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三木秀夫法律事務所
このページは最近話題になったニュースを題材にして、そこに関係する各種法令もしくは
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ニュース六法目次
佐世保小6女児同級生殺害事件(2004年06月01日)          触法少
○1日午後0時45分ごろ、長崎県佐世保市東大久保町、市立大久保小学校(出崎睿子(えいこ)校長、児童数187人)から「6年生の女児が首から出血している」と119番があった。消防署員と佐世保署員が駆けつけたところ、毎日新聞佐世保支局長、御手洗恭二さん(45)の長女怜美(さとみ)さん(12)が校舎3階の「学習ルーム」で首など数カ所を切られ、既に死亡していた。同級生の女児(11)がカッターナイフで切りつけたと認めた。佐世保署は女児を補導し、佐世保児童相談所に通告した。小学校内で児童による殺害事件は極めて異例。

佐世保署によると、女児は怜美さんを呼び出して切りつけたことを認め「すまないことをした」と涙ぐんでいるという。しかし、動機や呼び出した際の言葉などについては分かっていない。同署は6年生全員(38人)から事情聴取。怜美さんと女児は仲が良かったとされるが、30日の運動会で口論していたという目撃情報もあり、詳しく状況を調べている。(毎日新聞2004年6月2日)
 
○長崎県佐世保児童相談所は2日午前、処遇会議を開き、補導された女児(11)について、長崎家庭裁判所佐世保支部へ送致することを決めた。

児童相談所は1日、女児を一時的に保護する措置を決め、県警佐世保署に身柄を預けていた。同日夜には職員3人を同署に派遣し、午後7時過ぎから断続的に女児と両親、調べた警察官から事情を聞いた。女児は疲れた様子だったが、職員の問いかけに対しては、しっかりと答えた。両親は犯行を信じられないようだったという。処遇会議では、聞き取り調査をもとに、家裁送致して司法に委ねるべきだと判断した。重大事件では、事実関係や背景をより明らかにするために、家裁送致されることが多い。
 
家裁は今後、身柄を拘束したうえでの手続きが必要であれば、少年鑑別所に収容する「観護措置」(最長4週間)を決定する。この間に、家裁調査官が調査し、少年審判を開くかどうかを決め、審判で非行事実が認定された場合は、児童自立支援施設などへの入所か、在宅での保護観察かが決まる。(読売新聞2004年6月2日)

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○まことに痛ましい事件が発生した。被害者家族の悲しみはもちろん、加害児童の家族の驚き、学校をはじめ地域の衝撃はすさまじいものがあると思う。どうしてこのような加害行為を起こさせるに至ったのであろうか。同じような年齢の子を持つ一人の親の立場からしても、さまざまなことを考えさせる事件である。

○今回の女児(11歳)のように、14歳未満の者が起こした刑事法に触れる行為は、刑罰の対象にはならない。その場合、警察は、加害者を「触法少年」として補導し、児童相談所に通告することとなる。その法的根拠とその後の手続きを整理してみた。

○14歳未満の者が起こした者の行為を罰しない旨は、刑法41条にて明記されている。この年齢は、未成熟で刑事責任能力を備えておらず、将来の更正が可能との考えからである。

○少年法は、本来、非行少年の保護と更正を目的としている。しかし、1997年に起きた神戸連続児童殺傷事件をきっかけにして、少年犯罪に対する厳罰化、厳格化の方向で、2000年11月に改正法が成立、2001年4月に施行された。これにより、刑事罰を科せられる年齢を「16歳以上」から「14歳以上」に引き下げられ、また、16歳以上が故意に人を殺した場合は、原則として家庭裁判所から検察官に送致(逆送)され、起訴されれば成人と同じ裁判を受けることとなった。

○触法少年
刑罰法令に触れる行為をした14歳未満の少年を「触法少年」と呼ぶ(少年法第3条第1項第2号)。
触法少年は、刑法41条の規定により刑事責任を問われない。この点で、家庭裁判所から検察官に逆送致され、刑事責任を問われることもある14歳以上20歳未満の少年(犯罪少年)とは区別される。今回の事件は11歳のため、この触法少年に該当する。(「少年」には男女含む)

○犯罪少年
14歳以上の犯罪行為をした少年を犯罪少年という(少年法第3条第1項第1号)。

○ぐ犯少年
刑罰法令に該当しない「ぐ犯事由」があって、その性格又は環境に照らして、将来、罪を犯し、又は刑罰法令に触れる行為をするおそれのある少年を「ぐ犯少年」という(少年法第3条第1項第3号)。
(ぐ犯事由)
@ 保護者の正当な監督に服しない性癖のあること
A 正当の理由がなく家庭に寄り附かないこと
B 犯罪性のある人若しくは不道徳な人と交際し、又はいかがわしい場所に出入りすること
C 自己又は他人の徳性を害する行為をする性癖のあること

○今回のような触法少年については、児童福祉法による措置が少年法による措置に優先して行われることとされている。警察において触法少年を補導した場合において、その少年に保護者がいないときや、保護者に監護させることが不適当であると認められるときは、福祉事務所又は児童相談所に通告しなければならない。(このような通告の必要がない場合には、警察において少年及びその保護者に指導や注意、助言を与えるなどの措置が取られる。)

通告を受けた児童相談所は、家族や学校関係者などから事情を聴き、警察の調査内容も勘案した上で、@児童自立支援施設や情緒障害児短期治療施設への入所などを決めるか、A家庭裁判所に送致する(凶悪事案などの場合)か、のどちらかを選ばれる。

家庭裁判所に送致された場合、裁判官が、身柄を拘束したうえでの手続きが必要と判断した場合は、少年鑑別所に収容する「観護措置」(最長4週間)を決定する。その間の調査を踏まえて審判が開かれる。

家庭裁判所での審判で非行事実が認定された場合は、児童自立支援施設・児童養護施設などへの入所か、在宅での保護観察かが決まる。

児童自立支援施設・児童養護施設への送致は、いわゆる保護処分になる。ちなみに、これらの施設は、「児童福祉法上の支援」を行うための施設であって、家庭裁判所の保護処分として送致された少年を収容の上で矯正教育を授ける施設たる少年院とは、本質的な性格を異にしている。

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○刑法
(責任年齢)
第四十一条  十四歳に満たない者の行為は、罰しない。 

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○少年法
(審判に付すべき少年)
第三条  次に掲げる少年は、これを家庭裁判所の審判に付する。
一  罪を犯した少年
二  十四歳に満たないで刑罰法令に触れる行為をした少年
三  次に掲げる事由があつて、その性格又は環境に照して、将来、罪を犯し、又は刑罰法令に触れる行為をする虞のある少年
イ 保護者の正当な監督に服しない性癖のあること。
ロ 正当の理由がなく家庭に寄り附かないこと。
ハ 犯罪性のある人若しくは不道徳な人と交際し、又はいかがわしい場所に出入すること。
ニ 自己又は他人の徳性を害する行為をする性癖のあること。
2  家庭裁判所は、前項第二号に掲げる少年及び同項第三号に掲げる少年で十四歳に満たない者については、都道府県知事又は児童相談所長から送致を受けたときに限り、これを審判に付することができる。

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○児童福祉法
第二十五条  保護者のない児童又は保護者に監護させることが不適当であると認める児童を発見した者は、これを福祉事務所若しくは児童相談所又は児童委員を介して福祉事務所若しくは児童相談所に通告しなければならない。ただし、罪を犯した満十四歳以上の児童については、この限りでない。この場合においては、これを家庭裁判所に通告しなければならない。

第二十六条  児童相談所長は、第二十五条の規定による通告を受けた児童、前条第一号又は少年法 (昭和二十三年法律第百六十八号)第十八条第一項 の規定による送致を受けた児童及び相談に応じた児童、その保護者又は妊産婦について、必要があると認めたときは、次の各号のいずれかの措置を採らなければならない。
一  次条の措置を要すると認める者は、これを都道府県知事に報告すること。 (以下略)


第二十七条  都道府県は、前条第一項第一号の規定による報告又は少年法第十八条第二項 の規定による送致のあつた児童につき、次の各号のいずれかの措置を採らなければならない。
・・・・・
四  家庭裁判所の審判に付することが適当であると認める児童は、これを家庭裁判所に送致すること。

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今回の被害者の冥福を祈るとともに、加害女児の健全な再生を願い、生涯を通じて心から罪を償って欲しいものである。また、なぜこのような事件が生じたのか、その予防はどのようにしたら良いのか、そのために大人たちは、今、冷静な知恵が求められている。 
                                            弁護士 三木秀夫

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