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三木秀夫法律事務所
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ニュース六法目次
最高裁がUFJ信託の統合交渉を認容 (2004年08月30日)  独占交渉権 
○三菱東京フィナンシャル・グループとUFJグループの経営統合をめぐり住友信託銀行が信託部門の統合交渉差し止めを求めた問題で、最高裁第三小法廷(上田豊三裁判長)は30日、仮処分申請を退けた東京高裁の決定を維持し、住友信託の特別抗告と許可抗告を棄却する決定をした。金融再編をめぐる異例の法廷闘争は最大のヤマを越え、三菱東京とUFJは全面統合に向け大きく前進した。
 (日経新聞8/30)

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○今回の問題は、三菱東京フィナンシャル・グループとUFJグループの経営統合(UFJグループの法人資金業務等を除く業務に関する営業、これを構成する一定の資産・負債及びこれに関連する一定の資産・負債の移転等から成る事業再編と両グループの業務提携)に関する基本合意書の12条が問題となったものである。

○その12条の見出しは「誠実協議」とされ、その前段において「各当事者は,本基本合意書に定めのない事項若しくは本基本合意書の条項について疑義が生じた場合,誠実にこれを協議するものとする。」と定め、その後段において「また、各当事者は、直接又は間接を問わず、第三者に対し又は第三者との間で本基本合意書の目的と抵触しうる取引等にかかる情報提供・協議を行わないものとする。」と定めていた。つまり、これは、いわゆる独占交渉権を相互に保証したものである。

○これにあわせて、住友信託側は経営統合に向けて準備をかなり進めていたところ、突然にUFJグループ側が三菱東京フィナンシャル・グループとの信託部門を含めた全面統合を発表したため、住友信託側が、上記独占交渉権を侵害するものであるとして、上記統合交渉の差し止めを求めて東京地裁に仮処分命令を求めて申立をした。

○東京地裁は、7月27日、住友信託側の請求を認めて、本件仮処分命令の申立てを認容する決定をした。これに対し、UFJグループ側が東京地裁に異議の申立てをしたが、8月4日、同裁判所はUFJグループ側の主張を認めず、本件仮処分決定を認可する旨の決定をした。

○このため、UFJグループ側が、上記異議審の決定を不服として,東京高裁に対し、保全抗告をしたところ、東京高裁は、8月11日、「両者の信頼関係は破たんし、独占交渉権は将来に向かい効力を失ったとするのが相当」として、東京地裁の決定を取り消し、本件仮処分命令の申立てを却下する旨の決定をした。

○住友信託側(抗告人)が、この東京高裁の決定を不服として東京高裁に抗告許可の申立てをし、東京高等裁判所は、8月17日、抗告許可をする旨の決定をして、今回の最高裁判断に至ったものである。

○今回の最高裁決定は、「独占交渉権自体は、その条項に基づく義務はいまだ消滅していない」と解し、その点での東京高裁の判断を変更しつつ、他方で「仮処分命令を認めなければ住友信託に著しい損害が生じるとは言えず、申し立ては仮処分命令の要件を欠いている」ことを理由としてあげ、住友信託の抗告を棄却したものである。なお、住友信託の損害については「最終合意が成立した場合に得られるはずの利益相当ではなく、合意成立への期待の侵害による損害とみるべき」とも判断がされており、今後、住友信託が損害賠償請求訴訟を起こした場合も、認容額は、合意成立の倍意なら得られたであろう逸失利益ではなく、期待の侵害による損害という、極めて限定的なものにとどまるとみられる。

○独占交渉権をめぐる裁判例は、今回のものが初めてである。今後は合併交渉などの場面での大きな先例となろう。教訓としては、こういった独占交渉権を基本合意に入れる際は、その破棄の際の違約金を定めることが必要となろう。

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○これまでの経緯
(7/14)UFJ、三菱東京と統合へ記事
(7/16)住友信託が経営統合交渉差し止めの仮処分申請
(7/27)東京地裁、三菱東京とUFJの統合交渉に中止仮処分命令
(7/28)UFJ、東京地裁の仮処分に異議申し立て
(8/4)東京地裁、UFJの異議申し立て却下決定 
(8/11)高裁、UFJと三菱東京の信託統合交渉中止仮処分取り消し決定
(8/12)「三菱・UFJ」統合合意発表
(8/17) 東京高裁が住信の「許可抗告」認める決定
(8/30)最高裁、UFJ信託の統合交渉認める・住信の抗告を棄却 

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○この最高裁決定を受けて、三菱東京フィナンシャル・グループとUFJグループは信託部門を含めた全面統合の準備を予定通り進めるようである。司法判断による中断の可能性がなくなったため、総資産190兆円の世界最大の三菱UFJの誕生の可能性が極めて大きくなった。

○ただし、住友信託銀行は「仮処分は取り消されたが、UFJグループとの独占交渉権は消えていない」として、同グループに対しUFJ信託銀行の売却を引き続き働きかける方針を示している。UFJグループとの独占交渉権が消えていないという点は、まさに最高裁も述べていることであり、今後は三井住友ファイナンシャルグループからの揺さぶりは続くであろう。 

○実際にも、「三井住友フィナンシャルグループは、30日に、UFJグループに対し、両社が統合に合意した場合の資本支援の具体的な内容について提案書を送付した」と発表している。それによれば、「増資の必要額が7000億円に達しても支援が可能」としている。さらに、議決権のない優先株(議決権のある普通株への転換権付)での出資も表明している。(ちなみに、UFJグループと経営統合に関する基本合意が成立した場合、合意が継続している間は転換権を行使できないとの条項を入れるようである。)

こういった優先株による出資を提案した戦略は、UFJの株主に対するものと考えられる。つまり、統合まで経営の自主性を保証することで、UFJの株主に対して三菱東京グループとの統合より有利だと示したものである。優先株は持ち株会社を統合した時点で消却するため、「両社の株主には影響を与えない」とも説明している。今後の動きが注目される。

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○決定文(最高裁ホームページより)

最高裁判所平成16年08月30日第三小法廷決定平成16年(許)第19号
情報提供又は協議禁止仮処分決定認可決定に対する保全抗告審の取消決定に対する許可抗告事件

(要旨:第三者との間で会社の経営統合に係る協議等を行うことの差止めを求める仮処分命令の申立てについて保全の必要性を欠くとされた事例)

(内容:件名 情報提供又は協議禁止仮処分決定認可決定に対する保全抗告審の取消決定に対する許可抗告事件 (最高裁判所 平成16年(許)第19号 平成16年08月30日 第三小法廷決定 棄却) 原審 東京高等裁判所 (平成16年(ラ)第1323号) )
 
主文
本件抗告を棄却する。
抗告費用は抗告人の負担とする。

理由
 
抗告代理人深澤武久ほかの抗告理由について
1 記録によれば,本件の経緯は次のとおりである。
(1) 抗告人は,平成16年5月21日,相手方らとの間で,相手方らグループ(相手方ら並びに相手方Y1のその他の子会社及び関連会社の総称)から抗告人グループ(抗告人並びにその子会社及び関連会社の総称)に対する相手方Y2の法人資金業務等を除く業務に関する営業,これを構成する一定の資産・負債及びこれに関連する一定の資産・負債(以下「相手方Y2の本件対象営業等」という。)の移転等から成る事業再編と両グループの業務提携(以下「本件協働事業化」という。)に関し,合意をし,その合意内容を記載した書面を作成した(以下,この合意を「本件基本合意」といい,この書面を「本件基本合意書」という。)。
 本件基本合意書の12条は,その条見出しを「誠実協議」とし,その前段において「各当事者は,本基本合意書に定めのない事項若しくは本基本合意書の条項について疑義が生じた場合,誠実にこれを協議するものとする。」と定め,その後段において「また,各当事者は,直接又は間接を問わず,第三者に対し又は第三者との間で本基本合意書の目的と抵触しうる取引等にかかる情報提供・協議を行わないものとする。」と定めている(以下,この後段の定めを「本件条項」という。)。
 本件基本合意書には,抗告人及び相手方らが,本件協働事業化に関する最終的な合意をすべき義務を負う旨を定めた規定はなく,本件条項は,両者が,今後,上記の最終的な合意の成立に向けての交渉を行うに当たり,本件基本合意書の目的と抵触し得る取引等に係る情報の提供や協議を第三者との間で行わないことを相互に約したものである。そして,本件基本合意書には,本件条項に違反した場合の制裁,違約罰についての定めは存しない。
 (2) 抗告人と相手方らは,本件基本合意に基づき,同年7月末日までをめどとして本件協働事業化の詳細条件を定める基本契約の締結を目指して交渉をしていたが,その後,相手方らは,相手方らグループの現在の窮状を乗り切るためには,本件基本合意を白紙撤回し,相手方Y2を含めてAグループ(A並びにその子会社及び関連会社の総称)と統合する以外に採るべき方策はないとの経営判断をするに至り,同年7月14日,抗告人に対し,本件基本合意の解約を通告するとともに,Aに対し,相手方Y2の本件対象営業等の移転を含む経営統合の申入れを行い,この事実を公表した。
 (3) 抗告人は,同月16日,東京地方裁判所に対し,相手方らがAグループとの間で経営統合に関する協議を開始したことが本件条項所定の抗告人の独占交渉権を侵害するものであると主張して,本件基本合意に基づき,相手方らが,抗告人以外の第三者との間で,平成18年3月末日までの間,相手方Y2の本件対象営業等の第三者への移転若しくは第三者による承継に係る取引,相手方Y2と第三者との間の合併若しくは会社分割に係る取引又はこれらに伴う業務提携に係る取引に関する情報提供又は協議を行うことの差止めを求める本件仮処分命令の申立てをした。
 (4) 東京地方裁判所は,平成16年7月27日,本件仮処分命令の申立てを認容する決定をした。これに対し,相手方らが異議の申立てをしたが,同年8月4日,同裁判所は,本件仮処分決定を認可する旨の決定をした。
 (5) 相手方らが,上記異議審の決定を不服として,東京高等裁判所に対し,保全抗告をしたところ,同裁判所は,同月11日,以下の理由により,上記各決定を取り消し,本件仮処分命令の申立てを却下する旨の原決定をした。
 すなわち,記録により認定した事実関係によれば,客観的にみると,現時点において,抗告人と相手方らとの間の信頼関係は既に破壊されており,かつ,両者が目指した最終的な合意の締結に向けた協議を誠実に継続することを期待することは既に不可能となったものと理解せざるを得ない。したがって,遅くとも審理終結日である同月10日の時点において,本件基本合意のうち少なくとも本件条項については,その性質上,将来に向かってその効力が失われたものと解するのが相当であり,現時点において差止請求権を認める余地はない。
 (6) 相手方らは,同月12日,Aらとの間で,相手方らグループとAグループとの経営統合に関する基本合意を締結し,平成17年10月1日までに経営統合を行うことをめどとすることなどを約した。
 (7) 抗告人は,原決定を不服として抗告許可の申立てをし,東京高等裁判所は,平成16年8月17日,本件抗告を許可する旨の決定をした。

2 本件抗告の理由は,原決定が,現時点において,抗告人と相手方らとの間の信頼関係が破壊されており,最終的な合意の締結に向けた協議を誠実に継続することを期待することが不可能となったとして,被保全権利である本件条項に基づく差止請求権が消滅したと判断したことを論難するものである。

そこで,まず,本件条項に基づく債務,すなわち,本件条項に基づき抗告人及び相手方らが負担する不作為義務が消滅したか否かについてみるに,前記の事実関係によれば,本件条項は,両者が,今後,本件協働事業化に関する最終的な合意の成立に向けての交渉を行うに当たり,本件基本合意書の目的と抵触し得る取引等に係る情報の提供や協議を第三者との間で行わないことを相互に約したものであって,上記の交渉と密接不可分なものであり,上記の交渉を第三者の介入を受けないで円滑,かつ,能率的に行い,最終的な合意を成立させるための,いわば手段として定められたものであることが明らかである。したがって,今後,抗告人と相手方らが交渉を重ねても,社会通念上,上記の最終的な合意が成立する可能性が存しないと判断されるに至った場合には,本件条項に基づく債務も消滅するものと解される。
 
本件においては,前記のとおり,相手方らが,本件基本合意を白紙撤回し,同年7月14日,抗告人に対し,本件基本合意の解約を通告するとともに,Aに対し,相手方Y2の本件対象営業等の移転を含む経営統合の申入れを行い,この事実を公表したこと,抗告人が,これに対し,本件仮処分命令の申立てを行い,本件仮処分決定及び異議審の決定を得たが,相手方らは,原審においてこれらの決定が取り消されるや,直ちにAらとの間で,相手方らグループとAグループとの経営統合に関する基本合意を締結するなど,上記経営統合に係る最終的な合意の成立に向けた交渉が次第に結実しつつある状況にあること等に照らすと,現段階では,抗告人と相手方らとの間で,本件基本合意に基づく本件協働事業化に関する最終的な合意が成立する可能性は相当低いといわざるを得ない。しかし,本件の経緯全般に照らせば,いまだ流動的な要素が全くなくなってしまったとはいえず,社会通念上,上記の可能性が存しないとまではいえないものというべきである。そうすると,本件条項に基づく債務は,いまだ消滅していないものと解すべきである。

ところで,本件仮処分命令の申立ては,仮の地位を定める仮処分命令を求めるものであるが,その発令には,「争いがある権利関係について債権者に生ずる著しい損害又は急迫の危険を避けるためこれを必要とするとき」との要件が定められており(民事保全法23条2項),この要件を欠くときには,本件仮処分命令の申立ては理由がないことになる。そして,本件仮処分命令の申立てがこの要件を具備するか否かの点は,本件における重要な争点であり,本件仮処分命令の申立て時以降,当事者双方が,十分に主張,疎明を尽くしているところである。
 
そこで,この点について検討するに,前記の事実関係によれば,本件基本合意書には,抗告人及び相手方らが,本件協働事業化に関する最終的な合意をすべき義務を負う旨を定めた規定はなく,最終的な合意が成立するか否かは,今後の交渉次第であって,本件基本合意書は,その成立を保証するものではなく,抗告人は,その成立についての期待を有するにすぎないものであることが明らかである。

そうであるとすると,相手方らが本件条項に違反することにより抗告人が被る損害については,最終的な合意の成立により抗告人が得られるはずの利益相当の損害とみるのは相当ではなく,抗告人が第三者の介入を排除して有利な立場で相手方らと交渉を進めることにより,抗告人と相手方らとの間で本件協働事業化に関する最終的な合意が成立するとの期待が侵害されることによる損害とみるべきである。

抗告人が被る損害の性質,内容が上記のようなものであり,事後の損害賠償によっては償えないほどのものとまではいえないこと,前記のとおり,抗告人と相手方らとの間で,本件基本合意に基づく本件協働事業化に関する最終的な合意が成立する可能性は相当低いこと,しかるに,本件仮処分命令の申立ては,平成18年3月末日までの長期間にわたり,相手方らが抗告人以外の第三者との間で前記情報提供又は協議を行うことの差止めを求めるものであり,これが認められた場合に相手方らの被る損害は,相手方らの現在置かれている状況からみて,相当大きなものと解されること等を総合的に考慮すると,本件仮処分命令により,暫定的に,相手方らが抗告人以外の第三者との間で前記情報提供又は協議を行うことを差し止めなければ,抗告人に著しい損害や急迫の危険が生ずるものとはいえず,本件仮処分命令の申立ては,上記要件を欠くものというべきである。

3 以上のとおりであるから,本件仮処分命令の申立てを却下するなどした原審の判断は,結論において是認することができる。論旨は,原決定の結論に影響を及ぼさない部分についてその違法をいうものにすぎず,採用することができない。

よって,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 上田豊三 裁判官 金谷利廣 裁判官 濱田邦夫 裁判官 藤田宙靖) 
                                            弁護士 三木秀夫

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