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三木秀夫法律事務所
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ニュース六法目次
NPBが日本プロ野球選手会の要求拒否(2004年07月28日) 労働組合法 
○NPB側が選手会に拒否の回答 「合併は経営問題」
労組・日本プロ野球選手会(古田敦也会長=ヤクルト)と日本プロフェッショナル野球組織(NPB)との事務折衝が28日、東京都内で開催された。選手会側が要求していた近鉄、オリックス合併の1年間凍結などの要求に対して、NPB側は拒否の回答を示した。

選手会側は今月10日の臨時大会で合併の是非を議論する時間を作るため1年間命名権売買を認めること、第三者による諮問機関「合併問題検討委員会」の設置、野球協約に定められた特別委員会の招集などを決議。これを実行委員会の議題とするようNPB側に文書で提出していた。

今回、NPB側は「合併は経営問題」と位置づけ、「あらゆる方策を検討した結果の合併であり、現在の経済環境上、これを凍結することはできない」とした。また、特別委員会については、招集権者である実行委員会の豊蔵一議長(セ会長)が「必要性を検討中」と開催に含みを持たせた。

出席した伊藤修・実行委選手会担当顧問(中日参与)は「選手会、また個々の選手が不安を抱くのは理解できる。(来月)16日の(12球団代表による)会議ではそのことは伝えたい」と話した。

実行委員会・豊蔵一議長(セ・リーグ会長)「回答した通り、(特別委員会開催は)検討中です。強いて言えば合併ということは経営権の問題でなじまない、という含みはある。時期ははっきりと明示できないが、いつまでも、というわけにはいかない。どこかでタイムリーに、という考え方です」

(スポーツ報知)

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○選手会の6項目の決議事項は下記の通り(日本プロ野球選手会公式ホームページより)

(1) 球団名の命名権売買を1年間認め、来シーズンの合併は凍結して、合併が将来の野球界にとってベストかどうかの議論・交渉を1年かけて行い、その結果合併以外の選択肢が現実的でないと判断された場合に限り、選手会は合併を承認するという方針で引き続き活動していくこと
(2) 上記合併承認に至る手続としては、野球協約第19条の特別委員会を開催すべきこと。開催せずに合併を決定するときは、決定手続の違法を争うため、野球協約第188条のコミッショナーへの提訴などといった法的手段を講じること
(3) あらゆる手段を尽くしても来シーズンからの合併が強行されようとした場合、最終手段として、ファンへの配慮を十分行った上でストライキを行う場合がありうること
(4) 選手の年俸高騰への対応として、米国メジャーリーグで取り入れられている、ぜいたく税(Luxury Tax)の導入、高額年俸選手についての減額制限の緩和なども積極的に検討していくこと
(5) 今回のような問題が今後再び生じないようにするために、一部の球団のみに戦力と資金が集中している現行制度を見直すこと。具体的には、選手会がこれまで提案してきた諸制度(ドラフトの完全ウェーバー化、FA補償金の撤廃、新規参入球団に対する高額な加盟金の見直しなど。その他別紙参照)の他、他のプロスポーツでも取り入れられているテレビ放映権の一括管理方式、球団の経営状態をチェックする経営諮問方式などを提案していくこと
(6) プロ野球のあり方について、オープンな議論をしていくために、引き続き球団側には有識者なども含めた諮問機関としての「合併問題検討委員会(仮称)」の設置を要求すること
(なお、選手会としても、従来から行ってきた「プロ野球の明日を考える会」を、臨時にシーズン中に開催する方向で準備する)

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○日本プロ野球選手会とは
「日本プロ野球選手会は、日本のプロ野球12球団に所属する日本人選手全て(一部の外国人選手を含む)が会員となっている団体です。プロ野球選手は選手寿命も短い上に社会保障も不十分であることなどの問題を受け、主にプロ野球選手の地位向上を目的として設立され、1980年に社団法人として法人格を取得した後、1985年には東京都地方労働委員会に労働組合としての認定を受け、労働組合となりました。現在は、社団法人日本プロ野球選手会と労働組合日本プロ野球選手会の2つが併存し、選手の地位向上に関する諸問題への取り組みのみならず、全国各地での野球教室や各種チャリティ活動など公益的な活動にも精力的に取り組んでいます。 」
(日本プロ野球選手会公式ホームページより)

○以上のように、「日本プロ野球選手会」は、「労働組合」である。

正確には「社団法人日本プロ野球選手会」と「労働組合日本プロ野球選手会」の2法人になっている。1980年8月15日に社団法人として法人格取得し、1985年11月19日に労働組合として認定。 

労働組合日本プロ野球選手会は選手の待遇改善、地位向上を目指し、社団法人日本プロ野球選手会は野球全体の発展を目的として、野球教室やチャリティ活動などを展開している。

2004年4月1日現在、労働組合会長は古田敦也(ヤクルトスワローズ)、社団法人理事長は立浪和義(中日ドラゴンズ)が務める。なお、労働組合日本プロ野球選手会は、連合、全労連、全労協のいずれのナショナルセンターにも属しない純中立の労働組合である。

○近鉄、オリックスの合併問題。6月13日に発表された後、1リーグ制の思惑をはらみながら、多くの動きが繰り広げられてきたが、選手やファンを置き去りにして進められてきた感が強い。最大の当事者であるはずの選手を論議の場から締め出してきた合併劇には、多くのファンが怒っている。タイガースファンであり、大阪人として近鉄も応援する私にとっても、球界全体の衰退を招きかねないこの動きに残念でならない。

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○労働組合と社団法人の相違
両者は、ともに人の集まり(社団という)であり、かつ、非営利(利益配当をしない)という意味では、共通する点がある。しかし、目的の面では、前者(労働組合)は共益・私益を目的とするのに対して、後者(公益法人)は公益(不特定多数の利益)を目的とする点で異なる。

もう少し補足すれば、労働組合は、後述するように、労働者が労働条件の維持改善その他経済的地位の向上を図ることを主たる目的として組織する団体をいう(労働組合法2条)が、これは結成の目的から言えば、自分たちの利益(共益・私益)を目的に集まった集団である。

これに対して、社団法人は、民法34条に根拠規定があり、公益非営利の目的を要件にしている。

○民法34条 祭祀、宗教、慈善、学術、技芸其他公益ニ関スル社団又ハ財団ニシテ営利ヲ目的トセサルモノハ主務官庁ノ許可ヲ得テ之ヲ法人ト為スコトヲ得

○「社団法人日本プロ野球選手会」と「労働組合日本プロ野球選手会」という二つの法人が並存しているのは、一見不思議に見えようが、法人制度の観点からすれば、上記のような違いがあり、区別することは、現行の法人制度上では、ある意味当然でもある。

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○労働組合とは
労働組合法における労働組合とは、「労働者が主体となつて自主的に労働条件の維持改善その他経済的地位の向上を図ることを主たる目的として組織する団体又はその連合団体をいう。」としている。
(同法2条)

但し、次のいずれかに該当する場合は、この限りでない。 (同法2条但し書き)
(1) 役員、雇入解雇昇進又は異動に関して直接の権限を持つ監督的地位にある労働者、使用者の労働関係についての計画と方針とに関する機密の事項に接し、そのためにその職務上の義務と責任とが当該労働組合の組合員としての誠意と責任とに直接にてい触する監督的地位にある労働者その他使用者の利益を代表する者の参加を許すもの 
(2) 団体の運営のための経費の支出につき使用者の経理上の援助を受けるもの。但し、労働者が労働時間中に時間又は賃金を失うことなく使用者と協議し、又は交渉することを使用者が許すことを妨げるものではなく、且つ、厚生資金又は経済上の不幸若しくは災厄を防止し、若しくは救済するための支出に実際に用いられる福利その他の基金に対する使用者の寄附及び最小限の広さの事務所の供与を除くものとする。 
(3) 共済事業その他福利事業のみを目的とするもの 
(4) 主として政治運動又は社会運動を目的とするもの 

○法人としての労働組合
労働組合自体は、上記の労働組合法2条の定義に該当すれば労働組合となるが、さらに、「労働組合法規定に適合する旨の労働委員会の証明」を受けた労働組合は、その主たる事務所の所在地において登記することによつて法人となる(同法11条1項)。 労働組合日本プロ野球選手会は、1985年11月に、東京都労働委員会から労働組合と正式に認定されて法人となっている。

○なお、ここでいう労働者については、同法3条において、「職業の種類を問わず、賃金、給料その他これに準ずる収入によつて生活する者をいう 」としている。

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○労働組合日本プロ野球選手会(古田敦也会長)は、7月10日に開いた臨時大会で、「あらゆる手段を尽くしても来シーズンからの合併が強行されようとした場合、最終手段として、ファンへの配慮を十分行った上でストライキを行う場合がありうること」を決議した。
 。
これに対して、横浜の峰岸球団社長から、次のような発言が飛び出した。
「2軍の選手には何らかの保護が必要だが(年俸)1000万円を超える選手に労働者性があるのか。…歌手も役者もみな個人事業主。野球の選手会の任意団体が労働組合なのか疑義を感じる」(13日付「スポニチ」)

この発言自体、見識を疑わざるを得ない。
選手会は、記述のとおり、1985年11月に、東京都労働委員会から労働組合と正式に認定されており、この問題での議論の余地はない。2年前、プロ野球労組がプロ野球機構側の不誠実な交渉態度に対し、不当労働行為にあたると救済を申し立てたことがある。その際も、プロ野球機構側は、「選手は労働者かどうか」と疑問を投げかけたが、明確なことに疑問を投げかけ続けることには、なにか不思議な感じを持たざるを得ない。

○選手会の労働者性について
労働者の定義は、既述したとおり、職業の種類を問わず、賃金、給料その他これに準ずる収入によつて生活する者をいう ところ、プロ野球選手がこれに該当することに問題は無かろう。ただし、一方で、各選手は年棒を確定申告する自営業者としての一面もあるため、疑義が生じることもある。

ただ、これに関しては、プロ野球選手と同様な立場にある放送会社の管弦楽団員が、組合をつくり労働条件で交渉してもいいという下記最高裁判決が参考になる。

○昭和51年5月6日最高裁判所第1小法廷判決(不当労働行為救済申立棄却命令取消請求事件)民間放送会社の放送管弦楽団員が労働組合法上の労働者と認められた事例
【判決要旨】民間放送会社とその放送管弦楽団員との間に締結された放送出演契約において、楽団員が、会社以外の放送等に出演することが自由とされ、また、会社からの出演発注に応じなくても当然には契約違反の責任を問われないこととされている場合であつても、会社が必要とするときは随時その一方的に指定するところによつて楽団員に出演を求めることができ、楽団員は原則としてこれに応ずべき義務を負うという基本的関係が存在し、かつ、楽団員の受ける出演報酬が、演奏によつてもたらされる芸術的価値を評価したものというよりは、むしろ演奏自体の対価とみられるものであるなど判示のような事情があるときは、楽団員は、労働組合法の適用を受ける労働者にあたる。
(判例タイムズ337号186頁)

○労働組合法上の労働者概念については、実はさまざまな考え方がある。この事件で問題となった管弦楽団員や、放送、映画等に継続的に出演する芸能人や芸術家は、社会一般の会社員のように、必ずしも日々一定の時間的拘束に服するものではなく、その労務の提供に関してなんらかの程度で自主性、独立性を認められることが多い。その身分取扱上も一般の会社員とは異なつているので、これらの者が「雇用される労働者」であるのか、あるいは会社と「請負関係に立つ独立の事業者」であるのかの判定が微妙である。しかし、上記最高裁判決では、上記理由で、民間放送会社とその放送管弦楽団員との関係は、後者につき労働者性を認めたものである。この考え方からして、プロ野球選手の労働者性も肯定しうるであろう。

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○今回、労働組合日本プロ野球選手会は、「あらゆる手段を尽くしても来シーズンからの合併が強行されようとした場合、最終手段として、ファンへの配慮を十分行った上でストライキを行う場合がありうること」を決議している。ストライキとは何か。これは、労働組合の権利である。

○労働組合の権利とは
(1)労働基本権
団結権、団体交渉権、団体行動権を労働基本権という。
団結権とは、労働者が労働組合を結成したり、自ら選んだ労働組合に入ったり、企業から妨害されず組合活動をおこなう権利をいう。
団体交渉権とは、労働者が、労働条件の決定などで、団結して企業(使用者)と交渉する権利のことをいう。
団体行動権とは、労働者が労働組合の方針にしたがって集団行動をおこなう権利のことで、具体的にその中心をなすのは争議権である。同盟罷業(ストライキ)や労働の能率を低下させる怠業などがその典型である。

○争議権は、労働組合法の保護を受けることができる。
争議行為が正当であるかどうかは、具体的に個々の争議行為について、次のような基準に従って判断される。 

(1)目的の正当性 
争議行為の目的が正当であるか否かが判断基準の一つ。労働条件の維持や向上を目的とするものには何ら問題がない。   
  
(2)手段・方法の正当性 
労働組合の統制の下に労働力の提供を集団的に拒否する同盟罷業(ストライキ)や労働の能率を低下させる怠業などは通常問題はない。 ピケッティング(争議中の労働組合が組合員の争議からの脱落や争議に不参加の労働者の就労などを防ぐために行うもの)は、原則として平和的説得に限り正当であるとされている。 しかし、どのような場合でも、暴力の行使は正当な行為とは認められない。

○労働組合法の保護を受ける争議に対しては、刑事免責がある。
つまり、ストライキなど正当な行為については刑法35条(法令や正当な業務による行為は罰せられない)が適用される。(労働組合法1条2項)

○さらに、労働組合法の保護を受ける争議に対しては、民事免責もある。
つまり、ストライキなど正当な争議行為で損害を受けても、企業側は、労働組合や労働者に賠償を請求できない。(労働組合法8条)

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○今回の一連の騒動がどこに決着していくかは不明な点が多いが、ファンの心理離れを起こさないよう、関係者一同の英知に期待したい。  
                                            弁護士 三木秀夫

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