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三木秀夫法律事務所
このページは最近話題になったニュースを題材にして、そこに関係する各種法令もしくは
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ご関心のある方は、そちらをご覧ください。

ニュース六法目次
プロ野球ストライキは一旦回避(2004年09月10日)  義務的団体交渉事項 
○プロ野球スト、11・12日は回避
労働組合・日本プロ野球選手会(古田敦也会長=ヤクルト)が、予告していたストライキのうち11、12日については回避することを決めた。プロ野球の再編問題をめぐる選手会と経営者側代表の労使協議は10日、最終的な妥協点には到達しなかったものの、継続協議などで暫定合意した。選手会は17日午後5時までに再回答を求めた。
 
このため選手会はセ、パ両リーグで今月の土、日曜日の計30試合で予告していたストライキのうち11、12日分については行わないと伝えた。17日までにきちんとした再回答があった場合は、18日以降のストライキも取りやめる。 (日刊スポーツ.9月10日)

○プロ野球労使交渉で、東京高裁が即時抗告棄却
オリックス・ブルーウェーブと近鉄バファローズの球団統合を巡り、労組・日本プロ野球選手会(古田敦也会長=ヤクルト)が、日本プロフェッショナル野球組織(NPB)との労使交渉を認めるよう求めた仮処分で、東京高裁(原田和徳裁判長)は8日、申し立てを却下した東京地裁決定を支持、選手会の即時抗告を棄却する決定を出した。選手会は、両球団の統合と選手の労働条件について、「団体交渉を求められる地位にある」と確認するよう求めていた。
 
高裁決定は申し立て自体は退けたが、選手会が団体交渉権を持つことを認めたうえで、地裁決定より踏み込んで、球団統合問題のうち労働条件を左右する部分については、NPBの「義務的団体交渉事項」に当たると判断した。
 
しかし、仮処分申し立てを認めるほど緊急の必要性があるかという点については、(1)誠実に交渉しなければ、不当労働行為に問われたり、野球の権威に対する国民の信頼の失墜を招いたりしかねず、今後は実質的な団体交渉が行われることが期待される(2)野球協約は双方にプロ野球発展のため努力を尽くすことを求めている――などを理由に、認めなかった。
 
一方、決定は、「NPBが交渉で誠実さを欠いていたことは否定できない」と指摘。選手会の主張については、「労組としての権利にこだわっているわけではなく、十分な議論を尽くすべきだと訴えている」との解釈を示した。 (読売新聞9月8日)

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○オリックス・ブルーウェーブと近鉄バファローズの球団統合を巡り、日本プロ野球選手会が、日本プロフェッショナル野球組織(NPB)との労使交渉を求め続けたにもかかわらず、NPB側がかたくなに拒否してきた問題で、大きな進展があった。

労使交渉を認めるよう求めた仮処分では、東京高裁は8日、申し立てを却下した東京地裁決定を支持、選手会の即時抗告を棄却する決定を出したが、その後、選手会とNPBとの協議・交渉委員会が9日正午から始まった。そして、10日のストライキ決定期限の直前に至って、NPBが選手会と6項目の合意をして、週末からのストライキは延期された。

○この変化の要因はいくつかあろうが、一つには、ファンから、ストをしてでも球界運営のやり方を変えるべきだ、という声が高まったことがある。120万人分の合併反対署名は、ストになったときの批判は選手会よりもNPB側に集まることを予想させるものであった。

さらに影響を与えたのは、公正取引委員会が、加盟料・参加料が独禁法の参入障壁に該当する可能性があると示唆したこともあげられる。(ニュース六法2004年08月19日版「新球団で参入のライブドアと加盟料」参照)

そして、もう一つの大きな要因は、今回の東京高裁が申請自体は棄却したものの、「合併に伴う労働条件は義務的団体交渉事項で、NPBは誠実交渉義務を尽くさなければ不当労働行為にあたる」との判断を示したことが挙げられる。(東京高裁の決定文を末尾に記載)

今までNPBは、選手会を労働組合として認めないとし、団体交渉も認めない姿勢をとり、また選手会の告知しているストライキを不当目的の違法ストライキであるという主張もしてきたが、すべて東京高裁はこれを否定した。この高裁の強い「けん制球」に対して、従前の対応では、球団側は勝てると考えにくくなったわけであろう。

○この問題は、いまや国民的関心事項となっている。経営者も、選手会も、本当に野球を愛する国民の期待に答えれるよう、誠実な協議と対応が必要である。
 
○しかし、今年は、田中真紀子の娘の問題での文春出版禁止仮処分に始まり、UFJ統合をめぐる仮処分事件、そして今回の球団統合問題での仮処分と、仮処分事件がやたら脚光を浴びる年となった。

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○今回の野球組織と選手会との交渉は、労使交渉と位置づけた場合、疑義となる事項は、2球団の合併問題が、果たして「団体交渉事項」と言えるのか、これを経営側は拒否しうるのか、選手会は団体交渉を求めうるのか、という点である。

○団体交渉とは
団体交渉とは、労働者の団体が、使用者または使用者の団体と、労働条件などの関して行う交渉のことをいう。

○団体交渉の交渉事項は何か
団体交渉で対象となる交渉事項は、交渉相手方である使用者または使用者団体が、「処分・管理権限」を持つものに限られる。従って、例えば、使用者団体がどうにも関与し得ない問題(例えば法律制定など)については対象外となる。

○今回の仮処分で問題となったのは、一つには「球団合併事項」が「団体交渉事項」になるのか否かという点と、仮処分の必要性であったが、東京高裁は、前者はこれを肯定し、後者で否定したのである。

○義務的団体交渉事項
義務的団体交渉事項とは、使用者が団体交渉をすることを労働組合法によって義務づけられている事項をいう。

団体交渉においてどのような事項を交渉の対象にできるかについては、労働法規には明文の規定がない。しかし一般的に、義務的団体交渉事項は、「団体交渉を申し入れた労働者の団体の構成員たる労働者の労働条件その他の待遇や団体的労使関係の運営に関する事項であって、使用者に処分可能なもの」と解されている。

○この「義務的団体交渉事項」に関し、本四海峡バス事件(神戸地判平13.10.1労判820号41頁)では、次のように判示している。
「憲法28条は勤労者の団体交渉をする権利を保障し,これを受けて,労働組合法7条2号は使用者の正当な理由のない団体交渉拒否を不当労働行為として禁止しているところ,団体交渉とは,労働者の団体が使用者又はその団体との間で対等の立場に立って労働者の労働条件その他の待遇や団体的労使関係の運営に関する労働協約を締結するために交渉することをいい(労働組合法1条1項等参照),憲法及び労働組合法の規定による団体交渉権の保障も,このような団体交渉を対象とするものと解される。
このような団体交渉権保障の趣旨に照らすと,使用者が団体交渉をすることを労働組合法によって義務づけられている事項(義務的団体交渉事項)とは,団体交渉を申し入れた労働者の団体の構成員たる労働者の労働条件その他の待遇や団体的労使関係の運営に関する事項であって,使用者に処分可能なものをいうものと解される。」
 
○具体的にどのようなものがこの義務的団体交渉事項に当たるかについて、賃金・労働時間・安全衛生・人事異動・解雇基準・解雇手続などの労働条件等に関する事項が該当するという点は異論はない。しかし、会社の組織に関することや、採用や管理者人事、生産方法などの経営に属する事項は、「労働条件等の待遇に影響ある場合だけが、この対象事項とすることができる」と解されている。  
○今回の東京高裁は、選手会が団体交渉権を持つことを認めたうえで、地裁決定より踏み込んで、本件近鉄オリックス球団の統合自体についても、労働条件に係る部分は、NPBが労働組合である選手会と誠実に団体交渉を行わなければならない義務的団体交渉事項に該当すると判断した。 
 
○不当労働行為〜誠実対応について 東京高裁決定では、「NPBが交渉で誠実さを欠いていたことは否定できない」とも指摘している。使用者は、雇用する労働者の代表と団体交渉をしなければならず、正当な理由無くこれを拒否すれば「不当労働行為」となる(労働組合法第7条第2号)。
 
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○労働組合法(昭和二十四年六月一日法律第百七十四号)
(不当労働行為) 
第七条  使用者は、左の各号に掲げる行為をしてはならない。 
一  労働者が労働組合の組合員であること、労働組合に加入し、若しくはこれを結成しようとしたこと若しくは労働組合の正当な行為をしたことの故をもつて、その労働者を解雇し、その他これに対して不利益な取扱をすること又は労働者が労働組合に加入せず、若しくは労働組合から脱退することを雇用条件とすること。但し、労働組合が特定の工場事業場に雇用される労働者の過半数を代表する場合において、その労働者がその労働組合の組合員であることを雇用条件とする労働協約を締結することを妨げるものではない。 
二  使用者が雇用する労働者の代表者と団体交渉をすることを正当な理由がなくて拒むこと。 
三  (略)
四  (略)

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○ちなみに、今回の東京高裁の決定においては、日本プロ野球選手会が団体交渉権を持つことを認めている。これは、同選手会が労働組合であることを前提にした判断といえる。

○日本プロ野球選手会とは
「日本プロ野球選手会は、日本のプロ野球12球団に所属する日本人選手全て(一部の外国人選手を含む)が会員となっている団体です。プロ野球選手は選手寿命も短い上に社会保障も不十分であることなどの問題を受け、主にプロ野球選手の地位向上を目的として設立され、1980年に社団法人として法人格を取得した後、1985年には東京都地方労働委員会に労働組合としての認定を受け、労働組合となりました。現在は、社団法人日本プロ野球選手会と労働組合日本プロ野球選手会の2つが併存し、選手の地位向上に関する諸問題への取り組みのみならず、全国各地での野球教室や各種チャリティ活動など公益的な活動にも精力的に取り組んでいます。 」
(日本プロ野球選手会公式ホームページより)

○以上のように、「日本プロ野球選手会」は、「労働組合」である。正確には「社団法人日本プロ野球選手会」と「労働組合日本プロ野球選手会」の2法人になっている。1980年8月15日に社団法人として法人格取得し、1985年11月19日に労働組合として認定。 労働組合日本プロ野球選手会は選手の待遇改善、地位向上を目指し、社団法人日本プロ野球選手会は野球全体の発展を目的として、野球教室やチャリティ活動などを展開している。2004年4月1日現在、労働組合会長は古田敦也(ヤクルトスワローズ)、社団法人理事長は立浪和義(中日ドラゴンズ)が務める。なお、労働組合日本プロ野球選手会は、連合、全労連、全労協のいずれのナショナルセンターにも属しない純中立の労働組合である。

○この問題の詳細は、ニュース六法2004年07月28日版「NPBが日本プロ野球選手会の要求拒否 ・労働組合法」の項を参照されたい。

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日本プロ野球選手会による東京高裁決定に対するコメント
(日本プロ野球選手会公式ホームページより)

【東京高裁の判断内容】 
1. 選手会が労働組合であり、NPBに対して団体交渉権を有していること 
2. 本件近鉄オリックス球団の統合に伴う労働条件に関する事項が、NPBが労働組合である選手会と誠実に団体交渉を行わなければならない義務的団体交渉事項に該当すること 
3. 本件近鉄オリックス球団の統合自体についても、労働条件に係る部分は、NPBが労働組合である選手会と誠実に団体交渉を行わなければならない義務的団体交渉事項に該当すること 
 
特に3.については、地裁の判断より義務的団体交渉事項を広げた判断がなされています。 
したがいまして、今までNPBが選手会を労働組合として認めないなどとして、団体交渉を認めない姿勢をとってきたことは許されないことになりますし、また選手会の告知しているストライキを不当目的の違法ストライキであるという指摘も認められないこととなります。 
そのような意味で、今後実施される可能性があるストライキとの関係で、球団からの損害賠償が認められないことが明確に判断されたものと考えております。 

さらに、裁判所は、本件判断において、NPBの姿勢に対して現実を踏まえた批判的な指摘を行っております。 
1)NPBがこれまでに応じてきた交渉等が誠実さを欠いていたことは否定することが出来ない 
2)NPBが応じるというという9日からの交渉の法的性格等にも疑問の余地がある(つまり裁判官は誠実に行われるか疑問もあると指摘しています) 
というものです。 

また、 
3)NPBの代表者であるコミッショナーは著名な法律家が就任しており、裁判所が選手会の団体交渉権を認める判断をすれば、9日からの交渉においてこれを尊重することが期待できる 
と指摘した上で、 

4)万一誠実に交渉が行われなかった場合には、不当労働行為の責任を負う可能性等があるのみでなく、野球の権威等に対する国民の信頼(野球協約3条(1))を失う事態を招きかねない 
とも警告しています。 

つまり、現時点では9日の経緯をみるべきで、判断は棄却するというものであり、今後状況次第で判断の可能性があるということを指摘しているものといえます。 

さらに、この決定理由において、裁判所は、 
5)野球協約の目的に対して、選手とNPBが「不断の努力」を尽くすことが期待される 
と指摘しています。 

この判断を受け、選手会は、現在多くの野球ファンを失望させつつある事態に対して、9日からの交渉において野球協約3条の下記の目的に沿った訴えを続けることの重要性を改めて確認いたしました。

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○平成16年(ラ)第1479号団体交渉等仮処分申立却下決定に対する抗告事件
(原審・東京地方裁判所平成16年(ヨ)第21153号)
  
         決      定

東京都中央区日本橋小舟町(以下略)
     抗     告     人   日本プロ野球選手会
     同 代 表 者 会 長  古 田 敦 也
     同代理人  弁 護 士  (略)

東京都千代田区内幸町(以下略)
     相     手     方  日本プロフェッショナル野球組織
     同代表者コミッショナー  根 来 泰 周
     同代理人 弁 護 士 (略)

主  文
1 本件抗告を棄却する。
2 抗告費用は抗告人の負担とする。

理  由
第1 抗告の趣旨
1 原決定中,抗告人に関する部分を取り消す。
2 抗告人は,相手方に対し,下記交渉事項(1)及び交渉事項(2)について,団体交渉を求め得る地位にあることを仮に定める。
(1)相手方に属する株式会社大阪バファローズ(以下「バファローズ」という。)とオリックス野球クラブ株式会社(以下「オリックス」という。)間の営業譲渡及び参加資格の統合に関する件(選手の解雇,転籍を不可避的に伴う営業譲渡及び参加資格の統合を回避すること等を含む。)
(2) 前項の営業譲渡及び参加資格の統合に伴う抗告人組合員の労働条件に関する件

第2 事案の概要
1 本件は,バファローズがオリックスに対してその営業を譲渡し(以下「本件営業譲渡」という。),これに伴って相手方への参加資格を統合すること(以下「本件統合」という。)の承認を求める申請(以下「本件申請」という。)をしたため,抗告人が相手方に対し,上記第1の2の趣旨の仮処分命令を発することを申し立てた事案である。
 原決定は,抗告人の中立てを却下した。これに対し,抗告人が即時抗告を申し立てたものである。
2 当事者の主張は,原審及び当審で当事者が提出した主張書面のとおりであるので,これらを引用する。
3 抗告人の当審における主張(抗告の理由)の主要な点は,次のとおりである。
(1)原決定は,交渉事項(2)のみが義務的団体交渉事項に当たると判断した。
しかしながら,交渉事項(1)についても義務的団体交渉事項に当たると解すべきである。
(2)原決定は,同決定がされた時点では,交渉事項(2)について仮処分命令の必要がないと判断した。しかしながら,現時点では,仮処分命令の必要がある。

第3 当裁判所の判断
本件記録に基づいて,以下のとおり判断する。
1 被保全権利について
(1)団体交渉権について
当裁判所の判断も,原決定の事実及び理由の「第3 当裁判所の判断」1の(1)に記載された判断と同一であるから,これを引用する。
よって,抗告人が相手方に対し労働組合法第7条2号の団体交渉をする権利を有することについての疎明は,十分である。
(2)義務的団体交渉事項について
ア 交渉事項(2)について
当裁判所の判断も原決定の事実及び理由の「第3 当裁判所の判断」1の(2)の(ア)及び(イ)に記載された判断と同一であるから,これを引用する。
すなわち,まず,交渉事項(2)(抗告人組合員の労働条件に関する件)は,義務的団体交渉事項に該当する。
イ 交渉事項(1)について ,
交渉事項(1)は,その表現が抽象的であり,交渉事項(2)との関係でも一義的に確定することが困難である。しかし,本件においては,下記のような日本プロフェッショナル野球協約(以下「野球協約」という。)の規定等に照らし,現時点においては,交渉事項(1)についても,交渉事項(2)とは別個に,抗告人組合員の労働条件を左右する部分があると認められる。したがって,交渉事項(1)のうち,抗告人組合員の労働条件に係る部分は,義務的団体交渉事項に該当すると解される。
野球協約によると,本件申請については,第33条に基づいて,実行委員会及びオーナー議の承認を得なければならないものであり,平成16年9月6日の実行委員会で承認され,同月8日のオーナー会議で承認の可否等が審議議決されることとなっている。
ところで,同条の後段は「この場合,合併される球団に属する選手にかんしては,必要により第57条(連盟の応急措置)および第57条の2(選手の救済措置)の条項が準用される。」と規定しており,そのうち,特に第57条の2は,「球団の合併,破産等もっぱら球団の事情によりその球団の支配下選手が一斉に契約を解除された場合,(途中省略)実行委員会およびオーナー会議の議決により,他の球団の支配下選手の数は前記議決で定められた期間80名以内に拡大され,契約解除された選手を可能な限り救済するものとする。」と規定しているところ,同条の議決はいまだされていない。
そして,各球団の支配下選手が第79条により原則として70名までに制限されているため,上記議決がされない限り,一球団分の選手が必然的に選手契約を解除されることになる。

2 保全の必要性(民事保全法23条2項)について
当裁判所は,現時点では,以下の理由により,保全の必要性についての疎明が不十分であると判断する。
(1)平成16年9月3日(原決定の時点)までの推移について
当裁判所の判断も原決定の事実及び理由の「第3 当裁判所の判断」1の(3)の(ア)に記載され た判断と同一であるから,これを引用する。すなわち,相手方は,抗告人との団体交渉に応じていたことが疎明される。
(2)その後,同月 7 日までの推移について
同月6日,本件申請が相手方の実行委員会で承認された。同日,抗告人は,相手方に対し,同月10日の午後5時までに要求が受け入れられない場合は,やむを得ず同月11日以降ストライキを行う旨の通告をした。相手方は,この通告を受け,同月9日から抗告人と交渉を行う旨回答した。
(3)同月9日から予定されている交渉について
ア 相手方は,当審においても,抗告人が労働組合法第7条2号の団体交渉権を有することを争うとの従前の主張を続けている。そのため,相手方がこれまで応じてきた交渉等が誠実さを欠いていたことは否定することができないし,相手方が応じるという同月9日からの交渉の法的性格等にも疑問の余地がある。
イ しかしながら,相手方の代表者でもあるコミッショナーには,著名な法律家が就任しており,当裁判所が抗告人の団体交渉権について上記のような判断を示しさえずれば,相手方は,同月9日からの交渉において,これを尊重し,実質的な団体交渉が行われることが期待される。また,万一,相手方が誠実交渉義務を尽くさなければ,労働組合法第7条2号の不当労働行為の責任を問われる可能性等があるばかりでなく,野球の権威等に対する国民の信頼(野球協約第3条(1))を失うという事態を招きかねない。
ウ 抗告人の代表者は,「我々は対話を求めている」と題された新聞への投稿(甲30)で,「合併によって球団を減らすことが本当に発展つながるのか。ファンに喜ばれるプロ野球になるのか。その観点で十分な議論を尽くすべきです。」などと論じており,抗告人の主張は,単に労働組合法上の権利を根拠として,これにこだわっているものではなく,とにかく十分な議論を尽くすべきであると訴えているものと理解することができる。
エ 野球協約の目的については,次のとおり規定されている。
「第3条(協約の目的)この協約の目的は次の通りである。この組織を構成する団体および個     人は不断の努力を通じてこの目的達成を目指すものとする。
(1)わが国の野球を不朽の国技にし,野球が社会の文化的公共財となるよう努めることによって,野球の権威および技術にたいする国民の信頼を確保する。
(2)わが国におけるプロフェッショナル野球を飛躍的に発展させ,もって世界選手権を争う。
(3)この組織に属する団体および個人の利益を保護助長する。」
上記「この組織を構成する団体および個人」には,相手方及び抗告人の選手らが含まれるのであるから,双方が上記「不断の努力」を尽くすことも期待される。
(4)以上認定の抗告人と相手方との従前の交渉の推移及び今後行われるであろう交渉についての 見通し等の事情を考慮すると,現時点では,保全の必要性についての疎明は不十分である。

3 結論
以上によれば,抗告人の本件仮処分命令の申立てについては,上記1の限度で被保全権利を認めることができるが,現時点における保全の必要性の疎班が不十分である。
よって,抗告人の本件仮処分命令の申立てを却下した原決定は,結論において相当であって,本件抗告は理由がないから,主文のとおり決定する。
  
平成16年9月8日
   
東京高等裁判所第23民事部
裁判長裁判官   原  田  和  徳
裁判官       北  潔  章  功
裁判官       竹  内  浩  史


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○本四海峡バス事件
H13.10. 1 神戸地方裁判所 平成12年(ワ)第505号,同第925号 労働契約上の地位確認等請求,団体交渉を求める地位確認請求
事件番号  :平成12年(ワ)第505号,同第925号
事件名   :労働契約上の地位確認等請求,団体交渉を求める地位確認請求
裁判年月日 :H13.10. 1
裁判所名  :神戸地方裁判所

(主文)
1〜6(略)
7 乙事件原告全日本港湾労働組合関西地方本部が乙事件被告に対し別紙団体交渉事項目録(関西地本)記載の各事項につき団体交渉を求め得る地位にあることを確認する。
8 乙事件原告全日本港湾労働組合関西地方神戸支部が乙事件被告に対し別紙団体交渉事項目録(神戸支部)記載の各事項につき団体交渉を求め得る地位にあることを確認する。
9〜12(略)

(事実及び理由)

(略)
(4) 本件団体交渉事項が当事者間の団体交渉の対象となるか否かについて

ア 憲法28条は勤労者の団体交渉をする権利を保障し,これを受けて,労働組合法7条2号は使用者の正当な理由のない団体交渉拒否を不当労働行為として禁止しているところ,団体交渉とは,労働者の団体が使用者又はその団体との間で対等の立場に立って労働者の労働条件その他の待遇や団体的労使関係の運営に関する労働協約を締結するために交渉することをいい(労働組合法1条1項等参照),憲法及び労働組合法の規定による団体交渉権の保障も,このような団体交渉を対象とするものと解される。

このような団体交渉権保障の趣旨に照らすと,使用者が団体交渉をすることを労働組合法によって義務づけられている事項(義務的団体交渉事項)とは,団体交渉を申し入れた労働者の団体の構成員たる労働者の労働条件その他の待遇や団体的労使関係の運営に関する事項であって,使用者に処分可能なものをいうものと解される。

イ これを本件についてみると,本件団体交渉事項は,いずれも労働者の労働条件その他の待遇に関する事項であって,被告に処分可能なものと認められるから,義務的団体交渉事項にあたると解すべきである。なお,本件団体交渉事項の中には,被告の経営に関するものと思われるものもあるが,労働者の労働条件その他の待遇と全く無関係であるとまではいえないから,労働者の労働条件その他の待遇に関する限りで義務的団体交渉事項にあたるというべきである。

ウ(ア) これに対し,被告は,甲事件原告らの解雇問題は,労働組合間の紛争が解決しない限り,合意に達し得ない事項であり,被告には処分権がないと主張する。
しかしながら,本件解雇は,被告が補助参加人から本件協定に基づく解雇を要請されたとはいえ,本件協定の該当部分は前記のとおり無効なものであるから,それに拘束されるいわれはないのに,被告自らの判断で行ったことであり,本件解雇の撤回と甲事件原告らの原職復帰も被告の従業員に関する問題であって,被告自らの判断で行うべきことであるから,これらは被告に処分可能な事項であるというべきである。したがって,被告の上記主張は理由がない。

(イ) また,被告は,原告関西地本が求めている団体交渉事項は,いわばスローガンとして抽象的な要求を挙げているにすぎないとか,上記の団体交渉事項は,原告関西地本が港湾関係各社に対して行った統一要求事項と同一であるから,港湾関係各社のみを対象とし,港湾関係各社のみが誠実に対処できる事項であり,バス会社であり港湾関係の会社ではない被告が処理権限を有しない事項ばかりであると主張する。

しかしながら,そもそも団体交渉事項はその性質上ある程度抽象的な内容とならざるを得ないから,そのことをもって直ちに義務的団体交渉事項にあたらないということはできない。
また,原告関西地本が求めている団体交渉事項は,前記認定のとおり,いずれも労働者の労働条件その他の待遇に関する事項であるところ,その内容は普遍的であって,港湾産業に特有のものとはいえないから,これらは被告に処分可能な事項であるというべきである。
もっとも,別紙団体交渉事項目録(関西地本)第4項記載の「港湾産別協定の完全実施について」という団体交渉事項は,港湾関係の会社のみを対象としているようにも見えるが,港湾産別協定の内容自体は普遍的なものであると推認できるし,被告がこれを締結することは妨げられないから,なお被告に処分可能な事項であるというべきである。したがって,被告の上記主張は理由がない。

(ウ) なお,・・・(以下略)

(5) 結論
そして,本件において,乙事件原告らが団体交渉権(団体交渉の当事者適格)を有することや本件団体交渉事項が義務的団体交渉事項にあたることが認められるにもかかわらず,被告がこれらを争っていることは,後記認定のとおり,被告が原告神戸支部による団体交渉の申入れを拒否したこと及び被告の本件における主張自体から明らかであるから,乙事件原告らから被告に対し本件団体交渉事項につき団体交渉を求め得る地位にあることの確認を求める本件訴えについて,確認の利益があると認められる。
                                            弁護士 三木秀夫

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