が絡む事例)
他方、国会議員であっても、会社役員との兼任は可能であり、その場合、会社役員としてその会社の厚生年金に加入を続けることは可能である。

しかし、国会議員でも内閣総理大臣や国務大臣、副大臣、大臣政務官などは、就任時に在任期間中の民間企業の役員との兼職の禁止が、株取引等の自粛とともに、閣議で申し合わせされているようである。(森喜朗内閣総理大臣の金田誠一衆議院議員提出の質問に対する平成12年12月26日付答弁)

⇒この点につき、国家公務員法で兼職禁止が明記されているとの誤解があるが、同法103条でそれが禁止されているのは一般職国家公務員であり、特別職(同法2条3項)については法律上の禁止規定はない。

このため、国会議員であっても企業の役員などをしていて厚生年金に加入をしていた場合でも、国務大臣になる際には営利企業役員の兼職禁止の申し合わせに従って役員を辞めると、自動的に厚生年金も脱退となり、したがってその時点で国民年金に加入届出をしなければならないことになる。麻生大臣は、これを失念していたことになる。   

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○谷垣大臣や菅代表の場合(石破長官も?)(公務員共済年金になるという錯覚事例)

このケースは医療保険とのミスが絡んでおり複雑である。簡単に言うと、閣僚になれば医療保険は「国民健康保険」から「国家公務員共済」に切り替わるが、「国民年金」から「共済年金」には切り替わらない。しかし、そのあたりの誤解が生じて、年金も「公務員共済年金」になると勘違いして、加入していた国民年金から脱退届けをしてしまったというものである。つまり、正解は、閣僚や副大臣などになれば、年金は国民年金のままで、健康保険だけが国家公務員共済と、分離してしまうのである。

○ここを正確に法文で読み解くならば、国民年金法、国家公務員共済法、国会法などをじっくりと読む必要がある。(これら条文を読んで、すぐにこの解釈ができる人はかなりこの辺に詳しい人であろう。)

○まず、国家公務員共済組合法第72条2項2号によると、大臣、内閣官房副長官、内閣総理大臣補佐官、副大臣などの議員の兼職できる場合には、国家公務員共済の組合員にはなるが「年金は適用しない」という規定がある。したがって、閣僚などになれば医療保険は「国民健康保険」から「国家公務員共済」に切り替わるが、「国民年金」から「共済年金」には切り替わらないということにつながる。
国家公務員共済組合法
(長期給付の種類等)
第七十二条  この法律による長期給付は、次のとおりとする。
一  退職共済年金
二  障害共済年金
三  障害一時金
四  遺族共済年金
2  長期給付に関する規定は、次の各号の一に該当する職員(政令で定める職員を
除く。)には適用しない。
一  任命について国会の両院の議決又は同意によることを必要とする職員
二  国会法 (昭和二十二年法律第七十九号)第三十九条 の規定により国会議員が
その職を兼ねることを禁止されていない職にある職員

国会法第三十九条  
議員は、内閣総理大臣その他の国務大臣、内閣官房副長官、内閣総理大臣補佐官、副大臣(法律で国務大臣をもつてその長に充てることと定められている各庁の副長官を含む。以下同じ。)、大臣政務官(長官政務官を含む。以下同じ。)及び別に法律で定めた場合を除いては、その任期中国又は地方公共団体の公務員と兼ねることができない。ただし、両議院一致の議決に基づき、その任期中内閣行政各部における各種の委員、顧問、参与その他これらに準ずる職に就く場合は、この限りでない。

○その一方で、国民年金法第7条2号の表現からすると、国家公務員共済の組合員は、まるで国民年金には加入できないとも解釈できる(組合員は対象から排除された表現となっている)。このため、錯覚に拍車をかける結果になっている気がする。

国民年金法
第七条  次の各号のいずれかに該当する者は、国民年金の被保険者とする。
一  日本国内に住所を有する二十歳以上六十歳未満の者であつて次号及び第三号のいずれにも該当しないもの・・・・(以下略)
二  被用者年金各法の被保険者、組合員又は加入者・・・・

○つまり、閣僚になった場合、医療保険は国民健康保険から国家公務員共済組合法によって国家公務員共済に変更となる。この場合、健康保険がそうなるなら、当然に年金も国家公務員と同じ国家公務員共済年金に変わると思いきや、そうならないのである。その辺の誤解と、手続きを人任せにしていたつけで、知らない間に健康保険の切り替えの際に誤って国民年金からの脱退届出をしてしまい、年金保険料未納が発生してしまったのであろう。

○むしろ、(あくまでも可能性ではあるが)、国民年金の窓口であった各自治体のレベルでは、閣僚などが相談に来ても、国家公務員共済の組合員になる旨の届出をさせた際に、国民年金法にもとづいて国民年金の資格喪失届けもさせた可能性がありうるであろう。

○このケースは、閣僚や副大臣などに就任した際にいつも生じうる落とし穴である。政権与党に所属し、これら役職についた議員などに同じミスが多く生じていると推測しうる。単純ミスとも言えるのではないか。ややこしい制度の典型事例であろう。

参考
○国家公務員共済組合法
(目的)
第1条 この法律は、国家公務員等の病気、負傷、出産、休業、災害、退職、障害若しくは死亡又はその被扶養者の病気、負傷、出産、死亡若しくは災害に関して適切な給付を行うため、相互救済を目的とする共済組合の制度を設け、その行うこれらの給付及び福祉事業に関して必要な事項を定め、もつて国家公務員等及びその遺族の生活の安定と福祉の向上に寄与するとともに、国家公務員等の職務の能率的運営に資することを目的とする。

(定義)
第2条 この法律において、次の各号に掲げる用語の意義は、それぞれ当該各号に定めるところによる。
1.職員 次に掲げる者をいう。
イ 常時勤務に服することを要する国家公務員(国家公務員法(昭和22年法律第120号)第79条又は第82条の規定(他の法令のこれらに相当する規定を含む。)による休職又は停職の処分を受けた者、法令の規定により職務に専念する義務を免除された者その他の常時勤務に服することを要しない国家公務員で政令で定めるものを含むものとし、臨時に使用される者その他の政令で定める者を含まないものとする。)
(以下省略)

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○遡及しての納付可能年数が2年という点について
未納閣僚らは、未納となった国民年金保険料について、2年分しか遡及して支払うことができなかったという発言が報じられている(中川、石破大臣)。

国民年金の保険料(月額1万3300円)は社会保険庁から督促されない限り、納付期限から2年以内であれば延滞金利なしで納付できる。しかし、納付期限から2年を過ぎると、それより前の保険料は時効となるため、国が徴収できなくなり(国民年金保険法102条3項)、加入者も納めることができなくなると解されている。

なぜ、遡及納付可能年数を2年(時効期間)としているかは、いかにも不思議であるが、聞くところによれば、インフレの場合に後日にまとめ払いをしたらかなり得になるという不平等を防止するためとのことである。そう考えると説得力もあろうが、それでも納付したいという希望をむげに無視するのはいかがなものかと思う。もう少し、せめて5年くらいに延長してもいいのではなかろうか。ただ、追納期間を延長すると、加入者の納付意欲に悪影響を及ぼすおそれもあるとの意見や、期限を過ぎた保険料にすべて延滞金を上乗せするようにすれば期限内に納める意欲が高まるという意見もある。後者の意見に対してはさらに「金がある時に払えばいいという気分を助長するのでは」との懸念の声もある。 しかし、延長の方向で改正がなされるとのことである。

ちなみに、学生(20歳以上であれば国民年金制度に加入しなければならない)の場合、所得がないことから国民年金制度に加入しても保険料を納めることができないため、学生本人が一定所得以下の場合には、学生本人が社会人となってから保険料を支払うこととする「学生納付特例制度」が創設され、平成12年4月からスタートしている。

○国民年金保険法
(時効)
第百二条  年金給付を受ける権利は、その支給事由が生じた日から五年を経過したときは、時効によつて、消滅する。
2  前項の時効は、当該年金給付がその全額につき支給を停止されている間は、進行しない。
3  保険料その他この法律の規定による徴収金を徴収し、又はその還付を受ける権利及び死亡一時金を受ける権利は、二年を経過したときは、時効によつて消滅する。
(以下省略)
                                            弁護士 三木秀夫

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