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三木秀夫法律事務所
このページは最近話題になったニュースを題材にして、そこに関係する各種法令もしくは
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ニュース六法目次
NHK・朝日の「番組改変」問題(2005年01月20日)        放送法第3条
○NHKが、旧日本軍慰安婦制度の責任者を裁く「女性国際戦犯法廷」を扱った教養特集番組を放送した2001年1月に、中川昭一(現経産相)、安倍晋三(当時官房副長官・現自民党幹事長代理)が政治的圧力をかけ、その結果、NHKが番組を改変したとの報道を、2005年1月12日に朝日新聞が行って以来、朝日新聞・NHK・両国会議員の3者を中心に、それぞれの周辺も含めて、大変な泥沼バトル状態になってきた。朝日新聞チームとNHK・政治家連合軍(この表現はふさわしくないかも)は、いずれも、直ちに訴訟合戦に移行しそうな剣幕である。思わず、「冷静に、冷静に・・」と言いたくなる。

○事実関係に関しては、朝日新聞側と、NHK・両議員側の言い分が全く食い違っており、真実はまだまだ不明であり、おそらく真相の解明はかなり困難ではないかと思われるが、多くの問題点を含む問題であることは事実であろう。

○現在までの報道で、双方の主張が食い違っていない点は、おおむね次のとおりでなかろうか。
問題となったNHKの番組は「戦争をどう裁くか」というタイトルの4回シリーズ第2回。2001年1月30日に教育テレビで放送された「問われる戦時性暴力」で、その前年の12月に市民団体が開いた「女性国際戦犯法廷」が素材となっていた。放送の前に、番組内容の一部を知った右翼団体などが抗議を始める中、局内で番組の一部変更が進められ、2日前には44分の番組が完成した。その後、さらに「局長試写」が行われ、さらなるカットなどが重ねられ、最終的には40分の番組として放送された。この放送の前後(時期について争いがある)に、NHKの幹部が中川・安倍両議員に会った際に、この番組のことが話題となっていた(その際の会話内容に争いあり)。
 
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○今回の一連の騒ぎを、政治的な問題はさておき、法的観点から見た場合の問題点は何だろうか。整理してみた。このうちのいくつかについて、感じたことを述べてみたい。

(1)放送前の番組内容が偏向していたのかどうか。
放送法第3条の2では、放送事業者は、放送番組の編集に当たって、政治的に公平であることと、意見が対立している問題についてはできるだけ多くの角度から論点を明らかにすること(公正)が求められている。放送番組の編集等における公正公平性である。これに反していなかったかどうかが、問題となろう。これを論じることなく、政治家の圧力云々の議論と混同して議論したのでは、問題の本質を見誤るものである。

(2)政治家の中川・安倍両氏がNHKに圧力をかけた事実があるのかどうか。
放送法第3条では、「放送番組は、法律に定める権限に基く場合でなければ、何人からも干渉され、又は規律されることがない。」として、放送番組編成の自由を保障している。当時の内閣官房副長官である安倍氏が、「放送前に」NHK幹部と接触し、番組の中身に注文をつけたのかどうかの事実確認が必要であろう。この点では、接触した時期や、接触の動機、その際のやり取りの内容に関しては、関係者の言い分は全く異なっているが、もし放送前に接触が無かったなら、「圧力を受けて変えた」かどうかという、この問題自体が消え去る話である。また、その際のやり取りが、果たして放送内容への「干渉」に当たるものなのかどうか、事実関係が確定しないことには何とも判断しようがない。

(3)仮に日本政府高官や政治家が「事前に特定の番組内容を知って意見を述べた」と仮定した場合に、その行為が放送法3条の「介入」に当たるのかどうか。特に、同法3条の2でNHKに求められている偏向番組を防ぐための意見自体が問題となりうるのであろうか。

(4)政治家が意見を言うことは憲法21条が禁止する「検閲」となるか。
日本国憲法は第21条で、「集会、結社及び言論、出版その他一切の表現の自由は、これを保障する。」と定めている。仮に日本政府高官や政治家が、「事前に特定の番組の内容を知って意見を述べた」と仮定した場合に、これが憲法の禁止する検閲にあたるのであろうか。

(5) 4年前のこの出来事が、なぜ今の時期になって問題とされるのか。特に、この番組の改変を巡っては、「女性国際戦犯法廷」を主催した市民団体とNHK側の裁判が進行中で、控訴審という大事な局面を迎える直前の時であるのか。

(6)NHKはなぜ政府高官を含む政治家に番組内容を含む説明に個別訪問をしていたのか。それ自体に放送法3条違反の契機を自招することになり、報道機関としての姿勢に問題はなかったのか。

(7)朝日新聞社は、誰に対してどこまでの取材を経てこの問題を報道したのか。取材過程に問題はなかったのか。これに関して、NHKからの質問に対する朝日の回答姿勢に問題はないのか。

(8)朝日新聞社とNHKの当該番組制作担当者、ならびに「女性国際戦犯法廷」を主催した市民団体との間の人的つながりに密接性が見受けられないか、仮にそうだとした場合に、今回の一連の経緯に影響が出ているのではないか。

(9)NHKのニュース番組の中での本件の報道に当たって流された内容が、法的に問題がなかったか。

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○ NHKと放送法の関係
日本放送協会(NHK)は、放送法7条で、「公共の福祉のために、あまねく日本全国において受信できるように豊かで、かつ、良い放送番組による国内放送を行い又は当該放送番組を委託して放送させることを目的」とする特殊法人として設立されたものである。

その報道機関としての高度の公共性故に、一般の特殊法人や独立行政法人よりも強い独立性を認められている。しかし、国の設立する特殊法人である以上、内閣や国会による民主的関与の下に置かれている。

具体的には、最高意思決定機関たる経営委員会委員は内閣総理大臣により任命されるし、その人事は国会の同意が必要となっている(放送法第16条第1項)。また、収支予算、事業計画及び資金計画については、総務大臣に提出し、総務大臣はこれに意見を附して国会に提出し、国会の承認を受けなければならないこととされている(第37条1項、2項)。

これらは、本来NHKは国民の受信料で成り立っているもので、その運営は国民の代表者たる議会の監視の下に置かれるという図式から出ている。

しかし、だからといって、そのときの政治的権力者の影響を受けたのでは、民主政治における国民の知る権利に対する重大な侵害となることから、放送法は第3条において、「放送番組は、法律に定める権限に基く場合でなければ、何人からも干渉され、又は規律されることがない。」という、いわゆる「放送番組編成の自由」が定められ保障されている。

放送法
(放送番組編成の自由)
第3条 放送番組は、法律に定める権限に基く場合でなければ、何人からも干渉され、又は規律されることがない。

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○放送に対する公的規制について
新聞などのマスコミは、憲法における表現の自由や国民の知る権利の観点から、報道の自由が強く保障されている。表現の自由を定めた憲法21条1項は、報道に自由を明記していないが、同条は当然のごとくこれを保障していると解されている。

最高裁も、「報道機関の報道は、民主主義社会において、国民が国政に関与するにつき、重要な判断の資料を提供し、国民の『知る権利』に奉仕するものである」から、「思想の表明の自由とならんで、事実の報道の自由は、表現の自由を規定した憲法21条の保障のもとにあることはいうまでもない」としている(最高裁大法廷判決昭和44年11月26日博多駅テレビフィルム提出命令事件)。

○この報道の自由は、しかし、新聞などの場合と、電波を利用した放送による場合とは、やや違った扱いを受けている。

つまり、放送の場合は、後述するとおり、放送法3条の2第1項に定める放送番組の公正公平性の確保などの4つの番組準則や、同条第2項のテレビ番組の場合は教養教育番組ならびに報道番組・娯楽番組相互の調和を保つ義務などが定められている。つまり、放送の場合は一定の規制にあるということとなる。

これには、いくつかの理由がある。
芦部教授は、@放送用電波は有限であり、利用できるチャンネル数に限りがあることから一定の制約が生じることはやむをえないこと、A放送は直接に家庭内に侵入し、即時に音声と映像をもって視聴者の目に飛び込んでくるもので、他のメディアと比較できないくらいの強烈な影響を与えるものであること、B放送は新聞と異なって時間単位でスポンサーに番組を売られるため、自由競争に放任すると、番組が大衆受けする通俗的なものに画一化する傾向が強いこと、などを挙げている。

簡単に言えば、放送の場合は、新聞などの媒体と違って、利用可能な電波に限りがあるために、全く自由にしてしまった場合は多くの支障が生じることから、参入には一定の行政的規制が必要となるために、参入を許す代わりに、電波法や放送法によって一定の制約を設けているというわけである。制約の内容は、@設立規制(無線局の開設の免許制)、A組織規制(NHK設立や放送番組審議会など)、B内容規制(編集における公正公平性等)、C構造規制(放送事業固有の集中排除規制)が存在している。

○最近の解釈変遷
放送の場合のこの解釈については、しかし、やや解釈に変遷が見られている。それは、最近の衛星放送やケーブルテレビなどの多チャンネルの新しいメディアの出現によって、電波の希少性が昔ほどではなくなってきたことや、放送の社会的影響力のかなり相対的になってきたことなどから、放送法3条の2に定める編集における公正公平原則は憲法21条に違反するのではないかという意見も出てきているようである。そのために、最近は、この公正公平原則は、法的拘束力のない放送倫理的な意味合いのものであるとする考えも有力である(芦部教授など)。

こうした放送における自由の性格を考えると、内在的制約に配慮を払いながら、編集の自由など放送機関側の自由も可能な限り生かしていけるようなバランスを、ていねいに探って行くことが必要であろう。そのためには、政府や権力者からの介入を防ぐだけではなく、国民・視聴者からの信頼を勝ち得るための放送倫理の自主強化などの自主努力が必要ではないか。

○朝日新聞とNHK
この両者は、今回、感情的とも言えるくらいに激しいバトルになっているが、憲法的観点から見た場合の両者の位置づけについて、かたや新聞媒体であり、かたや放送という、規制の性質面での違いがあることは、念頭において考えたほうがいいこととなる。

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○放送法3条の2(編集における公正公平性)について
今回の問題では、それぞれの立場から、いろいろな意見が出されているが、そもそも、放送前の番組内容が偏向していたのかどうかは、客観的に議論がされるべきではないかと思う。放送法第3条の2では、次にように規定している。

放送法
(国内放送の放送番組の編集等)
第3条の2 放送事業者は、国内放送の放送番組の編集に当たっては、次の各号の定めるところによらなければならない。
1.公安及び善良な風俗を害しないこと。
2.政治的に公平であること。
3.報道は事実をまげないですること。
4.意見が対立している問題については、できるだけ多くの角度から論点を明らかにすること。

○このように、放送事業者は、放送番組の編集に当たって、政治的に公平であること(2号の公平原則)と、意見が対立している問題についてはできるだけ多くの角度から論点を明らかにすること(4号の公正原則)が求められている。放送番組の編集等における公正公平原則である。今回のNHKの当該番組の編集前の内容がこれに反していなかったかどうかが、まずは問題となろう。

○これに関しては、そもそもその内容が公正公平だったかどうかとなると、私自身は、そもそも放送された番組を観ていないし、改編集されたという放送前の番組は目にすることもできない。このため、断定的な意見はとても言えない。恐らく国民の大半はこの番組を目にせず、ましてや改編集前のものは見ていない中で議論しているわけで、ある意味で判断困難な問題であろう。

しかし、双方の側から流れてくる報道内容から判断する限りでは、少なくとも、旧日本軍慰安婦制度の存在とその責任という、国民の間で極めて「意見が対立している問題」がテーマの番組であったことは間違いがない。この点について、「旧日本軍慰安婦制度の存在は国際常識」であり、「そもそも対立問題ですらない」とか、「この問題を否定する意見は許されない」といった意見は、そういった意見を述べる自由は当然として、反対意見を封殺する権利まではないことは明らかである。いずれにせよ、双方の意見が激しく対立していること自体を否定できない以上、これを放送番組として取り上げる以上は、その中で双方の意見を公正公平に取り上げるようなものでなければならないことは、言うまでもない。

○この「編集前の番組内容」が公正公平原則に照らして問題がなかったかどうか。もしこれに問題があったとしたならば、NHKが公正公平な内容に改編集したこと自体を問題にすることはできない(介入問題は別の問題)。

もし、仮に、この改変前の番組が、「女性国際戦犯法廷」の経緯を主催者側の視点だけで取り上げ、対立意見を全くか否定的に取り上げていたとしたならば、どうであろうか。(この辺の改変前の番組内でのバランスがどの程度あったのかは、よく分からないが。)

市民団体側の説明や報道内容から、率直に感じた点を言えば、模擬法廷での「弁護団」は、いかに政府側の代弁役を置いたと言っていても、また、海外から招聘した裁判官役の方々がいかに立派な方であろうが、結論としては、およそ公正な「法廷」と言い得ないのではなかろうか。

主催者は時の総理大臣に参加を呼びかけたというが、企画内容からして参加する可能性のない呼びかけをしたからといって、弁護人抜き法廷が公正性を保つとは言いがたいと思うが。また、昭和天皇が「強姦」の犯人として「有罪」とする論理も、かなり政治的意味合いの濃厚な判断という感想を持つが、どうであろうか。少なくとも、昭和天皇を「性犯罪者」として断罪する印象を与えるNHKの番組は、大きな社会的影響を与えることは明らかで、これに政治的意味合いを見出せないと考えることはできない。(正直言って、この模擬法廷自体も自分の目で見ていないので、断定はできないが。)

少なくとも、国民のどの程度の割合の者が、この法廷の結論を妥当と考えるのだろうか。そして、こうした模擬法廷の裁判経過と判決が、公共放送による「教養番組」としてふさわしいかは、十分な議論があってしかるべきではあったと言えるであろう。誤解を避けるために言うならば、「慰安婦問題」をどう考えるかが問題なのではなく、国民の間で深刻な意見の対立を生むこの問題を、どのように取り上げたかが、問題となるのである。

もし、この慰安婦問題の存在を否定する側の団体の活動を、NHKが特集を組んで、その側だけ(もしくは大半をその側からのみ描く内容で)で構成した番組を作ったならば、やはりそれ自体が問題となる。いずれにせよ、この種の問題を扱う際には、多面的な観点から複数の意見を反映させた番組作りが必要といえる。

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○放送法3条(放送番組編成の自由)について
前述のように、放送法第3条で、「放送番組編成の自由」として、「放送番組は、法律に定める権限に基く場合でなければ、何人からも干渉され、又は規律されることがない。」と定めている。これは、同法3条の2の規定と裏腹の関係にあって、公正公平性に問題のある放送は、放送機関内部で事前に厳密なチェックがなされなければならない。仮に一度放映された番組の内容が公正公平の観点で厳しい批判が生じ、NHKが事後に訂正に乗り出したとしても、事実上、番組の視聴者全てに訂正の情報に触れさせることは困難である。放送番組編成の自由は、そういった観点での厳しい自己判断も求められる。

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○今回の安倍・中川両議員の行為が法的に問題かどうか。
正直に言って、事実関係が全くに対立していて、コメントは不可能である。特に放送前でNHKと会ったのかどうか、どのように発言をしたのかどうか、正確な事実関係が不明確な状況では判断不可能である。

これが、放送後の発言であるならば、今回の「圧力による改変」それ自体には当たらないので、その点での問題は無いと考えていいであろう。ただし、放送後の面会での発言であったとしても、全く問題が生じ得ないわけではない。

前述のように、NHKに関しては、放送法によって一定の制約が設けられ、内容規制(編集における公正公平性等)のほかに、国会での予算承認という制約もある。特に国会承認事項の審議においては、国会議員は、民主的な観点からこの是非を審査することとなる。そのために、議員としての立場でNHK側から事情を聞いたり、選挙で選ばれた者として、その所信をNHK側に伝えたりすることは、ある意味当然に予定されたものといえる。その意味で、こういった質問や意見を述べることは、番組の公正公平準則に適切な緊張関係を与えるもので、「不当な政治介入」などとはいえない。

朝日新聞は、この点に関し、1月13日付社説で、「番組や記事が視聴者や読者、つまり国民のためになるか、中立公正であるか、それを判断するのはあくまで報道機関自身でなければならない。」と述べていた。これは、ある意味正当な事を述べてはいるが、実は大切なもう一つの観点を無視している。確かに中立公正性を判断するのは、第一次的にはあくまで報道機関であるNHK自身で行わなければならないが、「誰もがその報道機関に一切の意見を述べることができない」という特権を持っているわけではない。

○ただし、安倍・中川両議員の発言内容が、番組の内容に踏み込み、番組内容やそこでの思想を強権的に調査したものといえ、単に放送法の公正公平準則の維持を超える圧力があったとしたならば、事前であれ事後であれ、「検閲」ということとなる余地がある。

「検閲」とは、公の機関が、国民の表現行為の内容や思想を強権的に調査することで、発表前になされる「事前検閲」と、発表後に行われる「事後検閲」とがある。前者は、もしこれがなされたら、民主主義の基礎を侵害することとなるし、後者も、結果的に事前検閲を招く事態を生みやすいために、憲法21条2項は、事前も事後も、いずれの場合も、一切の検閲を禁止しているのである。

日本国憲法
第21条
集会、結社及び言論、出版その他一切の表現の自由は、これを保障する。
2  検閲は、これをしてはならない。通信の秘密は、これを侵してはならない。

○今回の両議員の行為が(何度も言うが事実関係が不明ゆえ正確なことは言えないが)、事前に一定の行政権限でもって中止させるべく発言をしていたならば、「公の機関」による検閲に当たりうることとなる。特に、当時の安倍氏は官房副長官という政府高官の地位にあった事実は重みがある。)

ただし、安倍氏が述べるように、単に「公正公平に」と述べたにとどまるならば、これをもって検閲ということはできないとも考えるが、いずれにせよ、立場からしたら、かなり慎重な対応が必要であったことは事実であろう。

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○NHKの姿勢について
今回の件で、一番気になったのは、NHKの政治家に対する姿勢である。

そもそも、事前であれ事後であれ、番組内容を政治家に説明に伺うことをもって「通常業務」であるとのNHK幹部の説明は、全く合点が行かない。これでは、報道機関として、事前介入を招く行為を自ら誘引していると言われてもしかたがない。

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(参考社説)
【毎日新聞】NHK特番問題 政治に弱い体質が問題だ 
そもそも事前に、しかも密室で番組内容を政治家に「ご説明」すること自体が報道機関として異常なのである。どんな言い回しであろうと、こうした状況下での政治家の発言は、「介入」「圧力」に等しいと受け止めるのが世間の常識ではないか。 表現の自由を保障した憲法21条は検閲を禁じている。放送法も、放送番組に政治的公平や事実を曲げないよう求める一方で、「何人からも干渉されない」と規定している。安倍氏もそれを知らないわけではなかろう。番組に問題があると言うなら、放送後、オープンな場で批判する機会はいくらでもあるはずだし、最終的には番組を評価するのは視聴者である。 

【読売新聞】[NHK番組問題]「不可解な『制作現場の自由』論」 
公正な放送のために上層部が番組の内容をチェックするのは、当然のことではないか。 放送法三条は、放送事業者に「報道は事実をまげない」、「意見が対立している問題については、できるだけ多くの角度から論点を明らかにする」なども求めている。編集責任者は、番組の内容がこれに反する場合、是正しなければならない。 「女性国際戦犯法廷」では、昭和天皇が「強姦」などで有罪が言い渡された。 この ような「法廷」の趣旨に沿った番組が、「制作現場の自由」としてもしそのまま放送されたとすれば、NHKの上層部はあまりに無責任、ということになる。 

【産経新聞】【主張】NHK慰安婦番組 内容自体も検証すべきだ 
NHK内部で映像を再検討した結果、極端な部分を削除し、元慰安婦証言の 信憑性に疑問をもつ学者の談話を添えたとされる。それでも、「主催者側に偏っている」「教育番組としてふさわしくない」という批判があった。まず何より、番組が公正で中立的な内容だったか否かの再検証が必要だ。 
 
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【参考】
問題となった朝日新聞報道1月12日の本件報道内容

NHK番組に中川昭・安倍氏「内容偏り」 幹部呼び指摘
01年1月、旧日本軍慰安婦制度の責任者を裁く民衆法廷を扱ったNHKの特集番組で、中川昭一・現経産相、安倍晋三・現自民党幹事長代理が放送前日にNHK幹部を呼んで「偏った内容だ」などと指摘していたことが分かった。NHKはその後、番組内容を変えて放送していた。番組制作にあたった現場責任者が昨年末、NHKの内部告発窓口である「コンプライアンス(法令順守)推進委員会」に「政治介入を許した」と訴え、調査を求めている。 
今回の事態は、番組編集についての外部からの干渉を排した放送法上、問題となる可能性がある。 
この番組は「戦争をどう裁くか」4回シリーズの第2回として、01年1月30日夜に教育テレビで放送された「問われる戦時性暴力」。00年12月に東京で市民団体が開いた「女性国際戦犯法廷」を素材に企画された。 
ところが01年1月半ば以降、番組内容の一部を知った右翼団体などがNHKに放送中止を求め始めた。番組関係者によると、局内では「より客観的な内容にする作業」が進められた。放送2日前の1月28日夜には44分の番組が完成、教養番組部長が承認したという。 
翌29日午後、当時の松尾武・放送総局長(現NHK出版社長)、国会対策担当の野島直樹・担当局長(現理事)らNHK幹部が、中川、安倍両氏に呼ばれ、議員会館などでそれぞれ面会した。 
中川氏は当時、慰安婦問題などの教科書記述を調べる研究会「日本の前途と歴史教育を考える若手議員の会」代表、官房副長官でもあった安倍氏は同会元事務局長だった。 
関係者によると、番組内容の一部を事前に知った両議員は「一方的な放送はするな」「公平で客観的な番組にするように」と求め、中川氏はやりとりの中で「それができないならやめてしまえ」などと放送中止を求める発言もしたという。NHK幹部の一人は「教養番組で事前に呼び出されたのは初めて。圧力と感じた」と話す。 
同日夕、NHKの番組制作局長(当時)が「(国会でNHK予算が審議される)この時期に政治とは闘えない。番組が短くなったらミニ番組で埋めるように」などと伝えて番組内容の変更を指示したと関係者は証言。松尾、野島両氏も参加して「異例の局長試写」が行われた。 
試写後、松尾氏らは(1)民衆法廷に批判的立場の専門家のインタビュー部分を増やす(2)「日本兵による強姦や慰安婦制度は『人道に対する罪』にあたり、天皇に責任がある」とした民衆法廷の結論部分などを大幅にカットすることを求めた。さらに放送当日夕には中国人元慰安婦の証言などのカットを指示。番組は40分の短縮版が放送された。 
このいきさつを巡り、NHKで内部告発をしたのは、当時、同番組の担当デスクだった番組制作局のチーフ・プロデューサー。番組改変指示は、中川、安倍両議員の意向を受けたものだったと当時の上司から聞き、「放送内容への政治介入だ」と訴えている。  
                                            弁護士 三木秀夫

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