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三木秀夫法律事務所
このページは最近話題になったニュースを題材にして、そこに関係する各種法令もしくは
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ニュース六法目次
島田紳助の暴行事件で簡裁が罰金30万円(2004年12月09日) 略式命令
○所属する吉本興業(大阪市)の女性社員を殴ってけがをさせたとして、大阪区検は9日、傷害罪で島田紳助(48)=(本名長谷川公彦)=を略式起訴した。大阪簡裁は同日、罰金30万円の略式命令を出し、紳助は納付した。 

起訴状によると、紳助は10月25日午後3時15分ごろ、大阪市北区の朝日放送2階ロビーで、女性社員の左腕をつかんで引っ張り控室に連れ込んだ上、右手やリュックサックで頭を殴ったほか、髪をつかんで壁に打ち付け、つばをはきかけるなどの暴行を加え、約2か月のけがを負わせた。 紳助は起訴事実を認め、罰金の支払いに応じたという。 
(スポーツ報知 2004.12.9)

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○ この事件は、芸能界という世界の芸人とマネージャーの関係で発生した暴力事件であることと、加害者が超売れっ子の島田紳助であったことから、世の中を大変に賑わした。この事件を巡っては、被害者女性の姿勢に関して、これをパッシングする芸能界を中心とした発言がかなり流されたように思う。芸能界の一部はとても保守的で、女性軽視な世界であることが、露呈された感もある。被害者は報道被害にも遭っているのが気にかかる。タダ、当の島田紳助は、ひたすら謝罪の意を表していることから、早期の示談解決へと当事者双方が努力すべきではないと思うが。

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○略式手続・略式起訴・略式請求・略式命令とは
略式手続とは、公判を開廷せずに書面審理だけで刑を言い渡す簡易な刑事裁判手続きをいい、その手続きによって言い渡される裁判を略式命令という。略式請求(略式手続の請求)とは、こういった手続きを求める検察官の請求をいう。刑事訴訟法の第6編に規定が設けられている。略式起訴という言葉は、刑事訴訟法にないが、通常のの起訴と比較する形で新聞などで使用されるのが一般的である。

○どういう場合に略式手続となるのか
略式手続ができるのは、次の全ての要件を満たす場合に限られる(刑事訴訟法461条、461条の2@項、462条@項)。
@簡易裁判所が50万円以下の罰金または科料を言い渡す場合
A被疑者が公判を開くことなく裁判がなされる略式手続によることに異議が無いことを書面で表示した場合
B起訴と同時に検察官が略式手続の請求をした場合

○被疑者の立場から見た場合の手続き
犯罪を犯したものの事実を認めているような場合において、警察から事件の送検を受けた検察官が、これについて50万円以下の罰金または科料を言い渡す事案に相当すると判断した場合は、被疑者に対して略式手続での処理でいいかどうかを確認し、被疑者が起訴事実を認め略式裁判を受け入れる「略式請書(うけしょ)」への署名捺印(461条の2A項)をした場合に、略式起訴がなされる。この場合、起訴された被告人は、公開の法廷に立たずに済むなど、迅速な処理ができる利点がある。このため、現在、日本の刑事事件の9割以上が略式手続きで済まされている。

○裁判所での手続き
上記の@Aの要件に該当し、かつ起訴と同時に検察官が略式手続の請求をした場合は、簡易裁判所の裁判官が、書面審理だけで刑(略式命令)を言い渡す。したがって、被告人は裁判所に出頭する必要は無い。言い渡された略式命令は、被告人に送達される。

ただし、裁判官が、その事件を無罪や罰金刑が定められていない罪に該当すると判断した場合などは「略式不能」となり、また、事案が複雑で原則に戻って公判を開くべきだと判断した場合などは「略式不相当」と判断して、正式裁判(公判)が行われる。

○略式命令後の手続
略式命令がなされた場合において、被告人としてそれに不服が無い場合は、命令に従って罰金を納付することとなる。被告人や検察官は簡裁の命令に不服がある場合には、改めて14日以内に正式裁判が請求できる(同法465条)。

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○「略式命令の請求」とは(少し突っ込んだ議論)
「略式命令の請求」と「起訴」とは違うのか、同じことなのか。少し分かりにくい話であるが、両者は違う概念である。「略式命令の請求」は、簡易裁判所に対し、その管轄に属する事件につき、公判前における対審でない手続として、略式命令で罰金又は科料を科せられたき旨の公訴に附帯する検察官の請求であって、その請求の基礎たる公訴の提起そのもの又はこれと不可分の一体をなす特種の公訴提起方法ではない、とされている。(最高裁判所昭和24年7月13日判決/昭和23年(れ)第1092号)(最高裁判所刑事判例集3巻8号1299頁)
【判示】   
「略式命令の請求は、區裁判所(簡易裁判所)に對し、その管轄に屬する事件につき、公判前における對審でない手續として、略式命令で、罰金又は科料を科せられたき旨の公訴に附帶する檢察官の請求を言うものであつて、その請求の基礎たる公訴の提起そのもの又はこれと不可分の一體を成す特種の公訴提起方法を指すものでない。これ舊刑訴第五二四條(新刑訴第四六二條参照)において略式命令の請求は公訴の提起と同時に書面でこれを爲すべきものとのみ規定し、公訴そのものの提起の方式については一般原則に讓つている所以である。
されば、假りに、略式命令の請求が憲法に違反して無効であるとしても(しかしその有効であることは昭和二三年(れ)第八六八號同二四年七月一三日宣告大法廷判決参照)公訴提起そのものの効力には何等影響を及ぼすものではないから、原判決には所論の違法は存しない。論旨はその理由がない。」

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○略式請求がひっくり返る場合があるという話
毎日新聞(2003年11月14日)で次の判決が報道された。次の主婦は、おそらく、検察官から「『赤信号でも法的に責任がある』と言われたので、「罰金で済むなら」と思って請書に署名したものとのことである。しかし、東京簡裁の裁判官が見事に疑問を抱き、略式不相当と判断したのである。しかし、検察側はなお姿勢を変えず、簡裁の初公判で、弁護側が争う姿勢を見せると、審理は東京地裁に移され、結果として無罪となった。

"事故の主婦に略式起訴退け無罪 "
「昨年2月、東京都世田谷区の交差点を乗用車で右折中、直進してきた原付きバイクの男性(19)をはね重傷を負わせたとして、業務上過失傷害罪に問われた都内に住む主婦(38)に対し、東京地裁は13日、無罪(求刑・罰金20万円)を言い渡した。今年1月、東京簡裁が略式不相当と判断したため、東京地裁で審理されていた。略式起訴を退けられた末に無罪となるのは極めて異例で、捜査や公判への対応が適切だったか、検察側はチェックを迫られそうだ。
判決で、村瀬均裁判官は「当時、主婦の対面信号は赤だった。『赤信号を無視して新たに進入する車両はない』と判断して右折を開始したのはごく自然であり、犯罪の証明はない」と述べた。主婦は昨年10月、同罪で略式起訴されたが、東京簡裁が今年1月、「さらに詳しく事実関係等を調べる必要がある」として略式不相当の判断を示した。その後も東京地検が起訴を維持したため、簡裁が職権で東京地裁に事件を移送していた。
裁判では、右折待ちのため交差点の中央でいったん車を停止させた主婦が、右折を始めた時の信号の色が争点だった。検察側は目撃者の証言から「黄色」と主張し、弁護側は「『黄色』とする目撃者の証言は信用性がない」と反論してきた。判決は、略式起訴前に「赤」と供述したのに、その後「黄色」と変更した目撃者の証言について、「信用性に重大な疑問がある」と判断した。そのうえで、「対向車両の進入を予想できない特段の事情がある場合は、右折車の刑事責任は問わない」とする判例を踏襲し無罪を言い渡した。
最高裁によると、昨年、業務上過失致死傷罪で略式起訴された9万3734件のうち、無罪にあたる略式式不能や、複雑で公判を開くべきだと判断した場合の略式不相当とされたのは全体のわずか0.01%の計13件。法務省幹部は「略式起訴が認められないこと自体が異例。その後、無罪と判断されるのは極めて珍しい」と話している。【小林直】」

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○略式起訴をめぐっては、「金丸5億円事件」の際に大きな話題となった。
これは、1992年の東京佐川急便事件を発端に、同社から金丸信・元自民党副総裁(故人)への5億円のヤミ献金が発覚したものである。

東京地検特捜部は金丸氏の議員辞職とひきかえに、政治資金規正法違反を略式起訴して罰金20万円で事件を終結させた。その結果、金丸氏は公判廷に姿を出すことなく、幕引きとなりかけた。しかし、これに対して怒ったのが庶民であった。「5億円もらって20万円」というキーワードで、検察処分があまりの甘さに国民の批判が起き、東京地検は再捜査に乗り出し、改めて脱税容疑で逮捕した。

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刑事訴訟法

第六編 略式手続
第四百六十一条  簡易裁判所は、検察官の請求により、その管轄に属する事件について、公判前、略式命令で、五十万円以下の罰金又は科料を科することができる。この場合には、刑の執行猶予をし、没収を科し、その他付随の処分をすることができる。

第四百六十一条の二  検察官は、略式命令の請求に際し、被疑者に対し、あらかじめ、略式手続を理解させるために必要な事項を説明し、通常の規定に従い審判を受けることができる旨を告げた上、略式手続によることについて異議がないかどうかを確めなければならない。
2  被疑者は、略式手続によることについて異議がないときは、書面でその旨を明らかにしなければならない。

第四百六十二条  略式命令の請求は、公訴の提起と同時に、書面でこれをしなければならない。
2  前項の書面には、前条第二項の書面を添附しなければならない。

第四百六十三条  前条の請求があつた場合において、その事件が略式命令をすることができないものであり、又はこれをすることが相当でないものであると思料するときは、通常の規定に従い、審判をしなければならない。
2  検察官が、第四百六十一条の二に定める手続をせず、又は前条第二項に違反して略式命令を請求したときも、前項と同様である。
3  裁判所は、前二項の規定により通常の規定に従い審判をするときは、直ちに検察官にその旨を通知しなければならない。
4  第一項及び第二項の場合には、第二百七十一条の規定の適用があるものとする。但し、同条第二項に定める期間は、前項の通知があつた日から二箇月とする。

第四百六十三条の二  前条の場合を除いて、略式命令の請求があつた日から四箇月以内に略式命令が被告人に告知されないときは、公訴の提起は、さかのぼつてその効力を失う。
2  前項の場合には、裁判所は、決定で、公訴を棄却しなければならない。略式命令が既に検察官に告知されているときは、略式命令を取り消した上、その決定をしなければならない。
3  前項の決定に対しては、即時抗告をすることができる。

第四百六十四条  略式命令には、罪となるべき事実、適用した法令、科すべき刑及び附随の処分並びに略式命令の告知があつた日から十四日以内に正式裁判の請求をすることができる旨を示さなければならない。

第四百六十五条  略式命令を受けた者又は検察官は、その告知を受けた日から十四日以内に正式裁判の請求をすることができる。
2  正式裁判の請求は、略式命令をした裁判所に、書面でこれをしなければならない。正式裁判の請求があつたときは、裁判所は、速やかにその旨を検察官又は略式命令を受けた者に通知しなければならない。

第四百六十六条  正式裁判の請求は、第一審の判決があるまでこれを取り下げることができる。

第四百六十七条  第三百五十三条、第三百五十五条乃至第三百五十七条、第三百五十九条、第三百六十条及び第三百六十一条乃至第三百六十五条の規定は、正式裁判の請求又はその取下についてこれを準用する。

第四百六十八条  正式裁判の請求が法令上の方式に違反し、又は請求権の消滅後にされたものであるときは、決定でこれを棄却しなければならない。この決定に対しては、即時抗告をすることができる。
2  正式裁判の請求を適法とするときは、通常の規定に従い、審判をしなければならない。
3  前項の場合においては、略式命令に拘束されない。

第四百六十九条  正式裁判の請求により判決をしたときは、略式命令は、その効力を失う。

第四百七十条  略式命令は、正式裁判の請求期間の経過又はその請求の取下により、確定判決と同一の効力を生ずる。正式裁判の請求を棄却する裁判が確定したときも、同様である。

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刑事訴訟規則
昭和二十三年十二月一日最高裁判所規則第三十二号

第六編 略式手続

(書面の添附・法第四百六十一条の二等)
第二百八十八条 略式命令の請求書には、法第四百六十一条の二第一項に定める手続をしたことを明らかにする書面を添附しなければならない。
(書類等の差出)
第二百八十九条 検察官は、略式命令の請求と同時に、略式命令をするために必要があると思料する書類及び証拠物を裁判所に差し出さなければならない。
(略式命令の時期等)
第二百九十条 略式命令は、遅くともその請求のあつた日から十四日以内にこれを発しなければならない。
2 裁判所は、略式命令の謄本の送達ができなかつたときは、直ちにその旨を検察官に通知しなければならない。
(準用規定)
第二百九十一条 法第四百六十三条の二第二項の決定については、第二百十九条の二の規定を準用する。
(起訴状の謄本の差出等・法第四百六十三条)
第二百九十二条 検察官は、法第四百六十三条第三項の通知を受けたときは、速やかに被告人の数に応ずる起訴状の謄本を裁判所に差し出さなければならない。
2 前項の場合には、第百七十六条の規定の適用があるものとする。
(書類等の返還)
第二百九十三条 裁判所は、法第四百六十三条第三項又は第四百六十五条第二項の通知をしたときは、直ちに第二百八十九条の書類及び証拠物を検察官に返還しなければならない。
(準用規定)
第二百九十四条 正式裁判の請求、その取下又は正式裁判請求権回復の請求については、第二百二十四条から第二百二十八条まで及び第二百三十条の規定を準用する。
                                            弁護士 三木秀夫

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