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三木秀夫法律事務所
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ニュース六法目次
鈴木宗男被告に実刑判決(2004年11月05日)  あっせん収賄/受託収賄 
○鈴木宗男被告:懲役2年の実刑判決 受託収賄など4罪
旧北海道開発局発注の公共工事をめぐる受託収賄や林野庁の行政処分に絡むあっせん収賄など4罪に問われた前衆院議員、鈴木宗男被告(56)に対し、東京地裁は5日、懲役2年、追徴金1100万円(求刑・懲役4年、追徴金1100万円)の実刑判決を言い渡した。前議員は無罪を主張していたが、八木正一裁判長は4罪をすべて認定し、「国民の信頼を裏切ったばかりか、不利な証言をした関係者をひぼうするなど反省の情は皆無」と厳しく指摘した。(毎日新聞2004.11.05)

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○辻本清美元衆議院議員から「疑惑のデパート」とまで言われた、あの鈴木宗男元衆議院議員に、東京地裁での判決公判が開かれ、懲役2年、追徴金1100万円という実刑判決が言い渡された。もともとは、会議NGO排除事件に端を発して噴出した「支援委員会」を舞台とする鈴木被告と外務省の癒着関係が、その疑惑の本丸であった。その意味で、今回の判決の対象となったこの収賄事件そのものは、一連の疑惑の一部でしかないとも言われてきた。だが、同罪の適用は、長年にわたって日本の政治を悪くしてきた「口利き政治」に切り込んだものであり、政治献金でもわいろ性が認定されれば立件する検察側の強い姿勢が、今回の判決を導いたのではないか。

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○鈴木宗男元衆議院議員の公訴事実
@あっせん収賄罪(刑法197条の4)
内閣官房副長官だった1998年8月4日に、首相官邸で製材会社「やまりん」の社長らから、入札参加資格の停止処分終了後に処分中の損失を取り戻すため林野庁に働き掛けるよう不正の請託を受け、現金500万円のわいろを受領したというもの。
A受託収賄罪(刑法197条1項後段)
北海道開発庁長官に就任した直後の1997年10月から1998年8月に、島田建設の社長らから北海道開発局の工事受注に便宜を図るよう請託を受け、現金計600万円のわいろを受領したというもの。
B政治資金規正法違反
東京の自宅購入費などに充てた3600万円の支出や約1億円の寄付収入について、資金管理団体「21世紀政策研究会」の1998年分収支報告書から除外し、虚偽記載をしたというもの。
C議院証言法違反
2002年3月の衆院予算委の証人喚問で、島田建設からの600万円の賄賂や200万円のヤミ献金受領の事実などの三事実を偽証したというもの。

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○あっせん収賄罪(刑法197条の4)とは
刑法197条の4 公務員が請託を受け、他の公務員に職務上不正な行為をさせるように、又は相当の行為をさせないようにあっせんをすること又はしたことの報酬として、賄賂を収受し、又はその要求若しくは約束をしたときは、5年以下の懲役に処する。 

(解説)
○この「あっせん収賄罪」は、次の場合に成立する。
(1)公務員が
(2)請託を受けて、
(3)他の公務員に職務上不正な行為をさせるように、又は相当の行為をさせないように、
(4)あっせんしたり、したことの報酬として、
(5)賄賂を「収受」したり、実際に賄賂を受け取る段階に至らなくても、賄賂をよこすように「要求」したり、賄賂をもらう「約束」をしたとき

○このような「他の公務員に対するあっせん行為」は、かつては不可罰とされていたが、いわゆる昭和電工事件で単純収賄罪に問われた芦田均元首相が無罪となったことを受け、1958年(昭和33年)の刑法改正で設けられたものである。公務員本人に職務権限がない場合でも、請託を受け、ほかの公務員に職務上不正な行為をさせることなどの報酬として、その収受・要求・約束した場合に成立するところに特徴がある。

○請託を受けずに、公務員がその職務に関し、単純に賄賂を収受し、又はその要求若しくは約束をしただけのときは、刑法197条1項の単純収賄罪となる。

○「職務上不正な行為」をさせようとした行為が対象であるため、「正当な行為」のあっせんは罪にならない。後者の場合に報酬を受けている場合は、後述するあっせん利得処罰法の対象となる。

○この罪の法定刑は単純収賄罪と同じ5年以下の懲役。

○これまで、この罪に問われた国会議員は、大倉精一元参院議員(1968年日通事件)、中村元建設相(公正取引委員会に対する建設業者の刑事告発を見送るよう働き掛けた事件)、鈴木宗男元衆院議員と数少ない。これは、こうした行為が密室で行われるために、請託や、職務上不正な行為の立証が極めて困難なためである。

○この密室行為への対応策として創設されたのが、2001年3月1日に施行された「あっせん利得処罰法」(正式名称「公職にある者等のあっせん行為による利得等の処罰に関する法律」)である。これは合法的な行為をさせた場合でも、報酬を受けていれば適用されるところに特色がある。3年以下の懲役(秘書は2年以下)と、収益の没収・追徴が科される。

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○受託収賄罪(刑法197条1項後段) とは
第197条  公務員が、その職務に関し、賄賂を収受し、又はその要求若しくは約束をしたときは、五年以下の懲役に処する。この場合において、請託を受けたときは、七年以下の懲役に処する。 

(解説)
○この受託収賄罪とは、次の場合に成立する。
(1)公務員が
(2)その職務に関し、
(3)請託を受けて、
(4)賄賂を「収受」したり、実際に賄賂を受け取る段階に至らなくても、賄賂をよこすように「要求」したり、賄賂をもらう「約束」をしたとき

○刑法197条の本文の規定は、「単純収賄罪」というもので、上記(3)の請託がなくて、ただ単に賄賂を収受・要求・約束しただけの場合である。この単純収賄罪の場合は5年以下の懲役であるが、「請託」を受けた受託収賄罪の場合は7年以下の懲役と、法定刑が過重されている。

○この受託収賄罪は、これまで多くの国会議員が立件されている。 

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○この「受託収賄罪」については、私自身は、1976年7月27日に田中角栄前首相が逮捕されたことが、鮮明な記憶として残っている。米国ロッキード社が日本の有力者に航空機の売り込みをめぐって多額の資金をばらまいたロッキード事件が毎日のようにマスコミを賑わしていたこの時期、私自身は、刑法を学び始めていた時期と、ぴったりと重なっているのである。

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おまけ【収賄罪の知識】

○収賄罪とは、公務員がその職務に関し、賄賂を収受したり、または要求、約束したりする行為をいう。国家的法益の侵害行為として位置づけられる。

○刑法の197条1項前段を基本形として、その後に枝条文として197条の2から4までが周辺類型や加重類型として追加されてきた。そして、197条の5として、収賄罪に対する追徴・没収が規定されている。198条には贈賄側を処罰する贈賄罪が規定されている。

○基本形たる「収賄罪」(197条1項)
公務員が、その職務に関し、賄賂を収受し、又はその要求若しくは約束をしたとき(5年以下の懲役)

○周辺類型
@「事前収賄罪」(197条2項)
公務員になろうとする者が、その担当すべき職務に関し、請託を受けて、賄賂を収受し、又はその要求若しくは約束をしたとき(公務員となった場合において5年以下の懲役)
A「事後収賄罪」(197条の3第3項)
公務員であった者が、その在職中に請託を受けて職務上不正な行為をしたこと又は相当の行為をしなかったことに関し、賄賂を収受し、又はその要求若しくは約束をしたとき(5年以下の懲役)
B「第三者供賄罪」(197条の2) 
公務員が、その職務に関し、請託を受けて、第三者に賄賂を供与させ、又はその供与の要求若しくは約束をしたとき(5年以下の懲役)
C「あっせん収賄罪」(197条の4)
公務員が請託を受け、他の公務員に職務上不正な行為をさせるように、又は相当の行為をさせないようにあっせんをすること又はしたことの報酬として、賄賂を収受し、又はその要求若しくは約束をしたとき(5年以下の懲役) 

○加重類型
@受託収賄罪(197条1項後段)
公務員が、その職務に関し、請託を受けて、賄賂を収受し、又はその要求若しくは約束をしたとき(7年以下の懲役)
B加重収賄罪(197条の3第1項、第2項)
公務員が単純収賄、受託収賄、事前収賄、第三者供賄の罪を犯し、よって不正な行為をし、又は相当の行為をしなかったときや、公務員が、その職務上不正な行為をしたこと又は相当の行為をしなかったことに関し、賄賂を収受し、若しくはその要求若しくは約束をし、又は第三者にこれを供与させ、若しくはその供与の要求若しくは約束をしたとき(1年以上の有期懲役)
 
○特別法による収賄罪規定
刑法以外に、前述の「あっせん利得処罰法」があるほか、特別法では、公務員とみなされて収賄罪の適用を受けるもの(日銀法30条など)、公務員以外の収賄を罰するもの(商法493・494条、証券取引法203条など)がある。

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○刑法(明治四十年四月二十四日法律第四十五号)
最終改正:平成一六年六月一八日法律第一一五号

(収賄、受託収賄及び事前収賄) 
第百九十七条  公務員が、その職務に関し、賄賂を収受し、又はその要求若しくは約束をしたときは、五年以下の懲役に処する。この場合において、請託を受けたときは、七年以下の懲役に処する。 
2  公務員になろうとする者が、その担当すべき職務に関し、請託を受けて、賄賂を収受し、又はその要求若しくは約束をしたときは、公務員となった場合において、五年以下の懲役に処する。 

(第三者供賄) 
第百九十七条の二  公務員が、その職務に関し、請託を受けて、第三者に賄賂を供与させ、又はその供与の要求若しくは約束をしたときは、五年以下の懲役に処する。 

(加重収賄及び事後収賄) 
第百九十七条の三  公務員が前二条の罪を犯し、よって不正な行為をし、又は相当の行為をしなかったときは、一年以上の有期懲役に処する。 
2  公務員が、その職務上不正な行為をしたこと又は相当の行為をしなかったことに関し、賄賂を収受し、若しくはその要求若しくは約束をし、又は第三者にこれを供与させ、若しくはその供与の要求若しくは約束をしたときも、前項と同様とする。 
3  公務員であった者が、その在職中に請託を受けて職務上不正な行為をしたこと又は相当の行為をしなかったことに関し、賄賂を収受し、又はその要求若しくは約束をしたときは、五年以下の懲役に処する。 

(あっせん収賄) 
第百九十七条の四  公務員が請託を受け、他の公務員に職務上不正な行為をさせるように、又は相当の行為をさせないようにあっせんをすること又はしたことの報酬として、賄賂を収受し、又はその要求若しくは約束をしたときは、五年以下の懲役に処する。 

(没収及び追徴) 
第百九十七条の五  犯人又は情を知った第三者が収受した賄賂は、没収する。その全部又は一部を没収することができないときは、その価額を追徴する。 

(贈賄) 
第百九十八条  第百九十七条から第百九十七条の四までに規定する賄賂を供与し、又はその申込み若しくは約束をした者は、三年以下の懲役又は二百五十万円以下の罰金に処する。  
                                            弁護士 三木秀夫

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