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三木秀夫法律事務所
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ニュース六法目次
天然温泉表示で立ち入り検査(2004年08月11日)    温泉法/不当表 
○2004年08月11日 群馬県、伊香保温泉に天然温泉表示で立ち入り検査 
群馬県の伊香保温泉で、一部の旅館やホテルが水道水や井戸水を使用しながら天然温泉と偽って表示していた問題で、群馬県は11日、景品表示法に基づき7軒の旅館、ホテルに立ち入り検査した。 県などによると、7軒は温泉をひいておらず、水道水や井戸水を加熱して使用していた。ホームページで天然温泉の使用を表示している施設もあり、同法に違反する可能性があるという。 
伊香保町も11日から、56軒のすべての温泉施設について、源泉の割合や入浴剤使用の有無などについて緊急調査を始める。(共同通信)

○2004年08月10日 水上温泉でも水道や井戸水を加熱・旅館ホテル3軒
群馬県の水上温泉で、ホテルや旅館計3軒が井戸水や水道水を加熱して使用していたことが10日、水上温泉旅館協同組合の調査で分かった。組合は「調査結果を県や町に報告し、対応を検討する」としている。組合によると、3軒のうち1軒は組合内部の問題で2年前に温泉を使用できなくなり、水道水を使用していたが、館内には温泉の成分分析表を掲示するなど、天然温泉と誤解される表示をしていた。2軒は、井戸水や水道水を加熱して使用していたにもかかわらず、温泉旅館協同組合に加盟していたという。(共同通信)

○2004年08月09日 どんな水でも「天然温泉」!? 群馬・伊香保は水道水を沸かし
群馬県の伊香保温泉で、一部の旅館が水道水やわき水を沸かして風呂の湯として使用しながら、「天然温泉」の表示や宣伝をしていた疑いがあることが分かった。伊香保町の関口俊二町長が9日に記者会見し、「期待と信頼を裏切る形となり、おわび申し上げる」などと謝罪した。

伊香保温泉は茶褐色の湯が出る「黄金(こがね)の湯」と、無色透明の「白銀(しろがね)の湯」の二つの源泉があり、同温泉旅館協同組合には計56軒の旅館・ホテルが加盟している。このうち7軒はどちらの源泉も引いていないが、うち2軒はホームページ(HP)に「天然温泉」などと記載していたという。(毎日新聞)

○2004年07月12日 白骨温泉野天風呂に入浴剤 旅館組合、乳白色に着色
500−600年の歴史がある名湯として知られる長野県安曇村の白骨温泉で、湯を乳白色に保つため、旅館組合が運営する「公共野天風呂」や旅館2業者で数年前から入浴剤を混ぜていたことが12日、分かった。白骨温泉の湯は石灰分で白く濁るのが特徴で「胃腸病などに効く」と効能を説明。乳白色の温泉が効き目があるとのイメージがあったため、入浴剤を混ぜるようになったという。
(共同通信) 

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○白骨温泉での入浴剤混入事件を皮切りに、伊香保温泉や水上温泉では水道水などを沸かしながら「天然温泉」の表示や宣伝をしていたとして大騒ぎになり、この問題は他の温泉にも波及する勢いである。かつては、愛知県吉良町でも、水道水を温泉と偽ったり、宮崎県日向市の温泉でレジオネラ菌増殖で多くの死者や感染者を出したケースがあった。いずれも、温泉利用者たる消費者を欺く行為であり、他の旅館・施設の大半は真面目に経営に取り組んでいるにもかかわらず、温泉自体の信用低下を招いた責任は大きいものと思う。

温泉に関しても、消費者の権利とされる@安全である権利、A知らされる権利、B選ぶ権利、C意見を反映される権利(1962年ケネディ米大統領教書で表明された4つの権利)の実現が、今こそ求められているのではないか。

今回の一連の事件を通して、温泉の持つ多くの問題点が浮かび上がったのも事実である。そろそろ、これらを教訓に情報開示方法が見直されないと、日本の温泉は信頼を失い、誰も温泉には行かなくなる日も来かねない。

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○温泉法の「温泉」定義
温泉は、昭和23年に定められた温泉法によって、温泉としての定義が定められている。これによれば、「温泉」とは「地中からゆう出する温水、鉱水及び水蒸気その他のガス(炭化水素を主成分とする天然ガスを除く)で、別表に掲げる温度、又は物質を有するもの」とある。

これを分析すると、次が温泉の条件である。
@まず、地中からゆう出する温水、鉱水及び水蒸気その他のガス(炭化水素を主成分とする天然ガスを除く。)であることが必須条件である。
Aついで、次のいずれかを満たすことが条件となる。
(1)温泉源から採取されるときの温度が、25℃以上
(2)温泉法別表二に定める19項目の物質のいずれか一つを含むこと 

○この温泉定義のポイントは次の通りである。

まず、地中から湧出するときの温度が、25℃以上であれば無条件で温泉ということになる。分かりやすく言えば、温泉成分が基準量以上なくても、地下から湧き出た水が25℃以上でさえあれば温泉となる。

また、25℃未満であっても、別表で定められたイオウや重炭酸ソーダなど19種類の物質のうち、どれか一つを一定量以上含めば、温泉ということになる。
逆に言えば、温泉成分がたった一つでも基準量を満たせば温泉となる。(その利用には、都道府県の衛生試験所や環境庁指定の研究機関で成分分析を受けてから都道府県に届け、利用許可を受けることが必要となる。)

しかもこれらの定義は、あくまでも「源泉」が対象であり、温度や含有物質の要件も、対象となるのは湧出口で採取した源泉である。したがって、源泉を浴槽にひいてきて、水道水や沸かし湯で薄めても、「温泉」と言えることになる。

上記の点をさらに言い換えれば、「温泉」かどうかの判断は、入浴客が入る浴槽の湯で行われるわけではない。このため、源泉に水道水や井戸水を加水しても、源泉を1週間や1ヶ月間循環使用しても、「温泉」としての認可が下りている限り、合法になる。(源泉を遠くから運搬してきた上で、水道水で薄めて使っている施設でさえ、温泉を名乗っているケースもあるようである)

さらに、温泉法での定義や規定から言えば、加水(高温の源泉の場合は水で薄めないと入れない)や加温はもちろん、湯の色に関しての項目はなく、また消毒のための薬剤投入も禁止されていない。今回の白骨温泉で問題になった入浴剤を混ぜることも、表示の問題を除いては、混入行為それ自体を明確に違法とはいえない。

○温泉学者である松田忠徳教授の「温泉教授の温泉ゼミナール(光文社新書)」は、こういった温泉の問題点をさらけ出していて、読めば身震いさえおこる。
同書には、温泉法における温泉の定義の問題の指摘があるが、むしろ気になるのは、循環濾過装置による温泉水の使い回しの問題点である。それによれば、循環濾過装置を使えば、汚れの除去と消毒をしつつ、温泉を何日も使い回す状況が紹介されている。そうすれば、温泉の効能は、本来的に時間がたつとともに薄れていくわけで、循環濾過装置を何度も通った温泉水は、もはやただのお湯に過ぎない。しかも、それならばまだしも、過度な塩素消毒が投与されている例もあって、皮膚に与える影響まで懸念されることを読むと、驚かざるをえない。これらに対して、温泉法には、何ら消費者たる利用者の保護をする観点はない。

○温泉法(昭和二十三年七月十日法律第百二十五号)
(定義) 
第二条  この法律で「温泉」とは、地中からゆう出する温水、鉱水及び水蒸気その他のガス(炭化水素を主成分とする天然ガスを除く。)で、別表に掲げる温度又は物質を有するものをいう。 

第三章 温泉の利用 
(温泉の利用の許可) 
第十三条  温泉を公共の浴用又は飲用に供しようとする者は、環境省令で定めるところにより、都道府県知事に申請してその許可を受けなければならない。 

(別 表)

一 温度(温泉源から採取されるときの温度とする。)  摂氏二十五度以上

二 物質(左に掲げるもののうち、いずれか一) 
 物質名 含有量(一キログラム中) 
溶存物質(ガス性のものを除く。)  総量一,〇〇〇ミリグラム以上 
遊離炭酸(CO2)            二五〇ミリグラム以上 
リチウムイオン(Li+)         一ミリグラム以上 
ストロンチウムイオン(Sr++)     一〇ミリグラム以上 
バリウムイオン(Ba++)        五ミリグラム以上 
フエロ又はフエリイオン(Fe++,Fe+++) 一〇ミリグラム以上 
第一マンガンイオン(Mn++)     一〇ミリグラム以上 
水素イオン(H+)            一ミリグラム以上 
臭素イオン(Br-)           五ミリグラム以上 
沃素イオン(I-)            一ミリグラム以上 
ふつ素イオン(F-)          二ミリグラム以上 
 ヒドロひ酸イオン(HAsO4--)    一.三ミリグラム以上 
メタ亜ひ酸イオン(HAsO2)     一ミリグラム以上 
総硫黄(S)(HS+ + S2O3-- + H2Sに対応するもの) 
                     一ミリグラム以上 
メタほう酸(HBO2)          五ミリグラム以上 
メタけい酸(H2SiO3)         五〇ミリグラム以上 
重炭酸そうだ(NaHCO3)      三四〇ミリグラム以上 
ラドン(Rn)              二〇(百億分の一キユリー単位)以上 
ラヂウム塩(Raとして)       一億分の一ミリグラム以上 

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○温泉の表示について
伊香保温泉や水上温泉の場合は、いくつかの旅館が水道水などを沸かした湯を「温泉」と表示していたようである。この場合は、「不当景品類及び不当表示防止法」(景品表示法)における不当表示違反の疑いが生じる。

○「不当表示」とは
不当表示とは、不公正な取引方法として禁止される不当な取引の誘引の一つであり、一般には、「不当景品類及び不当表示防止法」(景品表示法とか、景表法などと略称される)によって規制される。
ここで言う「表示」とは、顧客を誘引するための手段として、事業者が自己の供給する商品又は役務の内容又は取引条件その他これらの取引に関する事項について行なう広告その他の表示であって、公正取引委員会が指定するものをいう。(景表法2条2項)
そして、このうち、「不当表示」として禁止されるのは、景表法4条1項に3点が規定されている。

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○不当景品類及び不当表示防止法(昭和三十七年五月十五日法律第百三十四号)
(定義) 
第二条  
2  この法律で「表示」とは、顧客を誘引するための手段として、事業者が自己の供給する商品又は役務の内容又は取引条件その他これらの取引に関する事項について行なう広告その他の表示であつて、公正取引委員会が指定するものをいう。 

(不当な表示の禁止) 
第四条  事業者は、自己の供給する商品又は役務の取引について、次の各号に掲げる表示をしてはならない。 
一  商品又は役務の品質、規格その他の内容について、一般消費者に対し、実際のものよりも著しく優良であると示し、又は事実に相違して当該事業者と競争関係にある他の事業者に係るものよりも著しく優良であると示すことにより、不当に顧客を誘引し、公正な競争を阻害するおそれがあると認められる表示 
二  商品又は役務の価格その他の取引条件について、実際のもの又は当該事業者と競争関係にある他の事業者に係るものよりも取引の相手方に著しく有利であると一般消費者に誤認されるため、不当に顧客を誘引し、公正な競争を阻害するおそれがあると認められる表示 
三  前二号に掲げるもののほか、商品又は役務の取引に関する事項について一般消費者に誤認されるおそれがある表示であつて、不当に顧客を誘引し、公正な競争を阻害するおそれがあると認めて公正取引委員会が指定するもの 

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○不当景品類及び不当表示防止法第2条の規定により景品類及び表示を指定する件 
(平成10年12月25日公告,平成11年2月1日施行)(公正取引委員会)
 
不当景品類及び不当表示防止法(昭和37年法律第134号)第2条の規定により,景品類及び表示を次のように指定する。
1 (景品 略) 
2 法第2条第2項に規定する表示とは,顧客を誘引するための手段として,事業者が自己の供給する商品又は役務の取引に関する事項について行う広告その他の表示であって,次に掲げるものをいう。
一 商品,容器又は包装による広告その他の表示及びこれらに添付した物による広告その他の表示
二 見本,チラシ,パンフレット,説明書面その他これらに類似する物による広告その他の表示(ダイレクトメール,ファクシミリ等によるものを含む。)及び口頭による広告その他の表示(電話によるものを含む。)
三 ポスター,看板(プラカード及び建物又は電車,自動車等に記載されたものを含む。),ネオン・サイン,アドバルーンその他これらに類似する物による広告及び陳列物又は実演による広告
四 新聞紙,雑誌その他の出版物,放送(有線電気通信設備又は拡声機による放送を含む。),映写,演劇又は電光による広告
五 情報処理の用に供する機器による広告その他の表示(インターネット,パソコン通信等によるものを含む。)

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○施設での表示について
温泉と認定された温泉施設は、温泉法14条1項で、温泉を公共の浴用又は飲用に供する者に対して、施設内の見やすい場所に、「温泉の成分、禁忌症及び入浴又は飲用上の注意」の掲示を、義務付けてはいる。しかし、ここでいう「温泉の成分」とは、「源泉の成分」であって、「温泉の施設の湯船の成分」ではない。つまり、湯船の湯の成分の開示義務は、温泉法上はない。

○温泉法
(温泉の成分等の掲示) 
第十四条  温泉を公共の浴用又は飲用に供する者は、施設内の見やすい場所に、環境省令で定めるところにより、温泉の成分、禁忌症及び入浴又は飲用上の注意を掲示しなければならない。 

○他方、「効能」については、温泉法では、何らの規定が無い。このため、治療目的に供し得る成分を一定値以上含んでいる温泉(療養泉)であれば、「神経痛」「リュウマチ」「動脈硬化症」に効くなどといった、いわゆる「適応症」(効能)について掲示することは差し支えない。

ただ、こういった表示が本当に正確なのか、疑問も生じる。特に、源泉からの直接の湯ではない「湯船の湯」については、その湯を採取して分析しているわけではない。温泉採取後、循環を繰り返しても、大量の加水をしても、泉質表示の変更はない以上、いくらでも適応症を表示できる。その成分と効能、加水・加温の有無程度、循環濾過式か否かといった点などのほか、温泉法の規定による温泉であるかどうかも、正しい表示こそが、本来は必要である。

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○温泉の表示に関する最近の動き

○公正取引委員会の動き
公正取引委員会は、温泉の不当表示(景品表示法違反)に関し、2003年7月31日付けで「温泉表示に関する実態調査について」という調査結果を公表した。

これによれば、実際に浴用に供する際に源泉への加水、加温、循環ろ過による再利用などが行われている実態については、消費者に必ずしも十分な情報が提供されていないことが認められたとし、これを踏まえて、温泉表示上の問題点ついて、以下の通り景品表示法上の考え方を整理した。そして、パンフレット類で温泉に関する正しい情報をより積極的に行うよう、関連事業団体に周知を要請した。
(1)源泉に加水、加温、循環ろ過等を行っているにも関わらず、パンフレット等において、「源泉100%」、「天然温泉100%」など、源泉をそのまま利用しているかのような強調表示を行うことは、消費者の誤認を招くおそれがある。
また、「天然温泉」との表示を行う場合には、あわせて、源泉への加水、加温、循環ろ過の使用の有無に関する情報が提供される必要がある。
(2)パンフレットなどにおいて、療養泉としての適応症表示(効能についての表示)を行う場合で、その表示がゆう出口における源泉を基準に判断したものである場合は、浴槽内の湯についての適応症であるとの消費者の誤認を招かないよう、その旨を明瞭に表示する必要がある。
また、浴槽内の湯について療養泉としての適応症表示を行う場合には、消費者が実際に利用する浴槽内の湯が療養泉としての基準値を確認したうえで表示する必要がある。


○新天然温泉表示看板制度

社団法人日本温泉協会ホームページによれば、「平成13年1月6日、省庁再編成が実施され、環境庁は環境省、運輸省は国土交通省となりました。それを受けて、現在下記看板の発行は見合わせております。日本温泉協会では、これを機に「天然温泉表示制度」の見直しを実施しており、新しいデザインの看板発行の準備を進めています。天然温泉が施設でどのように利用されているのか、温泉の利用形態についての情報公開も視野に入れた新しい天然温泉表示看板を近い将来発行する予定です。」 

情報開示に関しては、社団法人日本温泉協会では、新しい「天然温泉表示看板制度」を始めようとしているとのことである。これは、温泉の表示の適正化に関し、公正取引委員会が、2003年に、正確な情報提供を同協会に要請したことを受けて、利用者に掲示する「天然温泉表示制度」を抜本的に改正したもの。これは、温泉側からの申請があった場合に限り審査し、浴槽ごとに看板を設置する。新制度では源泉を流し続ける「かけ流し」か循環させるなどして再利用しているのか、加水の状況や泉質など五項目を三段階にランク分けし、記号で表示することになった。その看板には「旅館名等の施設名、源泉名」のほか、「源泉の所持地と浴槽までの湯の導入方法」「泉質」「加水や加熱の有無」「温泉の湯をろ過・循環させているかいないか」等を表示し、自然度の高い順に「適正」「おおむね適正」「それ以外」の三段階で評価するとのことである。
しかし、残念なことに、その判断基準は公開されていない。同業間での審査自体に公平性や消費者保護性がどの程度担保されているかは、疑問の余地が無いとは言いにくい。その信用を得るためには、ひろく審査基準を開示し、第三者の委員にも参加を求めて、透明性の高いものに変えていく必要があろう。
ただ、評価に自信を持てない施設は、自ら審査を申請することはないことを考えれば、何も無かった従前に比較すれば、大きな前進であるとも言えるのではなかろうか。

○温泉学会決議
温泉学会は、2003年9月6日の学会の設立総会において、「温泉の安全性の確保と湯船の「温泉」の適正表示の速やかな実現を求める緊急決議」を行っている。
同決議では、

「わたくしたちは、近年、BSE問題を契機に発覚した偽装表示への国民的な憤りと重大な関心を共有するものであり、それが単に牛肉や一部の食品にとどまるものではないのではないかとの不信感も拭い去ることはできない。こと温泉に関しても、温泉の成分、禁忌、入浴または飲用の注意事項の掲示は温泉法上義務付けられていたが、温泉の成分といっても、源泉の成分であって温泉の施設の浴槽(湯船)の成分の開示は大部分なされていない現状である。本来供給される源泉からの量を超える浴槽(大浴場・露天風呂等)の拡充競争、経済効率の高い循環濾過式の普及などの結果、加水、加温も一部の天然温泉の掛け流し式を除いて常態化していると思われる。温泉の業界団体では「新天然温泉表示看板制度」として浴槽の情報開示(○印5項目3段階評価制度)を始めたが、その審査基準は非公開である。本当に「消費者(利用者)の立場に立った温泉の情報公開」であるなら即時公開すべきである。最近ようやく、公正取引委員会が温泉の不当表示(「景品表示法」違反)の行政指導を始めたことは、歓迎できる。環境省が先月懇談会を発足させて、表示問題等の検討をするようであるが、もし天然でなく加工された温泉を天然温泉と表示することを容認するならば、それは業官癒着だと国民の批判を受け、また温泉業界の健全な発展にもつながらないであろう。今回の公正取引委員会の指導を受けて、温泉の適正な、真実の表示が一部ではなく、すべての温泉施設の湯船の湯について成分と効能、加水・加温、循環濾過式といった利用形態などのほか、温泉法の規定による温泉であるかどうかも、正しく表示されるよう、求めたい。」

としている。
                                            弁護士 三木秀夫

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